65話 僕は再び異界訪問することにしました
翌日僕はさっそく総主教様にお会いし、労いの言葉を頂くとともに、トランプについて御伺いしました。
すると教会専属の商人を紹介され、その方から色々説明を受けることになったのです。
「えぇえぇ、この度は大変な商品を取り扱わせて頂くことになり、わたくし共の方からもお礼を申し上げたいと思っておりましたですよ」
ミリアシス大聖国でも特別な立ち位置にあるというこの商人さん。
教会から御守りや聖水などを卸して取り扱っているらしいのですが、そのラインナップにトランプも含まれるのだとか。
あれ、ただの遊具なんですけどね。
「今後も色違いや材質違いのものを次々に作る予定でございますし、合わせて遊び方や占い方法を纏めたガイドブックも販売予定となっておりますので」
血色の良い彼は得意満面で語りつつ、手をモミモミしながら頭のなかでソロバンを弾いたのでしょう。
サラサラっと紙にペンを走らせ、計算結果を僕に提示してきました。
「少なく見積もっても、毎月このくらいはお渡し出来るかと」
「えぇっ!? 金貨三十枚ですか!?」
「これはこれは……。少なすぎましたかな? しかし何分大量生産にも人手が掛かっておりますから。わたくし共と致しましても、このくらいが精一杯でして」
いやいやいやいや。
少ないんじゃなくて多いんですよ!
今後何もしなくても安定して金貨三十枚ずつ貰えるとか、ちょっと怖いんですけど!?
「その代わりと言ってはなんですが、他にも何か良い品がありましたらどんどん商品化する手筈が整ってございますです。ミント様のお話では、まだまだ色々アイディアがあるとのことで御座いましたし」
「へ、へぇ……?」
そうなんですかミントさん?
僕は何も聞いてませんけど、大丈夫なんですよね?
なんか商人さん、凄っごい期待の眼差しで見てきてますけど?
「では今後ともよろしくお願いいたしますです」
呆気にとられているうちに商人さんとの面談は終わり、僕は宿に戻ることにしたのでした。
……。
「どうだ? 言った通りだっただろ?」
部屋に入るとベッドの上で胡坐になっていたミントさんが、確かめるように聞いてきました。
その傍らには昨夜お渡ししたグーダンさんからの手紙。
きっと何度も何度も読み返していたのでしょう。
また薄っすらと目が赤くなっています。
「えぇ。今後も毎月収入があるとか。凄いですね」
「まぁな! 内助の功ってやつだ!」
それは奥様が旦那様に言う言葉ですよ?
まぁ機嫌が良さそうなので訂正はしませんけど。
あ、でもこれは聞いておかなくては。
「これからも新しい商品を持ち込むって聞いたんですけど、ミントさんには何か当てがあるのですか?」
「そりゃああれだろ。な、シフォン」
「……ん」
シフォンも同意しているみたいですけど話が見えません。
どれですか?
すると同じくベッドの上でゴロゴロしていたシフォンが、手を振りかぶって何かを投げる動作。
「……これ」
「いや分かりません」
「なんでだよっ! 異界だよ異界っ! 連れてってくれるって約束したぞっ!」
あ~なるほど。
また向こうの世界から何かアイディアを盗ん……拝借しようということですか。
確かにあちらの世界はこちらとは違って平和そうですし、まだまだ色々な遊びがあるでしょう。
それをミントさんはこちらの世界に持ち込み、売り捌こうと言うのです。
「ちょっとズルくないですかね?」
「そんなことないっ! 楽しいことは皆で共有するべき。そう思わないか?」
「……おもう」
二対一とは卑怯な。
「それに早く見てみたいんだよ。異界って奴を。シフォンもまた行ってみたいよな?」
「……ケーキ。チョコ。プリン。みんなまってる」
それは気のせいです。
留まることを知らないシフォンのお菓子欲に、兄は最近不安です。
しかし異界ですか。
僕もまた行ってみたいと思ってましたし、生活もどうやら安定しそうですし。
行く条件は揃っているかもしれません。
「行く気になったか? そ、それともあれか? 連れて行ってやる代わりに俺も天国に連れて行けとかそういうアレなんだなっ!? 実質もうお前は夫みたいなもんだっ! 遠慮せずいつでも来いっ!」
そんなことになった覚えはないのですが?
今ではこの奇病もダークエルフ化による弊害だと分かってますから、特に突っ込みもいれませんけど。
どうやら記憶障害も併発するということは、今後考慮しておいたほうが良いでしょうけど。
「でもまぁそうですね。行ってみますか?」
「おおっ!!」
「……やった」
「ただしどんな危険があるか分かりませんよ? 無事に着けたとしても僕達の常識が通用しない世界ですから、単独行動は禁止。僕の引率に従うことが絶対条件です」
腰に手を当てて、僕は強めに言っておくことにしました。
僕自身は本の知識である程度むこうのことを理解してますが、二人にとっては未知も未知。
まるで既成概念の外にある世界ですからね。
だというのに
「と、当然だな! ちゃんと言うことを聞くぞ?」
「……だいたい聞く」
不安です。
二人ともちゃんと分かっているんでしょうか?
「じゃあさっそく行くか? 実はこんなこともあろうかと、手頃な湖の場所はもう調べてあるんだ!」
「そうなんですか? 準備が良すぎて行くのを取り止めたくなりますね」
「なんでだっ!?」
最初から僕が連れて行くということ前提の動きがちょっと癪なのですよ。
なのでちょっと意地悪を言ってみたのですが、僕の服を掴んだミントさんが縋りつくように見上げてきてます。
そんなに行ってみたいとは、研究者魂に火が着いているんですかね。
面白いのでこのままもう少し様子を見てましょうか。
「……にぃ、めっ!」
と、僕が意地悪していることに気付いていたシフォンが頬を膨らませてジト目。
それを見て、ミントさんも冗談だと気付いてしまったようです。
「お、お前、なんか意地悪になってないか!?」
「逞しくなったと言って下さい。色々あって僕も成長してるんですよ。きっと」
たぶんですけどね。
ただ、以前より卑屈にならなくなったのは事実。
ディアトリさん達に着いて行くだけだった昔に比べ、自分で考え自分から行動することが増えたので、心が強くなってきたんじゃないかと自分では分析してます。
それに守るべき妹が二人もいるわけですし。
「まぁでも、行くのは明日にしましょう。その前にやるべきことがあるので」
「なんだ? もう仕事は終ったんじゃないのか?」
「護衛は終りましたけど、最後に少し気になることが出来てしまいまして」
そう。
ミリアシス様と話している時から、僕にはとても気になることがあったのです。
勇者候補ディアトリさん。
彼は、本当に勇者の加護を持っているのでしょうか?
もしディアトリさんが勇者として任命されたのが、神伝えの石のすり替え後だったなら。
彼等の。そして同行しているヘーゼルカお姉ちゃんの旅は、無駄に終ってしまうのです。
それどころか決して魔王には勝つことが出来ないので、命すら危ぶまれます。
本当はすぐにでも追いかけて確かめたいところですが、現在の彼等がどこにいるのか分かりません。
ポードラン王国が全面的にディアトリさんを支援していた筈ですので、ポードラン王に聞けば分かるでしょうけれど、僕は指名手配中ですからね。
聞きに行くわけにもいかないのです。
ということで再び宿から出た僕が向かったのは、商人さんのお宅。
間を置かずの再訪は心苦しいですが、海を股にかける商人さんならば情報を集めることも容易いだろうという判断でした。
そしてその考えは間違っていなかったようで
「ちょうどポードランにもトランプを売りに行こうと思っていましたので、その際に勇者候補様の情報を集めて参りましょう。えぇえぇ、特に御代はいりませんよ。ディータ様とは今後も良いお付き合いが出来ればと思っておりますので」
彼は快く引き受けてくれたのです。
さてこれで、情報が集まるまで数週間ほど時間があります。
なので今回は余裕を持って、数日ほど向こうに滞在出来るでしょう。
ならばさっそく行ってみますか。
いざニッポンへ!




