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58 島外基地

 床が光り、視界が白くなる。


 誰かに突き飛ばされたが、転送装置はすでに作動済みだ。

 光が消え、視界が戻るとさっきの所とは違う天井が見えた。

 わたしは仰向けに倒れていて、ユリウスが上に覆い被さっている。

 いわゆる床ドンというやつである。色んな意味でドキドキしてしまう。


 ユリウスが顔を上げた。

 ここが島外基地であるとわかったのだろう。剣が刺さった起動キーの方に手をのばしたが、その前に黒い影が飛んできてユリウスを吹っ飛ばした。今のは……?


 わたしは起き上がった。


 蹴られた脇腹が痛いが、それ以外は無傷だ。やれやれ。


「――おお」


 見ると、シュルツとユリウスが高度な取っ組み合いをしていた。


 シュルツは霧化全開、ユリウスは氷結防御全開で、ダイアモンドダストが発生するそばから黒い霧に呑み込まれている。大金を投じたSFXのようだ。ミハイ君も、剣を構えたまま固まっている。


 わたしは、シュルツに目を向けた。


 霧化した姿を見るのは二度目だけど、黒い霧を纏い、真っ赤な目をした姿はいつものシュルツとは別人のようだ。何と言うか、すごく禍々しい。シュルツは、狂戦士化のリスクがあるみたいなことを言ってたっけ。咆吼とか上げ始めたら、ぶん殴ってでも止めてあげよう。


 靴音がし、見ると仮面の男がスロープをゆっくり上がってくるところだった。

 マントなしの黒ずくめの服装だが、長い足とサラサラの金髪で誰だかわかる。

 ――水戸のご老公気取りかよ。走ってこいや。

 と思わないでもなかったが、口に出すのは我慢する。仕返しされるし。


 シュルツと異能バトルを繰り広げていたユリウスが、アーベルに気づいて顔を向ける。一瞬の隙をついて、シュルツがユリウスの腕をねじ上げ、床に押さえつけた。


 仮面姿のアーベルが足を止めた。


 腰の後ろで手を組むと、軽く顎を上げる。アノニ○ス仮面の顔が怖い!


 アーベルは魔法を使ったようだ。


 というのも、急に胸が重苦しい感じになったからだ。

 砦の裏庭でやられたのと似ているが、それよりはマイルドな感じだ。

 小さな映画館で、重低音のBGMをかけられたような、と言ったらいいのだろうか。目に見えない、耳にも聞こえない、何かの波長がアーベルから発せられていて、それが心にバシバシ当たってくる。人為的に恐怖心を増幅されてる感じだ。


 これ、もしかしなくても精神攻撃系の魔法じゃない?

 

 前回は、命が危なかったり、脅迫されたりで気づく余裕がなかった。

 味方の士気を上げるとか、敵を眠らせるとか、ゲームでは珍しくない魔法だけど、この世界でメンタル系魔法が使えるのは流星以上と父が言っていた。

 てことは、最低でもレベル50以上ということか。

 態度がでかいわけである。


 アーベルが仮面を外した。


 精神魔法はかけっぱのようで、重圧感はそのままだ。


「初めまして、ユリウス君。ダーファスへようこそ」


 まずはフレンドリーに挨拶する。


「君以外に、二名の魔術師を捕らえている。一名は逃したけど、まあ時間の問題だと思うよ。それを踏まえて、君に提案があるんだけど、話し合いの前に魔素を解放してくれないかな?」


 そう言うと、いつわりのない笑顔を浮かべた。

 キースさんにパワハラしてた時も、こんな顔してたっけ。この人は、他人を虐げているときが一番生き生きしている。


 シュルツに押さえ込まれたユリウスは、歯を食いしばって見上げている。魔素が尽きたようでキラキラがなくなっている。いや、反撃のチャンスを狙って節約しているのか。シュルツの目は赤色のままで、体からは黒い霧が立ち昇っていた。


 四人の魔術師に囲まれても、ユリウスは反抗的な態度を崩さない。


 だが残念、アーベルが大好物のやつである。


「――話し合いに応じる気はない。そう取っていいのかな?」


 思った通り、アーベルはご機嫌な様子だ。

 歩いていくと、ユリウスの目の前に片膝をついた。

 くやしがる顔を間近で鑑賞しようというのだろう。さすが暗黒王子。


「それなら、君の飼い犬たちと話し合うとしよう。同情するよ。心ない主のせいで、遭わなくてもいい目に遭わされる彼らに」

「――お前は」

「ああ、口のきき方に気をつけた方がいい」

「何だと?」

「地面に這いつくばってる男から、お前などと呼ばれて、愉快に感じる人間がいるとは思えない。そうだろう、ユリウス君?」

「……」

「俺はアーベル。ゲオルグ・シェローレンの義理の息子だ」

「……」

「お願いします、だろ?」


 状況もそうだが、トークも完全にアーベルペースである。

 ユリウスは、こんな無礼を受けたことがないのだろう。唖然とした顔をしたあと、激しくもがき出した。でも、シュルツがそんなこと許すはずもない。しばらく暴れていたユリウスだが、勝ち目はないとわかったようで大人しくなる。黙りこむこと数秒。息を吐くと、アーベルを見上げた。


「――アーベル卿にお願いする。部下に手は出さないでくれ」


 ユリウスの体から魔素が解放された。やっぱり反撃を狙って隠し持っていたようだ。でも、離れていく魔素の量はごく少ない。よく強がっていられたな。


「受け入れよう。シュルツ、離してやれ」


 アーベルが鷹揚にうなずいた。

 向こうが折れたので、ちょっとつまんなそうな顔をしている。

 メンタル魔法を解除したようで、緊張感が消えた。

 これ、みんなも感じてたのかな?


「提案というのは?」


 立ち上がったユリウスが、アーベルを睨みつつ尋ねた。


「手を引くと約束するなら、君を捕虜にはとらない。お祖母様が王都に着いたと確認でき次第、捕らえている魔術師二名を解放する」


 せっかく捕らえた敵大将を、条件付きで逃すという。

 ユリウスが約束を守るという確信が、アーベルにはあるようだ。

 それとたぶん、恩を売ろうとしている。何と言ったって、ユリウスは敵方貴族の跡継ぎ候補だ。仲良くする必要はないけど、恨みを買うのもよろしくない。貸しにするから、手を引けよというところか。しかし。


「……せっかくの申し出だが、配慮にはおよばない」

「自ら捕虜に下ると?」

「その代わり、今捕らえている者たちを解放して欲しい」

「君が捕虜に下るというなら、他には用はない。勝手にしてくれ」

「わかった」

「最後の一名の居場所に心当たりは? ゴンドラの辺りにいた奴だ」

「わからない。だが、作戦は夜明けまでと伝えている」

「夜明けか……」


 アーベルは、思案するように腕を組んだ。

 集まっている人々の顔を、端から順に見て行く。

 ばあちゃんにセラさん、シュルツ、ミハイ君、そしてわたしだ。


「ミハイ、お祖母様の警護をしろ」


 視線を戻してアーベルが言った。

 意外な人選である。ミハイ君もびっくりしている。


「――俺?」

「何だ、不満か?」

「不満てか――いや、わかった。やる」

「よし。経路は、お祖母様がご存じだ」

「何で俺?」

「逃げてるひとりは、お前の手には負えない」

「あっそ……どっちが逃がしたんだ?」

「俺がヘマをするとでも?」


 にっこり笑顔でアーベルが言う。

 いや、ゲオルグさんの策略にばっちり嵌められてましたが?

 と口をはさみたかったが、空気を読んで黙っていた。


 前にミハイ君、後ろにセラさんを連れて、ワーリャばあちゃんがスロープの方に歩いて行く。その横顔に向かい、アーベルが声をかけた。

 

「お祖母様。あとでご説明くださいますね?」


 アーベルはゲオさんの養子だけど、お母さんはゲオさんのお姉さんだから、ワーリャばあちゃんとは祖母と孫の関係で間違いない。それにしては他人行儀な感じがするのは、ミハイ君とゲオさんが慣れ慣れしすぎるせいだろうか。少なくとも、アーベルはおばあちゃん子ではないようだ。


「わしゃ、言われた通りにしただけじゃ」

「こちらの落ち度であると?」

「手抜かりはなかった。ゲオには、そう言うとええ」

「……義父上ですか? 伯父上でなく?」

「ジルは約束を守る子だ。報告を楽しみにしておるよ」


 片手を振ると、ワーリャばあちゃんはさっさと行ってしまう。

 アーベルは眉をひそめている。

 今のばあちゃんの発言について、考えを巡らしているようだ。


 セラさんが走ってきて、わたしの手を両手でにぎりしめた。


「イチカ様! 本当に本当に、ありがとうございました!」


 目に涙を溜めて言う。わたしは首を横に振った。

 

「セラさんが、がんばってくれたおかげだよ。最初、噛んじゃってごめんね」


 実際、逃げてと言ったわたしの指示に、セラさんが基地へ走るというファインプレーがなければ、どうなっていたかわからない。わたしが五体満足で立っていられるのも、セラさんのおかげと言っても過言ではないのだ。


 スロープを下りながら、セラさんがわたしに手を振る。


 ほっこりしながら手を振り返していると、後ろから声がした。

 

「――その小僧はいったい何者だ?」


 声の主は、ユリウスのようだ。

 ミハイ君は行っちゃったし、誰のことだ? と思うが、ユリウスの視線はこっちに向いている。わたしか。


「あれが何か?」


「氷に閉じ込めたにもかかわらず、平然と抜けてきた。その前には火球を剣で打って飛ばしてきた。火球をだぞ? それともあの剣にしかけがあるのか?」


 アーベルがこっちを見る。あれ? 今、舌打ちした?


「あれは、大道芸人を目指している者だ」

「シェローレンの魔術師ではないのか?」

「うちで雇っている者ではある。だが、俺は魔術師とは思っていない」

「……魔術師ではないのか?」

「そうだ。大道芸人だ」

「……そうなのか?」


 わたしに向かってユリウスが確認してくる。やめて! 傷口を広げないで!


「……あの……一応、魔術師をしている者です」

「ああ言っているが?」

「気の迷いだろう。あれのことは気にしない方がいい」

「――なるほど。隠すほどの者ということか」

「いや? 考えるだけ時間の無駄だからだ」

「そういうことにしておこう」


 ユリウスは、警戒する顔でこっちを見ている。


 シュルツに負かされたんだから、敵視するならシュルツじゃないの? それか、低レベルのわたしに出し抜かれたのが屈辱だったんだろうか。プライド高いのは自由だけど、過大評価するのはやめて欲しい。そしてアーベルのせいで、ものすごい誤解をされている。闇討ちされたらどうしてくれる。


 そういや、シュルツは霧化全開にして大丈夫だったんだろうか。


 シュルツを見ると、何やら暗い表情で立っていた。

 

 さっきから一言もしゃべってないし、具合が悪いのかもしれない。

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