表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな恋のうた  作者: ちい。
2/37

第2話 初雪(早川×真田)

 空を見上げた。午後六時過ぎ、十二月半ばの冬の空は既に陽も落ちてすっかり夜になっている。吐く息が白い。特に今週は冷え込むせいか、時折、吹いてくる風にぶるりと震えてしまう。

 

真田(さなだ)っ!!」

 

 名前を呼ばれ振り返ると、同じく部活帰りの女子がこちらに手を振っていた。

 

 早川(はやかわ) 千佳(ちか)

 

 同学年で女子バレーボール部。俺は男子バレーボール部なので、帰る時間が重なり、家の方向も同じなので、帰り道が時々一緒になる。また、早坂とは小学校の頃、ジュニアバレーボールクラブでも同じチームだった。そういう事もあり、気心の知れた仲ではある。

 

「今日の練習、ばりきつかったっちゃけど」

 

「女バレ、気合いはいっとたもんね、見よってわかった」

 

「そう一月の新人戦に向けて先生、燃えとるとやん」

 

「早川、期待されとるしね」

 

「そんなんじゃなかよ。てか、真田も最近、ばり声出して頑張りよるやん」

 

「……そりゃ、三年引退したし、うちら二年が引っ張っていかんとだめやろ?」

 

「あんたさ、普段はへらへらしたお調子者ばってん、時々、変に熱くなるよね……やっぱ、真田が部長になって正解やん」

 

「はぁ……なんねそれ?褒められとるんか貶されとるか……」

 

 俺の言葉にあははっと笑う早川がふと足を止め空を見上げた。

 

「真田っ、真田っ!!雪っ、雪が降ってきよるっ!!」

 

 早川の言う通り、ふわりふわりと雪が舞い降りてくる。その雪に手を伸ばしている早川。バレーの時に邪魔だからと小学生の頃から変わらないショートカット。ぐるりと巻いたマフラーから出ている頬が薄らと赤く染まり、吐いた白い息が宙へと消えていく。

 

 俺はそんな早川に見蕩れていた。

 

 早川にとって俺はバレー仲間の一人なんだろう。仲の良い友達。それで良いこの関係を崩したくない。

 

「初雪ぃーっ!!積もるやか?積もると良かのにねっ!!」

 

 目を細め、にかっと白い歯を見せて笑う早川。

 

 こいつ、可愛いかなぁ……てか、俺、早川の事、ばり好いとる……

 

「えっ?」

 

 早川が驚いた様な表情で俺を見た。やばいっ、思っていた事が口に出ていたと気付いた。顔が熱くなってくるのが分かる。

 

「ん、何?何か言わんやった?よく聞こえんやったちゃけど?」

 

 俺は早川のその言葉にほっと胸を撫で下ろした。聞こえなくて良かった。恥ずかしさから挙動不審になっている俺を不思議そうに見ている早川。

 

「何もなかよ……風邪ひくといかんけん、早う帰ろ?」

 

「……そうやね。本当に明日、起きたら積もっとらんやか」

 

 俺と早川は分かれ道の三叉路まで取り留めのない会話をしながら歩いた。俺にはその帰り道がとても長く感じた。心の動揺を悟られない様に必死だったから。

 

「それじゃ、また明日」

 

 三叉路まで来ると、早川が胸の前で小さく手を振った。俺もそれに答える様に、またねと手を上げると自分の家の方へと歩き出した。そして、角を曲がろうとした時である。

 

「真田っ!!」

 

 早川に呼び止められた。振り返ると、早川がさっき分かれた所に立っている。少しも動いていなかった。

 

「真田っ、ありがとっ!!あたしも好いとぉよっ!!」

 

 照れた様な笑顔でそう言うと、くるりと背を向け走り出した。俺は早川の姿が見えなくなるまで動けなかった。

 

 聞かれていたんだ……

 

 全身が熱い。

 

 俺は体の火照りを冷ますかの様に、ゆっくりと歩きながら帰った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ