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68話 僕達は異界を満喫したようです

 東京ファンタジーランド。

 そこは日常から切り離された、夢のような世界。

 楽しいアトラクション。可愛らしいマスコット達。そして盛りだくさんのイベントが、みなさんを待っています!


 だそうです。

 楽しそうだと思いますし、実際楽しいのでしょう。

 けど今の僕には興味がありません。

 だってどれだけ楽しかろうと、それをあちらの世界に持っていくことは出来ませんし、販売なんて出来る筈もないですから。


「……やっ!」


「断固行くぞっ!」


 けれど二人の妹達は、ベッドの上で揃って五体投地の構え。

 行かぬなら動かぬと、シーツを握り締めているのです。


「いやいや。なんでミントさんまで……」


「お前アレだぞっ! 夢の世界だぞっ! ジェットなコースターだぞっ!!」


 意味分かってます?


「シフォンは?」


「……いく」


「じゃなくて、なんでそんなに行きたいんですか?」


「……ネコさんがいた」


 ネコさん?

 あぁ、メインマスコットのニャー太君のことですね。

 確かに愛らしい造型ですけど。

 くりっとした大きな目が、なんともあざといのです。


 でもそれ、人が入ってるんですよ?

 僕は知識で知ってますから。

 着ぐるみの中には、汗だくの演者さんが入っているのです。


「……ちがう。ニャー太君はニャー太君」


 ですが説明しても聞く耳もたず、説得は不可能みたいです。

 シフォンは頑固ですからね。

 一度こうなると、梃子でも動かないのです。

 腰に手をあて、僕は大袈裟に溜め息を零して見せました。


「……分かりました。じゃあ行きましょうか」


 甘いのは重々承知。

 けど今回の異界旅行は、ラギュット山のことで寂しい思いをさせた二人に対する埋め合わせもあるので。

 ここは予定変更止む無しでしょう。


 ……寂しい思い、してましたよね?

 一瞬お菓子の山で泳ぐシフォンと、金貨の海に溺れるミントさんを幻視してしまいましたが。

 まぁあまり深く考えないようにしたほうがいいです。

 兄マインドに致命傷を負いかねません。


「……にぃ大好きっ!」


「それでこそ良き夫だっ!」


 バッと顔をあげて僕の懐に飛び込んでくる二人。

 思わず頬が緩んでしまい、傷付きかけた兄マインドが有頂天でしょうか。

 最近のミントさんが、やけに僕を伴侶扱いしてくるのは気になりますけど。

「よし来い」病でついに頭までおかしくなってしまったのではないかと、黙って首を横に振らざるを得ません。


「ですけど異界滞在予定の日数に変更はありませんからね? 商人さんから連絡が来るかもしれないので、明日には帰りますよ」


「……ん」


「今日はファンタジーランドに行きますけど、夕方には帰って来ます。それから遊具の選定をするので、あまりはしゃぎすぎて疲れないようにして下さい」


「わかった!」


 とまぁそんな感じで結局押しきられ、僕達は東京ファンタジーランドへ出発したのでした。



 ……。



 日常から切り離された夢のような世界。

 その謳い文句に嘘はありませんでした。

 異界の遊戯施設、マジリスペクト。

 もっとも東京ファンタジーランドはこの国でも有数の遊園地らしいので、当たり前ですけど。


 それでも園内には確かな世界観があり、どこを見てもファンタジー。

 若干僕達の世界に似た世界観だったので、僕達にとっては園外の方がファンタジーというのがなんとも皮肉ですけど。


 けどアトラクションは一つ一つがとても楽しく、妹達の期待には沿えたようです。

 あちらこちらとはしゃぎまわり、ニャー太君を発見しては抱き付き、何度か迷子になりかけ、またはしゃいで。

 あっという間に時間は過ぎ去ったのでした。


「楽しかったですか?」


 帰りの電車に揺られながらシフォンに聞いてみると、もう半分目を閉じていました。

 なるほど。

 出発前にした約束はすっかり忘れていると。


「……んにゅぅ」


 しかしニャー太君耳を頭に付けて、ニャー太君ぬいぐるみを胸に抱えながら幸せそうな顔で眠るシフォンを見ていると……まぁいいでしょう。

 仕方ないので許してあげます。


「私はちゃんと手伝うぞ?」


「ありがとうございますミントさん。そういうところはさすが年上の貫禄ですね」


「まぁな! でもあまり歳のことは言うなよ。好きな人間と同じ時を生きられないというのは、それはそれで悲しいものなんだからな」


 そんなものですか。

 僕からみれば人間の何倍も生きられて、とても羨ましいですけれど。

 でもミントさんは本当に悲しげなので、ここは素直に同意しておきます。

 それに彼女もニャー太君耳を装備しているので、実際のところ年上には見えませんしね。


 そのまま電車に揺られ、僕達は秋葉原の駅に到着しました。

 ここから乗り換えて新宿に戻るのですが、せっかくなので一度駅から出ることにしましょう。

 確か知識に寄ると、秋葉原には色々珍しい玩具なんかも売っているようなので。


 目を覚ましたシフォンとミントさんの手を握り、僕たちは秋葉原の町を探索することにしました。

 するとお店を見つける前に、後ろから声を掛けられてしまいます。


「ちょっと君達?」


 これはアレですか?

 前回のデジャブですか?

 また国家権力に連行されてしまうのですか?


 握った手に少しだけ力を加えて振り返ると、そこにはやはり国家権力。

 ですがその顔に、僕は見覚えがありました。


「あっ! この間の」


「やっぱりそうだったのね。今日は三人? お友達?」


 そうなのです。

 彼女は前回異界に来た時、僕達をパトカーで送ってくれた婦警さんなのでした。

 そういえば、最後は騙すような形になってしまったことを思い出します。

 非情に気まずいです。

 けれどそんな事情を察したのか、婦警さんはニコッと笑って頭を撫でて下さいました。


「良かったわ。突然いなくなったから心配してたのよ?」


「は、はい。心配かけてごめんなさい」


「……ごめんね」


「いいのよ。ちゃんとお父さんとは会えたのよね?」


 あぁ、そんな事を言って忍池まで連れて行ってもらったんでしたっけ。

 これ以上ご心配をおかけするわけにはいかないので、ここは素直に頷いておきましょう。

 すると婦警さんも安心したように頬を緩めてくれました。


 そんな婦警さんの顔を見ていると、あの日のことをだんだん思い出してきました。

 そういえば、取調室で男の刑事さんに怒鳴られたのですよね。

 彼にも心配を掛けたでしょうし、重ねて謝っておきましょう。


「あの男の刑事さんにも伝えておいていただけますか? 僕達がちゃんと帰れたことと、謝っていたと」


 彼には酷いことも言われましたが、説明出来ないこちらにも非はありましたから。

 そう思って婦警さんに言伝を頼んだのですが、途端に彼女の表情が曇ってしまいました。

 どうしたのでしょうか。


「それがね、あの刑事さん。あの後いなくなっちゃって」


「いなく……? それは辞職したということですか?」


「う~ん……。それもよく分からないのよね~。君達を怒鳴ってから外回りに行った筈なんだけど、そのまま帰って来なくて」


 それは穏やかではありませんね。

 この国はとても治安が良いと聞いていましたけど、何か事件に巻き込まれたのでしょうか?

 もっとも職業柄、巻き込まれるのが本分でもあるのでしょうけど。


「ごめんなさいね。子供にする話じゃなかったわ」


「あ、いえ。こちらこそ変な事を言ってしまったみたいで」


 それからもう一度婦警さんは僕の頭を撫で「もうお父さんとはぐれちゃ駄目よ」と言って去って行ったのです。


 そのあと秋葉原で買い物を済ませた僕達は、ホテルに戻るなり崩れるようにベッドに倒れ。

 異界最後の夜は、結局なんの遊具も試さぬまま更けていったのでした。


 しょうがないじゃないですか。

 なんのかんのと言っても、僕も楽しかったのです。はしゃいだのです。

 異界の誘惑に抗うには、僕ではまだレベルが足りませんでした……。


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