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47話 僕は成長しているようです

「どういうことじゃ?」


 厳粛な場に荒々しく乗り込んできたゾモンさんを、総主教様が顔を顰めて問いただしました。

 しかし臆することなくゾモンさんは堂々と歩を進め、総主教様の前で膝を折ったのです。


「なにぶん火急の報せでしたため、無礼をお許しください」


「……良いじゃろう。して、その用件は」


 総主教様の許しを得てゾモンさんが振り返った先。

 正門から、今度は見慣れたローブ姿の少女が入って来ました。


 ミントさんです。

 ミントさんが、縄で繋がれた男達を引っ張って入ってきたのです。


「ひぃっ! た、頼むっ! なんでも喋るからこの女を遠ざけてくれっ!!」

「お許し下さいお許し下さいお許し下さいっ!!」


 ここがどんな場なのかも目に入らず、必死に許しを乞う男達。

 何をしたんですかミントさん……。


「彼の者達は?」


 でも総主教様は冷静です。

 パニック状態の男達を一瞥しただけで、ゾモンさんに視線を戻していました。


「はっ!! 彼等は……恥ずかしながら、元聖堂騎士だった者達です。そして……」


 バッと勢いよく立ち上がったゾモンさんは、そのままニルヴィーさん……ではなく、その後ろに控えているモウルナさんを指さして言ったのです。


「モウルナの命に従い、グロウシェルの大群を町に向かうよう誘導した大罪人でございますっ!!」


 なっ!?

 グロウシェル騒動が仕組まれたものですって!?


 僕は驚愕に目を見開いてモウルナさんを見ます。

 いえ、全ての人々が彼を見ていたでしょう。

 なのにモウルナさんは、眉一つ動かしていませんでした。


「ニルヴィー様を聖女にしたいという貴様の気持ちは理解出来る。だがそのためにグロウシェルを呼び寄せ貧民地区を襲わせるなど言語道断っ!! 聖堂騎士に……否、人にあるまじき行いだっ!!」


 そういうことでしたか。

 富裕層と貧困層では圧倒的に数が違うと、以前ミントさんも仰っていました。

 彼はその数をひっくり返すため、貧困層の数を減らそうなどと馬鹿げたことを実行したのでしょう。


 投票結果の改ざんはあくまでも最後の手段。

 まぁ誰の目から見てもあからさまに怪しいですからね。

 苦肉の策といったところかもしれません。


「この者達が、聖晶石を動かして群れの方向を誘導したこと。全ては貴様の指示だったこと。洗いざらい吐いたぞ。言い逃れは出来んっ!」


「ほ……本当なのモウルナっ!? なんてことをしてくれてるんですのっ!? そんなこと、私は望んでいませんわっ!!」


 ニルヴィーさんが顔面蒼白です。

 関与していないとはいえ、それが自分の為だと思えば。

 責任を感じるなというほうが無理でしょう。


 するとふぅっと息を吐き出し、モウルナさんが歩き始めました。

 突然のことに、誰もが不意をつかれて動けません。

 何をするのか? どこへ行くのか? 観念したのか?

 そんな疑問が頭を駆け巡っているのです。


 けど、ツカツカとこちらへ歩いてくるモウルナさんに、僕は嫌な予感がしました。

 というか割と確信があります。

 だから彼がエリーシェさんに近寄る前に――


「エリーシェ様」


 モウルナさんが、恭しく膝を折って頭を垂れました。

 その姿に、警戒を強めていたゾモンさんなどは胸を撫でおろしています。


「は、はい」


「群がるグロウシェルを奇跡の力で押しとどめ、大勢の民を守ったこと。このモウルナ、感服致しました」


「ど、どうも」


「先ほどゾモンが言った言葉に嘘はございません。全てはこのモウルナの一存でございます」


 おぉっとどよめきが広がりました。

 今のモウルナさんの姿勢は、罪を認めて懺悔する潔い騎士。

 誰の目にも、そのように見えることでしょう。


「許しなど乞うべくもありません……なぜなら」


 ――瞬間。

 鋭い殺気を放ち、突然モウルナさんが攻撃を繰り出しました。


「貴女はここで死ぬのだからっ!!」


 彼が選んだ攻撃方法は突き。

 人とは思えぬほどの速度と鋭さをもった、絶死の貫手なのです。

 直刀である騎士剣は、抜刀に時間がかかるもの。

 だからこそ鞘に刀を収めているモウルナさんに誰もが警戒を解いていたのですが、それが仇となった形でしょうか。誰も反応することが出来ていません。


 ですが、その狂手がエリーシェさんの身体を貫くことはありませんでした。


「――なにっ!?」


 予想出来た攻撃です。

 サッと避け、逆にその手を掴むことくらい造作もありません。

 そう。僕ならば。


「捕まえたっ!」


 しっかりとモウルナさんの手を掴み、エリーシェさんは……いえ、直前でエリーシェさんと身体を交換していた僕は、そう高らかに宣言したのです。


「なぁっ!?」

「イ、イビルデーモンだとっ!?」


 その瞬間、モウルナさんの姿はイビルデーモンに変わっていました。

 当然、大聖堂内は大パニックです。

 当の本人も、何故変身が解けたのかと少し困惑気味でしょうかね。


 しかしやっぱりでしたか。

 目的の為に大勢の人が死ぬかもしれない方法を平気で行い、なのにニルヴィーさんに傅いて自分の印象を薄める狡猾さ。

 その姿が僕に、ナティの側にいたメイドさんを思い起こさせたのです。


 ただ確信はあっても確証はありませんでした。

 ひょっとしたら、本当に懺悔するだけなのかも。

 なので予めエリーシェさんと入れ替わり、僕は様子を見守っていたのですが。

 どうやら正解だったようですね。


「ひとつ聞きたいのですが、なぜ貴方はそこまでしてニルヴィーさんに肩入れを?」


「人間ごときに肩入れだとっ!? 誰でも良かったんだよっ!! 貴様以外であれ……貴様誰だっ!?」


 おっと。

 イビルデーモンさんが中身に気付いてしまったようです。

 入れ替わりが公になると面倒ですし、早めに片付けてしまいましょう。


「シュートっ!!」


 スカートというのが少しやりづらいですが。

 しかし至近距離から放たれた必殺の靴飛ばしには、そんなの関係ありません。


「ば、馬鹿……な……っ」


 イビルデーモンの胸に大きな穴を穿ち、大聖堂の屋根すら突き破って、高そうな靴がすっ飛んでいったのです。

 ドサリと崩れ落ちるイビルデーモン。

 一撃ですね。靴最強伝説です。


「お、おぉっ!! また聖女様が奇跡を起こされたぞっ!!」

「く、靴だっ!! すぐにあの靴を探し、国宝として奉るのだっ!!」


 俄かに沸き立ち、上へ下への大騒ぎとなった大聖堂内。

 脅威は取り除きましたし、ボロが出る前にさっさとお暇したほうが良いでしょう。

 すぐさま僕はエリーシェさんと身体を戻し、そっと人混みを抜け出します。


 すると去り際。


「良くやってくれたな、本当に。……ありがとう」


 ゾモンさんがそう僕に耳打ちしてから、エリーシェさんのもとへ駆け寄るのが見えました。

 僕も彼の期待に応えられて一安心でしょうか。


 そもそも今日という大事な日に、僕がエリーシェさんに付いていた理由。

 グロウシェル騒動に怪しい点を見つけたゾモンさんは、その証拠を掴むために動かなければなりませんでした。

 けど推測通りにモウルナさんの犯行だった場合、他の聖堂騎士にも仲間がいる可能性が高かったのです。

 なので他の人には頼めず、僕にお鉢が回ってきたという経緯。


 まぁゾモンさんはエリーシェさんから僕のことを色々聞かされていたみたいですからね。

 ある程度は信用していただけていたのでしょう。


 正門を出る寸前。

 今度は横から肩を叩かれます。


「お疲れ」


「ミントさんこそお疲れ様でした。あ、そういえば、彼らに何をしたんですか?」


 思い起こされるのは、ミントさんに引っ張ってこられた男達の怯えよう。

 あれはただ事じゃないと思うのですが。


「ひ、秘密だ。女にはいくつも秘密があるもんなんだ。覚えてお……はっ!? まさか全て暴こうとっ!? 秘密も衣服も全部ひん剥いてやるぜひゃっはーってことかっ!? なんて世紀末な……よし来いっ!!」


「はいそうですね。じゃあ帰りましょうか」


「お、おい待てって!! 最近お前ちょっとアレだぞっ!!」


 置いて行こうとすると、褐色エルフさんが涙目で追いかけてきます。

 わたわたと、しかしフードが捲れないように必死に。

 可愛らしいお姿です。第二妹といって差し支えありません。

 まぁ第一妹であるシフォンの地位を揺らがせることは出来ませんけどね。


「早くしてください。本当に置いていきますよ?」


「ひ、酷いぞディータっ! 泣くぞっ! 本当に泣くからなっ!?」


 少し前の僕なら考えられない態度ですが、なんか色々鍛えられてるんでしょうね。

 グロウシェルの大群にも、イビルデーモンにも、臆することなく立ち向かえましたし。


 追いついてきたミントさんの頭を撫でて慰めながら、僕は遠くの空を見つめます。

 家を買い、シフォンとミントさんに安全な環境を整え。

 そうしたら僕は、ようやく追いかけることにしましょう。

 今の力なら、もう足手まといにはならない筈です。

 ディアトリさんや、ヘーゼルカお姉ちゃんの。


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