83話 僕は意外なところで意外な方に再会です
無事に神獣さんと神伝えの石をゲットした僕は、さっそくディータランド建設工事に着手しました。
瞬く間に整地され、巨大建造物が地面から生えていく様は圧巻。
さすがは神獣さんなのです。
本人もム~ラムラを解消しつつ、見たこともない建物群を作るとあって実に楽しそう。
積極的に「ここはこうした方がいいっぺ?」と、意見を出して下さるほどでした。
そしてディータランド予定地の大工事が始まってから一週間。
今日はお引越しです。
いつまでも宿屋暮らしでは、無駄な出費になってしまいますからね。
神獣さんにお願いして、スタッフが寝泊り出来る区域を先に作ってもらうことにしたのです。
「やっとこのボロ宿ともおさらばだな!」
「……ん」
出費を抑える為ミリアシスではかなり安い部類の宿を借りていたので、シフォンとミントさんは引越しに際して晴々としたお顔。
少し後ろで宿の女将さんが睨んでいますよ?
「でも向こうがどんな部屋になっているか分かりませんからね? 神獣さんに一任してあるので、部屋の大きさなんかは僕も関与してませんし」
「ここよりはマシだろ? ベッドの両側が扉ってなんだよ。欠陥建築か? 無理矢理すぎるだろ」
だからやめなさいって。
女将さん、顔から噴火しそうじゃないですか。
ちなみにラシアさんは一緒じゃありません。
彼女は集まったスタッフ候補の方々と共に、教会で寝泊りしながら教会のお手伝いをしているのです。
それによりきっちりとした礼儀作法を叩き込みつつ、教会から給金も出るので一石二鳥。
なんともお得な新人教育方法なのでした。
ただ彼等も近々ディータランドで働いてもらうので、そのためのお金も捻出しなければなりません。
トランプで入ってくる収入だけでは少し心許ないので、その辺りはミントさん任せ。
どうやらオセロやスゴロクなどのボードゲームを中心に、ラムストンさんに売り込みをかけているご様子です。
『大船に乗ったつもりでいろ!』と船に弱いくせに言っていたので、たぶん順調なのでしょう。
「忘れ物はありませんか?」
「……ない!」
「靴下がベッド脇に落ちているのですが?」
「……すこししかない!」
少しもない方向でお願いしたいです。
とまぁそんな感じで、僕達は宿を出発。
歩いて行くには少し距離があるので、一度西地区へ向かってから馬車を借り、それでディータランド予定地へ向かいます。
たいした荷物ではないので僕が背負い、妹達と手を繋ぎながら街の中心地まで。
すると大聖堂前に、長い行列が出来ていました。
「はぁい! 横入りは駄目ですよぉ! ちゃんと一列になってお並び下さいねぇ!」
それを整列させているのは、ラシアさんが雇ったスタッフ候補さん達ですね。
実に良い訓練になっていると、僕はほくそ笑むところでしょうか。
「ディータ様! これからお引越しですか? 言って下さればお手伝い致しますのに」
しばしスタッフさん達の働きを眺めていると、僕達に気付いたラシアさんが駆け寄ってきました。
彼女もスタッフ教育に満足しているのか、晴れやかなお顔です。
「順調そうですね」
「はい、とても。ちょうど人がたくさん集まる機会に恵まれていますので、良い訓練が出来ていると自負しております」
「それはなによりです。ところでこの行列、なにごとなんですか?」
長い列は大聖堂の入り口に向かっていて、時折中からはガッカリした方が出てきています。
その全てがどうやら冒険者のよう。
戦士系の方や魔法使い系の方と職種はバラバラですが、腕に自信ありという風格が漂っているのです。
「彼等はみな勇者を目指す方々なんですよ。大聖堂の中には聖女様がいらして、訪れる冒険者達に勇者適正があるのかどうか確認しておられるのです」
というとアレですね。
世界に七つばら撒かれているという勇者の加護。
それを持っているのかどうか、エリーシェさんがミリアシス様と交信しながら確認しているのでしょう。
「ディータ様もいかがですか? あれだけのお力をお持ちなのですし、勇者に相応しいかと思うのですが」
「あ、止めて下さい。それ以上は僕の心が持ちません」
煎餅のニヤケ顔を思い出し、ちょっと涙目の僕でしょうか。
しかし霞む視界の向こう。
並んでいる冒険者さんの中に、僕は見知った顔を見つけてしまいました。
おや?
なぜあの方が?
「すいません。ちょっと知り合いを見つけたのでご挨拶してきます」
「それは良いですけれどどなたですか? どういったご関係で?」
ラシアさんが首を傾げるので、僕は目当ての冒険者を指で指し示しました。
「あの女性です。以前お身体を使わせていただいたことがあるので」
見つけてしまった以上、挨拶せずにはいられないお相手です。
僕は荷物をミントさんに預け、小走りで行列に近付いて行きました。
「か、身体を使ったってなんだっ!? おいメイドっ! どういうことなんだよっ!!」
「わ、私だって存じません! ディータ様がいつの間にか穢れていたなんて……。い、いえ、ディータ様のことですから、もしかしたら違う意味が――」
「違う意味ってなんだよっ! 他にどんな意味があるって言うんだっ!?」
「え、えっと……分かりませんっ!!」
なにやら悲鳴めいた声が後ろから聞こえますが無視。
僕は彼女に、お礼とお詫びをしたいとずっと思っていたのですから。
「すいません!」
肩を軽く叩いて声を掛けます。
すると振り返った顔は、間違いなくあの時の女性でした。
「はい?」
けど、僕は続く言葉が出てこなかったのです。
だって、彼女の名前を知らないのですから。
それに彼女の方も、僕のことは覚えていないはずですし。
どうしましょう……。
あ、いや、名前。名前を聞いた気がします!
確かナティが言っていた筈……。
「リ、リゼさん、ですよね?」
外しましたか!?
聞いてみた途端、女性の目が不審者を見る目に変わったのです。
「えっと、あの洞窟でですね! ナティと一緒で、ケルベロスさんがですね……」
パニックです。
冷ややかな視線を浴びて、僕はパニックなのです。
これでは完全に路地裏の変態ではないですか。
遊び人はやはり変態と紙一重なのでしょうか……。
しかし彼女は何かに気付いてくれたらしく「あっ」と声をあげて僕の手を掴みました。
途端に後方から悲鳴が上がりましたが、そこは放置しておきましょう。
「ナティって、もしかして王女様のこと? ならひょっとして、君はディータ君なのかな?」
「あ、はい! そうです! 初めまして……じゃないですね。会うのは二回目なので。でもこうしてご挨拶するのは初めてです」
「私は三回目だけれどね。でも、うん。初めまして。私はリルゼって言います」
そうして握手を交わし、リルゼさんは列から出てきてしまいました。
「いいんですか? せっかく並んでいたのに」
「いいよ。並んではみたけど、私なんかが勇者なわけないしね。それより私も君とお話したいと思ってたんだ。時間があるならちょっと付き合ってくれないかな?」
チラっと後ろを見ると、ラシアさんとミントさんがこの世の終わりみたいな顔をしてます。
二人とシフォンには申し訳ありませんが、僕もリルゼさんとお話しなければならないので、ここは彼女に付き合いましょう。
「もちろんです。少しお待ちください」
リルゼさんには了承を伝え、その足で僕は三人の下へ。
ラシアさんとミントさんの顔の前で手をひらひらさせ、意識があるのを確認してから
「すいません。少し用事が出来ましたので、どこかで待っていていただけ――」
「差し支えなければっ! 私もお供したいのですが、もちろんよろしいですよね?」
「当然だよなっ!」
グイグイきますね。
ミントさんはともかく、ラシアさんはお仕事中では?
「いいんですっ! 仕事などにかまけている場合ではありませんからっ!」
「邪魔だと言っても私は着いて行くからなっ!」
邪魔だとは言いませんけど、何故にそこまでこだわるのか。
ちょっと困惑しながらリルゼさんに聞いてみようとすると、彼女もすぐ近くまで来ていたようで
「私は大丈夫ですよ。みなさんもナティちゃん……ナティルリア様のお知り合いですか?」
突然出てきたナティの名前に「おや?」という表情を浮かべた二人と、我関せずモードのシフォンも連れて、僕達五人とおそらくリヒジャさんは、近くのカフェへと場所を移したのでした。




