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72話 僕は再びポードランの地を踏む

 大海原の上を、僕達はポードランへと向かっていました。

 文字通り、滑るように。


「は、速いっ! もっとゆっく――ぶはっ!!」


「口は閉じていたほうがいいですよ?」


「そういう問題じ――ぶほっ!!」


 スケートボードでスキルが発動したのだからサーフボードもいけるのでは?

 そんな安易な考えで試してみたのですが、思った通りでしたね。

 今僕達は、サーフボードに乗って海上を進んでいるのです。


 ボードの先頭にはミントさん。

 荒ぶる波飛沫に苦労していらっしゃるみたいですが、船旅よりマシだと思って我慢して下さい。


「ディータ様。休憩はどのように取られる予定ですか?」


 後ろに座っているラシアさんは僕の腰に手を回してしがみ付き、間にシフォンを挟んでいます。

 波を乗り越えるたびにシフォンの顔がラシアさんの胸で潰れ、こちらも大変そう。

 サーフボードに四人乗りはちょっと無理があったかもしれません。

 まぁラシアさんは楽しそうにしていますが。


「休憩は無理ですね。スキルを解除した瞬間転覆するので」


「……にぃ。かくごしておいて」


 ラシアさんに抱えられているシフォンからは、闇の波動を感じます。

 陸地に到着した瞬間、僕を()る気かもしれません。

 ……反抗期でしょうか?


「みなさん陸が見えてきましたよ! もう少しの辛抱です!」


 ロコロルの港を出発してから僅か三時間。

 僕達は、ポードラン大陸へと到着したのでした。



 ……。



「ぐふぅ……。シフォンのパンチ、だんだんキレが増してきてません?」


 到着したのは港から少し離れた砂浜です。

 港にサーフボードで乗り付けては、周りの方々を驚かせてしまいますからね。

 で、さっそく砂浜に降り立った直後、僕のレバーにシフォンのブローが炸裂したといったところ。

 彼女の左は世界に通用するかもしれません。

 一瞬呼吸が止まりましたよ?


「大丈夫ですかディータ様」


 お腹を押さえて唸る僕の背中を、ラシアさんが優しく撫でてくれています。

 ちなみにシフォンとミントさんは、服がずぶ濡れになってしまったので、木陰に行って乾かしているところ。

 それは申し訳なかったと思いますけどね。

 でも船旅では時間が掛かるし、ミントさんがリバーサーになるより良いと思うんですよ……。

 妹達には、僕の兄的気遣いがいまいち届かないみたいです。


「私には分かっております。ディータ様が急いだ理由は、ナティルリア様が心配だからですよね?」


「当然それもあります」


 僕達がポードランに戻った理由。

 それは、ラシアさんから言われた言葉が切っ掛けでした。



 ……。



 ――数時間前。


「違うでしょっ!?」


 ナティの結婚を祝おうとした言葉は、ラシアさんによって粉砕されたのです。


「え? な、何故ですか?」


「ディータ様はそれでよろしいのですか!?」


 ラシアさんが僕の肩を掴み、悲しげな顔でグイグイ迫ってきました。

 和解したミントさんが「お、おいっ!?」と窘めていますが、お構いなしの圧力です。


「ナティルリア様は、ずっとディータ様のことを想っていらっしゃったのですよ!? なのに父である国王陛下が、国威掲揚のために英雄ダグラス様との結婚を無理矢理推し進めているのです」


「それじゃあナティは、結婚を望んでいないってことですか?」


「当たり前です! ナティルリア様は今もあのお屋敷に篭り、毎日泣いておられるのです!」


 あの元気だったナティが引き篭もって泣いている?

 俄かに想像出来ない姿ですけど、それだけ望まぬ結婚ということなのでしょう。

 それは……嫌です。

 初めて出来た僕の友人。

 彼女が泣きながら暮らし、泣きながら結婚するなど、それはとっても嫌なのです。


「け、けど……でもどうしたら?」


 かといって、一般市民である僕になにが出来るというのでしょうか。

 相手は王様です。

 しかも僕を暗殺已む無しと判断したこともある危険王族です。

 僕程度が意見を申し立てたところで、聞いてくれるどころか断頭台にご案内されるのが関の山。

 頭と体がお別れなのです。


「逃げましょう。ナティルリア様を連れ出して、ここまで逃げて来ましょう!」


「ここまでってミリアシスにですか?」


 一国の王女を攫って他国に連れて来るなんて、血迷ったのでしょうかこのメイドさん。

 世間知らずな僕でも、それが外交的に大変なことになることくらい容易に想像出来ます。

 なのにラシアさんは、どこかうっとりと。自分の世界に入ってしまったような顔で言うのです。


「国家を敵に回した愛の逃避行っ! 尊いですっ!」


 真っ先に反論しそうなミントさんが黙っているのは、おそらく呆れているからかもしれません。

 冷め切った瞳で「なに言ってんだこの変態メイドは」みたいな顔をしていらっしゃいますから。

 実際僕も同意見。

 さすがにそれは無茶があります。


 しかしそんなラシアさんに、思わぬ援軍が駆けつけてしまいました。


「話は全て聞かせて貰いましたよ~っ! ミリアシスは全面的に応援します~っ! もちろん聖女権限でっ!」


 バァーンと勢いよく扉を開いて現れてしまったのはエリーシェさん。

 桃色の髪を揺らし、真っ白い聖女服でのご登場です。


「え……と、どちら様でしょう?」


「あ、申し遅れました~。私、聖女をやらされているエリーシェと言います~」


「は、はぁ……。聖女はシフォン様だったのでは?」


 ラシアさんが困惑しているので、仕方なく僕はかくかくしかじかとご説明。

 その間、ミントさんとシフォンは部屋の隅でオセロ遊びを始めていました。

 なんか「関わりたくない」オーラがむんむん出てます。

 まぁ気持ちは分かりますよ。

 エリーシェさんが出てくると、わりと面倒なことばかり起きますからね。


 というか、なんでこうタイミング良く現れてしまうのでしょうか。

 まさか神のお導き?

 あの煎餅なら、僕に嫌がらせしてきてもおかしくありません。


「いえいえ~。今日も東地区の子供達と遊ぶ予定と聞いていたのに、待ってても来ないから迎えに来たんですよ~?」


「そうでしたか。聖女様自らのお迎えなんて申し訳ないです」


「何言ってるんですか~。私とディータさんの仲なんですから水臭いですよ~」


 そんな気安い仲になった覚えもありませんが、否定するとたぶん「雑」な言葉選びで周囲に誤解を撒き散らしそうなので、ここは素直に頷いておくことにします。


「とにかく~、私は大賛成です~。ミリアシス様も仰っていますよ~? 『全て愛の心で行いなさい。さすれば世界は愛で満ちるでしょう』と」


 一昔前なら素直に聞けたミリアシス語録ですが、もう無理です。

 そんな偉そうなことを寝っ転がりながら煎餅咥えて言っているのだと思うと、イラッとしかしませんから。


「それにですね~、貴族や王族の方がミリアシスで出家するというのも珍しいことじゃありませんから~」


 つまりエリーシェさんは、ナティを連れて来て出家させてしまおうと。

 そうすればポードラン国としても手出し出来なくなるので、その後で還俗(げんぞく)すれば良いという考えらしいです。

 ちなみに還俗とは出家した方が俗世に戻るという意味で、普通は聖女様や総主教様の許可が必要なのですが……まぁなんとでもなるのでしょう。

 なにせエリーシェさんが聖女ですから。


 とまぁ良く分からない方向に話は進み、ならば急げと僕達はポードランへ向かうことになったのです。

 シフォンとミントさんまで来る必要はなかったのですが、シフォンはナティに早く会いたいという理由で。

 ミントさんは「そのメイドとお前が二人になるなど危険だ」という理由で、それぞれ着いて来ることになったのでした。

 もう僕を殺すつもりはないでしょうし、危険はないと思うんですけどね。

 ミントさんは、意外と心配性です。



 ……。



「さて、では行きましょうか」


 砂浜でしばらく休んでいると、どうやら服を乾かし終えたのか、シフォンとミントさんが木陰から戻ってきました。

 僕も結構濡れていたのですが、それはまぁいいです。

 ラシアさんは何故かあまり濡れていないようで、聞いてみたところ「水飛沫を避けるのもメイドの嗜み」だそうで。

 恐るべきメイド術です。


「少し歩けば港の馬車停留場があります。そこで馬車を借りて向かうのがよろしいかと」


 そう言うラシアさんに先導されて、僕達は歩き出したのでした。

 今はもう懐かしく感じるポードラン。

 このような形で再び訪れることになるとは、夢にも思っていませんでしたけど。


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