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19 日本からきました

 どこかの兵隊さんだろうか。

 全員、同じ型の制服を身につけ、腰に剣を下げている。

 がっつりキャンプではなく、小休止といった感じで、焚き火を囲んでお茶などを飲んでいた。二十名ほどがおり、女性剣士も何人かいる。


「こんにちわ! いいお天気ですね!」


 にこやかに挨拶したが、全員に緊張が走るのがわかった。

 逆にうさんくさかったかな? 

 でも、子供ひとりに大人げなくない?

 容姿も年齢も様々な兵隊さんのなかで、キチンとした感じのお兄さんがこっちにきたので、わたしは「にっこり」の擬音を頭上に発生させた。


「こんなところで何をしている?」


 冷ややかな感じで、お兄さんが聞いてきた。

 他の隊員さんたちとは制服の形が微妙に違う。偉そうだし、上官だろうか。

 歳は二十代半ばくらい。ダークブラウンの髪に黄色の目。清潔感漂う正統派イケメンで、軍服よりスーツと銀縁メガネの方が似合いそうだ。


 わたしは、かぶっていた鍋を両手で押し上げた。


「鍋の蓋を流してしまって、探しているんです」

「お前、ここがどこだかわかっているのか?」

「田舎者なんでわかりません」

「どこから来た?」

「えっと、……アイムフロムニホン」

「どこだ、そこは?」

「東の果ての島国です」


 上官さんは眉間にシワを寄せている。

 めっちゃ不審がられている。しかし、嘘ではないと判断したらしく、振り向くと他の隊員さんに声をかけた。


「鍋の蓋を探しているそうだ。誰か見なかったか?」


 隊員さんたちは、それぞれに首を横に振った。


「もう行け。それから、早く家に帰れ」

「この辺って何か危ないんですか?」

「知らないのか?」

「知りません。さっき着いたばかりなので」

「旅人か? 近くに仲間がいるのか?」

「いいえ。わたしひとりです」

「家出人か?」

「えっと――」


 否定しかけて、わたしは待てよと思う。

 この森は危ないようだし、何より当面の衣食住を確保したい。上官さんは悪い人ではないようだし、どうにかして隊にもぐりこめないだろうか。


「実はそうなんです。資金も尽きちゃって、あとはこの鍋ひとつがあるだけで……」

「そうか。それは大変だな」

「で、仕事を探しているんですが、雑用とか必要ないですか?」

「人手は常に不足している」

「じゃあ……」

「だが、素性の知れない者を入れるわけにはいかない」

「怪しい者じゃないですよ?」

「だめだ。川沿いに行けば街道に出る。早く行け」


 見たとこ国家公務員っぽいし、そりゃ変なの入れられないよね。

 働きたいとか言わずに、ひとりで怖いから保護してとかにすればよかった。


 反省しつつ、わたしはまた歩き出した。


 川は行く先で蛇行し、茂った木が両岸ギリギリまで生えている。川岸に歩くスペースがないので、先に進むには森のなかを突っ切るしかない。


 滝の上で見た蔦のモンスターを思い出し、わたしは足をとめた。

 川のなかを歩こうかなと考える。でも、ここらは流れが速そうだ。

 ずぶ濡れになるのは嫌だな。

 兵隊さんが近くにいるし、急いで通れば大丈夫だろう。

 腹を決めて森に入ろうとしたところ、頭上から声が降ってきた。


「いい鍋だ」


「ん?」


 視線を上げたが、鍋がかぶさって何も見えない。

 鍋を押し上げると、木の上に金髪の王子様が寝そべっているのが目に入った。

 人間に見えるが、何かのモンスターだろうか。


「アーベル様!」


 さっきの上官さんが、遠くから叫ぶ声が聞こえた。


 木の上から、金髪王子が飛び降りてくる。

 サラサラの金髪に青い目。男なのは間違いないが、美貌という言葉がぴったりくるような整った容姿をしている。まさに王子だ。さっきの上官さんとそう変わらない年齢に見えるが、様呼びされているところを見ると、上官さんの上官さんで、隊長さんなのかもしれない。

 

 アーベルと呼ばれた金髪王子が、値踏みするようにこっちを見ている。

 手をのばすと、わたしがかぶっている鍋を取り上げた。


「本当にいい鍋だ。俺に売る気はない?」

「父にもらったものなので、売る気はありません」

「そうか、残念だな」


 アーベルさんが、鍋を返してくれた。

 というか、元から欲しそうでもなかった。

 会話のきっかけに利用したか、それともわたしの顔をよく見たかったのか。

 おっと、真顔になると顔が怖くなる。

 わたしは心のなかで、感じよく、感じよくと自分に言い聞かせた。


「鍋の蓋を探しているんです。川に流されちゃって」

「それは災難だったね」

「見かけたら教えてもらえると助かります」

「留意しておくよ。ところで、俺たちも探し物をしているんだけど」

「そうなんですか?」

「うちの副長が帰ってこない。どこかで見なかったかな?」 

「副長……さん?」


 頭に浮かんだのは、先ほど、蔦のモンスターに追われていた男の人だ。

 マントをつけていたのでよく見えなかったが、そういえば同じようなデザインの制服を着ていたような気がする。あのドジッ子が副長?


「それって、黒髪に緑の目の男の人ですか?」


 背後で、さっきの上官さんの声がした。


「シュルツさんを見たのか?」

「はい。蔦のモンスターに追っかけられてました」

「何をやっているんだ。あの人は……」

「自力の帰還は困難そうだな。しかたない、迎えに行くか」

「わたしが行きます」

「いや、俺が行く。キース、お前は皆と待機していろ」

「承諾できません」

「お前の許可は求めてない」


 上官さんことキースさんの申し出を、アーベルさんは冷ややかに却下する。

 あれ? このふたり仲悪い?


「シュルツを見た場所まで案内してくれるかな?」

「あっ、はい。でも……」

「単独行動はひかえてくださいと、お願いしたはずです」

「と、おっしゃっていますが」

「ん? 俺には何も聞こえなかったけど?」


 キースさんの発言を、さくっと無視してアーベルさんが言う。

 発言だけでなく、視線さえも向けない。キースさんなど存在していないかのような見事な無視である。


 わたしは、キースさんの顔色をうかがった。

 眉間に皺を寄せ、怒りのせいで顔が紅潮している。ワンマン社長の嫌がらせに、ブチ切れ寸前のサラリーマンといった感じだ。これが父とヤスだったら、ヤスは確実に切れているだろう。キースさんは我慢できて、えらいなあ。

 

「行こうか」


 アーベルさんが歩き出す。

 すれ違う時、キースさんが聞こえるように舌打ちをしたが、アーベルさんはそれもスルーした。どっちも大人げないなあと思いながら、わたしはアーベルさんの背中を追った。





 さっき歩いてきた道を、アーベルさんと並んで歩く。

 色々聞きたいことはあるが、


「キースさんとケンカでもしてんの?」


「部下の前で上司がケンカとか、よくないよ?」


 などとは気軽に言えない。

 いや、そんなことより、この隊にもぐりこんで衣食住を確保しよう作戦を成功させるために、わたしが労働意欲あふれる若人だと隊長さんにアピールしなくては。


 などと考えている内に、道の先に滝が見えてきた。


 高い崖を目にして、わたしはしまったと思う。


 さっきは鍋の翼で降りてきたけど、これ、どうやって登ればいいんだろう。


「この上?」  

「あっ、はい」

「君、魔術師だよね? レベルいくつ?」

「うえっ」

「いくつ?」


 子供に年齢を尋ねるような調子で、アーベルさんがにっこりしている。

 何だ、この展開。

 どうしてこの人、わたしが魔術師だってわかったんだろう。

 魔素か? 溜めてる魔素が見えてるのか? 

 あわてて体をチェックするが、キラキラしたところはない。手の甲のアイコンが見えてるはずはないし、わけがわからなかった。


「あの……何でわたしが魔術師だってわかったんですか?」

「その鍋、魔具だよ。それも純度の高い高級品」

「マジですか?」

「でも蓋がないと意味ないから、見つけないとね」

「見つかりますかね?」

「それは君の運次第かな」


 わたしは、かぶっている鍋を撫でた。

 こいつ高級品だったのか。おいくら万円するんだろう。


「で、レベルはいくつ?」

「……5です」

「そのレベルで家出とか、勇気あるなあ」

「いやあ、それほどでも」

「魔法を使わずに、自力で降りたの?」


 わたしは、滝の両側にそびえる崖を見上げた。

 急斜面に草とか低木が生えているが、わたしの身体能力では登るのは無理そうだ。下手に認めて、やってみろやと言われても困る。わたしは首を横に振った。


「じゃあ、登るのも問題ないな」

「あっ、はい。アイチャン」

「あいちゃん?」

「わたしの魔導書の名前です」

「名前つけてるの? 魔導書に?」

「……変ですか?」


 アーベルさんは無言で微笑んだ。返事がないのが答えのようだ。


 考えてみれば、ミリーが魔導書を出しているのを見るまで、魔法を使うのに魔導書が必要なことさえわたしは知らなかった。てことは、アイチャンとのやりとりは心の声でもできるということか。まあ、言うなれば一心同体だし、やろうと思えばできるよね。

 わたしは、心の中でアイチャンに呼びかけた。


『アイチャン』

『魔法を使用しますか?』

『おねがーい』


 呼びかけに応じて、スキルツリーの画面が開いた。

 秘匿機能がオンになっているから、これは他人には見えない。指でタイトルを押さえようとして、待てよと思う。これも頭の中でできるんじゃないのかな。


 アーベルさんの興味津々な視線が痛い。


 魔法で降りてきたと言った以上、ちゃんとやらないと。

 隊長さんに、この子できると認めてもらって当面の衣食住を以下略。

 わたしは深呼吸をすると、身体の脇で両手を握りしめた。

 

『アイチャン。崖の上に行くにはどの魔法を使ったらいい?』

『検索。跳躍の使用を推奨します』

『跳躍、跳躍……これか』


 手を使わないで<跳躍1>のタイトルを選択し、説明文を表示させる。

 感覚としてはVRの視線ロックオンに近い。プラス、アイチャンがわたしの意思を汲み取ってくれるので、思ったより難しくはない。練習すれば行けそうだ。


 カーソルがあると便利だと気づき、アイチャンにリクエストすると、2Dカーソルが画面上に出現した。うん、この方が使いやすい。


 <跳躍1>の説明に目を通す。

 足の筋力を魔法で強化して、脚力を上げる魔法のようだ。

 ジャンプで上がれってことらしいが、急角度の崖を登るのはキツそうだ。バランス崩したら下に落ちそう。そういや<風球>ってタイトルがあったけど、あれは使えないのかな。

 別ウィンドウを開いて<風球1>の説明に目を通す。

 風でできた毛糸玉をつくる魔法らしい。水球と同じサイズなら、体を持ち上げるだけのパワーはなさそうだ。そうだ。水球を足場にして跳躍で登るのはどうだろう。水球なら目つぶってでもつくれるし、川の上でやれば落ちても大惨事にはならないだろう。よし、やるぞー。

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