005堪忍袋の...?
ガタンゴトン...ガタンゴトン...。
一定のリズミで揺れる電車内で、私は窓側の席に座りながら、隣に座る碧葉ちゃんの頭を撫でていた。
窓の外に見える景色が次々に変わることに驚き、口を開けながら、食い入るように見る碧葉ちゃん。
彼女は一体、どこから来たのだろう?そんな疑問が頭を過る。
あの円の穴がなんだったのか。あの穴の向こうは、周りとはまったく違う景色が見えてて、まるでワープ穴のような。そんな役割を果たしていた。
でも、あれをいまの人が作れるとは到底思えない。ということは、必然的にあの穴を作り出したのは、人間じゃないナニカということになる。
じゃあ、やっぱり碧葉ちゃんは人間じゃない?
私はその考えを、頭を振って否定する。碧葉ちゃんは人間だと、私はそう判断した。あの子の笑顔が人間じゃないナニカだとは、信じたくない。考えたくない。
あの穴から覗いていた狼もどきに驚いた私を、落ち着かせてくれたのは碧葉ちゃん。だけど、どうして、なんで、あちらからこちらには来れないと分かっていたのか。
使用者だから?でも、そんな高度な文明を持っているのに、言葉を話せないというのが腑に落ちない。言葉は話せないにしても、なんかしらのコミュニケーションをする物は持っている筈。でも碧葉ちゃんは話すどころか、言語すら知らなかった。
じゃあ記憶喪失?あの穴の原理を知っていたのは、潜在意識とかなんとかで覚えていたから?
......分からない。
一番手っ取り早いのは、碧葉ちゃんに直接聞いて、真実を確かめること。でも、現状それは叶わない状況下にあるから、これも出来ない。つまり私に出来ることは、碧葉ちゃんの身の安全を守ってあげること。それ以外ない。
難しいことはやっぱり私には分からないや。たったこれだけしか考えていないのに、もう頭がパンクしそう。頭から湯気が出てるんじゃないかな?
碧葉ちゃんは相変わらず窓の外を見ている。子供は初めて見るのものに、凄い好奇心を抱くからなぁ。歳はしっかりとは分からないけど、多分小学生と同じくらいだろうし。
『次は○△駅ー、○△駅でございます。お乗り方はーー』
「あ、乗り換えしないと。碧葉ちゃん、行くよー」
「うぁ?」
降りる駅にいつの間にか着き、碧葉ちゃんを再びおんぶして連れていく。
時間も時間なので、どうしても通勤ラッシュに当たってしまう。追い出されるように人が電車から出ていき、なだれ込むようにして人が入ってくる。サラリーマン、OL、学生などが、入り乱れながら出入りをする。私よく座れたね。いまさらながら思うけど。
私は碧葉ちゃんを落とさないようにして、電車から降り、階段を下って、次の乗る電車のホームまで向かう。その間も人の流れが凄くて、何回か、碧葉ちゃんを落としそうになった。ついでに私も、転びそうになった。
【割れ物注意】って貼っておいた方がいいかな?
ホームに着いてみると、自分が乗る電車がもう来ていた。そんなに足速くないけど、頑張って走ってみたら、なんとか追い付くことができた。
おんぶしながら走ったから、疲れると思ったんだけど、碧葉ちゃん、本当に軽い。逆に軽すぎておんぶできてないかもと、不安になるほど。
でもだからと言ってもね。碧葉ちゃん。そんなに暴れたら、私もう無理だよ?片手で首を掴みながら、ふらふらしないで?見た目は小学生ぐらい、体重は超軽い。でも力が半端なく強いのはどうして?こういうのをギャップって言うの?
電車の中はもちろん人がたくさんいて、私はドアの近くで立つことに。これを見ると、ホントにさっき私が座れたのは奇跡に等しい。もしかして今日の運、全部使い切っちゃったんじゃない?
碧葉ちゃんには人が多いので、おんぶではなく、私の前に立ってもらった。つり革は背的に掴めないので、私の腕を代わりに掴んでもらった。...手、柔らかい。ふにふに..。
ここから降りる駅までは一駅なんだけど、距離は遠いから四分ぐらい...だったかな?いつもはスマホを見てたりしてるから、気にしてなかった。
しばらく揺られて、もう少しで着く。という所で私の体を、誰かに触られているような感覚が襲ってきた。
触られていると思わしき場所は、腰から下。すすす..と指でなぞりながら触ってきている。というか、これは...。
また痴漢か...。懲りないなぁ..やってくる人も。私の体なんて胸以外魅力ないのに、太ももとか触ってきてなんの得があるんだろう?
チラリとばれないように後ろを一瞬見ると、サラリーマン?みたいなスーツ姿をした体格痩せ形の男性が、息を乱しながら私の下半身を凝視しながら、痴漢をはたらかせていた。
このまま腕を掴んで大声を出したらそれで終わりなんだけど...。目的の駅まではあと一分もないから、それぐらいだったら、まぁ、行きすぎない限りは触らせてもいいかな。
...別にビッチではないですよ?いや、毎日毎日働きづめで頑張っているのに、お金を使う暇もないっていう大人の人が増えてる。みたいなニュースを見たことがあったから、他の人に被害がいくくらいだったら、別にいいかなーっていう。
...あれ、おかしい?私おかしい?だ、だって、可哀想って思わない?欲が溜まっていても、趣味で発散する時間すらもないんだよ?だったら、ちょっとぐらいはご褒美あっても大丈夫でしょ?これで、私が逃げて他の人に痴漢しにいったら、ほら、目覚め悪くなっちゃうだろうし。
それにただやらせてもらってもダメだから、ちゃんと降りるときには「もうやっちゃダメですよ?次やったら警察につき出しますよ?」っていうから、多分もうやらなくなると思う..多分。
それにしても..なんか段々触ってくるところ大胆になってきてない?お尻を触るくらいだったら、まだ許容できるけど、下着の中に手を入れようとするのはちょっと...ん!
私も痴漢してくる人だろうと、警察に出すのは...気分的にあっちが完全に悪くても嫌だなぁ..。
でももう着くから、そこまでの我慢...と思ったその時。
電車全体がグラッと揺れたかと思ったら、そのまま止まってしまった。電車に何回も乗っているからこそわかる。おそらくだけど多分これは...。
『ただいま人身事故が発生したため、運転を見直しています。繰り返します。人身事故が発生ーー』
...なんだろう。この絵にかいたような負の連鎖。
どうしよう..流石にやめてと言うべきか...それともなにもせず、ただ待つべきか..。うーん、どうしよおぅ!
いまのはふざけたんじゃなくて、触ってきている部分がかなり際どくなってーー!ひっ!
「....単純に怖くて声が出せないだけって思ってたけど、もしかして痴女だったとか?こういうの望んでた?」
耳元に近付き、そう囁きながら、右手を言えない所へ。左手を胸元に置いて、また、なぞるようにして触ってくる。
ちょ、ちょっと待って。私、ずっとこの人のこと気弱だとかなんとか思ってたけど、そうじゃない..?
だとしたら、速攻助けを呼ばないと..!癒すぐらいはできるけど、R-18展開は望んでもいないし、やって欲しくもなぁ!?...ま、また際どい所を....ひゃ!?
「あれ、図星だったりする?じゃあ、このままヤっちゃってもいい感じ?」
百パーセントない!ていうか、周りの人が一向に気が付かないのはどうして?!私は別にいいってひゃあ!?..くぅぅ..なんか勝手にあちらでは、私がそういう人だって思い込んでるのか、その気でいるんだけど..。
いよいよ大声を出そうかと思った時。私の怒りの琴線に触れる言葉を男性が発した。
「ーーもしかしてこんなことしたのって、最近夫婦の営みが減ってきて欲求不満になってたから?」
「は」
ピタリと脳の回転すらも止まる。頭の中がスーッと冷えていく感覚。そして、その言っている意味を完全に理解したとき、段々と頭が燃えるように熱くなっていくのが分かる。
夫婦?私を既婚者だと思ってるの?なんで?
....あ、碧葉ちゃんか。碧葉ちゃんを私の子供かなんかだと思っているのね。姉妹とかには見えないんだ。結婚指輪を私はしてないのに、親に見えるんだ。そんなに老けて見えるんだ。
へー。
私は振り返って男性と対面する。あぁ確かに痴漢しそうな人だね。私はこんな人を庇っていたんだ。ただの時間の無駄だったね。あはは失敗失敗。
「お、ヤる気になってくれたんーー」
まだ何かを言ってるけど無視。私は息を思いっきり吸って..。
「ーーこの人痴漢でーーーーーーーす!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ーーちょっと。あんたこの娘に痴漢してるでしょ」
と、叫ん...え?
「...え?」
「...え。」
あ、思わず声に出てた。
「ちょ、急に何を言ってきてーー」
「おいお前!!大人しくしてろ!!」
「ぐわっ!!いたたたたっ!!」
男性はそのまま乗っていた他の男性の人達に取り押さえられ、壁に押し付けられた。
そしてそれと同時。上手い具合にタイミングよく、電車が運行を再開し、出発した。
....え...と。
「あの、もしかして、私のことを助けてくれたんですか?」
「...あんたがまったく抵抗しなかったから、てっきり相手に押さえつけられてて、助けを呼べない状況だと思っていただけ。それに同じ女性として『助けない』っていう手はないでしょ」
『△▽駅ー。△▽駅でございます。お乗りの方はーー』
「じゃあ私、こっちだから。じゃあね」
「あ、私も...ってもういない。...いや、私も降りないと!!」
急いで私も碧葉ちゃんを連れ、何事もなかったかのように目的の駅に降りて青大へと走っていく。
不意に目線を動かすと、さっき私に痴漢をはたらいていた人は、駅員さん達に取り押さえられて、どこかへと連れていかれていく。
駅員さん達に見つかったら、事情聴取みたいなことされる..。でもそれをやっていたら、時間なくなっちゃうから、早々に退散退散。
...これ間に合うかなぁ?
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
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では、また。