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48話 僕が勇者?

 あれから数日。

 ミリアシス大聖国は、大変な盛り上がりを見せていました。

 新聖女にエリーシェさんが任命され、そのお祝いなのです。


 特に聖女不在期間が長かったようですし、エリーシェさんはすでに奇跡を起こしています。

 まぁ奇跡でもなんでもないので少し申し訳ない気がしますが、事実を知る人は少ないですし。

 人々の信仰を集めるためにも、そのままのほうが良いでしょう。


 ちなみにゾモンさんからは「いずれ正式な礼をしたいが、今はこんなものしかない。すまん」と、幾ばくかのお金を渡されそうになりました。

 ですが意外にも、それを断ったのはミントさんです。

 普段の彼女ならサッと受け取りつつも「少ないぞ?」なんて言う場面なのですが、珍しいこともあるものですね。エリーシェさんに良い影響でも受けたのでしょうか。


 それからは、特にするべきこともなくなった僕達。

 仕事もないので他の町へ行こうかと考えていたのですが、しかしエリーシェさんの遣いを名乗る方が現れ、もうしばらく滞在して欲しいと言ってきたのです。

 どういうつもりなのかは分かりませんが、無碍に断ることも出来ません。

 というわけで、僕達は今もってミリアシスに滞在していました。


 そして今日。

 僕達はエリーシェさんに呼ばれ、聖殿に招かれることになりました。


 様々な儀式や式典が執り行われ、色々な方が集まるのが大聖堂。

 高貴な方もいらっしゃいますし、なにより信仰のシンボル的な役割もあるので、あちらは荘厳華麗な装飾が施されていました。

 しかし呼び出された先である聖殿は実に質素で、白亜の石造りではありますが、他に目立った特徴のない建物です。


 ただそれでも分かります。

 なんというか、とても空気が澄んでいて神秘的な雰囲気があるのです。


 隣にいるシフォンとミントさんもそれを感じているのか、口数は少なくコツコツと歩く音だけがいやに反響して聞こえました。

 きっとここは神様の住まう場所。

 現世と神界を結ぶ神域なのでしょう。

 気が引き締まる想いです。


「遅いですよ~! 迷子かと心配しました~!」


 気の抜けた声に厳粛な雰囲気がバラバラと崩れ去り、背景にお花畑を幻視でしょうか?

 新しくここの主に納まったエリーシェさんは、たった一人で神に喧嘩を売るスタイルのようです。

 さすがとしか言いようがありません。


 ほら、隣のゾモンさんとニルヴィーさんが頭を抱えていらっしゃいますよ。

 気づいて下さいエリーシェさん……。


 ってニルヴィーさん?

 どうして彼女がこちらに?


「そう驚かないでくださる? 当の私も困惑の真っ只中にあるのですから」


「お困りごとならなんでも聞きますよ~? 私、なんと聖女らしいので~」


「そうですね。ちょっとお静かにお願いします」


 いつもみたいに軽くあしらってしまいましたが大丈夫でしょうか?

 もうエリーシェさんは聖女です。不敬にあたるかもしれません。

 と心配したのですが「は~い」と言いながら口を閉じる仕草をしているので大丈夫そうですね。

 中身は変わってないようで安心しました。


 胸を撫でおろしてから、僕はゾモンさんに視線を移しました。

 すると彼はコクリと頷き、ニルヴィーさんや僕が呼ばれた理由を話し始めてくれたのです。


「まずはニルヴィー様、ディータ殿。急なお呼び出しにお応え頂きありがとうございます」


「い、いえいえ。僕は構いませんので頭をあげてください」


 スッと腰を曲げたゾモンさんを制し、僕は慌てて手を振ります。

 しかしニルヴィーさんは考えこんでいるご様子。

 彼女も呼ばれた理由が分かっていないのでしょうか。


「……一度は無罪になったけれど、やはり死刑ということかしら?」


「えっ!?」


 ニルヴィーさんから飛び出した言葉に、僕はギョッとしてしまいました。

 でも考えてみれば不思議じゃありません。

 彼女に仕えていた騎士が魔物を呼び込み、しかも本人はイビルデーモンだったのですから。

 反逆罪、動乱罪。被せられる罪状はいくらでもあるでしょう。


「ふっ。貴女も被害者の一人だ。むしろモウルナの正体に気付かず、魔物を聖女候補の付き人にした我等にこそ落ち度はあるだろう。その決定に変わりはありませんぞ」


「でしたらどのようなご用件なのでしょう?」


「それはエリーシェ様から直々に……エリーシェ様っ!?」


「ふぁい?」


 顔を向けた先。

 エリーシェさんは、頬一杯にお菓子を摘まんでいました。

 どうりで大人しかったわけですね……。

 隣にはいつの間にかシフォンもご相伴に預かっているようです。

 さすがは我が妹。抜け目がありません。あとで叱っておきましょう。


 でもそういえば……


「甘い物って禁止だったんじゃ?」


「あ、その悪法なら就任初日に改正しました~。初仕事です~」


 えぇ……。

 聖女の初仕事がお菓子の解禁とか、どんだけ強権を振るっているんですか……。


「ま、まぁなんというかな。聖女様のお言葉は神聖なものなのだが、エリーシェ様はつい心にもない言葉が口から零れてしまうことがあるようなので……」


「お菓子で蓋をしようと?」


「そんな建前だ。多少は効果もあるようだし」


 ゾモンさんや教会関係者の苦労がしのばれます。

 涙なしには語れぬ言い訳です。


「でエリーシェさん……いえ聖女様。このニルヴィーにいかなるご用向きでございますか?」


 とんでもない話を聞いたあとでも、態度を変えないニルヴィーさんはご立派です。

 ついこの間までいがみ合っていたのが嘘のように、彼女は恭しく傅いていました。

 そのニルヴィーさんの肩に手を置き、エリーシェさんが楽し気に宣言します。


「ニルちゃんは今から副聖女で~す。よろしくね~」


「はぁっ!?」


 あ、さすがに態度が崩れましたね。

 エリーシェさんに崩せぬものはないのです。


「ちょ、ちょっとお待ちなさいなエリ……聖女様っ! 副聖女!? そんなもの聞いたこともありませんわっ!?」


「それも初日に作りました~。二つ目のお仕事ですね~」


 強権どころか独裁です。

 ここミリアシスに、とてつもない暴君が誕生していたのです。


「そ、そんなことっ! ゾモンさんっ! 総主教様はそんなことをお認めになったのっ!?」


「認めざるを得ぬよ。実際に奇跡を起こし、ここまで民の信仰を集める稀代の聖女ともなればの」


 静かに答えた声に振り向けば、深紅の法衣を纏った総主教様のお姿。

 周りを四人の司祭に囲まれ、ゆっくりとこちらへやってきていました。


「こ、これは総主教様。ご機嫌麗しゅう」


「よいよい。もうワシも引退する身じゃ」


「引退……ですか?」


「新しい風に老体はついていけんからの。良い時期じゃろう」


 と総主教様は殊勝なことを仰っていますが、僕は気付いてしまいました。

 エリーシェさんが聖女では心身ともに負荷が大きすぎるから逃げちゃおう。

 そんな雰囲気をヒシヒシと感じるのです。

 恐ろしい。

 なんて恐ろしい方なのでしょうエリーシェさん。


「それにあたり、ワシがやっていた業務も一時的に聖女様にお願いすることになるからの。補佐する者が必要じゃからその措置もかねておる」


「で、でも……何故私なのです?」


「確かにエリーシェ様は民に好かれておる。じゃがニルヴィーさん。政治的な観点で自身を主張していた貴女もまた、富裕層の人々から根強い人気があるのじゃよ」


 彼女の演説は、確かに人々から賛同を得ていました。

 ミントさんに言わせれば弱者切り捨てに聞こえて好かんということでしたが、しかし真実でもあると。


「二人が足りぬところを補い合えば、より盤石というものじゃろう? そうでしょう聖女様」


「あ、え~と……そうです!」


 きっと彼女は良く分かってないです。

 たぶん、仲の良いニルヴィーさんが一緒なら楽しい。

 その程度の浅い考えなのです。

 だって返事をしつつ、スッと視線を逸らしていますから。

 僕の目は欺けませんよ。

 そんな彼女は取り繕うように、ニルヴィーさんの手を取りました。


「そういうわけでニルちゃん。一緒に頑張りましょ~ね」


「わ……分かりましたわ……聖女様がそれをお望みであれば、私に拒否権などありませんもの」


 諦観しているようなお顔ですが、でも少し嬉しそう。

 ニルヴィーさんも、本当のところはエリーシェさんと同じ気持ちなのかもしれません。

 良かったですね二人とも。


「そっちはそれで良いとして、ディータが呼ばれた理由はなんだ? 第二の副聖女とかじゃないだろうな?」


 おっとそうでした。

 僕が呼ばれた理由をまだお伺いしてません。

 それをミントさんが代弁してくれたようです。


「そのことなんじゃがな……ワシも半信半疑ではあるが……」


「ディータさんは勇者かもしれませんから~」


 ……え?

 僕が勇者? なんでそんな突拍子もないことを言い出すんですかこの娘。

 すると総主教様が、どういうことか教えてくれました。


「勇者候補がどのように決まるか知っておられるかな?」


「え、えぇ。聖女様に任命されるのですよね? なんでも聖女様にしか触れない石があって、そこからミリアシス様のお告げを得られるとか」


「神伝えの石じゃな。今代の勇者候補達もそうして選ばれたんじゃが……些か腑に落ちぬ点があっての」


 ディアトリさんも、そうして勇者候補として任じられたことは記憶に新しいです。

 でもそこに疑念が生じるとはどういうことでしょうか。


「なんにせよ試してみれば分かる。……聖女様。ミリアシス様との交信をお願いできますでしょうか?」


「石に触ってくれば良いんですね~? じゃあ、ちょっと行ってきま~す」


 なんと軽い態度でしょう。有難みゼロです。

 まるでスキップするような感じで、エリーシェさんは奥の石室へと消えていきました。

 そこに『神伝えの石』というものが安置されていて、聖女はそれに触れることでミリアシス様から神託を得られるらしいです。


 しかし待つこと数分。

 とんでもないことが起こってしまったのです。

 なんとエリーシェさん。

 神伝えの石を持ちながら走って帰ってきてしまいました。


「な、何をしていらっしゃるのですか聖女様っ!!」


「これ壊れてるんじゃないですか~? ちょっと見てくだ――」


 ――ドンガラガッシャン


「……」


 嘘でしょう?

 石を抱えて走ってきたエリーシェさんが、そのまますっ転び……。

 落っことしてしまった神伝えの石。粉々なんですけど……。


「え、え~と……。その辺の石で代用とか……できませんかね~?」


 帰ってもいいですか?




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