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15.一度口に出した設定を取り消す事は難しい

ぎゅうっと力一杯抱き締めると、一瞬強張った肩から次第に力が抜けるのを感じた。

自身の肩に彼女の頭の重さを感じ、左手で優しく頭を撫でる。


「私が死ぬことが一番のお祝いなんですよ···」

「そうかしら」

「そもそも、働き口として男の子が欲しかったって、女の子でガッカリだって···名前だって新しく考えては貰えなくて」

「男らしい名前格好いいわよ」

「姉の方が女の子らしいからやっぱりそっちがいいって言われて」

「それは相手がクズなだけ」


ぽつりぽつりと零れるその言葉を聞く。

それは聞けば聞くほど彼女には何も非がない事ばかりで。


「そもそも、なんで婚約なんてしたの?」

「婿として働き手を得るため···ですね、姉ははじめての子だからってのもあってとても可愛がられてたので私が婚約する事になったんです」



そして、結局姉を婚約者が気に入ったのか婚約者を姉が気に入ったのか···テオールさんの婚約は破棄され姉と立場を入れ替えられた、と言うことか。


小さく震える彼女からは、少なからず相手を想っていた事がひしひしと伝わってきた。

望まれた第一子と、望まれなかった二人目の女の子の家族内の格差を考えれば“婚約者”は“唯一の家族”を期待した可能性だってある。



そしてあっさり乗り換えられ、搾取される事に慣れた彼女はお祝いに渡せるものが“自分”しかなかったのだとしたら。



残業ばかりで辛かった日々、社会に使い捨てられていた私には守るべき“クロ”がいた。

彼女にとってのクロが婚約者だったとしたらどれほどの絶望なんだろう。

そして、その絶望を一人で耐えて···。



ちらりと前を見ると、少し影を落とした表情のフィルと目が合った。

フィルも一人で耐えてきた過去があるからこそ彼女の話には思うところがあるのだろう。


“フィル···”


こんなの。

こんなの、許せない。



「見返そうよ」

「え?」

「私達が手伝うわ!だから“自分が”幸せになる事を諦めないで。テオールさんの犠牲の上に成り立つ幸せなんて本物じゃないもの」

「そうだよ、君は君の幸せを掴まなきゃ。幸せってのは、自分で選べるんだよ、僕みたいにっ」


力説する私とテオールさんをそっと起こしつつ、にこりと微笑みながらそうフィルが言う。



「貴方は幸せを選んだの···?」

「僕はね、幸せを拐っ····」

「そこはまぁややこしいから置いといて!!」


私を拐った事を言おうとしていると気付いて慌ててフィルの口を両手で塞ぎつつ話に割り込む。


「とにかく!その姉と婚約者見返すわよ!」








「で、その見返す作戦ってのが···」

「えぇ、バッチリよ!」


ふふんと鼻を鳴らし、寄り添って立つテオールさんとフィルを見る。


「失恋には新しい恋よ!そして会ってないけどその元婚約者より絶対フィルの方がイイ男だもの!新しいイケメン彼氏を存分に自慢して悔しがらせましょう!」


そしてあわよくばそのままフィルと本当の恋をはじめてくれてもいいしね!と、自分の考えた単純だが効果的だろう作戦に満足する。



わざわざ妹の婚約者を取ったのだから、絶対テオールさんの姉は妹よりも優位に立っていると思っているはず。

それなのにその妹が自分が取った男より数段イイ男を連れていれば···!

悔しがるだろうし、万一フィルにちょっかいかけてきたとしてもフィルがなびくはずもないし。


これは所謂勝ち確というやつじゃないの···!



ふふふ、と黒い笑みを溢す私に若干困ったようなテオールさんが話し出した。


「あの、とりあえずフィルさんに恋人のフリをして貰って、フィルさんを自慢してくるって作戦は理解したんですが···」



「その間リナさんはどうされるのですか?」



ぽつりと聞かれたその一言に思わず言葉を詰まらせる。


「私?私は···」


クロと家で待ってる?

今回は今までとは違って偽物だが“恋人”の二人なのだ。

仲を取り持つも何もない。

むしろ邪魔とさえ言えて···



そっとフィルに視線を移そうとするが、なんとなくその顔まで見上げられず視線を足元に落とした。



フィルが私を邪魔だと思うはずなんかない。

だって私は彼の····



·····彼の、なんだというのだ。



微笑みが、偽物だとしても“恋人”に向けられているかもしれないと思うだけでなんだか胸の奥が重く感じて息を飲む。



邪魔だと思うはずはないと断言できるが、それは私が“邪魔ではない”と証明できる事ではないと気付きツキンと胸が傷んだ。



「リナ?」


突然黙った私を心配するようにそっとフィルの声が聞こえてハッとする。


「な、なんでもない!私は、その」


クロと待っていればいい。

のに。


「い、妹よ!」

「へ?」

「兄の恋人に会いに来た妹!つまりテオールさんの未来の義妹ってやつよ!」

「は、はぁ···」


頭で考えていた事とは全然違う事を気づけば口走っていた。


そんな私に戸惑ったようにそっと私とフイルを見比べるテオールさんにちょっと居たたまれない。


「に、似てなくても···妹って事で···あ、というかフィルっていくつなの?」


なんとか少しでも話を逸らそうと聞いてみる。

私の年齢を聞かれる事はないとは思うが、設定は作っておくに越したことはない。

フィルより2、3くらい下の年齢設定にすればいいかしら···と考えながら答えを待っていたのだが。


「19だよ」

「そう、19···19歳!?」


だったら私、16歳設定になる!?無理!!

いくら童顔と言われる日本人だからって16歳には見えるはずない···!というか!


「未成年じゃない!!!」


ひぇっと叫ぶと、一瞬二人はきょとんとする。


すぐに何かに気付いたフィルが「ここの世界は共通で15が成人だよ、聖女召喚で来た事まではバレないとは思うけど···」と耳打ちで教えてくれたが、フィルが年下だった事に少なからずショックを受けたせいか、突然耳元で囁かれたせいかこくこくと頷くしか出来なかった。

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