1.見た目王子の中身は自称魔王サマ
「なんでここに魔王がいるんだ?!」
「くそっ!やはり聖女召喚は失敗か!」
「魔女だ!我々は魔女を召喚してしまったんだ!」
「黒猫の使い魔を連れているぞっ!邪悪だ!」
「はっ、はぁ?!魔女?!てか使い魔ってまさかクロのこと?!」
って、あれ?突然言葉が·····
「言葉わかるようになった?指数魔法かけてみたんだけど、上手く波長が合ったんだね、良かった」
私を片腕で抱き上げたままで私に笑いかける。
金髪碧眼で、優しげな微笑みで…その姿はまるで物語に出てくる···
「王子様·····?」
「はずれっ!魔王だよっ!」
「魔王?!」
あはは、と王子様スマイルな自称魔王が微笑んでいた。
「私の知ってる魔王は黒髪で目が赤くてツノとかある感じなんですがっ」
「僕の知ってる聖女は金髪でスカイブルーな瞳かなぁ?」
実際は見たことないけどね!と軽口を返してくる。
「今だ殺せ!」
そう誰かの声が聞こえてハッとした時には見たこともない大きな火球が私達に投げられて…
「返すね~!」
自称魔王が私を抱えてる手と反対の手を2回振ると、その火球は向きを変え建物の天井に当たった。
その威力で天井が崩れ、このままでは生き埋めになると思わず目を瞑ったのだが想像した衝撃が来ず、おずおずと目を開くとそこは···
「いらっしゃ~い!」
多分森の中の一軒家。
一軒家というか、広めのロッジというのが近い。
「え、ここ、どこ?」
「んー、僕の家?」
とりあえずどうぞ、と中に案内される。
さっきまで腕の中で怯えていたクロも、部屋に入るなり腕から飛び降り探検をはじめてしまった。
「えっ、警戒心が強いはずなのに···」
「気に入ってくれたなら嬉しいなぁ~」
くっ、無邪気に笑う顔が可愛い。
「お茶飲む?」
「あ、ありがとう」
出されたのは日本でもよく飲んだレモンティーで、それもあってか何故か私はすっかりリラックスしていた。
「ここ、落ち着く···」
「そういう魔法かけてるからねぇ」
「あぁ、だからか。って!魔法?!」
どうりで落ち着くはずだよ!魔法かけられてたのか私は!
「そんなたいした魔法じゃないよ?洗脳みたいなのじゃもちろんないし、よく眠れるように枕元にポプリ置くのと同じくらい」
確かにそれはたいしたものじゃないな、と考え、そもそもそうじゃないと気付く。
「いや!そもそも魔法って何!ここはどこ!私の家はどうなったの!?」
「魔法はこの世界に当たり前にある力で、君は聖女召喚で召喚された聖女様なんだけど、君が攻撃しようとしたから敵と認識されて始末されそうになってたから、僕が貰ったって感じかな?」
ここには転移してきたんだ~とのんびり話す自称魔王。
一概には信じられないが、先ほどまでの出来事を考えたら嘘とも思えない。
「魔王ってことは、魔族の王様なの?」
「まさか!僕は人間だよ」
えっ、魔王って呼ばれてたしそう名乗ってなかった?!
「そう呼ばれてたからそう名乗っただけ!僕人より魔力が強いみたいで、勘違いでよく襲われるからだったらもう魔王って名乗っとこうかなって思って!」
「笑うようなことじゃないと思うんだけど···。ということはどこかに本物の魔王がいるの?」
「いないけど」
い、な、い、け、ど!?
「じゃあ私は何のために喚ばれたの?!」
一応聖女として喚ばれたんだよね?殺されそうになったけど!
「うーん、僕を倒すためかなぁ?」
「は?」
もう訳がわからない。
「僕さ、子供の頃は魔力が上手く扱えなくて。幸い死者は出さなかったものの、小さな爆発みたいなことはよく起こしちゃったんだよね」
「は、はぁ···」
「そしたら、まぁ所謂迫害みたいな、さ。家に火をつけられたり石なげられたり?それで僕以外の家族みんな死んじゃって」
「え···っ!」
けろっと話すから緊張感はないが、内容の酷さに思わず青ざめる。
昔のことだけどね、と笑う顔があまりにも普通で、だからこそ痛ましかった。
「森まで逃げてきて、そこでやっと一人で生活を始めたんだ」
追いかけてくるんじゃないかと最初は不安だったけど、運が良かったのか見つからなかったと笑う。
「今は認識阻害の魔法かけてるから近くまで誰かが来ても、ここにはたどり着かないよ!安心!」
何か言わなくちゃと思ったが、上手く言葉に出来なくて。
「ねぇ、聖女様。君の名前を教えて?」
「あ、私は里奈、加賀美里奈」
「リナ!···嬉しいな、誰かの名前を呼ぶなんて何年ぶりだろ」
そう言われてハッとする。
家族を喪い一人でここまで逃げてきた彼には名前を呼ぶ相手なんていなかったのだろう。
そして、名前を呼ばれる事もずっとなかったはずだ。
だったら。
「ねぇ、魔王様。貴方の名前も教えてくれる?」
一瞬キョトンとしたまるで王子様のような見た目の自称魔王は、少し考える素振りをして。
「···フィリップ。母さん達からは、フィルって愛称で呼ばれてた」
と、教えてくれた。
「フィル」
そう呼ぶと、なぁに?と答えてくれる。フィルのその目が少し赤く潤んだ事は見て見ぬふりをした。
「いっぱい呼ぶね。帰るまでの短い間だけど、それでも呼ぶね」
「え?帰れないよ?」
「···えっ?!」
「そもそも喚んだのは僕じゃないし、喚んだ神殿はさっき壊しちゃったもん」
「!!!」
確かに完全に壊れてた。それに敵と認識された私をあのローブの人たちが帰してくれるのだろうか?殺されるのがオチだろう。
「聖女として喚んだくせに!」
「彼らは知らなかったんだろうね、聖女の魔法は“願いを具現化する”ってこと」
言われてもあまりピンとこず、首をかしげて無言で先を促す。
「治して!浄化して!って今までの聖女様が願ってきたから、聖女様がそういう魔法使いだと思ってたんだと思うんだよね!僕も本を読んだだけなんだけどさ」
「そういえば、さっき猫じゃらしが光ったりした時、光ってって願った…かも」
「あ、その杖すごいよね、キラキラしてて可愛い!」
「これは杖というか、クロのおもちゃなんだけどね···」
日本円で300円未満で買える、プラスチックがカシャカシャ鳴る猫用のおもちゃである。
「にゃぁん」
カシャカシャ鳴らした音に反応したのか、クロが足にすり寄ってきた。
要するに、私は聖女として喚ばれたけども聖女の能力を勘違いしていたあのローブの人たちに敵認定された為に帰る方法がなくなった、と。
「············。」
少し考えてため息をひとつ。
まぁ帰ってもどうせ仕事行ってクロの為に稼いで、家でクロと遊ぶだけだしな。
クロがいるなら、まぁ、いいか。
場所が異世界に変わったとしても、やることは同じだと腹をくくった。
クロを残して来たならなんとしてもクロの為に帰らなくちゃいけなかったが、その可愛い私の宝物はここで猫じゃらしに飛び付いて遊んでいるのだ。
「ねぇ、フィル。私帰れないなら何か仕事とか住む場所とかがいるんだけど、何かいい案はないかしら?」
頼れるのは目の前の自称魔王様だけなのでそう問いかけた。
「あるよ!僕のお嫁さん!」
「·····は?」
返ってきた答えはとてもメルヘンなものだった。




