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7話 僕は決意を固めます

 今一度状況を確認してみましょう。

 イビルごっこをしました。サティさんを捕まえました。サティさんがイビルデーモンになりました。


 意味が分かりません。


 けどサティさんは、自分の姿が変わったことに気付いていないようです。

 口調も立ち居振る舞いもメイド然としており、凄まじくアンバランス。

 ちょっとしたホラーですね。


 でも当然ながら、王女様は呆然としています。

 あの表情が崩れた時、大声で叫びだすのは間違いないでしょう。


 これが異常事態だっていうことは分かっています。

 原因は、僕が捕まえたからでしょうか?

 少し魔力を使った感覚があったので、遊び人のスキルだったんだと思われます。


 問題は、これがどういう能力なのか、ですね。

 例えばイビルごっこで捕まえた相手を強制的にイビルデーモンへと変化させてしまう能力。

 これだったらサティさんはまったく悪くないでしょう。ただの被害者。僕は死刑。


 けどそうじゃない場合。

 つまり、捕まえた相手の正体を暴くようなスキルだった場合。

 これだとサティさんは本当にイビルデーモンで、正体を隠して王宮に入り込んでいたっていうことになります。

 この場合、かなり話が変わってくるのではないでしょうか。


 サティさんは、自分の姿がイビルデーモンの姿に変わっていると気付いていません。

 けど正体が見破られたと知れば、形振り構わず襲ってくる可能性が高いのです。


 スキルの能力がどっちなのか。

 確認する方法はあります。

 今度は王女様かシフォンを捕まえてみればいいんですから。


 それで姿が変わってしまったなら前者。

 変わらなければ後者ということになるでしょう。


 ……でもそれは、リスクが高いのです。


 前者だった場合、王女様かシフォンの姿を醜いイビルデーモンに変えてしまいます。

 元に戻る可能性は、現状では何とも言えません。


 でも後者だった場合、放っておいたらいずれサティさんは異変に気付くでしょう。

 そうなった時、王女様とシフォンを守りながら撃退出来るほど、イビルデーモンは弱い魔物じゃないのです。

 半端な元賢者なんて、返り討ちにされるのが火を見るより明らかでしょうね。


 と、視界の端で、シフォンがトントンっと自分の胸を叩いているのが見えました。

 その意味に気付き、僕は信じられない気持ちになってしまいます。


 シフォン?

 もしかして、自分を捕まえろって言っているんですか?

 僕が今考えていたことを、シフォンも考えていたってことなんですか?


 驚愕する僕の瞳に、ニコッと笑うシフォンの顔が映りました。


 時間はありません。

 王女様が叫んでしまい、サティさんが異変に気付くまで、あと十秒とかからない筈です。



 ……くっ!!



 僕の足が絨毯を蹴る。

 向かうのは、一直線にシフォンのもと。


 根拠のない笑顔。

 その可能性に、僕は賭けることにしたのです。


 怪しまれないように、一瞬だけ逃げる素振りをみせたシフォン。

 その肩に、僕は優しく手を置きました。


 もしこれでシフォンがイビルデーモンになってしまったら、一生面倒みますからっ!


「捕まえましたっ!」


 ビクッと王女様の肩が遠くで震えたのを感じます。

 でもそれより、今はシフォンがどうなったのか。

 そっちのほうが大事なのです。


「……つかまった」


 ペロっと舌を出して観念したシフォンの姿は……。



 大丈夫。

 小さな女の子のままでした。


 ふぅ……っと長い息を吐き出し、僕は王女様に視線を移すことにします。

 彼女は信じられないという顔をしていました。

 そりゃあそうでしょう。

 目の前にイビルデーモンがいるのに、なんで貴方達普通にイビルごっこ続けてんのよっ!

 そんな言葉が、今にも聞こえてきそうです。


 実際にその言葉が王女様から漏れる前にと、僕は再び疾走。

 あっという間に王女様の下へ辿り着き


「捕まえましたっ!」


 言いながら、手の平で彼女の口元を覆い隠すことにしました。

 反射的に暴れだそうとする王女様だったけど、その耳元に口を近づけ、語りかけるように囁きます。


「サティさんはまだ自分の正体がバレたって気付いてません。気付かれたら大変なことになるので、何事も無いように演技してもらえますか?」


 なっ!? と言わんばかりに目を見開き、一瞬だけその視線がイビルデーモンに向かいました。

 けどすぐに状況を察したのか、暴れていた身体から力が抜け、僕に戻ってきた視線が了承を示しています。


 これで第一関門クリア。

 あとは、どうやってイビルデーモンから逃げ出すか……。


 いや、逃げるのも厳しいでしょうね。

 やすやすと逃がしてくれるような、甘い魔物じゃないんですから。


 それに例え逃げ出せても、今度はお城の中に大変な被害が出てしまいます。

 下手をすれば、王様だって殺されかねません。

 そんなことになれば、僕の運命も……やっぱり死刑ですかね。


「さすがディータ様。やりますね」


 そうとは露知らず、本物イビルさんからお褒めの言葉を頂いてしまいました。

 ありがとうございます。


「次は隠れごっこなどいかがでしょう?」


 そして、新たな遊びを提案する元サティさん。

 命がけの遊びになりそうだけど、悪くない提案でもあります。

 走り回るより、隠れてゆっくり考える時間が欲しいのですから。


「い、いいわねっ! さすがよイ、サティ!」


「恐縮ですナティルリア様」


 声が震えちゃってるけど、涙目で必死に演技する王女様凄いですね。

 彼女の勇気を無駄にしない為にも、隠れながらなんとかサティさんを倒す方法を考えなきゃいけません。


「では僭越ながら、最初に捕まってしまった私が探し役を務めさせて頂きます。十秒数えますので、皆様はその間にお隠れ下さいませ」


 そう言って、すぐにカウントダウンが始まってしまいました。


 急いで室内を見渡します。

 隠れられそうな場所は四ヶ所でしょうか。


 クローゼットみたいな扉の中、大きな宝箱っぽい箱、ソファの裏、小さめのタンス。


 ――いや、もう一箇所。


 今は温かいから火のついていない暖炉。

 この煙突によじのぼって足を突っ張れば、なんとか隠れていられそうじゃないですか?


 そこが一番時間を稼げそうだと、僕は一目散にそちらへ走り出したのです


 が――。


「うわっ!」


 急に横から引っ張られ、宝箱っぽい箱の中に押し込められてしまいました。

 慌てて抗議しようとしたら、さらに上から柔らかいものに押し潰されます。

 シフォンと王女様が、一緒に入ってきたのです。


「な、なにしてるんですかっ!」


「シッ! 静かにしないと見つかっちゃうでしょっ!」


「静かにしなくても見つかりますよ! こんな分かりやすい場所!」


「し、仕方ないじゃない……」


 どうやら無理やり押し込めてきたのは王女様の判断らしいですね。

 でも本人は、どんどん気勢を失っていました。


 子供三人とはいえ、ぎゅうぎゅう詰めになってしまった箱の中。

 真っ暗で何も見えないので、自然と聴覚や触覚に意識が集中。

 だから、気付いてしまいます。

 気の強そうな王女様なのに、その身体がぶるぶる震えていたことに。


「怖い……んですね」


「こ、怖くなんかないわっ!」


 明らかな強がりで、こんなことをした理由も判明しました。

 一人で隠れるということが、どうしようもなく怖くて心細かったのでしょう。


 そりゃそうです。

 なにせ探しに来るのは本物のイビルデーモン。

 何かの間違いで彼女が変装の解けたことに気付けば、そのまま殺されかねません。

 いや、十中八九そうなります。

 ちょっと僕のほうが無神経すぎたかもしれません。


「大丈夫です王女様。貴女も、そしてシフォンも。僕が守ってみせますから」


「……んっ!」


 シフォンからも心強い同意を得るが、王女様の震えは止まらないようです。

 密着している身体から、僕の身体まで振動が伝わってきていました。


「む、無理よ……。だってあれイビルデーモンよね? 魔族の中でも中位種じゃない……。なんでお城の中に……サティが……」


 あぁそういうことですか。

 彼女は今の状況を恐れていることもあるけど、きっとそれ以前。

 これまでずっと、すぐ近くにイビルデーモンがいたっていう事実にも恐怖しているのです。


 なら、ここで僕がどうこう言っても解消出来ないでしょう。

 まずは、あれをなんとか倒して、全てはそこからです。


「それでも。絶対なんとかします」


 三人の体温と呼吸でにわかに湿度と温度が上昇してしまった箱の中。

 僕は決意を胸に、サティさんを倒す方法を模索していました。



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