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63話 僕が苦労していた間に妹達は……

『よろしくお願いしますね』というミリアシス様の言葉を最後に、僕達は来た道を引き返すことにしました。

 最後に振り返って口元のゴマを指摘してあげたら、顔を真っ青にしていらしたので、僕の気分も幾分穏やかです。


 みなさん色々と思うところがあるようでしたが、恐らくはミリアシス様の頼みを聞くような形になるのでしょうね。

 僕以外はミリアシス教の敬虔な信徒ですし、なにより聖女御一行なのですから。


「とりあえず目的は果たせたので何よりですね」


 ラギュット山を下山し、ポーシーの町へ戻り、そこから乗船。

 船に揺られて海風を頬に感じながら、僕とニルヴィーさんは話をしていました。


「その代わり、気の遠くなるような宿題を課せられてしまいましたけれど」


「魔人の動向、ですか。やはり聖女様達は、ミリアシス様の頼みに応えるよう動くおつもりで?」


 緑色の髪を風にそよがせ、ニルヴィーさんの視線がエリーシェさんに向きます。

 釣られて僕もそちらを見ると、さっそく神伝えの石を試そうとしているところを、ゾモンさん達が慌てて止めている場面でした。

 それを呆れながら見つめ、ニルヴィーさんが溜息を吐き出しました。


「人が神を造ったと仰ってはいましたけど、やはり私達は信徒ですから。神に頼みごとをされるなんて栄誉、そうそうあることではありませんもの」


 それはそうかもしれないですね。

 そもそもついこの間まで、神が実在すること自体眉唾でしたし。

 敬虔な信徒からすればその神様に会うことができ、さらに頼みごとをされたなんて、光栄極まることなのでしょう。

 それがちょっと難題だとしても、神の試練くらいに思っているのかもしれません。


 ちなみに僕は敬虔な信徒というわけではありませんから。

 気になっていることはありますが、積極的に関わるつもりはないです。

 今は自分と妹達のことだけで精一杯なので。


「ですけど、何をすれば良いのか具体案は思いつきませんわね。いきなり魔人と言われてもさっぱりですわ」


 まったくですと、僕は同意を示しておくことにしました。

 聖堂騎士に紛れていたイビルデーモンは消滅していますし、どこを足掛かりにしていいか雲を掴むような話なのでしょう。

 積極的に関わらないとはいえ、知恵くらい貸してあげられれば良いのですけど。

 そう思い悩んでいた僕達の後姿に、陽気な声が掛けられました。


「神獣さんは皆さんと上手くやれてますかね~?」


 ゾモンさんに石を取り上げられたエリーシェさんが、暇を持て余してやってきたようです。

 もう遠く見えなくなったポーシーの方角を見ながら、彼女は心配そうに指を組んでいました。


「大丈夫じゃないですか? 言葉は交わせませんけど、意思疎通が出来るように最低限のジェスチャーを覚えたみたいですから」


「だと良いんですけど~。畑を開墾する必要がなくなったら、またム~ラムラで悩まされるんじゃないかと~」


 そういえば、あの症状は結局なんだったのでしょうか。

 仮にも神獣ですから、病気とかじゃないと思うのですけど……。


「……魔人派が何かした?」


「え?」


 ポロッと零れた閃きに、ニルヴィーさんが鋭く反応を示しました。


「もしかして神獣のことを言っているんですの?」


「え、えぇ。確信はないんですけど……」


 言いながらも、僕の中で急速に考えが纏まっていきます。

 魔人派とやらは、聖女様とミリアシス様が交信出来ないように神伝えの石をすり替えました。

 となれば、すり替えに気づかれた時の手を打っていてもおかしくありません。

 神獣さんが何らかの理由で理性を失った状態ならば、あの森を抜けてラギュット山に辿り着くことは困難でしょう。


 それにもう一つ。

 ポーシーの町長さんが言っていたこと。

 焼畑農法は『授かった天啓』だとか。

 最近始まったようですし、神獣さんがム~ラムラ症状を起こした時期とも符号していた為に、エルフさん達はその原因を誤解していたのです。


 つまり何者かが焼畑農法をポーシーの人々に教え、同時に神獣さんに何か良く無いことをした。

 そう考えるのが自然なのではないでしょうか?


 その考えをお伝えしていると、半信半疑だったニルヴィーさんも段々その気になってきたみたいです。

 最後には「間違いありませんわっ」と、目を輝かせて興奮気味。

 なんとか手助けが出来て、僕も安堵でしょうか。


 そうこうしているうちに、ようやく港が見えてきました。

 ロコロルの港です。

 そこから僕達は馬車に乗り換え、ミリアシス大聖国へと帰るのです。



 ……。



「えぇ……」


 まずは神伝えの石を聖殿に安置するため、ミリアシス大聖国へと到着するや否や、僕達は真っ直ぐに聖殿へと向かいました。

 なのですが、帰り着いた聖殿の奥には予想だにしなかった光景が広がっていたのです。

 思わず僕の口から、魂が抜け出そうな溜息が零れました。


「……あ、にぃ……おかえり……なさい?」


「こ、これには訳があってだなっ!!」


 僕の姿を見止めた瞬間、シフォンが「まずいところを見られたー」みたいな顔をし、ミントさんがあたふたと言い訳を構築中。

 というのも我等が副々聖女様。

 お菓子の山に埋もれてご満悦だったのです。

 その隣ではグーダンさんの昔話で聞いたのとは似ても似つかない悪い顔で、ミントさんが金貨の山を数えていました。


「すっごいですね~このお菓子の山! 私にも分けて下さい~!」


「……んっ」


 呆然と佇む僕の横を駆け抜け、エリーシェさんはシフォンと意気投合。

 ですがその前に、どうしてこんなことになっているのか説明していただかないと。

 事と場合によっては、お尻叩きの刑に処さなければなりません。


「このお菓子はどうしたんですかシフォン」


「……貰った……よ?」


 何故に疑問系。

 一層深まる疑念に僕の目つきが鋭くなったのか、ビクッとシフォンが怯えました。

 この反応はあれですね。

 後ろめたいことがある人特有の反応に間違いありません。


 お兄ちゃんは悲しいです……。

 本当は久しぶりに会えた妹を抱き締め、旅のお話を聞かせたり、一緒にご飯を食べたりしたかったのですが。

 残念ながらそれは叶わず、お説教タイムになりそうな気配です。


「誰に貰ったんですか? というかこの量。ただごとじゃないですよ?」


「べ、別に悪いことをしてるわけじゃないんだぞ!? だからあまり怒ったりは――」


「ミントさんも。そのお金は何ですか?」


 彼女は彼女で大量の金貨を「ぐへへ」と数えていましたからね。

 これも問い質す必要があります。

 事と場合によってはお尻叩き……は止めておいたほうが無難ですかね?

 なんとなくミントさんには逆効果のような気がしてしまいます。


「か、稼いだんだよ。ほら、お前から預かってたトランプ。あれを売ったんだ」


「トランプを売ったって。それがこんな大金になる筈ないじゃないですか」


「もちろんアレ一組じゃない。たくさんだ。大量生産して大量に売り捌いたんだよ」


 どういうことでしょうか。

 詳しい話を御伺いしなければなりません。


 そんな僕と妹達の会話をよそに、神伝えの石は無事に聖殿の奥へ安置されました。

 は~っ、と長い息を吐き出したゾモンさん。

 この旅で、彼がどれだけのプレッシャーを感じていたのかが分かります。

 ニルヴィーさんも同様のようで、腕を組みながら感慨深そうに聖殿の奥を見つめていました。

 エリーシェさんはシフォンと一緒にお菓子の山登りなので、平常運転みたいですが。


 この後彼等は、総主教様の元に報告しに行くようです。

 神伝えの石を持ち帰れたこともそうですが、なによりもミリアシス様に会い、頼みごとをされたこと。

 これを報告して相談するのでしょう。

 残念ながら総主教様の叙任は、先延ばしになるのではないでしょうかね。

 こんなこと、軽々と次に引き継げる内容じゃないですし。


 ということで僕の役目はここまで。

 妹二人を連れて、宿に向かうことになりました。

 二人は今日まで大聖堂の奥にある客間で暮らしていたそうですので、まずは荷物の運び出しでしょうか。


「え……? こんなところで寝泊りしてたんですか?」


 手伝う為に着いて行ってみると、そこはとてつもなく豪華な部屋でした。

 たぶん貴族の方や国賓待遇の方が使う為の部屋なのでしょう。

 僕がボロボロの宿に泊まったり、エルフ村の小屋に閉じ込められたりしている間、彼女達はぬっくぬくだったみたいです。


 別に怒ったりはしませんけどね?

 でも僕がラギュット山登頂メンバーになってしまったのは、二人が僕を売ったからなわけでして。

 それを考えると、ちょっと釈然としなくないですか?


 ともあれ資金は何故か潤沢なようですので、今日くらいは奇麗な宿を借りることにしましょう。

 大役を終えて帰ってきたのですから、少しくらい贅沢したっていい筈です。

 ゆっくりと疲れを癒したい気分なのですから。


 なのにミリアシス大聖国でも五本の指に入る宿の部屋を見て、二人は「狭いなー」とか「お菓子が足りない」とか言う始末。

 これは贅沢病を患っているとしか思えません。

 明日から、ビシビシ再教育しなければ。


 もちろんその前に、お菓子の山と謎の大金について説明を求めますが。

 さて二人とも。

 お尻を叩かれる準備はよろしいですか?


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