11.確かに部位は言ったかイメージ形状は言ってなかった
しまった、と思ったときにはもう遅く、何かしらの魔法が発動したと理解する。
それと同時に、“すぐに戻さないと”という意識が働いた為か魔法自体はすぐに消えたみたいで。
「リナぁ、僕まで閉め出されてどうしようかと思ったよ~っ」
泣き真似をしながら店に入ってくるのはもちろんフィルだ。
手にはあの男性···もといストーカーを抱えている。
「サーチにこの人のオーラが引っ掛かったから転移して、お店のバリアが発動したタイミングでとりあえず気絶させたよ!悪意がなければバリアは発動しないようにしておいたから、大丈夫!」
泣き真似をあっさり止めて、そうフィルがにこやかに主張してくる。
ちなみにその大丈夫とは何に対しての大丈夫なのだろう。
もう危険はないよ、の大丈夫なのか、しっかりボコしたからね、の大丈夫なのか···
ある意味現実逃避のような事を考えながら思考を飛ばしていた私とは対照に、フィルが真顔でカリーナさんと向き合う。
“···あら?あらら?”
もしやいい感じになる?なんて思ったのは一瞬で。
「何か隠してますね?この方の占い···あえて検討違いな事を言い、外したのではありませんか?」
そう発したフィルの声色がいつもより低く、冷めている事に少し怯む。
美形の無表情こっわ!
そんなフィルに観念したのか、カリーナさんはゆっくり頷いた。
「魔女狩りってご存知かしら」
その一言を聞き、ヒヤッとする。
魔女。
それは私が召喚された時に言われた言葉で、その結果そして問答無用で攻撃された。
あの時フィルが助けてくれなかったら私は今頃黒焦げになっていただろう。
そして地球にいた頃、歴史で習った“魔女狩り”と同じ意味を持つのだとすれば。
「私は、魔女なんていないと思ってるわ···ただ生まれ持った魔力が人より多かっただけ、それでも」
俯いて小さく左右に首を振るカリーナさん。
「持っていない人には恐ろしいのでしょう。そして魔女が不吉をもたらすと思っている人がいることも確かなの」
「この人は憲兵と繋がっていますね?」
「えぇ。魔女の証拠を提示して憲兵に引き渡せばお金が貰えるわ。魔女の証拠として普通ならあり得ないほどの魔力発動をさせたくてわざわざココで暴れたのだと思う」
そう教えてくれたカリーナさんはどこか寂しそうだった。
“そりゃ、そうよね···ただ生まれ持った魔力が多いと言うだけなのに···”
魔女だという証拠は作れても、魔女ではないという立証は難しい。
私は思わずカリーナさんに抱きついた。
「り、リナ···?」
ぎゅっと抱き締め、右手で背中をトントンと優しく叩きながら反対の手で頭を撫でる。
「一人で不安でしたね···辛いとも言えず、苦しかったですね···」
それは小さい子を慰めるように。
笑いながら教えてくれたフィルの過去。
もしその頃に出会っていたのなら、こうしてあげたいという全ての慈しみを込めて、今苦しんで怖がっているカリーナさんを抱き締め続けた。
「貴女はおかしくありません。貴女は貴女。ただのカリーナさんですよ」
優しくそう伝えると、カリーナさんも一瞬ぎゅっと抱き締め返してくれた。
少し鼻を啜ったカリーナさんがすぐにパッと顔を上げると、そこにはもうキリッとした明るい笑顔になっていて。
「ありがとね、リナ。よし、とりあえずフィル君が捕まえてくれたその人を逆に憲兵に突き出してやりましょ!」
そう笑ったカリーナさんがフィルの側に行こうとした時だった。
ーーーバタン!
突然荒々しくドアが開けられたと思ったら、何人かの大柄の男が入ってくる。
「え、なっ、何?」
思わずキョロキョロしてしまった私と、突然の事で固まってしまったカリーナさんを庇うようにフィルが前に出た。
「占いをご希望でしたらお一人ずつお伺いしますが?」
とろける王子様スマイルではなく、出来る王太子スマイル(当社比)を浮かべたフィルとは目も合わせず、恐らくリーダーだろう一人の男性が進み出る。
「ここに魔女がいるな?」
その言葉に思わずビクッとしてしまう。
何て答えるのが正解なのかこっそり二人の方を伺うが、言葉を探すより早く相手が怒鳴るような強い口調で言葉を重ねてきた。
「先程強い魔力反応を確認した。すぐに出て来るならせめて苦しまずに逝かせてやる」
「強い、魔力反応···?」
思わずその言葉に反応してしまう。
さっきの発動した魔法といえば、フィルの魔法が思い浮かぶが長年コントロールしてきたフィルがそんなミスをするはずなんてなくて。
だったら。
“私が無意識に発動した魔法の事だ···!”
思わず青ざめた私に気付いた男が、「お前か!」と私に真っ直ぐ手を伸ばした、その時。
「私です」
男と私の間を割るようにカリーナさんが名乗り出る。
「···なっ、カリーナさん!?」
叫ぶように名前を呼ぶと、振り向いたカリーナさんが小さく囁いた。
「リナ、ありがとう。貴女から貰った言葉は貴女が思うよりずっと私を救うものだったわ」
「カリーナ···さん···?」
そんな、まさか、そんな!
そのまま男達の方へ歩き出すカリーナさんの背中に手を伸ばすが、上手く足が動かなくて躓いて転んでしまう。
それでも今カリーナさんを行かせる訳にはいかないと慌てて立ち上がろうとしたその時、カリーナさんと男達の間にあのストーカー男が投げられた。
「!?」
ストーカー男は気絶しているのか眠らされているのか微動だにせず、そして男達は投げられた方を慌てて向く。
その視線に釣られて私も慌ててフィルの方を向いたその先には。
「·····えっ!?」
金髪碧眼の王子様のようなフィル···ではなく、髪が黒く染まり、瞳が真っ赤に染まっていた。
更に頭にはまるで鹿のような立派な角が。
「し、鹿っ!?」
その想定外の角に思わずギョッとしたが、黒髪、赤目、角と言えば。
『私の知ってる魔王は黒髪で目が赤くてツノとかある感じなんですがっ』
それは私がフィルに伝えた魔王そのもので。
いや、想像した魔王の角は山羊とかに近いもので決して鹿ではなかったのだが、それでも私の言った魔王のビジュアルは全て再現されていた。
「ふはははっ!魔女だと?愚かだな人間よ。そんな“紛い物”ごときに踊らされて我を見逃すなんてなぁ!」
偉そうに高笑いをしながら魔法を派手に発動したフィル。
その姿は威圧的で、いつものフィルとは別人みたいで。
まるで本物の魔王のよう···ではあったが、みるみる窓ガラスがピカピカになったのを見てやはりいつものフィルだな、と納得する。
「···ぷっ、ははっ!」
思わず吹き出してしまった私に、何がおかしい!?と怒鳴る男を見て、何故さっきまであんなに怖がってしまったのかと不思議にすら感じる。
フィルに倣い、なるべく派手に発動するようにと願いながら男達の足元に小さな花火を打ち上げる。
もちろん火事にはなりませんようにと願いを込めて。
地球だったら危ないからやっちゃダメだよ!
「なっ、うわっ!?」
「こっちにも!ぎゃあ!」
そして慌てた男達を横目に、そのままフィルの胸に飛び込んだ。
「えっ!り、リナ!?」
「ここによく当たる占い師がいると聞いて見に参りましたのに、魔女ですって?そんな普通の小娘が?私に失礼ですってよ!」
そう高らかに宣言し、カリーナさんのストーカーを指差して更に続ける。
「その男もインチキと騒いでおりましたし、確かに人間としてはよく当たるのかもしれませんが所詮は人間ですわ、私とは違いましてよ、ねぇ?魔王様?」
フィルの体にしなだれかかるようにしてそう言うと、一瞬だけいつもの優しい笑顔をしたフィルはすぐにまたわざとらしい程の顔と声色を作って。
「我が嫁の為に足を運んだが無駄だったな、もうこんな場所には用はない。お前達も目障りだから消えるがいい」
フィルがパチンと指を鳴らすと、飛び込んできた男達と気絶してるストーカー男がパッとその場から消える。
「····あんなに人間って念押ししたし、大丈夫、よね?」
小さくフィルに訪ねると、いつもの金髪碧眼、ついでに角もなくなったフィルが頷いてくれた。
「念のため暫くはサーチとバリアつけとくけど、流石に大丈夫かなって思うなぁ~」
なんだかあっという間でよくわからなかったが、フィルが大丈夫というなら大丈夫なのかも、と納得する。
そんな和んだ私とフィルとは反対に、目を真ん丸に開いたカリーナさんは。
「あ、あなた···たち···っ」
体も声もガクガクと震わせていた。




