85話 僕とマルグリッタさんの園内巡り
それからの日々は慌しく過ぎていきました。
ディータランドの外観はほぼ完成し、神獣さんはモーターの部品製作に移行。
異界に渡っていくつかの小型中型モーターを手に入れたり専門知識を図書館で吸い上げまくった僕は、ミントさんと一緒に神伝えの石を用いた電動装置の開発を終えていたのです。
科学と魔法のハイブリッドモーターは予想以上にうまくいき、しかもエコ。
異界に輸出したいくらいの出来栄えだと、納得の完成度でしょうか。
すでに試作品もいくつかが完成しており、稼動実験も順調。
電車やジェットコースターが動く日はもうすぐそこです。
そうした研究開発の傍らで、毎日毎日折紙も折っています。
内職の達人になったかのごとく、そりゃあもう折りまくっているのです。
これは施設内の装飾品になる予定。
テーブルや椅子などはもちろん、雰囲気作りの為の小物や、アトラクション内のギミックなど、ほとんどが紙製。実に経済的なのです。
ちなみに、どこにどういう物を配置するのか決めるのはシフォンのお仕事。
毎日楽しそうにお絵かきしながら「……ここはこう!」と、僕に指示を出してきています。
彼女のセンスは僕の労働力を無視しているので、紙を折る速度が全然追いつかないのですけどね。
夜になったら寝る前の日課として、神伝えの石に初級雷魔法を乱発でしょうか。
ありったけの魔力で、フラフラになるまで続くレシビルフェスティバル。
おかげで泥のように眠り、夜はぐっすり爆睡です。
ラシアさん率いるスタッフ隊の人数も日々増加し、本番さながらの訓練が行われているようです。
彼等の給金に関しては予定通りオセロやスゴロク、野球盤なんかの利益が充てられている模様。
今のところ賄い切れているようなので、ミントさんの商才に脱帽でしょうか。
ラムストンさんはあちこちで手の空いている商人さんや店舗経営者に声をかけ、施設内に店舗を誘致して下さっています。
店舗自体はほとんどがすでに完成しているので、希望者は品物を運び入れて内装を整えるだけ。
かなりの集客が見込めそうだということで、こちらが想定していたよりも希望者の数は膨れ上がっているらしいです。
嬉しい悲鳴というやつですが、もう少しお買い物エリアは増築しなければならないかもしれませんね。
もちろんその中には、マルグリッタさんが再現した異界デザートを提供するお店も含まれています。
僕達も試食させて貰いましたが、一口食べたシフォンが足をバタバタさせて喜んでいましたし、こちらは成功が確約されているようなものでしょう。
名物店となるのは間違いありません。
他にも様々なイベントや企画の提案があがってきています。
例えばプールエリアを夜間だけ凍結させて行う氷上ミュージカル。
各地を回る有名な劇団にツテがあるというニルヴィーさんの案です。
エリーシェさんからはニルヴィーさんに対抗して、聖女様の布教コンサート案。
言わずもがな即効で却下です。
彼女はディータランドを壊滅させるつもりなのでしょうか?
もっともお隣のミリアシス大聖国には配慮しなければなりませんし、そういう意味でもエリーシェさんに参加してもらうことには意義があります。
なので彼女には、時々ですが夜のパレードに登場していただく手筈。
幻想的なイルミネーションの中、パレード車に乗って園内を練り歩く聖女様とニャー助君御一行。
ミリアシス教の布教にも一役でしょう。
あ、ニャー太君だと丸ぱくりなのでニャー助君という名前に変更してあります。
こちらで著作権や肖像権などを訴えてくる人はいないと思いますけど、良心的にアウトなので。
とそんな感じで着々と準備は進み――
「いよいよだな」
着工から四十日。
ディータランド、本日開園の運びとなりました。
正門前ホームには、すでにズラーッと長蛇の列。
施設内に店舗を構える商人さん達や、ミリアシス教の方々が積極的に宣伝してくれたおかげもあり、開園初日は大盛況でスタートが切れそうです。
「間もなく出発となります。危険ですので外に手を出さないようにお願い致します!」
レシビル電力で動く機関車を先頭に、トロッコに屋根を付けたような形の客車が十五両編成。
もう少しちゃんとした客車にしたかったのですけど、これが精一杯でした。
一応座席も付いていますし乗り心地は悪くないので、ミントさん曰く及第点とのこと。
改良の余地は多分に残っているでしょう。
お客さんが乗り込んだのを見計らい、スタッフさん達が一斉に「いってらっしゃ~い!」の掛け声。
それとともに、電車が動き出します。
初めて乗る電車にワーキャー騒ぎながら手を振り、楽しそうに正門地下入り口へと下っていく皆さん。
乗り切れなかった方々はそれを羨ましそうに見送りますが、すぐに次の電車がホームに入ってくるのです。
「慌てなくても電車は次々来ますから、落ち着いてご乗車ください!」
通勤ラッシュの山手線状態ですねこれ。
施設の反対側にも入り口ホームを作るとか、なんらかの対策が必要かもしれません。
早くも課題を発見でしょうか。
そんな風に列を眺めていると、隣のミントさんに袖を引っ張られました。
「来たみたいだぞ」
振り返れば、そこに居たのは我等が大スポンサー様。マルグリッタさんです。
あまり畏まらない格好でお願いしますと伝えていたのに、明らかに周囲から浮いてしまう豪華なドレス。
今日という日に対する期待感の表れかもしれません。
「今日はお招き頂きありがとう。楽しませてもらうわね?」
「はい。マルグリッタさんを必ずご満足させてみせます!」
今日は記念すべき開園の日ですが、同時に試験の日でもあるのです。
なにしろこの土地は全てマルグリッタさんのものですし、開園準備に際していくらかお金も都合していただいています。
それらが納得いく形で使われているのか。
マルグリッタさんは、それを確かめに来たのでしょう。
緊張した面持ちで僕はマルグリッタさんを客車にエスコートしますが
「心配しなくていいと思うぞ? あの顔を見てみろ。単純に楽しみに来たお婆ちゃんの顔だ」
ミントさんはリラックスしながらマルグリッタさんを指し、ククッと喉を鳴らせたのです。
「あらあら心外ねぇ。私は出資者としての義務を果たすために――」
「なら普通の格好で来いよ。まるで初めて男に誘われた初心な乙女みたいじゃないか」
「女はいくつになっても乙女なのよ?」
パッと見ではお婆ちゃんと孫のようなお二人ですが、まるで同世代のように楽しくじゃれ合いながら、いよいよ電車が出発。
後発を待つ見送り組に手を振って応え、正門から地下へ続くなだらかな斜面をゆっくり電車が潜っていきます。
一瞬真っ暗闇になり、他の乗客達からは不安を感じる小さな悲鳴。
ですが直後。その声は感動の声に変わるのです。
「ふわぁ……」
「きれ~い……」
「すげぇ……」
電車が進む地下道は正門からぐるりと外周を回り、その間に八つの駅があります。
お客さん達は好きな駅で降りて園内へ出るのですが、それだけではつまらないというのがシフォン案。
彼女は地下道の壁や天井にブラックライトで光る絵を描き、まるで海の中を進んでいるような雰囲気を作り出したのです。
ところどころに七色に発光する魔晶石も散りばめ、幻想的な景色。
見蕩れるあまり降りるべき駅を乗り過ごす人が続出するという、極悪トラップとなりました。
「素晴らしい景観ね。あら、あの可愛らしい絵はシフォンさんの作かしら?」
「そうみたいですね。プロの絵描きさんにお願いした筈なんですが、シフォンもあちこちに描いているみたいで……」
「私も描いたぞっ! ほら、あそこっ! あのクジラを描いたのが私だっ!」
「どう見てもフグですけど」
どうりで落書きっぽいものも混ざっている筈です。
まぁそれも合わせて個性ですし、プロの方がそれすらも活かして描いてくれているようで、良いアクセントになっているのですが。
「これを見れただけでも来た甲斐があるわ」
「おいおい。見せたいものはまだこれからなんだから、こんなところで満足するなよ?」
ぐんぐんハードルを上げていくミントさんに苦笑ですが、しかし僕も同じ気持ち。
お見せしたいものはまだまだあるのです。
いくつかの駅を通り過ぎ、僕達が降りることにしたのはフラワーゾーン駅。
僕としてはアドベンチャーゾーンやSFゾーンがオススメなのですけどね。
とくにSFゾーンで体験出来る「ロボット対戦」は自慢のアトラクションです。
人形遊びスキルを利用して、お客様は人形を操ることで本物のロボットが操縦出来るのです。
全長五メートルのロボット同士が戦う様は大迫力なので是非見て頂きたいのですけど、マルグリッタさんをエスコートするならもう少し静かで景観を楽しめる場所の方が良いでしょうから。
速度を緩め、ゆっくりとホームに到着した電車。
降りてからは、薄暗いトンネルを歩いて昇ります。
もちろんトンネル内は足元を照らしてありますし、急勾配ではないので危険もありません。
細く蛇行するトンネルをしばらく歩くと、途端に視界が開けました。
いよいよディータランドの内部をご案内です。




