06 据え膳
ふふふ、異世界召喚者随一の引きこもり野郎、
このイシン サイリを侮るなかれ。
療養生活、それすなわち、引きこもり。
しっかと対応しちゃったのですよ。
つまりは、自室から一歩も出ないままで、"サイリウム"放出量も自己回復、と言うか、平常通りになったわけで。
要するにモルガナさんから、『残念ながら元通りのサイリさんに戻っちゃったよ』、とのお墨付きをいただいちゃったわけで。
例によって、にやりと笑って去って行きましたよ、あの"導き手"は。
もしかして、そこまで計算しての"導き"だったのかな。
お顔は全く認識出来ないのに、にやりしてるのは分かるってのがシャクに触りますよ。
まあ、そんなことは置いといて、今は解放された生活を存分に味わうのです。
……
『サイリパパ、お散歩行こっ!』
よっしゃ、ナルン。
酸欠でブっ倒れるまで野山を駆け回ろうぜっ。
「……」
あー、ごめんなさい、プリナさん。
そんなににらまないでくださいよぅ。
ちゃんといつも通りののんびりお散歩してきますって。
「今度心配させるようなことをしたら、生涯オヤツ抜きですからね」
本当すみません、それだけは勘弁してください。
えーと、それでは、行ってきまーす。
……
久しぶりのお散歩、めっちゃ気分爽快ですね。
ナルンは、ちょっと遠慮がちに駆け回ってる感じ、かな。
リハビリしてるのは僕なんだから、ナルンは全力でお散歩を楽しんでね。
『サイリパパ、お散歩楽しい?』
うん、とっても楽しいよ、ナルン。
いつもの小川に着いたら、お水飲もうね。
『じゃあ、競争!』
うひゃあ、全力ナルン、早すぎるって。
……
楽しいお散歩から戻ってきたら、美味しいお昼ごはんが待ってるわけで。
今日はお庭でサンドイッチ日和、だそうです。
いつもありがとうございます、プリナさん。
では、いただきます。
うめぇ。
プリナさんから、あーんしてもらってるナルンも、すっごく幸せそうですね。
『からあげサンドイッチ、おいしいっ』
良かったね、ナルン。
「……あーん、します?」
……えーと、えーと、
願っても無いお申し出、と申し上げたいのは山々なのですが、
今の状況でこれ以上プリナさんに甘えちゃうのは、僕のなけなしのプライドが許さない。
ここは断腸の思いでお断りせねば……
「はい、あーん」
……うほっ。
目の前には、めっちゃ恥ずかしそうにあーんしてくれているプリナさん……
良い子のナルンは、ちゃんとあさっての方向を向いてくれちゃってるわけで……
幸い辺りに人影は無し。
たぶんこれは、神さまから僕へのお詫びにしてご褒美、
つまりは、ありがとう、けんちゃん。
異世界どころか人生初のらぶらぶイベント。
それが"あーん"
据え膳食わぬは引きこもりの恥。
それではっ、
サイリ、いきまーすっ。
ぷるぷるぷるぷる
うひゃんっ、
なんだよ『コニタン』、空気読めよっ。
このタイミングで呼び出しとは、
おじゃま虫にも程があろうってもんじゃね。
もしもし、僕、サイリ。
おかけになった連絡先は現在お取り込み中なんですけど……