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56 白の衝突

 ――回想。


「サラウースの、次期当代候補と言われている」


「歳は二十一。銀髪に黄土色の目、顔は普通だ」


 ――回想終了。


 アーベルから見れば、そりゃ大抵のイケメンは普通だろう。


 間違いない。ユリウス・サラウースだ。


 わたしは白目を剥いた。ちょっと待って! 荷が重い!


 ひとりだったら、速攻で逃げていただろう。でも、後ろにはセラさんが、転送基地のなかでは、ばあちゃんがわたしが来るのを待っている。ユリウスを倒すか、出し抜くかして、どうにかして行かなくちゃいけない。でも、どうやって?


「……なんだ。子供じゃないか」


 怪訝な表情で、ユリウスが言った。


 近くにくるまで、ユリウスがユリウスであるとわからなかったように、向こうでも、こっちの姿がよく見えていなかったらしい。


「子供まで駆り出すとは、ゲオルグ・シェローレンも堕ちたものだな」


 見下したように言うと、視線を外した。


「ということは、あれも偽者か」


 離れたとこにいるセラさんを見る。セラさんは小柄だし、仮面&マント姿だから、ここから本物か偽者かを判別することはできないはずだ。


 少しでも本物の可能性があるなら、下手なことはしないだろう。


 普通ならそう考える。


 しかし、このイカレた兄ちゃんは走ってきた馬車を、乗客の確認もせずに二台もぶち壊している。本物が乗っているなら、それなりの魔術師がついていて、ばあちゃんを死なせることはない。という考えなのだとすれば、セラさんにも躊躇なく攻撃するだろう。


 ユリウスが腕を上げ、手のひらをセラさんに向けると呪文を唱え始めた。


 目の前にわたしがいるのに、完全無視である。


 剣を抜くと、わたしはユリウスの胴体に斬りつけた。

 詠唱中だし、ヘボ認定されてるし、不意を突けたと思った。

 しかし、わたしの剣は硬いものにはじかれた。


 見ると、剣の当たった部分が氷に覆われていた。それが防具の役目を果たして、刃を止めたのだ。こっち見てなかったし、詠唱を切り替えている様子はなかったから、オートで防御する魔法のようだ。うらやましい!


 うらやんでいる場合じゃない。わたしは息を吸い込んだ。


「ワーリャ様! 逃げて!」


 セラさんに向かって叫んだ。今度は噛まずに言えた!


 氷魔法危なそうだし、安全なとこに逃げて欲しい。

 しかし、わたしの声を聞いたセラさんは、なぜか転送基地に向かって走り出した。なんで? と驚いたものの、考えてみれば逃げろと行って逃げたのでは、ワーリャばあちゃんぽくない。あれがセラさんでなく、本物のばあちゃんだったら、同じように危険を冒してでも基地を目指しただろう。


 それにしたって。


 セラさんは魔法が使えるわけでも、中身が人外生物なわけでもない。

 それなのに生身をさらして走るのは、ものすごい勇気のいることだと思う。

 わたしのレベルが低いのを知ってるし、ユリウス相手に手も足も出せてないのを見てるのだからなおさらだ。


 セラさんが基地に入るまで、絶対に邪魔はさせない。

 

 わたしは、再度ユリウスに斬りかかった。


 さすがに首から上は凍らないだろうと予想し、頭部を狙う。

 わたしの刃を、ユリウスは右腕を上げて防いだ。

 肘を中心点にして氷の丸盾が出現し、それが刃を止めてしまう。呪文を唱えていたから、こっちはオートではないようだ。


 でも、防御されるといっても、氷であって鋼鉄ではない。


 全力でやればヒビくらい入るだろうし、運が良ければ割れるかもしれない。


 回転斬りをやってみようかな。

 ゲームでよく見る、回し蹴りの剣技バージョンだ。

 遠心力がくわわるので、普通に斬るより威力が出るとか何とか。

 某ウィッ○ャーなんかは、回転してジャンプして袈裟斬りにするなんて器用なことをやっているが、現実でやるとなるとモーション長いし、相手に背中を見せるしでリスクをともなう。シュルツにしかけてみたこともあるが、成功したことは一度もない。背を向けた一瞬に移動されたり、どつかれたりするのだ。でも、この人がシュルツより弱ければ、回転斬りを叩き込める可能性がある。


 わたしはウィンドウを開くと、<剛腕2>をフレームに突っ込んだ。

 アイチャンは何も言わない。頭に呪文が浮かんできた。

 経験値が足りたようだ。やったぜ!


 詠唱しながら、剣を握り締めた。

 ステップを踏みながら一回転し、振りかぶって斬り落とす。

 シュルツなら簡単に避けるそれを、ユリウスは氷の盾で受けた。魔法に自信があるのか、それとも武術はあまり得意ではないようだ。


 氷の盾が、わたしの刃を食い止める。

 止められたが、でも、刃はざっくりめり込んでいる。

 わたしは剣を引き抜いた。

 氷の盾にヒビが入り、無数の破片になって砕け散る。

 ユリウスが、驚いた顔をして目を見張った。


 わたしは、剣を眼前に掲げた。

 騎士ごっこをしたいのではない。こっちにもヒビが入ってたら、回転斬りを封印しなくてはいけないからだ。魔法の盾をぶち割ったにもかかわらず、剣は刃こぼれひとつしていなかった。さすがは、結構お高い魔石の剣。ありがとうソニアさん。ありがとうシェローレンの財力。


 などと、浮かれていると。


 ユリウスが呪文を唱え、新しい氷の盾を出現させた。


 まあ、そうなるよね……。





 ユリウスは、次々と新しい氷の盾を出してくる。

 それを、わたしは片っ端からカチ割った。ふいをついて胴体や足も狙ってみるが、大振りしないと力が乗らないので、氷の防具を割ることはできない。見た感じこっちのが薄そうなんだけど、どうにかならないかな。


 息が上がってきたので、いったん離れた。


 ユリウスは、げんなりした顔で突っ立っている。わたしの小攻撃があちこち当たったせいで、氷の防具で全身バッキバキの状態である。うける。


 ちらっと確認すると、セラさんは姿はどこにもない。

 無事に基地のなかへ入ったようだ。よかった。

 わたしも入らなくちゃいけないけど、さて、どうしたもんか。


 盾は破壊できても、ユリウス本体にはかすり傷ひとつつけられない。


 わたしに力があれば、盾割った勢いで本体まで行けるんだけど、現状では盾を破壊するので精一杯だ。盾壊してから本体に当てようとすると、その間に、ユリウスが新しい盾を生成してしまう。破壊、生成、破壊、生成、のループである。


 体力はあるので辛くはないが、魔素はがんがん減っていく。

 ユリウスは流星クラスの魔術師だろうし、レベル上昇とともに魔素の最大所持量も上がると考えれば、こっちが断然不利だ。隙を見て基地に入りたいけど、その隙がつくれない。


「――お前は、いったい何がしたいんだ!」


 イライラしながら、ユリウスが叫んだ。


 怪人氷結男だったが、大声と同時に氷が霧散して人間に戻った。残念。


「なぜ魔法を使わない!」

「一応、剛腕使ってるんだけど……」

「俺を馬鹿にしているのか!」

「んなこと言われたって……」

「これがお前の実力ではあるまい!」


 わたしは首をかしげた。

 よくわからんが、低レベルの相手と戦ったことがなく、色々勘ぐったあげく、何か奥の手を隠してるのでは? と警戒している感じか。やるなら早くやれと言っているが、残念ながらそんなものはない。


「正直に答えたら、何かくれるの?」

「何だと?」

「流星の1だけど、本気出すと死なせちゃうから手加減してるんだよって言ったら納得するの? 見返りもなしに自分のことペラペラ話すわけないじゃん」


 ユリウスは口を開きかけ、何も言わずに歯を食いしばった。手加減してやってる発言が、事実か否かを考えている様子だ。言ってみるもんである。


 さて、これからどうしよう。


 周囲を見回したわたしは、燃え続けている地面に目をとめた。

 馬車からふっとび、壊れたカンテラから漏れた油がメラメラ燃えている。

 これがゲームのステージなら、あれ使って何かする流れなんだけど、わたしが使える炎系魔法のは<火球1>だけだ。火球を雪玉みたいに投げられたらいいんだけど、いくら竜肌のわたしでも炎をつかんで投げるなんてことは無理だろう。いや、待てよ。

 ふと思いついて、わたしは<火球2>をフレームに入れた。アイチャンは無言だ。


 わたしが詠唱を始めると、ユリウスの目の色が変わった。


 <火球2>の呪文を唱えながら、わたしはカンテラの方へ走る。

 カンテラのとこに辿りつくと、踵を支点に振り向いた。プラム大の火球を周囲にぽこぽこ発生させる。両足を開き、右手に持った剣を体の後ろに引くと、火球をボールに見立て、テニスのように剣を前へと振り抜いた。


 わたしが打ち出した火球は、ユリウスの頭をかすめてから、向こうの闇へと消えて行った。魔石の剣だしどうにかなるだろの精神だったが、本当にできてびっくりである。あとはコントロールだけだ。


 軌道を修正しながら、わたしは残りの火球をパンパン打った。

 火球に、氷の盾を破壊するほどの火力はない。でも、消火しようとした防御魔法との間で蒸気が上がり、ユリウスの視界を塞いだ。チャンスだ。


 わたしは風球で菱形をつくり、魔石の投剣を飛ばした。

 狙ったのは、がら空きになっている胴体だ。見えなければ氷の盾ではふせげないし、首から下のオート防御は盾より薄い。近距離の<ソーンショット>でなら、ダメージを与えることができる。


 蒸気が晴れた。


 ユリウスが立っており、胴体に撃ち込んだ投剣は、水晶のクラスターみたいなギザギザの氷にめり込んで止められていた。そんな形態があるなんて聞いてない!


 一歩下がろうとしたところ、ずりっと足が滑った。

 バランスをとろうとして、今度は前に倒れ込む。

 あわてて立ち上がろうとしたが、手も足も動かない。見ると、体のあちこちが真っ白に凍りついていた。え? いつの間に?


 ダイアモンドダストが漂ってきて、わたしの体に降ってくる。


 氷の魔法が触れるたび、パキパキと何かが凍る音がする。

 痛いとか、冷たいとかは感じない。それなのに、動かそうとしても指一本も動かせない。下は石畳の道路だけど、そこが煙が立つほどに凍りついている。氷の床の上に、わたしは縫い付けられていた。


 おかしいな。竜肌なのにちょっと寒いかも。

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