006碧葉ちゃんフィーバー
「え、えっと......」
「......」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、プルプルと小刻みに震えながら、いまにも逃げてしまいそうな状態になっているのは、先程私を助けてくれた人だった。
青大へは予想よりも早く着くことができ、余裕を持って講義に行くことが出来た。
碧葉ちゃんは一旦、私の親友に預かってもらい、なんとかなった。
心配事はとりあえずの所はなんとかなり、講義に集中することができる。私はすぐに自分の講義を受けるところに向かい、席に座ると、隣には予想外の人物がいた。
それが彼女。
心中お察しする。あれだけ格好つけて立ち去ったのに、まさかの自分と同じ大学で、よりにもよって当日のアレがあったすぐ後。しかも、運悪く自分の隣。
恥ずかしくなっても仕方がないです。そこらへんに関しては、触れないでおこう。
それにしてもこの人綺麗だなぁ..。電車にいた時はそんな暇なかったけど、いまはこうして見てみると、顔が整ってーーあれ、このくだりを前にもやった気が...あ、碧葉ちゃんの時だ。しかも、つい昨日の話。
でも、この人はまた違う可愛さ..いや、可愛いというよりかは、綺麗とか美人と言った方が当てはまると思う。
と、とりあえずお礼は言った方がいいよ..ね?
「え、えっと。その、さっきは助けて頂いてありがとうございます」
「....あれは助けたって言わない。あなたは自分の力だけでなんとかしてた。私のあれは、完全なおせっかい。だからお礼を言われる筋合いはないよ」
「い、いや、それでもです。お礼を言わせてください。それで、ちゃんと受け取って下さい」
「.......」
無言のまま、目線だけをこちらに移してくる。虚ろな目がボーッとこちらの目を見つめながら、口を開いて、閉じてを繰り返す。パクパクとしていて、魚みたい。
どうしたら素直に受け取ってくれるかを考えていると、ゆっくりと状態を起こして、こちらに向く。
「.........どういたしまして」
「...あ、はい!」
丁度よくそのタイミングで先生がやってきた。
喋っていた人達も少しずつ静かになり、私達も同じように会話を終わらせて、静かにノートを取り始めた。
始まって十分。カリカリと鉛筆かシャーペンで書いている音と、先生の声以外なにもなく、私も、彼女も同じくひたすらノートを取っていた。
『...となるので、この場合ーー』
私はそこまで頭がよくない。だから、一字一句も聞き漏らせない。ノートに字を書き続けるのは疲れる。けど、一回でもめんどくさがって止めたら、私はそれ以降ついていけなくなってしまう。人よりもメモを取って、人よりも学ぶ時間を増やす。それでやっと中の下なんだから。
静寂はやがて、緊張感へと変わり、音一つでも立てたら責められる。そんな状況下になったとき。それを破ったものがいた。いや、破ったものじゃなくて、破ったものたちがいた。
廊下の方でなにやら悲鳴が聞こえ、それが一人のものではなく、複数の人から聞こえた悲鳴だった。
先生はすぐに確認しようと、扉を開けるとーー
『ーーうわぁ!!だ、誰だ!!』
廊下で先生が叫びだした声が聞こえ、それと同時にまた悲鳴が上がる。え、何があったの?テロリズム?うちの学校、特に襲うような価値があるとも思えないんですけど..。
私がそう考えていると、後ろの扉が勢いよく開かれる。
そこから現れた人物は、なにやら慌てているようで、息を切らしていた。
周りの目線が自然とそちらを向くなかで、その人物はそれにまったく気にしないというようにゆっくりと息を整えて、キョロキョロと誰かを探し始めた。
お目当ての人物を見つけたらしく、その表情は申し訳なさそうな。それでいて、少し安堵したような物へと変わる。
走り出し、目的の人物までたどり着いた彼女ーー私の親友は、私のところへと急いでやって来た。
「ーー美織!!あの子、碧葉ちゃんが逃げ出した!!」
「....え、逃げ出した?」
慌てふためく私の親友を落ち着かせ、とりあえず席に座らそうと促す。
そこで大量の視線に気がついたのか、「すいませーん...」と謝りながら、席に座り、話を始めた。
つまるところは、こういうことらしい。
私が行った後、すぐに碧葉ちゃんは不機嫌になり始めたらしい。それで、その機嫌をとろうと、いちごオレをあげようとしたところ。それを買っている間に逃げられ、慌てて追いかけると、ここらへんで悲鳴が聞こえたらしく、もしかして..と思いつつも、とりあえず丁度その近くが私が受けていたところだったので、一先ず私のところに来たと。
「....預かってもらっといてあれだけど、普通目を離す?」
「ご、ごめん!!私だってまさか逃げ出すとは思っても見なかったの!!」
「...まぁ、私も急いで説明省いたから、文句は言えないんだけど」
「いま言ってるのは文句じゃないの?!」
「これは文句じゃなくて、不満」
「似たようなものじゃない?!」
....あ、こんなことやり取りしている場合じゃないんだっけ。
「とりあえず碧葉ちゃんがいま、どこにいるのか教えて」
「分からないけど、あっちの方に走っていった」
指が指された方を向くと、そちらの方向にはちょうど...あ、そういうこと。まだ足りなかったのかな?今度から、もうちょっと多めに作ろう。私、あまり食べないから、結構少な目にしちゃうんだよなぁ..。
「分かった。じゃあ、見つかるまで、私の代わりに受けといて」
「え?!いまのでどこ行ったか分かるの?!ていうかどうして私が代わりに受けるの...ってもういない!!」
さっきまでいた場所から、叫び声が聞こえるけど無視。碧葉ちゃんの安否確認が先。
おそらくだけど、向かった先の方向から察するに..あ、やっぱりいた。探さなくてもすぐに見つかった。
少しだけ走ってついたのは、食堂。碧葉ちゃんは多分、朝のだけじゃ足りなくて、お腹がすいたなかで匂いに釣られて来たんだろうね。まぁ、よくその匂いを嗅ぐことができたなぁ~っていう驚きはあるけど、それはさておき。
碧葉ちゃんは、食堂の真ん中らへんで、色々な人達から食べ物を貰っていた。
笑顔で貰った物を食べ続ける碧葉ちゃん。それを嫌にも思わず、上げ続けるここの生徒達。しかも、みんな女の子。あの子もそういうなんか呪いじみた物にかかっているのかな?
「...あれ、栗花落さん?」
「あの、ごめん。そこにいるの、私の従姉妹なんだ..。好奇心旺盛だから、面白いものがあったら...」
私が説明しようとすると、それを遮って色々な所から碧葉ちゃんの感想が飛び交ってくる。
「ううん!別に大丈夫だよ!それよりもこの子、凄く可愛いね?!食べてる顔が天使みたい...!」
「あ、それ分かるー!なんかこの子の笑顔を見てると気持ちが落ち着いてくるー?みたいな?」
「そうそう!!ねぇねぇ、栗花落ちゃん!!もう少しだけ従姉妹の子、貸してもらってもいい?」
十人くらいの人が一斉に、ぐっ!と近寄ってくる。あ、圧が...圧がすごい...。
でも、断る理由もないし、それはむしろありがたい。
「その...よかったら、お昼頃まで預かっててくれない?私、まだ講義があって...」
「喜んで!」
「やったー!じゃあ、碧葉ちゃん?次はなに食べたい?これ?これ?それともこれ?」
「あんまり上げすぎないでね..」
「写真!写真とってもいい?!」
「あ、うん。一枚だけなら...」
「あぁ~もう可愛いよぉ~。持ち帰りたいくらい~」
「それはダメ」
「あーん、いけずー」
予想の斜め上をいく碧葉ちゃんフィーバーは食堂中に広がり、人だかりができるほど。
うーん...嬉しいんだけど、なんか複雑..。
「あの」
「あ、はい」
気付かない内に近付いてきていたのは、眼鏡をかけて、なにやら見た目は少し地味だけど、一手間したら凄く可愛くなりそうな子が私に話しかけてきた。
「あの、携帯番号教えてください。栗花落さんが終わったら、あの子がいまどこにいるか教えますので」
「あ、ありがとうございます」
お互いに連絡先を交換し、一礼をすると、その人はどこかへ行ってしまう。今度、イメチェンとかするなら手伝いますよ?絶対に可愛くなりますから。
なんだか、優しい人と最近会うなぁ。日頃の行いがいいからかな?
さて、と。そろそろ戻らないと。
私は碧葉ちゃんフィーバーを背にして、親友のもと(講義を受けていた)場所に戻っていくのであった。
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
まず見てくださり、ありがとうございます。
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次回もまた会えることを願っています。
では、また。