9.未来は無限にあり、未来を選ぶのは自分次第といっておけばとりあえずいい
フィルの魔法を間近で見たアルフォード殿下は、すぐに隠したものの一瞬確実にフィルの強い魔力に“畏怖と嫌悪”を表した。
その嫌悪は、フィル自体を拒むようなものではなかったが、自身の持ち得ない力というのはそれだけで畏れられるものだと目で見て実感した、から。
「次は強い魔力が集まっているところに行きましょう!!」
毎日の日課の畑へ水やりを終え、今日はクロを膝に抱えるように抱き締めながらリラックスをしているフィルにそう伝える。
「えぇ~、行くのはもちろんいいんだけど、目的は···」
「お嫁さん探しよ!」
やっぱりか、と項垂れるフィルの膝からクロを拐って自身の膝に乗せる。
あぁ、今日もこのしなやかな肢体が可愛くて可愛くてたまらなーー···ちょっと、フィルの膝に戻ろうとしないでよっ!?
可愛い愛猫のツンデレのツンを見たような気持ちになりつつ、すぐに頭を左右に振って気を取り直す。
見慣れない強い魔力が怖いなら、元々強い魔力が多いところに行けば全て問題解決よ!
我ながら天才じゃないのかと思いつつフィルの転移でやってきたそこは、地球でいえばギリシャのサントリーニ島に近い作りをしていた。
斜面に作られたその建物一つ一つがそこまで大きくはなく、ほぼ階段の道路のその街は全ての建物に可愛い看板がついていて。
「もしかして、全部お店なのかしら」
「お店兼自宅って可能性もあるけど、建物の大きさ的にこの街自体が商業施設になってるのかもしれないねぇ」
なんて話ながら散策する。
看板は文字ではなく絵で描いてあり、おそらく観光客が読めなくても何の店かわかるように配慮されているのだろう。
そこで売られている小さな小物や花は、森で見れるようなものとは少し違っていてカラフルな彩りが見ているだけでもとても楽しかった。
「何か欲しいものある?」
「見てるだけで楽しい···というか!」
なんだかんだで前回確認しそびれていた事を思い出す。
「お金、どうしてるの···?」
完全な自給自足生活で生まれないもの、それはお金である。
誰かから給料なんてものを貰えないこの生活は、生きるだけなら何も問題はないが外でお買い物というときは凄く困るはずだ。
それも場所がわからない外国なら、その国の硬貨なんて持ってるはずもない···そう思ったのだが。
「あ、リナに説明してなかったっけ?この世界は世界王が全体を統一した歴史があって」
「せ、世界王···?」
「その各国をそれぞれの王族が納めてるんだけど」
「各国の、王族···」
「世界王が色んな国を旅する時に通貨が共通じゃないと不便だからって全てお金は同じだよ!」
「世界王が、旅···」
「もう何百年も昔の話だから、どこまで本当かはわからないけどね」
まぁ、一種類しかないならいちいちその国のお金を用意しなくても済むし確かに便利でありがたい。
「通貨が一種類なのはわかったけど、そもそものお金って···」
「森で作った作物を売ったりとか、魔法で作ったちょっと便利な道具とかをこっそり売ってお金作ってるよ~!正体を隠してるから、バレないようにだけしなきゃだけど」
そう言ったフィルの言葉に驚く。
フィルが家を何時間も開けることはあまりないのに、いつの間に店をしていたのだと思ったからだ。
しかしそんなリナの驚きを正確に察知したフィルは。
「お店をやってるんじゃなくて、お店に商品を卸す形で売ってるから転移して納品してってすぐ戻って来てるんだよ」
と答えをくれた。
なるほど、と納得しつつ、それでもそんなことをしていたなんて知らなくて。
結局まだ私はフィルの事を何も知らないんだな、とそう思ってしまった。
知れるなら···知りたい、のだろうか。
そう考えて、一緒に暮らしてるんだから当たり前だと考え直す。
知りたいのは当然の事だ、知らないならこれから知ればいい。
だからまずは。
「とりあえず、一番強い魔力のところへ向かいましょう!」
「お買い物デートがぁ~っ」
渋々案内されたのは看板に水晶が描かれている一軒のお店だった。
「占いをしてくれるお店かしら」
中の占い師さんが男の人だったり、おばあちゃんとかだったら一応フィルの範囲内かだけ確認して次の魔力の強いところに向かおうと考えながらそのドアを開けた。
開けた先からかけられた声は高い訳ではないが落ち着くような声色で、そして若々しい女性の声で小さくガッツポーズをする。
「あら!可愛らしいお姫様···と、うわっ、やたら麗しい王子様!?」
えっ、嘘っ、王子本物じゃない!?という小さな本音が漏れていたので、前半部分は完全なリップサービスだったとため息を吐く。
まぁ、お姫様に憧れるような年齢でもないし···。
思わずジト目を向けてしまったが、それくらいは許して欲しいところだ。
そしてそんな私の視線に気付いた女性は、こほんとわざとらしく咳払いをしてテーブルへ促した。
フィルと隣同士に座り、その女性と向かい合う形で小さめの四角いテーブルを挟んで向かい合う。
「私は占い師のカリーナよ、よろしくね」
そう笑顔を向けられて少しほっこりした。
20歳くらい、だろうか?
大人びたその声よりも幾分若く見えるカリーナは、赤毛が艶めいたふんわりウェーブの髪をしていた。
「さぁ、今日は何を占うのかしら?」
と彼女が机に置いたのは。
「た、タロット!?」
水晶じゃないんかい!と思ったが、それよりもそのタロットが地球で見たものに酷似していた事に驚いた。
そんなリナの驚きに気付いたのか、こっそりフィルが「昔の聖女様が持ち込んだのかもしれないね」と耳打ちし、その言葉に納得する。
それならば確かに地球で見た物があってもおかしくない。
「どうかしたの?」
「いえっ、何でもないです!」
だからと言って自分も別の世界から来ましたなんて言うはずもなく、とりあえずその場は笑って誤魔化した。
それに彼女は大きな魔力を秘めている。
“この占い、めちゃくちゃ当たりそう···!”
思わずゴクリと生唾を飲み、そしてカリーナに真剣な視線を向ける。
「彼の···」
「王子···じゃなくて、彼の···」
「結婚運を占ってください」
「えぇっ!?リナが占って貰いなよっ!?」
「つまり独身なのね!?」
思わず溢れたであろう本音に一瞬ポカンとし、そしてフィルの顔を改めて見る。
そりゃこんなイケメンが結婚相手を探してるってなったら、思わず立候補したくなるわよね···
まじまじと見つめてしまったが、その間に持ち直したのか真剣な表情を向けてカードをシャッフルした。
「このカードが、貴方を導くカードになります。ただし忘れないでください。未来とは数多あり、そのうちの1つの可能性を見いだすだけ。カードが示した未来を変えたいと努力することも、その未来にたどり着きたいと努力することを全て貴方次第です」
そう説明し、カリーナがカードを捲った。
その時だった。
「このカードは···」
カリーナの説明とほぼ同時にドアが激しく開かれたのだ。
「ッ!?」
思わずビクッとした私の手をそっと握るフィルに思わず安堵してしまうが、問題が解決した訳ではもちろんなくて。
「このインチキ占い師め!お前がしていることは詐欺だからな!!」
と、中年···というにはまだ少し若いくらいの男性が顔を真っ赤にして怒鳴り込んできたのだ。




