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96話 僕は上手いこと操られてしまいます

「やりましたね皆さんっ!」


「ディータ様っ! 本当におめでとうございますっ! そして、本当にありがとうございますっ!」


「まぁディータなら心配ないと思っていたがなっ! さすがに最後は肝が冷えたが」


 ふぅっと息を吐きながら、ミントさんは握り締めていた髑髏型の水晶を懐にしまい直していました。

 御守りでしょうか?

 意外と信心深い褐色エルフさんです。


 一方で僕も万が一を考えて準備していた折紙を使わずに済んで、ホッと人心地でしょうか。

 一歩間違えればこの謁見の間で、ドラゴンさん達が大暴れするところでしたからね。

 そうならなくて良かったです。

 次いで隣にいるシフォンも、嬉しそうに声を上げました。


「……んっ! にぃ、やる時はやる!」


 ……妹からの兄評価、微妙に低くないですか?

 いつも結構頑張ってると思うんですけど?


 まぁ今は細かいことを気にせず、心から喜びを分かち合いましょう!

 半年に及ぶ長い戦いに終止符が打たれ、僕達は命を。

 そしてナティは、晴れて結婚の自由を手に入れた瞬間なのですから!


 そんな感じでワイワイはしゃぐ僕達ですが……おや?

 なんか周りの方々、空気悪くないですか?

「良くやった! 天晴れっ!」みたいな感じで、普通に帰らせてくれると思ってたんですけど。


 するとぷるぷる震えていたお爺さん。

 宰相さんが、僕達を迎えに来た兵士さんを怒鳴りつけました。


「どうなっているっ! 足りぬのではなかったのかっ!?」


「は、はい! 確認こそしませんでしたが、あの様子は間違いなく足りない事に慌てていた筈です!」


「ならこの結果はなんだっ!!」


 平伏し、顔を上げられなくなった兵士さん。

 可哀相ですが同情は出来ません。

 彼は僕の迷惑を考えず、ポードランに到着するまでの間ずぅっと僕を見張ってましたからね。


「ちゃんと見張っていたのだろうな!」


「は、はい! この少年はおかしなスキルを使うとのことで、片時も目を離しておりません!」


 あ、そういう理由だったんですか。

 トイレの中まで着いて来た時は、さすがに正気を疑いましたよ?


 あぁだこうだと言い合う宰相さん達ですが、僕達は帰ってもいいでしょうか?

 もう用事は済みましたよね?


 すると茫然自失となっていた王様が、静かに喉を震わせました。


「や……約束は約束だ」


「陛下っ!」


 これにダグラスさんが抗議しようとしましたが、王様に睨まれるとすぐさま身を縮こませます。


「王が約束したのだぞ。今更反故にしようものなら、末代まで笑われるわ!」


「し、しかし! それではナティルリア王女と俺の結婚はどうな――」


「白紙に決まっておろう!」


 言葉を遮られたダグラスさんは「ぐぅっ!」と唇を噛み、殺意すら込めた瞳で僕を睨みつけてきました。


「なんなんだてめぇはっ! 足りてないんじゃなかったのかっ!? それとも最初から足りていたが、足りないフリをして嘲笑ってたとでも言うのか!?」


「そうですな。是非ともこの私めにも、どういうことなのかご説明頂きたいところです」


 同調を示した宰相さんも加わり、説明しろとの一点張り。

 となれば、僕もご説明しないわけにはいきません。

 まぁこちらとしても予想外でしたし、奇跡のようなものなのですが。


「ロコロルの港までは、確かに少し足りていませんでした。けれどそこで、僕達に金貨二千五百枚を下さった方がいるのです」


「二千五百枚だぁ!? そんな大金を人から貰ったなんて話信じられるわけねぇだろ! なにかインチキでもしたに決ま――」


「本当だよ! 私がディータ君にあげたんだから!」


 僕の後ろで控えていた彼女が、ついに顔を上げて立ち上がりました。

 ずっと顔を伏せていたので誰も気付かなかったようですが、ようやく彼女の正体に気付いたナティが声をあげます。


「リルゼっ!? どうして貴女がっ!?」


「友達のピンチだもん。そりゃ助けるでしょ。ナティちゃんだって、私をケルベロスの炎から助けてくれたじゃない」


 そうなのです。

 金貨二千五百枚という大金を持って、僕達をロコロルで待ち受けていたのはリルゼさんでした。

 とはいえ十万枚を達成したと知られれば次なる妨害工作があるかもしれないと考え、今の今まで隠していたのです。


「で、でも貴女っ! 城下町にある道具屋の娘よね? どうやってそんな大金……」


「んふっふっ。こう見えても私すっごく強いからね。ちょこちょこ~っとゴールデンゴーレム狩りを」


「ゴールデンゴーレムって……だってあの魔物は遭遇率も低いし、何より強靭な防御力を誇る魔物じゃないっ!」


「うん。だから半年近くも探したのに、結局五十体しか倒せなかったよ」


 てへへと恥ずかしさを誤魔化すように笑うリルゼさんですが、五十体ものゴールデンゴーレムを一人で狩るなど、並大抵のことじゃありません。

 それこそ武王と呼ばれることもあるヘーゼルカお姉ちゃんに匹敵するのではないでしょうか。


 ともあれ一体で金貨五十枚になるゴールデンゴーレムを五十体倒し、金貨二千五百枚を持ったリルゼさんは、僕達がポードランへ向かう日に備えてロコロルで待っていてくれたのでした。


「というわけです。これは純粋な譲渡ですので、なにも問題はありませんよね?」


「いいのかよっ!? 金貨二千五百枚だぞっ!? たかだか道具屋の娘風情には、とてつもない大金のはずだっ!」


「いいに決まってるでしょ。それで友達が、すっごく嫌な奴と結婚しなくて済むならさ!」


「て、てめぇっ!! やっぱり殺しておくんだったぜっ!!」


 憤怒の形相で剣の柄に手を伸ばしたダグラスさんですが


「静まれっ! 陛下の御前であるぞっ!」


 宰相さんの一喝で、悔しそうに歯軋りをしたのです。


「すでに陛下がお認めになったのだ。今更騒いでも見苦しいだけですぞ」


 涼しい顔でその場を静める宰相さんですが、僕はなんだか嫌な予感。

 だってさっきまで困惑と焦りを見せていたのに、今はどこか余裕のある態度なのです。

 彼は一筋縄ではいかない相手ですから。

 何かまた悪巧みを思いついたのかも……そう危惧したのです。

 そしてそれは、残念なことに的中してしまいました。


「……とはいえ、ナティルリア王女の婚姻は白紙に戻っただけ。今後またダグラス殿と婚約をすることもありましょう」


 続いた宰相さんの言葉に、ダグラスさんはもちろん、僕や他の皆さんも「は?」と意表を突かれてしまったのです。

 また婚約からやり直す?

 そんな無茶苦茶なっ!


「ふざけないでっ! ディータが必死に約束を守ってくれたのに、それを反故にするなんて――」


「反故ではございません。一度白紙に戻すまでが約束。その先については何も決めておらぬのですから」


「そ、そうだっ! その通りだな宰相っ! たまには良いこと言うじゃねぇかっ!」


 それは屁理屈です。

 断じて認めるわけにはいきません。

 そう声を上げようとしましたが、その切っ先を制するように宰相さんが更に続けます。


「ですがこうなってしまっては誰も納得せぬでしょう。そこでどうでしょうか? ダグラス殿は、今一度自分の強さを皆に知らしめては?」


「……は?」


「貴方が誰よりも強いと認められれば、国民も陛下もダグラス殿を王女の夫として認めざるを得ないでしょう? それを決闘で示すのです」


「私は認めないわよっ! そこの男が強いなんてこれっぽっちも思えないけど、例え万が一強かったとしても私の心は動かないわっ!」


「なに、強さを知らしめたらすぐに結婚して下さいと申し上げているわけではございません。ただもう一度チャンスを与えるべきだと申し上げているのでございます」


 ん~……?

 なんだか上手いこと誤魔化されている気がしませんか?

 のらりくらりと話を誘導し、理由は分かりませんが、とにかく宰相さんはダグラスさんに決闘をさせたいみたいです。


「それに大勢の前で無様に負けるようなことがあれば、ダグラス殿とて二度とナティルリア様に迫ろうとは思わないでしょう。ナティルリア様が真にダグラス殿を嫌っているのでしたら、二度と顔を見なくてもよくなる好機とは思えませぬか?」


「そ、それは……」


 言い包められたナティは気勢を失っていました。

 その姿を満足気に眺めてから、宰相さんが今度は僕に視線を向けます。


「少年も。ナティルリア様を守りたいと思うのでしたらここが正念場。この決闘でダグラス殿を見事打ち負かし、王女を御守りするのです」


 話の流れ的に嫌な予感はしてましたけど、決闘の相手。やっぱり僕なんですね。

 いきなりそんなことを言われても困るんですけど?


「い、いや、それは――」


「陛下。私はこのように提案したい所存で御座いますが、いかがでしょうか?」


 反論しようとした僕の言葉を遮り、宰相さんは強引に話を纏めに入ってしまいました。

 決定を下すのが王様となれば、もう他の人が異議を申し立てることは不可能。

 そう計算しているのかもしれません。

 そして十万枚という約束を達せられてしまい意気消沈している今の王様に、宰相さんの提案を跳ね除ける気力はありませんでした。


「そなたの良いように致せ……」


「畏まりました」


 かくしてその場はお開き。

 十万枚は達成したので僕達の命は保証されることになりましたが、ナティの結婚については一度白紙に戻した後、どうなるのか不透明なまま。

 それを決するのは、僕とダグラスさんの決闘でということになったのです。


 準備があるからと、城下町に宿を用意された僕達。

 ラシアさんとミントさんは、さんざんに宰相さんの悪口を捲くし立てていましたが、王様が認めてしまった以上覆すことも出来ません。

 今度こそこれが最後だと、僕は覚悟を決めたのでした。


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