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87話 僕は苦情の処理に追われるようです

 ディータランド開園から早二週間。

 二十坪ほどある広々した総支配人室で、僕は各種資料とにらめっこしていました。


 ここまでの平均入場者数は五千五百人。

 予想を上回る客数ですが、これは事前に割引券を大量に配布しておいたおかげ。

 なので計上されている入園料の売上は、平均で一日金貨三百五十枚程。

 ようやく五千枚に届こうかという程度でしかありません。


 これでは目標とする十万枚を半年で達成することは不可能なのですが「まずは多くの人に知ってもらうことが肝心」というマルグリッタさんの助言に従った結果、割引券の配布は必要という結論に達したのです。

 すでにリピーターもいるようですし、口コミでディータランドの噂も広まっているようですし、問題はないでしょう。

 割引券の期限は昨日までだったので、ここから入場者数が減らなければ、どんどん売上は増加する筈なのです。


「ディータ様。各種ゾーンからの要望を纏めておきました」


「ありがとうございます」


 配置換えをし、改めて僕の秘書的立場に収まったラシアさんが、園内の要望や問題点を資料に纏めて僕に手渡してきます。

 とてもじゃないですが、僕一人で園内の全てを見通すことなど出来ませんからね。

 ラシアさんがお手伝いしてくれるのは大変有難いことですし、有能な彼女にはとても助けられています。

 なぜかラスベガスゾーンの働きたいゾーンランキングも急上昇ということで、良いこと尽くめでしょうか。

 ラシアさんは笑顔を崩さぬまま、こめかみをピクピク震わせていましたけど。


「やはりスタッフの人数が足りないという要望が多いみたいですね」


「そのようです。少し私の教育が足りなかったのでしょうか」


 悔しそうに眉根を寄せつつ、瞳の奥をメラメラ燃やしている彼女を宥め、僕はソファーで寛いでいるミントさんに話題を振ります。


「玩具収入はどうなってますか? 人員を増加しても給金が賄えそうなら、少しスタッフを増やしたいのですけど」


「厳しいな。最初こそ順調だったがトランプと違ってお手軽感がないのか、売上は下降線だ。スタッフへの給金とは相殺どころか赤字に転落しているぞ」


 ふむ。

 もちろん入場売上でスタッフを賄うことは可能ですが、そうなると十万枚が遠のくばかり。

 ここには手をつけず、他から調達できるのが最善なのです。


「園内店舗からの収入はどうです?」


 今度はラムストンさんへお話を振ってみます。

 彼はミリアシス教のグッズを一手に引き受けていた商人ですが、今はそれを下の者に任せ、ディータランド専属となっているのです。


「こちらは順調でございますです。しかし人件費はすでにこちらからも捻出しておりますし、増員となると難しいところですな」


 むむむと腕を組んで考え込むラムストンさんに同調し、僕達も頭を悩ませます。

 今この場にいるのは、僕のほかにラシアさん、ミントさん、ラムストンさん。

 これが実質ディータランドの経営陣なのです。

 実際のところ全然足りていないので、ここにももう少し人手が欲しいと考えているところ。


 ちなみにシフォンは同席していません。

 彼女には永久パスポートと園内での飲食無料券を渡してありますから、今日も遊びまくっていることでしょう。


「想定以上に人が必要なものだな。なんならエルフ族からもう少し連れてくるか? 社会見学も兼ねてるから、薄給でも問題ないぞ」


「それは申し訳ないので止めておきましょう」


 しかし本当に人が足りない。

 一番の悩みどころは、清掃スタッフの足りなさでしょうか。

 東京ファンタジーランドはゴミひとつ落ちてなかったですからね。

 夢の国を謳うのであれば、あれくらい徹底しなければなりません。


 それに開園してすぐに発生した問題として、迷子の多さ。

 一日に、平均五十人ほど迷子が発生しています。

 そのたびにスタッフ一人が掛かりきりとなって一緒に両親を探すのですが、すぐに見つかるとは限りません。

 そうなると迷子の子供をセンターでお預かりし、その特徴をメモした紙を各ゾーンに通達。

 広大な敷地ですから、それだけで何人ものスタッフが必要になってしまうのです。


 仮に通信手段があればこれらの手間や人件費も削減できるのですが、こちらにはありませんからね。

 電話や無線。

 実に欲しいところです。


「あぁ、それと言い辛いことなのですが……」


 人件費問題に頭を悩ませていると、ラムストンさんが更に問題が発生していると、申し訳なさそうに懐から紙を取り出しました。

 どうやら苦情のようです。

 なんでしょうか?


「ミリアシス大聖国の商工会からなのでございますですが、宿が足りないという問題が起きているそうなのです」


「宿……ですか?」


「はい。なにしろ最寄の宿泊施設となるとミリアシスですから。ほとんどのお客様は、あちらで一泊してからこちらに向かうのが一般的なようで」


 あぁ、なるほど。そういうことですか。

 異界と違って交通の便がよろしくないこちらの世界。

 せっかくのディータランドを開園から閉園まで楽しもうと思ったら、前日に近いところで一泊しなければなりませんし、遊び終わってからも一泊してから帰るのでしょう。


「どこの宿も満室で、溢れた旅行客から苦情が出たり、路上で寝泊りしている人も多いとか。ミリアシス様のお膝元なのでそう滅多なことにはなっておりませんですが、今後治安の悪化が懸念されているのです」


「聖選中もかなりの人数が流入していたと思うが?」


「ミント様のご指摘も最もですが、あれは期間限定。それに見物客も朝から晩までミリアシスに滞在することはあまりなく、ロコロルの港町に宿を取っていたりする人も多かったのですよ」


 一方こちらは年中無休ですしね。

 今後ずっと放置出来る問題ではないのでしょう。


「でしたらディータ様。ランド内に宿泊施設を作ってはいかがでしょう? そちらも売上が見込めますから、人件費問題も解決ではありませんか?」


 ラシアさんはそう提案してきましたが、それも少し難しいのですよ。

 何分このディータランドは色々詰め込みまくりましたからね。

 敷地内にはもう余裕がありません。

 追加で敷地購入となれば資金が必要になりますし、聞いた話だとこの辺りの地価が凄まじい勢いで上昇しているのだとか。

 ちょっと手が出ないお値段なのです。


「建造出来ても一つか二つ。スタッフも新たに回さなければなりませんし、すぐにというわけには……」


「そうですか……。差し出がましいことを言ってしまい申し訳ありません……」


「いえいえ! ラシアさんにはいつも助けて頂いてますし、とても参考になるご意見でしたよっ!」


 すぐさま俯いてしまったラシアさんに申し訳なく思い、うなだれた頭をポンポン叩いてフォローすると、にへら~っとラシアさんは顔を綻ばせていました。

 一方で、それを見ていたミントさんが対抗意識でしょうか。


「ランド内じゃなければいいんじゃないか!? ランドの外に作ればいいと思うぞ! そうだろ!?」


「土地を買うお金がないですし」


「安そうなところを借りればいいっ!」


 そう申されましても……。

 なんかミントさんがグイグイ頭を押し付けてきてますが、それを手で押し退けつつ考えます。

 近場にある安そうな土地。


 ……あ。

 ありますね。

 ありました。


「ちょっとミリアシスまで行ってきます」


 思い立ったが吉日とすぐに立ち上がった僕を、ミントさんが涙目で見上げてました。

 なんで睨むんですか……。

 銀髪のサイドテールが、悲しげに揺れています。


「雇用待遇の改善を要求するっ!」


「お給料出してるじゃないですか。しかもちょっと多目に」


「そうですよミント様。それ以上は強欲かと」


 窘めるようなラシアさんを睨みつけ、再びミントさんは僕に吼えます。


「そういうんじゃないっ! ほらっ! 分かるだろっ! 分かれっ!」


 いや分かりませんからゴツンゴツン頭突きしてくるの止めて下さい痛いです。


「雑だっ! ディータは私に対して雑すぎるっ!!」


「そんなことないと思いますが」


「あるっ!」


 なんだかプンプンしてしまったミントさんに困惑しながらも、僕はミリアシスへ行く準備を始めます。

 問題は一つ一つ解決していきましょう。



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