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88話 僕は交渉に伺います

 ミリアシスに到着した僕は聖女様のお力を借りるため、まずは教会に向かいました。 

 それから勇者選定中のエリーシェさんが一段落するのを見計らい、彼女を連れて向かったのは東地区。

 貧民地区と呼ばれる川東に位置する住民街です。


「聖女様だっ!」

「今日も聖女様がいらして下さったぞっ!」


 エリーシェさんの姿が見えるや否や、町のあちこちから人々が押し寄せてきます。

 相変わらず彼女は、この地区のアイドル的存在のようです。

 護衛の為に付いて来ているゾモンさんが、エリーシェさんと人々の距離を一定に保とうと苦心なさっていますけど、まったく無意味なご様子。

 そもそもエリーシェさん自信に危機感が皆無なので、自ら近付いていってしまうのです。


「名前で呼んでくださいってば~」


「聖女様にそんな、恐れ多いですからっ!」


「こらっ! そう思うならもう少し離れんかっ!」


 てんやわんやな状況ですが、割と日常茶飯事なようで。

 ゾモンさんもそこまで危険だとは思っていないらしく、やがて「まったく」とボヤキながらも、笑顔で対応していました。


「え~とですね~、今日はみなさんにお話があって来たんですけど~、ボジムさんはいらっしゃいますか~?」


 エリーシェさんが人々にそう語りかけると、みなさんは顔を見合わせながら「今呼んで参りますっ!」と、誰からともなく走り出してくれたみたいです。


 この地区は基本的にみなさん自由に暮らしているのですが、それでも集団ということもあり、一応の代表者が存在しています。

 それが今呼ばれているボジムさん。

 この地区の人たちに話を通すなら、まずはボジムさんに窺うべきだと、そうエリーシェさんから助言を頂いたのでした。


 ややあってボジムさんが到着したのか、人垣が割れ、その中をお爺さんがゆっくり歩いて来ました。


「遅くなりまして申し訳ありませんなぁ。なにぶん今日は膝の調子が良く無いものでして」


「いえいえ~。それよりすぐに治療しますね~」


 そう言いながらゾモンさんから治療道具を受け取り、エリーシェさんはすぐにボジムさんの膝に手を当てます。

 ポワッとした淡い光が彼女の手から発せられた直後、ボジムさんは「おぉ!」と感動し、具合が良く無いと言っていた膝を曲げ伸ばしして見せたのです。


「ありがとうございます聖女様。おかげで大分楽になりました」


「それは良かったですね~」


 ふむふむと頷きながら膝の調子を確認し終えたボジムさんは先ほどまでより若干視線を高くし、改めてエリーシェさんの顔を窺いました。


「してこの老体にどのようなご用件でございましょうか」


「私ではなくディータさんからお話があるそうなので、あとはディータさんからお聞き下さい~」


 軽い調子で言ったエリーシェさんは「後は任せました~」と僕を見て、それから他の方々の治療を始めたようです。

 その様子に目を細めてから、ボジムさんは僕に向き直りました。


「確か聖選の時に聖女様を護衛なさっていた方ですな? お若いのに立派なものだと覚えております」


「あ、えっと、そんな大層なものじゃないのですけど……。初めまして。ディータと言います」


 好々爺みたいに柔らかな笑顔を向けてくれたボジムさんに、僕は深々と腰を折りました。

 するとお爺さんは少しビックリしてから、得心が言ったようなお顔。


「ディータさん……というと、噂のディータランドなる施設の?」


「はい。僭越ながら支配人を務めさせてもらってます」


「ますますご立派なことですなぁ。そんな方が私などにどのようなお話でしょう」


「実はですね、ディータランドは今少しばかり問題を抱えていまして……」


 僕が足りない宿事情などをお話している間ボジムさんは何度も頷きながら聞いてくれていましたが、最後には少し顔を渋くされたご様子。

 そして僅かに声を低くしつつ聞いてきたのです。

 どうしたのでしょうか?


「この地区の住居を壊して宿を作ろうと?」


「ち、違いますっ! そうじゃないんですっ!」


 あぁなるほど!

 酷い誤解をさせてしまったようです。

 僕は慌てて手を振り、そうではないとご説明でしょうか。


「ではどのような?」


「みなさんの住居を間借りさせて頂きたいのですよ」


「はて? いまいち良く分からないのですが」


 確かに東地区の土地を買って宿泊施設を建設するという計画はありました。

 けれどギシギシに詰まっている東地区には、ほとんど空き地がなかったのです。

 かといって無理に買い上げれば住んでいた方の行き場がなくなってしまいますし、東地区を出た土地はすでに値上がりしてしまっていて手が出ません。


 そこで考えた方法が「民泊」


 この地区にお住まいで賛同して下さる方の家に、宿泊希望者を泊めて頂くのです。

 もちろん宿泊料は払って貰いますが、値段設定は各個人にお任せ。

 そこに住んでいる方の収入となるのです。


「ほほぅ! それは面白い事を考えますな。……なるほど。この地区に住んでいる者の中には、働きたくても働けない身体の者もたくさんおります。そういった者達にも収入が入りますし、非常に有難い提案かもしれませぬ。しかしどうでしょうか……」


「何か問題がありますか? もちろん無理強いは出来ないので、賛同して下さる方だけで良いのですけど」


「賛同する者は多いと思うのですが、いかんせんここらは貧民地区と誹りを受けるような場所。各住居も住居の体を成しているだけで、隙間風や雨漏りのする家も多々あります。とても客を招いて泊められるかどうか……」


 なるほど。

 確かに壊れかけのような家も多いですし、いくら住人の人が賛同してくれても宿泊希望者がいなければ意味がありませんね。


「ならこうしましょう。賛同してくれる方の住居はこちらで修繕します。もちろん無料で」


「なんとっ!?」


 最近神獣さんがちょっと暇そうですからね。

 邪神像を造り出す前に、何かお仕事を割り振りたいなと思っていたところ。


「本当によろしいので?」


「もちろんです」


「おぉ……っ! なんという素晴らしい……っ! これから聖男様とお呼びして――」


「駄目です」


 それはいけません。いりません。


「普通にディータとお呼び下さい」


「なんと謙虚な……。し、して、宿泊料の何割くらいを納めさせて頂けばよろしいのですかな?」


 ん?

 こちらとしては神獣さんが住居を修繕する以外に手間がないので、別にいらないのですけれど。

 そうお答えしたのですが、ボジムさんは首を振って納得して下さらないご様子。


「それはいけません。施されてばかりでは勘違いする者も出てまいります。それにディータランドがあればこそ宿泊客も訪れるというものですので、そこはいくらかでもお受け取り頂かなければ」


「そういうものですか? ……じゃあそうですね。宿泊料の一割程を頂きましょう。その代わりディータランド側でも民泊を宣伝させてもらいますね。宣伝料とでも思っていただけたら、こちらも気が楽ですし」


「何から何までありがとうございます! ではさっそく希望者を募り、資料に纏めておきましょう」


「よろしくお願いします」


 こうして話は纏まり、翌々日には神獣さんを派遣。

 ざっくざっくと建物を修繕しまくったのです。


 ちなみにどのくらいの希望者がいたかというと、東地区にお住まいの方の約三割。

 中には修繕してもらう為だけに参加を希望し、後で民泊を取りやめた方もいたようですが、後々民泊が大盛況ということで酷く後悔していたとかなんとか。


 とにかくこれで、宿が足りない問題は無事解決。

 ついでに人件費問題も、民泊からの収入でかなり賄うことが出来たのでした。


 これは今より少し後の話になりますが、民泊経営はとても順調で見入りも良く、富裕層並の収入を得る方が続々と誕生。

 ミリアシス大聖国の東地区は「世界一高価な貧民地区」と呼ばれるようになるのでした。



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