14.ホントのキモチは伝えてナンボ
死にたい、って···言った!?
想定外のその言葉に慌てつつも、だったら尚更この拘束という名の体重に任せた押し潰しをやめる訳にはいかない、と変な汗をかいた時だった。
「うーん、とりあえずお話聞きたいかなぁ?危ないからここにフィールド展開しておくね?」
「フィールド展開···?」
な、なにそれ、とフィルの方を見上げると、にこやかな笑顔でそっと抱き起こしてくれる。
私という名の拘束から解き放たれた彼女はまた崖にダッシュしたが、フィルの言った“フィールド”とやらに弾かれて私の目の前に尻餅をつく。
「つまり透明なバリアみたいなものってことね」
見えない壁にハテナを飛ばしている彼女を見ながら、なるほどと納得する。
もう仕組みがどうとか考えるのは止めた。
魔法なんてない世界から来たから理解なんて出来るわけないと開き直る。
···元の世界に魔法があっても理解できたかはわからないけど。
「私はリナ、このチート···じゃなくて、彼はフィル。驚かせてごめんなさい」
ぽかんと座り込んでしまっていた女の子に手を差し出しつつ自己紹介すると、そっと手をとってくれたのでそのまま引っ張り起こす。
「ありがとうございます、私はテオールと申します」
「テ···っ」
テオール、あまりこの世界の名前事情に詳しくはけど···なんとなく男の子っぽい名前に思わず言葉を詰まらせる。
そんな私に気付いた彼女は、淡いクリーム色の髪をふわりと揺らし天使のような微笑みで「両親は男の子が欲しかったみたいで、男の子の名前しか考えてなかったらしいんですよ」と教えてくれた。
言葉を詰まらせた事に罪悪感を覚え、謝るか、むしろ謝る事が更に失礼にならないかを思案する。
そんな私に気付いた彼女は、にかっと笑ってくれて。
「あ、謝罪とかいらないですよー!みんな驚きますし、生まれた子が女の子だったなら考え直してくれても良かったのにそのままつけちゃう親が悪いんで!それに16年もテオールだったので、うっかり愛着もありますし!」
い、いい子···!!
見た目も中身も天使なのでは···!?
これが花が綻ぶという事···!?
「か、可愛い···っ」
引っ張り起こす為に触れていた手をぎゅうっと握ったまま思わず悶えてしまった。
「それで、テオールさんはどうして二回も崖にダッシュしたの?本当に死のうと···?」
ひょこ、と私の肩口から顔を覗かせてフィルがそう訪ねる。
崖から落ちたのは突然現れた私達に驚いて足を滑らせたからだとしても、そもそもそんな崖際で何をしていたのかという部分も気になっていた。
私が抑えた時に言っていた「死にたい」が本気だったとしたら。
こんなにいい子が死のうとするくらいの何があったというのだろうか。
突然現れた見ず知らずの私達に何か出来る事があるとは思えなくても、“見ず知らずだからこそ”聞ける話や出来ることだってあるかも知れない。
それに、目の前で命が消えるなんて黙ってられるはずもないから。
「テオールさんに、何があったの?」
悶えて握りしめた手を弛めつつ、それでも離さないように彼女の顔を覗き込むようにそう聞いた。
「な、何それ!!サイッテー!!!」
崖から少し離れたところにある木陰に3人で並んで座り、彼女の話を聞いていた私が思わず叫ぶ。
「リナ、落ち着いてっ」
「そうですよっ、私は···いいんです」
「良くないわよ!婚約者を姉に取られるとか某掲示板の修羅場スレでしか見たことないわよ!」
「えっ、しゅら···え?ごめんリナそれは···」
「そこはどーでもいいのっ!!」
残業して帰るとテレビなんてもう全然やってなかった為、クロを布団で抱きしめながらたまにスマホで見ていた掲示板の話···は、とりあえず置いておいて。
「···だからって、テオールさんが自殺する必要なんてないわ」
生きる事は平等じゃない。
自分で選んで生きられる訳でもない。
そして“死”は自分で選ぶ事が出来るかもしれないけれど···
だからこそ、“それ”を選んでなんて欲しくないと思ってしまう。
「死のうと思えばいつだって死ねる。テオールさんが選ばなくても望まなくてもその瞬間はいつか必ず全員に訪れるのよ。だったらその日が来るまでもがかなきゃダメだと思う。悲しみで選ぶ必要なんかない、その気持ちを怒りに変えて見返しましょう」
どうしてもその瞬間を選ぶ事があるとしても、少なくとも彼女には“今”じゃないと思った。
そしてそんな私の真剣な言葉が通じたのか、彼女はハッとした顔を私に向けてーーー···
「···あの、私、絶望して死のうとした訳じゃないですよ?」
「え?」
「あの、なんかすみません、その···お祝い死しようと思ったんです」
「は?????」
ぽかんと口を開けて固まった私の顎をそっと戻しながらフィルがテオールさんの方を見る。
「えっと、お祝い死って···何かな?」
冷静に顎を戻してくれたのでてっきりフィルは理解したのかと思ったがどうやら私と同じく理解出来ない状況だったらしく、私の代わりに疑問を投げてくれた。
「その、真実の愛を貫く為に婚約破棄したら元婚約者は邪魔···ですよね?」
「それは···」
私から言えば好きな人がいるのに他の人と婚約するなよと言いたいところだが、婚約の経緯にもよるだろうし···と口をつぐむ。
そんな私をどう思ったのかテオールさんはそのまま説明を続けた。
「しかも、その元婚約者は恋人の妹だったら尚更です。そしてここは小さな村だから···乗り換えたなんて噂になったらここで暮らすなんて出来ません」
だからって死ぬことは、と口を開きかけた私にテオールさんはばっと振り向きキラキラした瞳を向ける。
「なので!死んだ婚約者に嘆く彼を姉が慰め!あぁっ、君も妹を失ったのに!と少しずつ近付く心の距離感···!!最高では!?」
「··········。」
「そのスパイスに私は死なねばならないんです!」
こ、これは···。
パッと立ち上がりまた見えない壁に向かって走り跳ね返って尻餅をつくテオールさんをなんとも言えない表情で見る。
「こんなにポジティブな自殺志願者はじめて見たんだけど···」
どうする?とフィルに耳打ちされてふぅっとため息を吐く。
理由がポジティブであれネガティブであれ、さすがに目の前で死のうとしている人を無視は出来ない。
それに。
「ばぁか!」
バシッと尻餅をついていたテオールさんの後ろ頭を軽く叩く。
「ひゃ?」
私は驚き瞬く彼女の瞳を覗き込み、そのまま自分も座り込む形で抱きついた。
「貴女、本当は死にたくなんてないんでしょ!」




