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4話 僕は途方に暮れました

 狭い部屋の中に突然現れた女の子。

 なんかポーッとしてるけど大丈夫でしょうか?

 というか、いったいどこから来たのでしょう。


「だ、大丈夫ですか?」


 声をかけてみたけど返事がありません。

 自分の足で立っているから、意識はあるみたいですが……。


 あ、そうだ。

 スキル説明を読んでみれば分かるかもしれません!


 先に読むべきだったと後悔しながら、僕はスキル説明に目を走らせました。


 口笛を吹くと、どこからともなく仲間が現れるぞ!

 現れない時もあるぞ!


 ……。


 なんでしょうかそれは。

 ということは、この女の子は僕が呼び出しちゃった仲間ってことですか?

 口笛って召還魔法だったのですか?


 もう一度、現れた女の子を観察してみます。

 身長は僕より小さいですね。年齢も僕より下でしょう。

 たぶんだけど、六歳か七歳くらいじゃないでしょうか。


 真っ黒い髪の毛はツヤツヤしていて、真っ直ぐ腰の辺りまで伸びています。

 前髪も目にかかりそうなほど長く、ちょっと前が見え辛そうです。


 肌は白いし、幼い子供特有の柔らかそうな感触。

 黒いヒラヒラがついたワンピースを着ていて、露出した腕がぷにぷにしています。

 首元に付いているピンクのリボンが、なんだか可愛らしいですね。


 うん。普通です。

 普通に可愛い普通の女の子です。


 これが仲間?

 呼び出しちゃって良かったのでしょうかこの子。


 じゃなくて、そうだ!


「ね、ねぇ君! お父さんやお母さんは!?」


 明らかに人間の女の子なのです。

 当然、お父さんやお母さんがいる筈です。

 なら突然いなくなってしまった自分の子供を、今必死に探している可能性が高いんじゃないでしょうか。


 そのことに思い至り、僕は大慌てです。

 このままじゃ誘拐犯になっちゃいます。

 それにこの子も、探している筈のお父さんやお母さんも、きっと凄く悲しい想いをしているでしょう。

 一刻も早くどこの子なのか聞き出し、送り届けてあげなくちゃいけません。


 そう思って聞いたんだけど、問われた女の子は意味の分からない行動をしてしまいました。


 右を見て、左を見て、僕を見て、グッとサムズアップ。


「……大丈夫」


「なにがっ!?」


 なにが大丈夫なのでしょうか。

 いや大丈夫じゃないって言われたら、それはそれでどうしていいか分かりませんが。


「じゃ、じゃあ、どこから来たのか分かりますか?」


 ならばと質問を変えてみました。

 どこの町の子か分かれば、連れていってあげることも出来るでしょう。


 すると女の子は一歩僕へと近付き、ビッと後ろを指差しながら


「……ここ?」


 コテッと首を傾げながら、そう言いました。


 うん、そうですね。

 でもそうじゃないんです。

 僕が聞きたいのは、どこの町の子かってことなんです……。


 もうパニックです。

 意味が分かりません。

 どうしよう。

 このままだと、お城の兵隊さんに捕まっちゃいます。


 なんて説明したらいいのでしょうか?

 口笛吹いたら現れたんです?

 う~ん……死刑。


 養母(おばさん)が言ってました。

『ヘーゼルカとディータは修行ばっかりで、常識に欠けるから気をつけなさい? 悪いことをしたら、すぐに連れていかれて死刑になっちゃうのよ?』って。


 お城の人に会わないようにしていたし、気をつけてたつもりだったのですが……。

 遊び人スキルの中に罠が仕込まれてるなんて、さすがに想定外でした。

 なんて厳しい世界なのでしょう……。


「あぁ~……」


 ベッドに腰掛けたままうな垂れ、思わず頭を抱え込みます。

 賢者から、無職どころか犯罪者。

 酷い逆サクセスストーリーもあったものです。


 いや所詮僕なんて、その程度の人間なのかもしれません。

 たまたま悟りを開くのが早かっただけで、結局魔法もロクに覚えられずに資格剥奪。

 いつもお姉ちゃんに守ってもらうばかりで、自分じゃ何も出来ない子供。


 一人で生きていこうなんて、無理な話だったのでしょう……。


 ぽんっ


 落ち込む僕の頭に小さな手がそっと乗せられる感触。

 ゆっくり見上げると、小さな女の子と目が合いました。


「……大丈夫?」


 大丈夫じゃありません……。


 ――でも、そうですね……。

 不安なのは、きっと僕よりもこの子のほうです。

 こんな小さな女の子に心配をかけちゃいけません。

 なんとかしましょう。


「そうですね……。うん、ギルドのお姉さんか、お城の人に助けてもらいましょう」


 それがいいと思います。

 まだ子供の自分じゃどうにもならないんだから、誰か大人の力を借りるべきです。

 その結果として自分が捕まってしまうなら、それはそれで仕方ないことでしょう。

 死刑は嫌ですが……。


「よし……行きましょうか。大丈夫です。すぐにお父さんとお母さんの所に帰してあげますから」


 言いながら立ち上がると、女の子はハッとした感じになり、自分の服をまさぐり始めました。

 何をしてるのかな? って見ていると、どうやら何かを探していたみたいです。

 ポケットに目当ての物を見つけ出し、女の子はそれを取り出しました。

 それは小さな紙切れのようですね。

 女の子はそれを広げ、僕の前で紙に書いてあるだろう文字をおもむろに読み始めました。


「……わたしは、あなたに、しょ……かん? されたのです」


 たどたどしいけど、なんとか意味は伝わります。


「……お父さんも、お母さんも、いないので、大丈夫です。……帰る場所も、ないのです」


 え?


「……だから、あなたに捨てられると、どれいに、されちゃうの?」


 僕に聞かれても困ります。

 ていうか何ですかそれ。

 お父さんもお母さんもいない? 帰る場所もない?


 ……もしかして、この子は僕と同じ境遇なのでしょうか?

 魔物にお父さんとお母さんを殺されてしまって、家も燃やされてしまって。

 僕は運良くヘーゼルカのお母さんが面倒をみてくれたけど、そうじゃなかったら……。


 あぁ、それなら『仲間を呼ぶ』っていう意味も分かる気がします。

 確かに僕とこの子の生い立ちは、仲間と呼べるほど似ていますから。


「……どれいにされちゃうの?」


 再び女の子が、同じ言葉を繰り返しながら僕を見上げてきました。

 前髪に隠れ気味だけど、大きくてクリッとした瞳が、不安そうに揺れています。

 頬っぺたもちょっと朱くなってきてるし、口がわなわなと震えてるし、今にも泣き出してしまいそうです。


「そんなことはしません。させません」


 思わず抱きしめてしまいました。

 分からないことは多いけど、今はこの子を安心させてあげなきゃいけないと思ったのです。


 屈むように包み込むと、女の子は僕の胸に顔をグリグリ押し付けてきます。

 ちょっと湿った気がするから、やっぱり泣く寸前だったみたいですね。


「大丈夫ですよ」


 もう一度安心させて頭を撫でてあげると、ようやく落ち着いたのでしょうか。

 胸の中でコクリと頷く気配がしました。


 そのまま髪を撫で続け、同時に考えます。


 どうしましょうか……。

 自分一人でも生きていけるか不安だったのに、女の子の面倒まで見なきゃいけなくなってしまいました。


 でも、呼び出したのは自分です。

 その責任は取らなきゃいけないし、なによりこんな小さな女の子を奴隷になんて落とせません。


「……やりましょう」


 ならウジウジしてる時間なんてないです。

 遊び人の新たなスキルを自分で見つけ、なんとか二人で暮らせるだけのお金を稼がなきゃいけません。


 一人だった時とは違い、使命感とやる気が満ちてきました。

 ここから僕の遊び人道が、本格的にスタートしたのです。




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