21 競争
なんだか良い感じに落ち着きました。
予定通り、日中はゾディ・ハラショー、夜間はフィグミ・ハラショーという、時間帯での切り替えによるボディ共用に決定。
アリシエラママとけんちゃんパパからのお許しを得て、
『ゾディアック』がメンテナンスの時は自由行動が出来るようになったゾディ。
今のゾディは、ヘッドドレス型の魔導装具。
お呼ばれされたら僕がアリシエラさんの工房まで迎えに行って、
我が家で待機している『ハラショー』の、
フィグミさん用ヘッドドレス型コクピットを外して、
「合体!『ゾディ・ハラショー』!」
『ゾディを装着するだけで良い、です』
『こういう場面で大きく叫びたくなるのは、男の子のサガ、と再度理解』
頼りになる新しい友人も増えて、ますます良い感じの、我がサイリ家なのです。
なのですが、『ハラショー』は純粋な非戦闘型メイドボディ。
そして、ゾディは純粋な戦闘型知性体。
何事も起こらぬはずも無く……
『ゾディ、お散歩苦手なの?』
『いいえ違うのです、ナルン』
『ゾディがお散歩が苦手なのでは無く、ハラショーが苦手なのです』
『『ゾディアック』システムのコアとして、そこだけは譲れないのです』
『でも、サイリパパと同じくらい、運動が苦手だよね』
『マスターサイリ、ぜひナルンの誤解を解いていただきたいっ』
えーと、ナルン。
ゾディ・ハラショーは運動が苦手、という比較対象に、僕を使っちゃダメだよ。
『わかんなーい』
あー、ナルンが行っちゃいましたよ。
『酷いです、マスターサイリ……』
うん、とりあえず、いつもの小川まで競争ね。
『ずるいですっ、せめてメイド服以外の装束をっ』
だって、メイド服姿のゾディ・ハラショーは、めっちゃ素敵なお姉さんなんですよ。
でも不思議ですよね。
ゾディ・ハラショーとフィグミ・ハラショーって、全く同じボディなのに、印象がまるで違うのですよ。
なんと言いますか、
ゾディ・ハラショーは、
着なれないメイド服に恥じらっている体育会系の女子って感じで、
フィグミ・ハラショーは、
着なれないメイド服を楽しみながら着こなそうとしている御令嬢、って感じ。
つまりは、一粒で二度美味しいって言う、あれですね。
すっごく残念なのは、ふたりのツーショットとか仲良しペアルック姿とかは、
この世界の神さまが気まぐれを起こしてくれないと絶対に見られないってこと。
あとでけんちゃんにおねだりしてみようかな……
『ふたりとも、おそーい』
ごめんね、ナルン。
運動音痴なりにがんばってるから、許してね。
『ゾディは断じて運動音痴では無いのです!』
はいはい、ゾディも休憩しようね。
ナルンと僕は、いつもの美味しいお水。
ゾディは、アメ玉サイズに加工された魔石を、アメ玉みたいにぺろぺろと。
『ハラショー』ボディの稼働に必要なのは魔素。
以前はフィグミさんがおやすみしている日中に呼吸で摂取していたのですが、
終日フル稼働する日は、魔素のかたまりである魔石での補充に。
それにしても、なんだか妙に美味しそうなんだよな、あの魔石アメ。
『実は、魔石はそれぞれ味が異なるのです』
へえ、初耳。
って、そういえば味比べしてるのは、ゾディくらいだよね。
『強い魔物から採れた魔石ほど、濃厚で力強い味が』
『そして、陸海空という産地の違いによっても、味わいに複雑な変化が』
なんだかどんどこ新情報が。
そういう興味深い情報をまとめると、読み応えのある本になりそうだよね。
『なるほど、参考になります、マスターサイリ』
がんばってね、ゾディ。
うん、ゾディにも楽しそうな趣味が出来てなにより。
そして無口だったゾディがどんどんおしゃべりになっていく様子に、喜びと涙を禁じ得ないのです……
『じゃあ、おうちまで競争!』
『一番遅かった人は、罰ゲーム』
『よーいドンッ』
ちょっとナルン、それって実質2択でしょ。
『必ずやマスターサイリに勝利して、あんなことやこんなことをおねだりしてみせる!』
ちょっとゾディ、これってトロフィー制じゃなくて罰ゲーム系だからっ。
あー、行っちゃったよ。
まあ、可愛い家族のためなら、あえて罰を受けるのも、家長の務め。
なんて言うと思うなよっ。
このイシン サイリ、相手が誰であろうとも、容赦も躊躇もナッシング。
なぜならば、自身に付与を使えば、はいこの通り、
"アスリート"だってお手のものってわけなのさ。
では、レッツパーリィ!




