中沢と組織の関係
精霊たちから渡されたものはどんなものかな?
中沢と組織の関係
汚染物質投棄事件は、船を拘束されて、乗組員も調べられた。
船内に同じ汚染物質の液漏れがあったため、犯行は確定した。
だが、外資の会社なうえ、船の持ち主は、海斗に丸こげにされて、半狂乱で話にならず、汚染物質については、乗組員では、知らない解らないの一点張りで、うやむやなまま取調べは、難航していた。
それでも、この船会社が立ち直ることはないだろう。国内への立ち入りも禁止されるはずだ。
これでホテルマリオンを狙った組織がなくなったのだろうかと思うと不安が残る。
裏にはもっと大きな組織が潜んでいそうで、単なるトカゲのしっぽ切だったのではないかとの疑念はぬぐえなかった。
結局目的は、静音を襲った男が言っていたように、何処かの組織が、ホテルマリオンを狙ったのか、他の目的があったのか、解らないまま捜査は打ち切りになった。
「もっと旨く聞き出せれば良かったんだけど…。宗教団体か何かかな。教祖を神扱いすること多いらしいし」
「ゼウスって、言ったって?」
「うん。頭おかしいんじゃないかと思ったんだけど、もっと突っ込んで聴いてみればよかった」
静音は悔しそうに言う。
「静音はがんばったよ。生きていてくれただけでも本当に良かったと思う。」
海斗は、静音の側に座り、しみじみと言う。
確かに思い出すだけでも震えがくるくらい怖かった。余り思い出したくもない出来事ではある。
「あの時は、そういえば、時雨さんがくれたストラップが砕けて飛び散ったのかな…あんまりよく覚えてないんだけど」
「あ、あのストラップ役に立ったのね!」
時雨が嬉しそうに言った。
「そうなの! 危機一髪で助かったんだけど、あの時は無我夢中で、何が起こったのかわからないまま部屋を逃げ出したから…」
「なんですか、時雨、説明してなかったのですか? 説明しておけば、静音はもっと早く逃げられてあんな怖い思いをしなくても済んだかもしれなかったのに」
ハリが、時雨をしかりつけた。時雨は、申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。私だってこんなことになるとは思ってもなかったのよ。静音がストラップの扱いを怖がって、持ち歩いてくれないかもしれないと思ったから、黙ってたの。でも、役に立ってよかったわ」
「時雨さんあれ、そんなに物騒なものだったんですか」
時雨の言葉に、静音はけげんな顔をする。
雪の結晶型の綺麗なチャームだと思っていたストラップ?
「ふふ、あれはね、静音のお守りよ。でも、うっかりわっちゃたりすると攻撃力半端ないから要注意なのよ」
「だって、私そんなこと知らないから結構雑に扱ってたじゃないですか!」
「大丈夫よー、意識して割ろうとしなければ、そんなにめったに割れるものじゃないから」
時雨はけらけらと笑っているけれど、うっかり買い物の途中とかに割ったら、周りの罪もない人たちを傷つけていたかもしれないと思うとぞっとした。
知らない方がもっとやばい気がするけど…。
やっぱりそっとしまっておく方がいいのでは…?
「静音を守るアイテム必要か? 」
珍しく颪が食いついてくる。
「もちろん! 持たせておいて正解だったでしょう?」
「それなら、俺も静音に持たせる」
「そうですね、私も用意しましょう」
いやいや、そんな物騒なものいくつも持たされては落ち着かない。静音は手を振って断る。
「わ、私気を付けるから、何もいりません。こんな目に合うのは一回で十分ですから!」
海斗が、静音の手を握って、真剣な顔で言う。
「それはもちろん、二度とこんなことはさせない。けど、起こさせないための用心だよ。持っていれば、捕まる前に逃げられるかもしれない。だから、…頼む」
海斗自身も、思い出すだけではらわたが煮えくり返る思いだった。
大切に守っていたはずだったのに、思いもよらないところから、攫われてしまった。
しかし、中沢と言う男、どこまでもうっとおしい奴だ。静音の元彼と言う存在だけでも腹立たしいのに、いつまでも付きまとってくる。
警察に突き出したくらいでは足りなかったということだ。
次に会ったら、両足を切り離して歩けないようにしてやろうか?
それとも、裏から手をまわして、破滅させるほがいいか?
どっちの方が静音は怒らないだろうか?
嘘が付けない自分たちの間では、静音の許容範囲でしか動けない。
裏から手を回すで思い出したが、爆弾事件と、中沢とのつながりを見つけなければならないだろうと思う。
「ところで、ハリ、この間の爆弾騒ぎの犯人について何か報告はなかったか?」
「それが、今回の事件と関係がありそうです」
「我々の気を引くための作戦ということか?」
「どうやらそのようで…あのまま、爆発でも起こっていたら我々も対応に追われていたでしょうから…二つの事件を計画していたのではないかと」
ハリは、静音の方を見て言葉を濁した。どうやら、中沢との関連があったようだ。
静音は、それを感じ取って海斗の顔を見る。海斗はそれを受けて、言いにくそうなハリに先を促した。
「中沢の父親の会社関連か?」
「はい。中沢の父親は、外資系の大手企業SKYの営業部長らしいのですが、その会社の営業部というのが、かなり黒くて、裏で何やら怪しげなことをしている様子ですが、はっきりわかっているのは、爆弾投棄の犯人がそこの社員だということです」
「中沢と繋がったのか…」
その言葉に静音は衝撃を受ける。
やっぱり、中沢君は、私を殺そうとたくらんだ人たちの仲間?
それほどまでに、私は中沢君に嫌われていたのだろうか?
一体何をしたというのだろう?
私に対して、愛情があったとは、今では思っていない。
それでも、一緒に過ごして、優しくしてもくれた…。あれはいったいなんだったんだろう?
「敵も随分手抜きなことをしてくれるな。まるで、怪しんでくれと言っているようなものじゃないか? 其れともなめられてる?」
海斗は、不満そうに鼻で笑う。
「もしかしたら、そのSKYも、捨て駒なのかもしれません」
「大手企業なんだぞ! 沢山の社員を抱えている。その社員全員が巻き込まれるんだぞ!」
「それだけ、大きな組織なのかもしれないと言うことです。最悪の場合敵の狙いはこの国という可能性もあります。つまり、これは、郷国の護り人としての任務ということです」
ハリは、海斗の言葉に眉も動かさずに言い切った。
海斗は、不機嫌顔で、押し黙る。
重い空気が部屋全体に漂っている。
「あ、あの、中沢君と、船会社の関係って、つながってるんですか」
静音は、恐る恐る聞いてみる。国なんて大きな話をしているときにこんなことを言うのは空気が読めていないようで気が引けるが、静音にとっては気になることだった。
「それが、船会社とSKYとのつながりは今のところ見つかりません。ですが、タイミングよく静音さんを呼び出している当たり、つながっていると考えるのが妥当です」
ハリの言葉に、部屋の中にますます、重い空気が漂う。
やっぱり中沢くんが、私を殺すために呼び出したのは確定なのだ…。
静音は、奈落の底に突き落とされた気分だった。
そんな静音に、海斗はますます中沢に対して腹が立った。
海斗の中に殺意がよぎる。精霊たちは、彼のその殺意を感じ取っていた。
かなりまずいと、彼らは緊張していた。
まさか、又ここで焔を呼び起こしはしないかと、ハラハラしながら海斗をうかがっている。
そんな空気を追い払うように時雨が話を変えた。
「まあ、静音の免疫体質は、ばっちり証明できたわよね。なにしろ、ウイルスが充満している船に入った海斗様が無事だったわけだし」
海斗は、ウィルスに感染することも無く、元気で、静音の免疫体質は、証明された形となり、ハリや、時雨、颪の、精霊たちも、主人の安全を確保できたと、頷きあった。
しかし、免疫体質が証明できたの言葉に、静音は、ことあるごとに浮かび上がる、あの晩のことを、また思い出して恥ずかしくなる。
中沢のショックなど飛んで行ってしまった。
ああ! なんであんなことに…。耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。
そんな静音を見て海斗はくすりと笑う。静音のその様子に、海斗もあの夜のことを思い出したからだ。
今までの不機嫌がふきとんでしまった。
あの夜の静音の肌の感触がよみがえった。本当に可愛かった…。
あの時どんなに静音に救われたか解らない。焔を呼び起こしてしまった海斗を正気に戻してくれ、最後まで気丈に自分の足で歩き、冷静に行動してくれたから、速やかに船から下りることが出来た。
海斗が冷静でいられたのも、静音が落ち着いていてくれたからだ。
そして、二人きりになってからは、可愛く僕に甘えてくれた。
甘えてくれなかったら、僕は静音をどうすることも出来ずに、落ち込んでいただろう。
海斗は、熱い瞳で、静音をじっと見る。
海斗の視線に気づき顔を上げると目があってしまった。
静音の顔は、みるみる赤くなっていく。耐え切れず部屋から逃げ出してしまった。
「あ、あの、私お手洗いに…」
いきなり部屋から飛び出してしまった静音に、時雨も、ハリも、颪までが、にやにやした顔で海斗を見る。
それを受けて海斗はそっぽを向く。
「何も教えないからな!」
三精霊は、顔を見合わせてほくそ笑んだ。
時雨の作戦は成功したようだ。
三つのお守り
次の朝いつものように花壇に水やりをして、時雨とハリ、颪と一緒に、オーナー用エレベーターに乗ると颪が静音に行った。
「静音、腕を出して」
いきなり何のことかと思って、腕を差し出すと、颪は、自分の髪の毛をするっと抜いた。
するとそれは、颪の髪の色と同じ色のリボンになる。
静音の手首に巻いてリボン結びにするとブレスレットに代わった。
軽くて、手触りはリボンのようだっが、見かけは、シルバーのブレスレットだ。
「これほどいて引っ張ると向けた方向に突風が出る。短剣くらいの威力はあるから、頭や心臓とか、狙う場所によっては人も殺せる」
「こ、殺せるって、そこまでは、やらないよ…」
いきなり物騒なことを聞かされて固まっていると、今度はハリが、ペンダントを首にかけてくれた。透き通った水晶の結晶のように細長い石が付いている。
「私は、魔除けと浄化の石です。これを身に着けていれば、災いを避けてくれます。そして、毒などに侵された場合噛んで飲み込めば浄化してくれます」
「私はこの前と同じストラップね」
そういいながら時雨は勝手に静音の携帯ケースに、前と同じ雪の結晶のストラップを取り付けている。
「あ、ありがとう…」
何だかとても物騒なものをいくつも持たされて緊張した。
静音は、この間の話であらためて海斗が大変なものを背負っていることを実感させられた。
自分の立場も軽くはない? と思い始めていた。
郷国の護り人? 私はその人の花嫁?
もう少し慎重に行動しなければいけないのかなと、複雑な気持ちだった。
世間一般では、夏休みも終わり、ホテルもようやく繁忙期を過ぎて落ち着いてきたころ、静音は、ようやく皐月に連絡を入れた。
今日は、久々に待ち合わせをして一緒に食事をすることにした。
高校時代によく利用したファミーリーレストランだけれど、懐かしい雰囲気は、あのころと少しも変わっていなかった。
学校帰りにみんなで集まって、楽しくおしゃべりをした。
当時はその中に中沢君もいた。
思い出してしまい、気持ちが重くなるのを振り払うように気持ちを入れ替える。
静音は、何度もこんな心の葛藤を繰り返している。
外食するのは、高校を卒業して依頼殆ど無かった。
ホテルの初日に、海斗に誘われて、展望レストランで、食事をして以来だ。
あの時は、驚くべき話を聞かされた。
今日は逆に、静音が驚くべき話を皐月にしようとしている。
何処まで話して良いのか解らないけれど、皐月は大丈夫と、海斗に太鼓判を押されたから、安心して話しても大丈夫だろう。
「静音、なんだか綺麗になったね」
皐月の開口一番がそれだった。
「な、何言ってるのよ。それは、皐月ちゃんのほうでしょう」
「うん。もちろん私は綺麗になったわよ。当たり前でしょう。お年頃ですもの。でも、静音は、それ以上に、内側から輝いているって言うか、だって、今日はすっぴんでしょう。それで、その綺麗さって何? 反則だわ」
相変わらずの何時のも皐月の口調に懐かしく、静音も昔に戻ったような気がして、気持ちが和む。
「あ、この前は、水花さんがバッチリメイクしてくれて、別人みたいだったでしょう。今日は皐月ちゃんに会うから、素のままの私でと思って」
「もちろん、この間はビックリするくらい綺麗だったわよ。別人かと思ったもの。静音が、あそこまでメイクできるのかと思って、今日は張り切って、メイクしてきたのに何よ。素で勝負されて負けるなんてめちゃくちゃ悔しいんですけど」
と、ふてくされながらも、皐月はふふと笑って見せる。
「ごめんなさい。私、自分では殆どメイクできません」
静音は、開き直って本当のことをばらす。
「まあ、良いけどね。あの海斗様の隣に並んで見劣りしないなんてね。まあ、海斗様の静音を見る眼差しに助けられてた所も有るけど、お似合いの二人だったわよ」
「ありがとう…」
静音は、皐月の言葉に素直に嬉しいと思った。こんなに素直な気持ちになれるのは皐月の前だけだ。
「もう、にやけちゃって、何がどうなったら憧れの海斗様が婚約者になるのか、じっくり話してもらうわよ」
厳密に言うとあの時は海斗がその場をごまかすために言った言葉だったが、今では母の許可ももらって、婚約者と言えるだろう。
静音は、海斗の特殊能力に関する話以外、今までのいきさつを全て話した。
「…ふうーん。一之瀬の娘か…。生まれながらの婚約者と言うやつだね」
「うん。なんか、古臭い風習みたいに思ってたんだけど…」
「風習でも何でも、相手が海斗様だなんて、ラッキーじゃない?」
「そうなのかな。助けてもらってるのは確かだよね。彼の助けが無かったら、母と二人暮らしていけなかったかもしれないと思ってる」
「そうか…。でも、それ以外にも、彼が好きなんでしょう」
「誰も好きになんてならないと思ってたんだけどね」
「まさか、まだ、中沢君を引きずってるなんて言わないよね」
「…」
「え、何その間は?」
中沢の名前に静音の顔色が変わったのを見て、皐月は驚く。
ただ事じゃない雰囲気に皐月も真顔になった。
「中沢君と何かあったの?」
「中沢君のことなんだけど、皐月ちゃんにも気を付けてほしいの…」
静音は、ホテルでの事件のこと、中沢に呼び出されて殺されそうになったことをかいつまんで話した。
皐月は、真っ青になって聞いていたが静音が噓を言っているとは思わなかった。
「それで、中沢君なら、私と皐月ちゃんが仲がいいこと知っているから、皐月ちゃんにも被害が及んだらと思うと怖くて」
「…。」
「もし何か中沢君から接触があっても、絶対にかかわらないで。逃げてほしい」
皐月は、呆然と信じられない表情で聞いていたが、それでも、しっかり頷いた。
「うん。分かった。…気を付けるよ。それよりそれから、中沢君から何か連絡あったの?」
「ううん。向こうも、私が警戒していると分かっているだろうから、あれ以来何も」
「そうか…。それにしてもひどい奴だね。信じられない! よくもそんなひどいことが!」
皐月は、顔を真っ赤にして怒る。
怒り過ぎて言葉が出なかった。
静音を傷つけて捨てただけでも許し難いのに、殺そうとするなんて、人間の皮を被った化け物だ。
悔しくて、絶対に許せない呪ってやりたい!
静音がどれだけ傷ついたかと思うと、悔しくて、悲しくて、静音に抱き着いて泣き出してしまった。
あまり人のいない時間ではあるが、さすがに人の目が気になる。
静音は、何とか、皐月をなだめようと笑って見せる。
「皐月ちゃん、泣かないで。私には、諏皇さんがいるから、大丈夫だよ」
皐月ちゃんは、うん、うん、頷きながら涙をこらえようとしている。
「でも、静音、こんなふうに一人で出てきたりして危ないじゃない」
皐月ちゃんは、ハンカチで涙を拭きながら心配そうに言う。
「大丈夫、来るときも送ってもらったから。帰りも、連絡したら迎えに来てくれるって」
「そっか、大事にされてるね。良かった」
「うん。皆とても良くしてくれる。私今とっても幸せだよ」
「良かったよー!」
皐月ちゃんはまたぽろぽろと涙をこぼして笑った。
親友の木内皐月と会えて、今までのことも含め色々な話ができて良かった。
静音は心の奥底で気になっていたことをやっと解決できて晴れ晴れした気持ちだった。
うん。皐月ちゃん、いい子だ。さすが静音の親友。どうか、皐月ちゃんにもコメントを送ってくださいませ。