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郷国の護り人  作者: 水花光里
13/23

憑依と幻覚

敵をやっつけろー! 

 

 いつの間にか四方が隔離された空間になっていた。

 突然別空間になったことに気が付いた男が振り返る。

 海斗は男を見据えて立っていた。

「お前は、奴の子孫か?」

 男は海斗に気が付き、いぶかしげににらみつける。

「奴とは誰のことだ?」

「フン、何も知らないようだな。二百年ほど前に、お前の先祖を殺してやった」

「お前が殺されたの間違いだろ?」

 男は悔しそうに拳を握って突き出し、威嚇してくる。

「あの時はやられてしまったが、今度はそうはいかないぞ。今度こそ、お前も、この国ものっとってやる」

 海斗は余裕の表情であざ笑う。

「まんまと取り囲まれて何言ってるんだ?」

「ふん、このくらいで私をやれると思っているのか? むしろ、自らやられに出てきたとは、愚かな奴だ」

「そっちこそ、僕のテリトリーの中に入り込んでくるなんて間抜けなんじゃないか? あ、もしかして、僕の祖先にやられた、ただの幽霊か?」

 男は海斗の言葉に顔を引きつらせて、マウントを取ってやるとでも言わんばかりに偉そうに言う。

「ふ、何も知らないのだな。私は不死身なのだ。私を殺せるものなどいない」

「不死身? 跡形も残らないほど焼き尽くされたはずだ。幽霊でないなら、偽物だろ」

 偽物の言葉に不快感を剥き出しにして言う。

「あの時は、飛び散った私の腕が残ったのだよ。奴は私の本体を燃やし尽くして満足して見落としたのだ」

 海斗が驚いて脅威するとでも思ったのだろうか、得意そうに言うが、そんなことをばらしていいのか? この男頭が悪いのだろうか?

「腕だけでよみがえったというのか…。幽霊でなくても化け物には違いないようだ」

 淡々とした海斗の様子に、男は期待が外れたのか、大きな声で喚く。

「私は選ばれた人間なのだ。お前たちの様に平凡な人間とは違う」

 男を無視して、これ以上無駄だというように颪が海斗にきく。

「海斗様、剣いる?」

「体はお客様のものだ。傷つけるわけにいかないだろう。何とかやり過ごすしかないが…。操っているようでもないとすると、憑依か?」

 うかつに手を出してお客様に怪我をさせるわけにいかない。お客様の体と奴を切り離さなければ手が出せない。

「何故レストランにいた客に憑依できたのか…」

 この前の事件で、警察からおかしなことがあったと、聞いていたが、あれだと思いいたった。

「! そうか携帯だ! 例の酔っぱらいも、携帯で通話していた。あの男の携帯を取り上げて通話を切れば憑依は解けるかもしれない」

「よし、捕まえればいい?」

 颪が、簡単だというように言うと、颪の髪がするすると伸びる。しかし、颪の髪は時雨に絡みついた。

「ちょっと、颪何するのよ!」

 いきなり見方から攻撃を受けて時雨が驚く。

「あ、あれ?」

 颪には幻覚で、時雨があの男に見えていたのだ。

 時雨は呆れて自分の出番だというように言う。

「私に任せなさい」

 時雨が氷の戒めを使うと、今度はハリが捕まっている。

「時雨、やめろ、苦しい!」

「え、ハリ? そんな…」

 時雨が混乱気味に戒めを外す。

 精霊たちは混乱する。誰が敵なのか分からなくなってしまった。

 うかつに手を出せば味方を傷つけてしまうのだ。

「それなら三人一緒にやりましょう。何もしないのが敵よ」

 時雨の合図に皆で一斉に仕掛ける。今度は捕まえたかに見えたが、彼らが捕まえたのは海斗になっていた苦しそうにもがいている。

「海斗様!」

 三人慌てて手を引くと、やっぱり海斗ではなくあの男だった。

「あ、間違ってなかった!」

 颪が悔しそうに言う。

「ハハハ、間抜けどもめ、仲間同士で殺しあうがいい」

 隔離された空間に何人もの男が同時に言う。

 これは幻覚を見せているに違いないが、どれが本物かわからない。

 急に男の姿が、ハリや、時雨、颪、海斗に入れ替わる。

 これでは味方同士で、足の引っ張り合いになってしまう。

 人数が多い方が不利かもしれない。

 それなら、一対一で戦ってやろうじゃないか!

「お前たち、ひとまず外に出ていろ。奴は幻覚を見せる」

「でも、海斗様の手を煩わすなんて…」

「大丈夫だ、憑依しているとはいっても、所詮は人の体、思うようには動かせないはずだ。僕に考えがある」

「分かりました。では外で待機しています」

 精霊たちが出ていくと、今度は、海斗めがけて殴りかかってくる。

 とりあえず避けておく。

 いくら幻覚でも、当たればそれなりの衝撃は食らうはずだ。いや、食らったように感じさせられる。そんな力を持った奴だ。

 しかし直接触れれば偽物かどうかはわかる。隙を作って奴がそばに来るようにしなければならない。

 とりあえず、海斗は目を閉じる。幻覚は見なければ意味がない。

 どんなに殴られる幻覚も、見なければ何も感じない。

 幻覚など所詮そんなものだ。

 男の気配だけに耳を澄ませて感じ取る。

 思った通り、本体は酒に酔った普通の人間だ。足取りも怪しくどたばたと音を立てて歩く。

 海斗が近寄れば、もたもたと逃げる。素早く動くことも出来ないらしい。

 直ぐに場所がわかってしまった。

 海斗はすっと、側に行き男の腕をねじり上げて、ポケットを探る。携帯は胸の内ポケットに入っていた。

 取り出すと思った通り通話中になっていて、明るい日差しの入る部屋に、椅子に座った陰険な顔の男が映っていた。

「今日はここまでだ。人の体を使わないで、自分の体でこい」

 海斗は通話を切った。

 途端に男は力を抜いて座り込んだ。海斗は手を放してハリを呼ぶ。

 いつの間にかしきりはなくなり、ホテルの廊下になっており、人々が不思議そうに見ていく。

 ハリが何事もなかったように話しかけた。

「お客様いかがなさいましたか?」

 それを後目に海斗は、さっき降りてきた壁に向かって命じた。

「開けろ」

 海斗の言葉に何もなかった壁に、すっとエレベーターの扉が現れ開いた。

 海斗が中に入ると、閉じた扉は再び壁の状態に戻った。

…私も、お粗末すぎると思います。一体本当の目的は何なのか?

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