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郷国の護り人  作者: 水花光里
18/23

イザナギの島へ

いよいよ始まる子孫繁栄!

いつの間にか霧が立ち込めて小舟の周りを包み隠していた。

 小舟は霧の中を進んでいく。

 一体どこに行くのか…。

 先代たちの記憶はあったが、実際に通るのは初めてだった。

 静音が普通の状態だったなら、何も心配はしなかっただろう。

 しかし、追放された皇摩の影響を受けたままの状態の静音をイザナギが認めなかったら、どうなってしまうのかわからなった。

 そんな不安を抱きながら海斗は静音を抱きしめる。

 どうなろうと、静音だけは手放さない!

 何処までも一緒に行こう。

 海斗は心の中で静音に話しかけた。

 小舟は二人を乗せ、霧の中を進んでいく。

 どのくらいの時間がたっただろうか。

 不安を抱えていた海斗にとってはとても長く感じた。

 霧の中に洞窟の入り口が見えてきた。

 イザナギに迎えられた!

 この洞窟の中には入れれば、すでにイザナギの懐の中も同じだ。

 海斗は、ほっと胸をなでおろした。

 洞窟の中に入るとすぐに、ずっと、海斗に寄り掛かったままだった静音が、ピクリとして、顔を上げた。

 そして、きょろきょろと周りを見回す。

「静音、僕がわかる?」

 海斗は静音の顔を覗き込んで聞いた。

「海斗…。ここはどこ?」

「静音! …良かった、意識が戻ったんだね」

「え? …私、子供を追ってホテルから出た地ころで…」

「そう、皇摩に憑依されたんだ」

「皇摩?」

「そのおかげで、色々調べられたんだけど、君は意識を眠らされていた」

「あの時、後ろから人がいきなり抱き着いてきて、強いにおいをした布で口と鼻を覆われて…」

「薬物の作用は、ハリのペンダントを飲み込ませて説いたけど、皇摩の力だけはどうにもできなかった」

「敵の正体が皇摩なの? 海斗の知っている人?」

「皇摩は、かつての郷国の護り人の一人だったが、イザナギの怒りを買って追放されたものだ」

「それじゃあ、海斗みたいな不思議な力を持っているの?」

「そう、それで、イザナギの力を借りるために、今ここにいる」

「え!? 其れって…」

「ごめん! 僕は、君に謝らなければならないことがいくつかある」

「…この船は、イザナギの島へ向かっているのね? 私は一年くらいママに会えないってこと。…でも、無謀な行動をした私の為に止むを得なかったのでしょう? 海斗が謝ることではないわ」

「静音…。僕を許してくれるの? 僕はイザナギの島に着いたら君を抱くよ。君のすべてを僕のものにして、もう、二度と僕から離れなくする」

「うん…。わかっている」

「僕に抱かれるということは、君の体を変えてしまう。僕と離れては生きていけなくなるんだよ」

「うん。憶えているよ」

「僕の父が亡くなった後、母も数か月ともたなかった。僕が死ねば、君も、きっと生きていられんくなる。そんな体にしてしまうんだ」

「体が変わらなくても、海斗のそばを離れるなんて心が死んでしまうもの。私にとっては同じことよ。分ってるから、大丈夫」

「静音…。ありがとう。でも、心の準備も出来ないまま連れてくることになってしまって、本当にごめん。結婚式も出来なかった。愛美さんになんて言ったらいいのか…」

「今回のことは、私の自業自得だし、海斗のせいじゃないわ。でも、…きっとママが心配していると思うと、…どうしよう…」

「とりあえず籍を入れよう。イザナギの島で僕らは夫婦になるわけだし、愛美さんには事後報告になってしまうけど、イザナギの島のことだけ伏せて、できるだけ話しておきたい。子供のこともあるし、ずっと隠していることは出来ない」

「うん…」

「そうだ、静音手を水に入れてみて」

「え?…何?」

「時雨が、静音の身代わりを用意して待機しているんだ、静音が水に手を入れれば、時雨に静音の意識が戻ったことを知らせられるはずだ。そしたら、静音の身代わりが起動することになっている」

「もう、できたの?」

「急いで間に合わせた。手を水につけてみて」

「う、うん…」

 静音はおそるおそる、ボートの中から水面に手を伸ばした。

 水面に静音の手が触れた瞬間、ホテルの静音の部屋の風景が見えてきた。

「あ、部屋の様子が、見える。時雨さんもいる」

「動き出したようだね。しばらくは、其れで何とかごまかして、愛美さんが気が付かないといいけど」

「水花さんみたいに動くのよね。私はそれを全部わかるのか…後で話のつじつまを合わせたりしなくていいってことだよね。すごい!」

「静音の言いたいことも、代わりに話してくれるし、静音がしたくないことはしない。離れていながら、操作することが出来る」

「そっか、それなら、私がそばにいるのと同じ状態になるよね。これなら安心してママのことも見ていられるよ。ありがとう。海斗、時雨さんにもお礼言わなきゃ」

「良かった。出来るだけ、静音には安心してイザナギで過ごしてほしいからね」

 海斗は静音の手を取って、やっと緊張がほぐれたかのように微笑んだ。

 手を取ると、色々な海斗の感情が伝わってきた。

 そして、皇摩の情報までが全て静音にはわかってしまった。

 それを感じた海斗は、静音を見てニッコリ笑った。

「静音は、僕との交信が随分スムーズにできるようななったね。やっと僕に関心が向いてきてくれたかな?」

「…な、」

 静音に返事をする暇を与えずに唇をふさいだ。

 もちろん、拒む理由は何もなく柔らかい唇の感触に心を預けていると、海斗の罪悪感が伝わってきた。

 理由は良く分からなかった。海斗自身が罪悪感を抱いているため、鮮明に伝わらないようだ。

 静音は、海斗が誤らなければならないことがいくつかあると言っていたことを思い出した。

 一体、何をしたのだろう?

 静音の違和感に気が付いた海斗は、唇を離して謝った。

「ごめん!」

「え、なに?」

「静音の意識を取り戻せるかもしれないと思って、意識のない君に触れた…」

 海斗が渋々意識を開放したので、その時の様子が、静音に伝わってきた。

 しかし、静音は、その時の行為よりも、海斗の辛い気持ちが伝わってきて、本当に心配させたんだなと、自分の注意不足に申し訳なく思った。

「海斗、心配かけてごめんね。こんな時だったんだから、もっと慎重に動くべきだったのに、まんまと罠にはまってしまって。海斗の足を引っ張ってしまって」

「いや、静音のお陰で、皇摩の正体や、色々分かったんだから、足は引っ張ってないよ。むしろ、よくやってくれたというか…。でも、静音を失うかもしれないなんて思いは二度としたくない」

「私も。これからはもっと気を付けて慎重に動くようにする」

「そうだね。これからは、静音の身代わりもいるし、出来るだけ君は動かずに、身代わりを使って」

「時雨さんの負担になりそうで申し訳ないわ」

「出来るだけ、時雨の分担を減らすようにするから大丈夫だよ」

「其れって、ハリや、颪の負担が増えるってことじゃない?」

「まあ、みんなで助け合うってことで」

「うん。私にもできることを増やせるように頑張る」

「とりあえず、静音は大事な仕事があるよ。静音にしかできないことがね」

 そう言って、海斗は、又唇を重ねた。今度は違和感もなく求める様にだんだん切なくなってくる。

 二人を乗せた船は暗い洞窟を抜けると、真冬とは思えないほど温かく明るい昼の日差しがまぶしく降り注ぐ、リゾートのような美しい島にたどり着いた。

 船はいつの間にか砂浜にたどり着いて静かに止まった。

「着いたよ」

 海斗は静音を抱き上げて船から降ろすとそのまま歩いて目の前に大きくそびえる石造りの神殿のような建物にい向かった。

 静音は、その荘厳な建物に目を奪われて、呆然と見上げていた。

 海斗が門の前に立つと、重そうな石の門が、すうーっと真ん中から離れて開いた。

 そこを通るときに見たら、厚さが一メートルはありそうな石の門だった。

「凄い、あの門が簡単に開くなんて…」

 静音が呆気に取られていると海斗が笑いながら言った。

「一応、ここは最前線の要塞だからね、門の作りは頑丈にできてる」

「海斗は、何時もここを通っているの?」

「いや、僕もここを通るは初めてかな。何時もはホテルに続く通路を通るから」

「ホテルに続く通路があるの?」

「本来ホテルとこの島は一つなんだ。静音は、まだそこを通れないけど、出産が終われば、そこからホテルに通うことになると思う」

「そうか…。本来は、ここが正式な入口なんだね」

「そう、イザナギに招かれなければ入れないから、ここを通れないものは、たとえ島にたどり着くことが出来たとしても島の外に投げ出されてしまうだろう」

「私も、海斗と一緒じゃなかったら入れない場所なんだね。だから抱きかかえているんでしょう?」

「そういうわけでもないんだけど、一応僕の花嫁アピールと言うか、イザナギに伝えておこうと思って…。こんなことしなくても、皇摩の術を解いてくれた時点で分かっていると思うけどね。でも、花嫁を抱いて家に入るのは結婚の風習でもあるから。静音は、僕の大事な花嫁と言うことでこのままいて」

 静音は幸せだと思った。

 意図せず結婚を早めることになってしまったが、大好きな人に抱きかかえられて家に迎え入れられるのは、こんなにも幸せな気持ちなんだとしみじみ感じて、言葉の変わりに海斗の首にキュッとしがみついた。

 そんな静音のしぐさに、彼は愛しさが募って、つい早足になってしまっていた。

 門の中に入り、中庭を進むと、木々の中に囲まれた泉が見えた。

 緑の葉の隙間から天使の梯子と言われる光の筋がいくつも降り注いでいて、泉はキラキラと煌めいていた。

 海斗はそこで静音を下ろした。

「ここで沐浴をして、婚礼の衣装に着替えて神前で婚姻の儀式をする。静音は右側の部屋に入って準備をしてきて、水花が待ってると思う」

 海斗が指示したのは、泉に沿って続く回廊の奥にある豪華な絵が施され、金色の持ちてがつけられた戸のある部屋だった。

「うん。沐浴は一緒にするの?」

「そうだよ。僕も着替えてくるから静音も沐浴用の着物に着替えてきて。ここで待ってるから」

 静音は、見知らぬ場所で、海斗と離れるのが不安だったのだろう。やっとほっとした顔をして部屋に入っていった。

 もっと時間に余裕があったら、ちゃんとシュミレーションもして、静音を不安な気持ちにさせなくて済んだのにと、何の説明も出来なかったことを申し訳なく思った。

イザナギに迎えられて良かった!

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