表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/147

86話 僕は感極まったようです

 突然暗所から明るいところに出るので、一瞬目の前が真っ白。

 そして目が慣れると、一面の花畑が飛び込んでくるのです。

 当然これも計算された演出の一つ。

 ただ見せるよりこの方がロマンティックだと、ラシアさんが提案した演出です。


「まぁ綺麗ね~。これだけの花をよく集めたわ……あら? でも変ね? この辺りには咲かない花もあるし、季節はずれの花も。それに見たことのない花まであるわ」


 感嘆に眉尻を下げていたマルグリッタさんですが、今度は困惑に眉を寄せ、こちらを向いて説明を求めてきたのです。


 何も難しいことじゃありません。

 単純にこの花畑が、全部僕の折紙で作られているというだけのことですから。

 今やどんな花でも折れるくらい、僕の折紙スキルは上達しているのですよ。


 ただしすべてを一人で折るとなると、どれだけ時間がかかるか分かりません。

 そこで考えた方法は「あと一折」作戦。

 スタッフの方々に手伝ってもらい、あと一折で完成というところまで折っておいて頂くのです。

 最後に僕が一折すれば、見事本物の花になるというわけ。

 これはミントさんが思いついた方法なのですが、凄まじく便利ですね。

 あと一折の状態で色々持っておけば、戦闘中とかに一瞬で武器なんかを作り出せそうです。


「花の種類は毎月変える予定だから、毎月来るといいぞ!」


「それは楽しみね」


 ミントさんがマルグリッタさんの手を引き、僕の代わりにご案内でしょうか。

 このゾーンにあるアトラクションは、定番のコーヒーカップ系やメリーゴーランド系。

 ふんだんに装飾した可愛らしい観覧車もあるので、女性向けのゾーンとなっています。


 なんとなくゆったりした雰囲気のフラワーゾーンですから、スタッフさん達が働きたいゾーンランキングでも堂々の二位。

 このゾーンを受け持ちたいという方は、大勢いらっしゃるのです。

 けどこのゾーンのスタッフさんは


「ミントさんじゃないですか! 視察ですか?」

「婿殿もご一緒だ。さては新婚旅行ですね!」


 エルフさん達にお任せしてあります。

 なんでも歳若い……といっても、人間年齢で五十歳以上の方ばかりですが、彼等はポーシーと交流を持つようになり、人間に興味が沸いたそうなのです。

 そこで社会化見学を兼ね、こちらで働いて貰うことに。

 ここはミリアシス大聖国の庇護下にあるので奴隷にされる心配もありませんし、フラワーゾーンとエルフさん達の相性も抜群。

 とても美しい世界観を演出できているのです。


「し、新婚旅行とか何だその嬉しい提案っ! 族長の娘だからって、あんまり煽てるもんじゃないぞっ! よし来いっ!!」


 同族の方々に囲まれてミントさんも嬉しそう。

 それをマルグリッタさんと一緒に微笑ましく眺めつつ、ディータランドの案内を続けます。


 クレープを食べながらの観覧車を甚くお気に召したらしいマルグリッタさんは、次にラスベガスゾーンをご所望。

 もっとも華やかであると同時に、もっともスタッフから恐れられている場所です。

 というのも


「ようこそいらっしゃいました。本日は存分にお楽しみ下さい」


 王宮仕込みの完璧な挨拶で出迎えてくれるのは、いつにも増してメイド姿が似合うラシアさん。

 ディータランドで働くスタッフの総監督である彼女は、ここが担当ゾーンなのです。


 ラシアさん流新人教育はかなり熱のこもったものだったらしく、ある種のトラウマを抱えることになったスタッフもちらほら。

 そんなわけで、日常的に彼女の目が光るこのゾーンは、働きたいゾーンランキングで圧倒的最下位。

 得票数わずか三票という快挙に、ゾーン長であるラシアさんはニコニコと。そりゃあもう良い笑顔で微笑んでいたそうです。

 それを見たスタッフさん達が何人か泣きながら辞表を提出してきたので、総支配人である僕は雇用待遇の改善に頭を悩ませるところでしょうか。


「こちらのゾーンは五つのフロアで構成されており、各フロアごとに様々な遊戯を楽しむことが出来るようになっております」


 そんな全スタッフを恐怖のどん底に陥れていたラシアさんは、にこやかな笑顔でマルグリッタさんをご案内。

 それに従い、僕達も各フロアを廻っていきます。


「最初はお馴染みのトランプフロアです。ディーラーとのポーカー勝負や、ブラックジャックをお楽しみ頂けます」


 薄暗い照明のフロアには、高級感溢れる真紅のカーペット。

 あちこちで飲み物を配り歩くメイドさん達もいますし、少し大人な雰囲気なのです。


「ディータさん? 賭け事は駄目だと言った筈ですが」


 僕はジュースを受け取りながら、眉根を寄せたマルグリッタさんにご説明でしょうか。


「もちろん金銭のやり取りは禁止しています。各勝負でディーラーに勝利すると勝利コインが貰え、それを集めることで景品と交換出来るようになっているんです」


 ちなみに景品として用意しているのは、各種ぬいぐるみやアクセサリー風の玩具など。

 女性や子供を多く呼び込むことで、フロア内のイメージと売上を向上させる狙いです。


「なるほど。それなら健全に楽しむことが出来そうね」


 フロア内の雰囲気を見て取り、マルグリッタさんも納得したご様子。

 カード勝負ではしゃぐ子供を見て、目を細めていました。


「他のフロアも似たようなもので、ルーレットやダイスを使った本格的なフロアから、オセロやチェスなどのボードゲームフロアと様々です」


「ということは、ディータさんが売っている玩具の宣伝も兼ねているわけね?」


「そういうことだ。ただしここで売っているのはディータランドだけでしか買えない特別デザインになっているがな」


 グッズ系を考案、販売しているミントさんは、どうだと言わんばかりに胸を張っています。

 やはり彼女はそっちの才能があるのかもしれませんね。

 ただ楽しませるだけじゃなく、確実に利益を出していく。

 ディータランドの経営に、無くてはならない人材なのです。


 感心しきりのマルグリッタさんは、もうすっかり楽しんでいるようで、遅めの昼食を取ったあとはお買い物ゾーンでショッピング。

 そのあとは夜のパレード見学となりました。


 ディータランドの象徴として、中心に鎮座する巨大ロボット。

 それをぐるりと外周する歩道を、イルミネーション鮮やかなパレード隊が行進していきます。


 自動車……は無理だったので、乗り物は馬車。

 もちろんふんだんに装飾をあしらっているので、大国の王族専用馬車にも見劣りしない豪華な馬車です。

 先頭を行く馬車の上には、我等が聖女様。

 エリーシェさんの姿がありました。

 纏っているのはミリアシス様が着ていた服装を真似た、白くて美しいドレス。

 電飾が施されたそれは神々しく、見るもの全てを魅了していることでしょう。


 ただしエリーシェさんに動きはありません。

 本人は踊ったり歌ったりしたかったようですが、全て却下させてもらいました。

 彼女が口を開くたび、神性数値がだだ下がりしますからね。

『とにかく動くな』

 これが僕達ディータランドサイドから出した注文なのです。


 それゆえに、両手を広げた状態を維持しつつ薄く目を開けて微笑むエリーシェさんの姿は、とてつもなく神秘的です。

 下から照らすように配置した光源の演出も相まって、まるで神様のよう。

 エリーシェさんか煎餅かと聞かれたら、僕は迷わず前者を崇めるでしょう。

 沿道に詰め掛けているお客さん達の中には、涙を流しながら拝み始めている人もいるほどです。


「聖女様は面白い方と聞いてましたが、その認識を改めなければならないわね。ここまで神々しい聖女様は、歴代の中でも初めてではなくて?」


「なら良かったんですけどね……」


 隣で観覧しているマルグリッタさんも、エリーシェさんの聖女力に感動しているご様子ですが……。

 ほら。調子に乗り始めたエリーシェさんが、少しずつ沿道に手を振り始めましたよ。

 嫌な予感がします。


「おい」


「分かってます」


 手を振る速度がだんだんと速くなっていくエリーシェさん。

 満面の笑顔になった彼女は、やがてすーっと大きく息を吸い込み声高らかに宣言したのです。


「エリーシェ、歌いま~すっ!」


「確保ぉっ!!」


 馬車の周りで踊っていたダンサー隊が隊長の合図でエリーシェさんへ飛びかかり、彼女を馬車の中へと素早くボッシュート。


「何をす――ん~っ!?」


 口を塞がれたままエリーシェさんは、馬車の中へと消えて行ったのでした。


「……」


 一瞬唖然とする観衆ですけど、フォローも完璧です。


「ふははははっ! 聖女は頂いたっ!」


 代わりに馬車からブラックニャー助君が飛び出し、寸劇の始まり。

 ダンサー隊もそれに合わせて黒い衣装にチェンジしてます。

 次いでニャー助君が馬車から現れ、ブラックニャー助君と死闘を演じながらパレードは続くのです。


 観衆の皆さんも「あぁ、そういう演出か」と納得されたご様子で、再びパレードを楽しみ始めていました。

 エリーシェさんの暴走など計算済みですからね。

 この為に準備はしてあるのですよ。


 その後も音楽隊や仮装隊によるパレードは続き、最後に花火を打ち上げて閉園時間のお知らせ。

 ゾロゾロと、お客さん達は地下の駅へと向かっていました。


 疲れ果てた子供を背負うお父さん。

 両手にお土産を抱えたお母さん。

 名残惜しそうに巨大ロボを何度も振り返る子供達。

 ぴったりと寄り添いながら、思い出を語り合う若いカップル。


 その皆が少しの寂しさを感じさせる笑顔のまま、ディータランドを去っていく姿は、自然と僕の顔にも笑顔を刻ませてくれます。

 あちこちに頭を下げ、異界を行き来し、さんざん悩み、折紙を折り続けた日々。

 それが報われる瞬間でしょうか。


「まだスタートしただけだぞ? 明日からも続くんだから、泣いてる暇はないだろ」


「な、泣いてなんかいませんし!?」


 慌てて否定する僕を、ミントさんとマルグリッタさんが微笑ましそうに見つめていました。


「そういうミントさんも少し瞳が潤んでいるじゃないですか」


「そ、そんなわけあるか! ……はっ! そうかっ! どんなに泣いても助けなんか来ないぜぐへへプレイだなっ!? 若い力を持て余しやがって……っ! よし来いっ!!」


 全てのお客様を見送り、マルグリッタさんからも「大満足」という評価を頂き。

 ディータランドは最高の初日を終えたのでした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ