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04 けんちゃん


 僕の仕事は、けんちゃんこと『鏡の賢者』としてこの世界が平常通りに稼働しているかを監視すること。


 いえ、本当は義務では無いのでやらなくても良いのですが、バグを放置しておくと結局後でとんでもない苦労をすることになりますので。


 で、この世界で暮らしている人の中でも特に影響力の大きな人たちには、状態を把握出来るようマーカーを付けてトラブルに巻き込まれていないかをチェックしているのです。


 そのうちのひとり、召喚者のサイリさんに、精神状態の深刻な異常の発生を告げる緊急警告が。


 どうしても優先すべき急ぎの用事を片付ける必要があったので少々遅れてしまいましたが、


 サイリさんのお宅に来てみると、予想以上に深刻な事態でした。



 ……



 つまり今のサイリさんは、言われた通りには動くけど自分からは何もしない、人形みたいな状態なのですね。


「はい、今朝から突然こうなってしまって、日中様子を観察してみましたが原因も分からず、今はとりあえず自室のハンモックで眠らせております」


 それが正しい処置だと思います、プリナさん。




「"サイリウム"が全く放出されていない状態」

「あれは正常なサイリさんでは無い」


 僕もそう思います、モルガナさん。




『けんちゃん、サイリパパ、治る?』


 とても難しいです、ナルンさん。



 どうやらサイリさんは、固有スキルで"自身の自我を封印"してしまったようです。


 自身に精神操作系の付与をすることの危険性については良くご存知でしたから、よほどの決意を持って、だったのでしょう。


 以前から人とのコミュニケーションについてお悩みのようでしたので、一大決心して自身への付与で解決しようとしたのでしょうが、残念ながら失敗してしまったようです。




「私たち、なにも出来ないの?」


 ……難しいのです、スーミャさん。



 サイリさんの固有スキルは、ステータスに新しい情報を無理やり上書きするようなものなのです。


 今は"自身の自我を封印"といった感じの付与が最新の上書きだと思われます。


 上書きした付与は、最新のものなら簡単に消すことが出来ます。


 ただし、そのステータスに更に新しい情報が書き込まれると、古い方の書き込みを消すことが出来なくなるのです。


 つまり、対応を誤れば、以前のサイリさんの個性は消えてしまって、"自身の自我を封印"された今のサイリさんのままになってしまうという、取り返しのつかない状況になる可能性も……




「けんさんなら、治し方、知ってるよね」


 ……いくつか方法はあるよ、フィナさん。


 ただし、どれを選んでも、成功率も危険性も同じくらい、だと思う。




「私のヴァンパイアの能力で……」


 それはおすすめしません、イリーシャさん。



 ヴァンパイアの種族固有能力『吸血』、ですよね。


 人族より上位種族のヴァンパイアが『吸血』の支配能力で命令すれば、固有スキルを上書きさせることなくサイリさん自身に付与を消去させることが出来るかもしれません。


 ただ、タリシュネイアのヴァンパイアにとって『吸血』がどれほど重大な行為なのかは、ここにいるタリシュネイア出身のおふたりなら、よく理解しているでしょう。




『どうすれば……』


 方法は、あります、フィグミさん。



 みんなで協力する道。


 ナルンさんの"固有スキルジャミング"で、今のサイリさんの固有スキルの効果を弱めて、


 モルガナさんの"導き手"で、サイリさんの意識の奥まで分析してから、


 フィナさんの"通訳"で、サイリさんの封印された自我に直接語りかけて、付与を消去するよう説得する。


 もちろん説得するのは皆さん全員で、です。


 皆さんの所有している魔導具『コニタン』の同時会話機能なら、それが可能のはずです。




 サイリさんの固有スキルは、全力を出せば世界中に影響を及ぼせるほどの強力な能力です。


 望めば、サイリさん自身が住み良い世界に、いくらでも作り変えられるほどの。


 でも、サイリさんはそれをせずに、自分自身を無理やり変えるやり方を選んでしまった……



 先ほども言ったように、皆さんでサイリさんの封印された意識を説得するというやり方は、成功の確実な保証もありませんし、危険も伴うものです。


 いえ本当は、実際に行われた事例が無いので、全てが未知数、なのです。




 どうしますか、皆さん。



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