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70話 僕はミリアシスで再会しました

 スケートボードはとてつもない危険スキルですが、しかし移動方法として考えると有用なことは疑いようもなく、少し練習してなんとか乗りこなせるようになってきた僕は、荷物を宿屋に置いてから再びミントさんとシフォンの場所へ戻りました。


 結構な時間が経っていた筈ですが、彼女達は僕がぶっ飛んで行った時のまま、呆然と立ち竦んでいたようです。

 目の前で手をひらひらさせると、ようやく意識を取り戻しました。


「な、なんだったんだ今のは……。一瞬で見えなくなるほどの速度だったぞ? というか大丈夫なのか? 怪我とかしてないんだろうな?」


 僕の無事を確かめるように、ミントさんが体のあちこちをぺたぺたと触診でしょうか?

 心配して頂けるのは大変嬉しいですが、手付きがおかしくなってきたので引き剥がします。

 するとまだ確認したりなかったようで「むうぅ……っ」と唸りながら手を伸ばしてくるのです。


「大丈夫ですから。ご心配おかけしました」


「そ、そうか? それならいいんだ。もうお前の身体はお前だけのものじゃないんだからな」


 はて?

 体の所有権を誰かと分割した覚えはないのですけど……。


「とにかく、安全ってことなら私達も乗せて行ってもらえるか? このバッグは車輪が付いているとはいえ、重いことに変わりはないし、歩きとなれば野宿だろうしな」


「そうですね。お二人を野宿させるわけにもいきませんから、その提案はやぶさかではないのですが……」


「ですが?」


「文句はなしでお願いします。あ、ちなみに速度調整は出来ません」


「え?」


 頭にクエスチョンマークを浮かべたミントさんごとキャリーバッグをボードに乗せ、僕は地面を蹴るのです。

 途端に轟音を唸らせながらぶっ飛んで行くスケートボード。

 少し練習しましたから、僕にとっては溶ける景色も大分見慣れたものになってきてます。

 けれど初体験のミントさんは


「ぎゃああぁぁぁぁぁっっ!!!」


 とんでもない速度に大絶叫。

 しかも、しめやかに失禁でしょうか。

 お尻の下から温かな水が溢れ出し、それを撒き散らしながらの爆走となってしまいました。

 もうこのボード、売り物にはなりませんね……。


 そうこうしていると、あっという間にミリアシスへ到着です。


「着きましたよ」


 ギャギャギャっと地面を削りながらブレーキをかけ、静止したところで声をかけたのですが


「……ぁ……あ?」


 失禁どころか失神寸前でした。


「今シフォンも連れて来るので、ちょっと待っててくださいね」


 どうやら腰も抜けてしまったようなので、ボードからミントさんを降ろして地面に座らせます。

 なんだか凄っごく恨み言を言いたそうにしてますけど、僕は言いましたからね?

 文句はなしでお願いしますと。


 とはいえ正気を取り戻せばきっと大変なことになるでしょうから、素早くシフォンの下へボードを飛ばします。

 びゅーーんっと風を斬って疾走する感じ。

 一度慣れてしまうと、意外と病み付きです。


「はい。次はシフォンの番ですよ。ボードに乗ってください」


「……」


 ミントさんの醜態を見たからでしょうか。

 言葉を失い、頭を振りながら後ずさるシフォン。

 その肩をガッとキャッチです。


「……や」


「や、じゃないです」


「……にぃ、たすけて」


 なんか僕が悪いことをしてるみたいじゃないですか。

 別に意地悪で言ってるんじゃないのですよ?

『にぃ、あたまわるい』と言われたことの意趣返しだとか、そんな気持ちはこれっぽっちもないので、安心しなさい妹よ。


 上目遣いでうるうるしたシフォンにニコッと微笑み、躊躇なくオンザボード。

 絶望顔でシフォンが見上げてきましたが、ついに諦めたのか、一緒に乗せたキャリーバッグにギュッとしがみ付きました。

 準備は良いみたいですね。では出発です。


「……ッ!!」


 一瞬で風になる僕達。

 声にならない悲鳴をあげるシフォンですが、お漏らししないあたり、さすがと言えるでしょう。


「到着しましたよ」


 優しく言ってあげると、閉じていた目を恐る恐る開き


「……っ!」


「痛っ!」


 僕のお腹にシフォンパンチが炸裂したのでした。



 ……。



「……ふん」


 手を繋いでくれなくなったシフォンの先導で、僕達は借りていた宿へと向かっています。

 シフォンにそっぽを向かれている僕が居た堪れないのか、慰めるようにミントさんが言ってきました。


「今回のはお前が悪いぞ」


 ミントさんも今回ばかりは全面的にシフォンの味方のようです。

 怒っているというより呆れている感じで溜息を付いています。

『デリカシーがない』とか『無茶苦茶すぎる』とか、さんざんお説教もされましたが。


 けど重い荷物を担いだまま何日も歩き、野宿を繰り返すよりマシだと思うのですよ?

 何度も練習して、安全には配慮しましたし。


「しばらく反省しろ。夫の間違いを正すのも妻の役目だしな」


 弁明はしましたがあえなく却下され、小さくなって二人の後を追います。

 全ては遊び人スキルのせいです。

 あれがもう少し速度調整出来たりすれば、ここまで怒らせることもなかったのに。

 本格的に転職を考えたくなってきました……。


 そんな僕の心情とは関係なく、今日もミリアシスはたくさんの人で溢れていました。

 聖選も終って幾分落ち着きを取り戻したとはいえ、ここは大国であり、その中心都市ですからね。

 様々な人が出入りし、暮らしているのでしょう。


 良く見れば、あちこちで机を囲んでいる人達も見えます。

 どうやらトランプ遊びに興じているようですね。

 怒っていたり笑っていたりその顔は様々ですが、一様に楽しんで頂けているご様子。

 それを広めたのがミントさんであり自分であると思うと、なんだか嬉しくなります。


 今回持ち帰った遊具も、みなさんを楽しませることが出来るでしょうか?

 お金を稼ぐという目的以外でも、僕は異界からの遊具輸入にやる気が出てきました。


 以前言われた言葉。

『皆が楽しめる新しい遊びを考えられれば、それは国にとっても有益だと私は思います。ディータ様のお仕事は、きっと未来のポードラン国にとって、必要なものとなるでしょう』

 それを思い出し、やっと実感が沸いてきたのです。


 商人さんがディアトリさんの情報を持ち帰ってくれるまで、まだしばらく時間がありますからね。

 ならば頑張ってみましょうか!


 ということで、それから数日間は持ち帰った玩具の選定に注力することにしました。

 異界からはいくつかお菓子のレシピも持ち帰ったので、こちらで再現出来るものを作ってシフォンにサプライズ。

 なんとか機嫌を直してもらい、ミントさん共々お手伝いしてもらっています。

 さらにはエリーシェさんに話して、東地区の子供達も参加。

 毎日色々な遊びを試しながら、日々が過ぎて行ったのです。


 ちなみにニルヴィーさんは護衛の聖堂騎士一個中隊を引き連れて、再びポーシーの町へ赴いている様子。

 おそらくはミリアシス様からの頼みごと「魔人の動向」調査のためでしょう。

 エリーシェさんも聖女として本格的に活動を始めたらしく、聖堂教会には「勇者募集」の張り紙。

 現在勇者候補とされている方以外に勇者がいる可能性を考え、それを探し出そうとしているらしいです。


 そんなある日。

 今日も東地区に行って子供達と遊ぼうと準備していると、不意に部屋をノックされました。


「はい?」


「あ、起きていらっしゃいましたか? お客様にお会いしたいという方が来ているのですがどうしましょう?」


 どうやら宿屋の従業員みたいです。

 僕に客ですか?

 あ、ひょっとして商人さんが戻って来た?


 僕は返事をする前にシフォンとミントさんに視線で了承をとります。

 二人ともコクリと頷いてくれたので問題ないでしょう。


「どうぞ。お通しして下さい」


 そう答えると部屋の扉がギギッと開き……


「……んっ!!」


 現れた顔に、シフォンが駆け出して飛びついたのです。


「シフォン様お久しぶりです。お元気でしたか?」


「……ん!」


 それを優しく抱き締めながら、頭を撫でているたおやかな女性。

 なのですが、その手がだんだん体中を撫で回し始め、シフォンが後ずさりでしょうか。

 一方の女性は堪能したと言わんばかりにうっとりし、それから僕に視線を合わせてきました。


「さぁ、ディータ様もっ!」


 そして手を広げ、お迎え体勢になったのです。


 けれど安易に飛び込むわけにはいきません。

 彼女はハンターですから。

 今どれくらい空腹かは知りませんが、気を許して飛び込んだ瞬間、頭から食されかねません。


「ディ、ディータ様?」


 そんな警戒を見てとったのか、少し垂れた目尻が一層悲しげに垂れてしまいます。

 清廉さを表したような青いポニーテールも、同じく悲しげに揺れていました。

 でも僕だって彼女と再会出来たことはとても嬉しいですから。

 その腕の中に飛び込みこそしませんが、ゆっくり近付いてから手を差し出し、満面の笑みで再会の喜びを口にしたのです。


「お久しぶりですラシアさん!」


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