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67話 僕は異界でお買い物

 僕の正面に座った妹達が、右手でスプーンを口に運びます。


「ん~っ!!」


 そして同時に歓喜の声を漏らし、頬に手を当てながらうっとりと昇天しかけていたのでした。

 そんな光景がかれこれ十分ほど続いているので、僕の顔はゲンナリしていることでしょう。

 まぁ美味しかったですけどね、パフェとやらは。

 さすが異界のデザートです。

 アイス、生クリーム、カスタードクリーム、チョコ、フレークと、あちらの世界では高級品なんかもふんだんに取り入れた、夢のような食べ物でした。


「お、おい? もう無くなったぞ……? 誰だ? 私のパフェを奪ったのは誰だっ!?」


「いやいや……。全部ミントさんが自分で食べてましたよ?」


「そんな馬鹿な……」


 ガックリとうな垂れたミントさんは、名残惜しそうにスプーンを舐めしゃぶっています。

 止めて下さい。シフォンが真似をするじゃないですか。

 あまり行儀が良いとは言えないので、心配になってシフォンに目を向けましたが、彼女はそんなことはしていませんでした。

 良かったです。


 と胸を撫で下ろす僅かな隙に、サッと素早く動いたシフォンの手がボタンに伸びたのです。

 それを僕は寸前で阻止。ボタンを取り上げます。


「……むぅ!」


「むぅ、じゃありません。まだ食べるつもりですか?」


「……ん」


「駄目です。甘い物ばかり食べていたら健康を害します」


 健やかに育って欲しいと説得したつもりなのですが、シフォンは納得していないのか。

 その瞳には、殺気が込められていました。


 なんということでしょう。

 彼女は店員さんを呼ぶ魔法のボタンを、僕を殺してでも奪い取るつもりなのです。


「でも今日はもう駄目です」


「……あしたは?」


 うるうるした目で見つめられると……ぐぬぬ……。


「分かりました。また明日食べましょう」


 仕方ないです。

 可愛い妹の願いを無碍に出来るほど、僕は非情になりきれないのです。

 ……パフェのせいで殺されたくないですし。


 ともあれ二人はようやく落ち着き、食後の紅茶を飲みながらまったりし始めていました。

 ファミレスという空間は不思議ですね。

 いつまでもここに居たいと思わせる魅力があります。


 しかしそういう訳にもいきません。

 二人がパフェを食べている間に読んでいた雑誌を僕が開くと、テーブルに突っ伏して足をブラブラさせているミントさんが興味を持ちました。


「なにを見てるんだ?」


「何を買おうかと悩んでまして」


 本自体は、その気になれば触れるだけで内容を全て知ることが出来る僕。

 ですがせっかくなので皆で悩もうと、気になった玩具のページをいくつか見せることにしたのです。


「これは何をしてるんだ? 板に乗って進んでるように見えるが」


「スケートボードというらしいですね。ミントさんが言った通りの遊び方ですが、このままジャンプしたりも出来るみたいですよ?」


「……これも?」


「似ていますがこっちはサーフボード。海の上で遊ぶもののようです。他にも雪の上で遊ぶスノーボードというものもあります」


 二人は文字を読めないので、気になった写真を片っ端から指差して説明を求めてきます。

 僕はそれに応じて遊び方をご教授する感じでしょうか。


「これは手軽そうじゃないか?」


「オセロですか。確かにこのくらいの大きさなら量産も出来そうですし、遊び方も簡単なのでいいかもしれませんね」


 そうして向こうでも再現可能そうなものをチェック。

 いくつかが候補に挙がりました。

 今度はこれを購入してみて、実際に遊んでみるのです。


 しかし買いたい物はたくさんあるので、先に拠点の確保が必要でしょう。

 ということで、僕達が次に向かったのはビジネスホテル。

 子供だけなので不審がられたり、部屋が空いていなかったりと散々探し、ようやく泊まれる場所を見つけました。

 ただ三人一緒に泊まれる部屋がなかったので、借りたのは二部屋。

 この一室を物置とし、百貨店などを回っては買った物を運び込むことにしました。


「さすがに疲れましたね」


 外とホテルを何往復もし、気付けば部屋の中を所狭しと埋める玩具の数々。

 壮観な様子を眺めながら、僕は一仕事終えたと汗を拭います。


「だが楽しかったな! 見るもの聞くもの全てが凄い! 異界やばいぞ!」


「……んっ!」


 かなりの重労働だったはずですが、シフォンもミントさんも楽しさが疲労を上回っていたようで、特に不満を口にすることもありませんでした。

 僕も知識としては色々知っていましたが、実際に経験してみると全然違いますね。

 前回より余裕があるので、知識を確かめるように色々と見て回り、感動の嵐でした。


 特に電車。あれはやばいです。

 あんな重量物があれほどの速度で。しかも正確に走るとか、ちょっとしたファンタジーですよ。

 あの勢いのままぶつければ、ドラゴンだって倒せるかもしれません。

 異界マジぱねぇです。


「さてと。ではさっそく遊んでみますか!」


 そして本番はここから。

 買っただけでは意味がありませんから。


 しかし実際に遊んでみると狭い室内では遊べないものだったり、ある程度熟知してからじゃないと満足な楽しさを得られないものだったり。

 中には使ってみた瞬間スキルが発動してしまい、ちょっとした騒ぎになるものまである始末。


「まさかフラフープを回してみたら、風魔法が発動するとは思いもよりませんでしたね……」


 小規模な台風に見舞われてしまった室内は、せっかく買ってきた玩具が散らばってしまっています。

 改めて、一筋縄ではいかない遊び人スキルに歯軋りでしょうか。


「まぁこればっかりは予想出来ないからな。ちょうどいい頃合だし、今日は終わりにしてそろそろ休まないか?」


 チラッとミントさんが視線で示した先では、シフォンの瞼が閉じかけているところでした。

 疲れを忘れるほどはしゃいでいましたが、今頃になって一気に疲れが出てしまったのでしょう。


「そうですね。まだ明日もありますし、今日はここまでにしますか」


 温かくなり始めていたシフォンの身体を揺さぶり、もう少し頑張れと目を覚まさせます。

 寝る前に、せめてお風呂に入って頂かなければなりませんから。


「一人じゃ心配だから私が一緒に入ってやるさ。……そ、そうだっ! な、なんならディータも一緒でいいぞ? エルフ流の身体洗い術を伝授してやるっ!」


 なんですかそれ。ちょっと気になるじゃないですか。

 けれど散らかった部屋を見ると、とてもそんな気にはなれません。


「僕は散らかった部屋を先に片付けたいので。シフォンのことよろしくお願いしますね」


「そ、そうか……? そうなのか? 遠慮はいらないんだぞ?」


「遠慮とかじゃないですが?」


「ぐ……っ! いつになったら来てくれるんだよっ!!」


 よく分かりませんが、なにやら喚きながらミントさんはシフォンを連れて行ってくれた模様。

 若干不貞腐れ気味のようでしたが、何か思うところがあったのでしょうか?

 彼女は時々言動が一致しないので難しいです。


 まぁしかし、僕には僕のやるべきことがありますからね。

 腕を巻くって気合を入れて、部屋を片付け始めること数分。

 ミントさんがお風呂場で騒ぎ始めていました。


「す、凄いぞディータっ! 温かい雨がどんどん降ってくるんだっ! なんだこれなんだっ!?」


「シャワーです」


 確かにあれも凄いですよね。

 原理までは分かりませんけど、なんとかあちらの世界でも再現出来れば面白そうです。


 そんな感じで部屋を片付け、シフォンを寝付かせ、僕もシャワーを浴びて異界初日が終了。

 明日も集めた玩具を色々試したり、あとは遊戯施設にも訪れてみたいと思ってます。

 カラオケ……は、こっちの曲を知らないので難しいですけど、ボーリングやビリヤード。

 あとはゲームセンターにも興味津々。


 異界に来るのは危険もあるし初めは乗り気じゃなかったのですが、いざ来てみたらやはり楽しいですね。

 見るところが多すぎて、とても数日では満足できそうにありません。

 まぁでも今回は遊具探しがメイン。

 明日も目的を忘れないように、しっかり遊具を選定しましょう。


 と思っていたのですが、翌朝。


 僕にも昨日の疲れがあったようで、目が覚めてからもなかなか布団から出れないでいると、突如布団を剥がしてシフォンが身体に乗っかってきました。


「……にぃ! あそこ行くっ!」


「あそこってどこですか?」


 眠い目を擦りながらシフォンが指差した先。

 それは、テレビで流れているコマーシャルでした。


「東京ファンタジーランド?」


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