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10.とりあえず結果が当たれば儲けもん

怒鳴り込んできた男性は、私達二人を一瞥し舌打ちして出ていく。

先客がいた事で引いてくれたのか、単純に3対1では分が悪いと判断したのかはわからない。


しかし壊れた空気が戻るはずなんてなく。


「えっと、ごめんなさいね?台無しになっちゃったわね」

「あ、いえ、それは全然···!」


実際占い結果は二の次だったし。


「でも、ああいう人···よく来るんですか?」

見る限りこのお店はカリーナ一人でやっているようだし、防犯的にあまりよろしくないのでは、と少し不安になったのだが。


「占いは当たり外れじゃないわ、未来を選ぶお手伝いが出来るだけだもの。結果を掴み取る努力をしないなら良くない事が起こるのは当然の事。···とは言っても、あのお客さん納得できなくて何度も来るのよねぇ」

「え、何度も!?」

「外れた責任を取れとかで粘着して···ちょっとしたストーカーっていうか···」


説明しながら、ふぅっと息を吐くカリーナさんを見ながらなんとか出来ないかとフィルの方をちらりと見る。

そんな私の視線に気付いたフィルが口を開く。


「占い···って、どうやったら出来ますか?」

「どうやったら···って、そうね、少しのコツがあれば···?」


その会話を聞いてハッとする。

「弟子にしてください!弟子として堂々とここにいる間にさっきのお客さん撃退しましょう!」


客としてだと全ての時間を警備出来ないので、弟子としてフィルにカリーナさんを護衛して貰いつつゆっくりお互いを知って、かつストーカーまで撃退したとなれば···!


そんなん絶対惚れちゃう···!!


それにこんなにイケメン占い師が誕生したらそれはそれでお金も稼げるし、お金はいくらあっても困らないもんね!

その間に私は外から情報収集しつつフィルをカリーナさんに売り込んで。

あれ、凄くいい考えじゃない!?



でもそんなニマニマしたリナの顔を見てフィルは何かを察したらしく。


「リナを表向き弟子にして貰って、その間に僕は先程の男性を調べます。彼についての今ある情報をいただけますか?」


と、しれっと先手を打たれた。


「ま、待って!弟子ならフィルをお願いします、私が調べますから!」

「ダメだよ、迷子にでもなったらどうするの?」

「迷子っ!?」


そんな子供みたいな理由を言われると思わず、一瞬言葉を失ってしまう。


「カリーナさんも、結果を掴み取る努力が必要だと仰られてましたよね。それにこのままだと営業妨害だけではすまなくなるのでは?」

「それは···」


やはり申し訳ないという意識が先に来るのか言い淀んだカリーナさん。

その表情が暗く、結婚云々は置いておいても力になりたいと思ったのは確かで。


「私達がここに来たのも何かに導かれてだと思います、試しにやってみませんか?」


そう伝えなんとか了承を貰った。


後はなんとかフィルを弟子に、と思ったのだが。



「なんで私なの~~っ!!」

淡い紫のローブを渡されたのはフィルではなく私だった。


「リナそういう服も似合うよ~!」

「私の衣裳だとフィル君にはサイズが合わないからね、リナしか選択肢なかったわね」


サイズを主張されたら反論出来ず口をつぐむ。

似た服を作ればと思ったのだが、細部の模様が私では上手く再現出来ず断念した。

ちなみにフィルは私を推してたので当然作ってくれなかった。



「こうなったら仕方ないわ、隙間時間にフィルを売り込む···!」


そう決意し、カリーナさんに向き直る。

フィルは「バリア張っとくね~!サーチに何か引っ掛かったり、呼ばれたら転移で戻ってくるから!」とどこかに出てしまった。

バリアはギリギリわかるとしてサーチってなんだ。

どこにどんなサーチを仕掛けたんだ。



「彼、天才なの···?」


げんなりした私の横で、魔法の発動をぽかんと見ていたカリーナさんは、フィルが転移でどこかに行ってしまったのを呆然としながらそう呟いた。


そっと顔色を伺うと、その表情に恐怖等は浮かんでなくて安心する。


“良かった、驚いてはいるけど嫌悪はなさそう。やっぱり魔力の大きい場所に来たのは正解だった···!”



すぐにハッとしたカリーナさんは、こほんと咳払いし慌てて私に向き直る。


「で、では修行を始めましょう」

「あっ、はい!」


表向き、とは言っても一応形にはしないと万が一お客さんに何か聞かれたら困るものね!と自分に言い訳しつつ、正直占い師という職業に興味があった。

地球にいた時にももちろんあった職業だが、そもそもどうやって占い師になれるのかもわからなかったし···それに、こっちの世界には“魔法”があるのだ。


つい期待と興味が高まった。

が。



「いい?占いのコツはね、相手の眼球をしっかり見る事よ」

「えーっと、オーラとか導きとかじゃなくてですか」

「そう、瞳孔の開き具合で推理し当てるの」

「す、推理···」


全ての占い師がこんなやり方してるとはさすがに思わないが···。

ふと怒鳴り込んできた男性の言葉と顔を思い出す。


“めちゃくちゃ糸目だったな···まさか目がちゃんと見えなくて推理を外した?その結果あのインチキ発言···?”



ストーカー問題を解決したいのはもちろんだが、そもそもここにはフィルのお嫁さんを探しに来たのである。


「インチキかは別として手に職があるし、フィルは家事も万能だから主夫にもなれるし···」


うん、アリかも!


なんて考えていたら、思ったより独り言が大きかったようで。


「インチキって失礼ね、本当に悩んでる人には真剣に占うわよ?」

「えっ、真剣に占わない事もあるんですか?!」


反射的にそう答えた私に、カリーナさんはそうじゃなくて、と説明をしてくれた。


「私魔力が多くてね、あまり魔力を込めすぎると影響を与えちゃうのよ。だから普段は相手に影響が出ない程度に調整して占ってるの」


なるほど、と納得する。

言葉というものは多かれ少なかれ必ず相手に影響をする。

それが何かしらの“力が宿った”ものなら尚更だ。

そしてその影響を受けて選んだ未来は、本当に“本人が”選んだものだといえるのだろうか?


つまりカリーナさんはそういう可能性を危惧しているということなのだろう。



「それにしても、貴女異質な魔力を持ってるわね···?」


気付くとカリーナさんに顔を覗き込まれていて少しビクッとしてしまう。


異質な魔力、それはつまり私が“聖女として来た”事で得たものだからだろう。


「そ、れは···っ」

何て言うか迷っていると、ぱっと顔を上げたカリーナさん。


「ま、いいわ!とりあえず暫くは弟子として見学してね」

「あ、はい!」


話題が変わった事にホッとする。

ホッとしたついでに聞かなくてはならないあのストーカーについても聞いてみた。



「あぁ、1週間くらい前かしら?好きな人と上手くいくにはどうしたらいいかと占いに来てね」


顎に手を当て、思い出すようにゆっくり話してくれるカリーナさんの言葉に耳を傾ける。


「どのカードもあまり良くない結果で···今のままでは厳しいかもしれないから、まず自分を磨く努力をするようにって伝えたのよ」

「それでまぁ、努力が足りずフラれた、と」


こくりとカリーナさんが頷く。


「で、結婚出来なくなったからそんなインチキ止めて嫁になれって通うようになって」

「嫁に!?」


自分と同じ目的だったか!と思わず過剰反応してしまった。

そんな私に何か声をかけようとカリーナさんがこっちを向いた時だった。



ーーパリン!


ガラスが割れたような音が響いたと思ったら光の粒が降ってきて、フィルが張ってくれたバリアが割れたのだとすぐに気付いた。


カリーナさんもその事実に気付いたらしくドアの方を慌てて見る。


まだ誰かが入っては来てないが、フィルのバリアを壊せるほどの“何か”が入ってくるのだと思うと思わず足がすくんだ。


「フィルが···すぐ来てくれるって言ってましたから···!」

だから大丈夫だとカリーナさんに伝えたくてそう言ったが、思ったより強張った声が出たと気付き、自分を安心させたくて口に出したのかもしれないとも感じた。


今この場にフィルがいないことが不安で、私は思ったよりフィルを頼りにしていたのだと実感する。

そんな私の不安に気付いたのかそっとカリーナさんが手を握ってくれて。


“大丈夫、フィルがすぐに来てくれる、だからそれまで私が何とかしないと、守らないと···っ!”

ぎゅっと目を瞑り、あわよくば誰も入って来ませんようにと思わず願った。


「り、リナ···?貴女、その魔力···っ」


それは恐怖や不安からくるただの“思い”のつもりだったが、しっかり“願い”でもあった。



「·······あっ?」

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