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37話 僕は心配御無用です

 よく分かりませんが、ミントさんとシフォンがお世話になったご様子です。

 ならば兄として、挨拶はしなければならないでしょう。


 僕は失礼のないよう汗をズボンで拭ってから、少女の前に手を差出しました。


「初めまして。僕はディータと言――」


「あ、すいません~。それ後にしてもらっていいですか~?」


 言いながらも、すでに少女は駆け出しています。

 また人の輪に戻り、挨拶やら治療やらを再開したみたいですが……。


 ずっと会いたいと思っていたというのは営業トークだったのでしょうか?

 差し出してしまった手が寂しいじゃないですか……。


「……ん」


 と寒々しい手をシフォンが握り返してくれました。


「あ、ありがとうございます」


「……ん」


 同情されてしまいました。

 逆に泣きそうなんですけど。


 そんな僕には構う事無く、少女は次々にやって来る人達全てを相手しているようです。

 いったい何者なのでしょう。


 僕を慰めてくれたシフォンも、また少女の手伝いへと戻りました。

 ミントさんも相変わらずお手伝いの真っ最中らしく、子供達に纏わりつかれています。

 あの少女が人々を診ている間、子供の世話を受け持っているような感じでしょうか。


 なんとなく目が離せない少女。

 お医者様……というわけではないでしょう。

 一応は治癒魔法も使えるようですが、初歩の初歩レベル。

 精々が、病気の治りが少し早くなる程度のものです。


 僧侶……というのも違いますね。

 初級回復魔法であるルオナすら、まともに使えてません。

 魔道具っぽいもので補助しつつの治療のようですから。


 ポケーッと少女の働きぶりをみていると、いつの間にか隣に男性が立っていました。

 彼も僕と同じものを見て、腕を組みながらウンウン頷いているようです。


「エリーシェちゃんは本当に良く出来た娘だよなぁ。坊主もそう思うだろ?」


「エリーシェちゃん……。それがあの方のお名前なのですか?」


 すると隣の男性は目を見開き「そんなことも知らないのか?」みたいなお顔。

 どうやらエリーシェさんは有名人らしいです。


「あの娘はああやって、毎日毎日俺達を見て廻ってくれてるんだ。それこそ一年間、一度も休まずにな」


「それは凄いですね」


 素直に感嘆すると、男性は自分のことのように胸を張りました。


「あぁ! 本当に天使みたいな娘なんだ! 自分が流行り病を患っていても休まないんだからな! そのおかげで病が大流行したけど」


 駄目じゃないですか……。


「でもな。誰も文句なんか言わねぇのさ。それだけここら辺の奴にとっちゃ、エリーシェちゃんは心の支えなんだ。むしろエリーシェちゃんから貰えるなら、病でも引導でもなんでも大歓迎ってな!」


「さすがに引導はお断りしたほうが良いかと……」


 しかしなるほど。

 エリーシェさんはとても立派な行いをしており、街の方々から愛されているようです。

 ミントさんとシフォンも、それに感銘を受けてお手伝いしているのかもしれません。


 とそこに、今度は大柄な男性が走って来ました。

 真っ白い甲冑を装備しているところを見れば、どうやら聖堂騎士団に所属している方のようですね。

 ちなみに聖堂騎士団というのはミリアシス大聖国の兵隊さん達のこと。

 彼等は戦闘集団であると同時に、修道士でもあるのです。


「エリーシェ様! お待たせ致しました!」


 その彼が、ズシンズシンと甲冑を鳴らせてエリーシェさんのもとへ。

 膝に手をあてはぁはぁ息を荒げているので、よほど急いで来たのでしょう。


「ゾモンさんお疲れさまです~。そんなに急がなくても大丈夫ですよ~」


「いえいえ! エリーシェ様のお手伝いをいつまでも旅人に任せてはおけませんから!」


 ガッハッハと高らかな笑い声をあげ、ゾモンと呼ばれた男性はシフォンとミントさんが持っていた荷物を肩代わり。

 ついでに、ミントさんに何やら手渡してから礼を述べていました。


「ではエリーシェ様! 参りましょうか!」


「は~い。シフォンさんもミントさんも、お手伝いありがとうございました~」


 そう言って、なおも人々に囲まれながら去って行くお二人。

 お役御免となったシフォンとミントさんは、その背中を見送っているようです。


「お疲れ様でしたお二人とも」


 なので僕から近付き労ってあげると、シフォンはニッコリとドヤ顔で。

 ミントさんはなんとなく居心地悪そうな感じで振り返ります。


「あ、あまり見られたくなかったんだがな」


「なぜですか? 無償でお手伝いをするなんて、素晴らしいことだと思うのですが?」


 するとミントさんの肩がビクリと震えます。

 おや?

 そういえば、彼女はゾモンさんから何か受け取っていましたね……。


「ミントさん?」


 窺うように訊ねると、ミントさんはポケットからジャラッと何かを取り出しました。

 見れば、銀貨のようです。


「これは?」


「な、何かの足しにしてくれ」


 言いながら、二枚の銀貨を僕に押し付けてくるミントさん。

 どういうわけでしょうか。


「い、いつも宿代を出して貰ってばかりじゃ悪いからな! そ、それともなにかっ!? 全然足りないから身体で払えとっ!? く、くぅ……っ! 人の足元を見やがって……っ!! よし来いっ!!」


「あ、シフォンもですか?」


「……んっ!」


 袖を引かれたので見てみると、シフォンも小さな手の平に銀貨を一枚乗せていました。

 おそらくミントさんと同じお気持ちなのでしょう。


 僕がちゃんとお仕事を見つけられていないから。

 少しでも負担を減らそうと、お二人は日雇いのようなことをしていたのかもしれません。


 情けないですね。

『にぃ』として、頑張らなければならないのに。

 お二人には心配をかけっぱなしではないですか。


「ありがとうシフォン。大切に使いますね」


 彼女の頭を撫でてあげながら、僕は新たに決意です。

 もう魔物討伐なんかに拘らず、なんとかお金を稼ぐ方法を見つけると。

 もちろん悪い事はしませんけれどね。


「お、おいっ! なんで無視なんだよっ! はっ!? さては放置的なアレかっ!? あ、あまり好みではないが……。よし来いっ!!」


 発作中のミントさんが何やら喚いていますが放っておきましょう。

 悪いとは思いますが、こうなった時の彼女は少し面倒ですので。


「ま、待ってくれっ! 本当に放置かっ!? 放置なのかっ!? 泣くぞっ!?」


 歩き出した僕達にミントさんが慌てています。

 まったく。

 泣くくらいなら一緒に行きましょうよ。


 呆れながらクイクイっと手招きすると、ぱぁっと顔を上げて小走りに追いついてくる褐色エルフさん。

 フードを被っているので見えませんが、尖耳がピクピクするお姿を幻視でしょうか。

 そんなわけで僕達は、三人仲良くご飯を食べに向かったのでした。


 ……。



 夕食を皆で食べ終えた僕達は、宿屋に戻って来ました。

 明日もギルドには顔を出すつもりです。

 どんな仕事であろうと、僕はお金を稼がなければならないのですから。

 それにひょっとしたら、魔物退治なんかが舞い込んでいるかもしれませんしね。


「今日はどんな遊びをするんだ? また『ままごと』か?」


 明日の予定を考えていると、ベッドの上で寝転んでいるミントさんが訊ねてきました。

 シフォンも『ままごと』というワードに反応したのか、眠そうにしていた目をカッと見開き起き上がる体勢。

 そんなにアレが気に入ったのですか?

 僕としては二度とゴメンなのですけど。


 しかしそうですね。

 遊び自体は、色々試していきましょう。


「なら今日はごっご遊びシリーズ第二弾。『お医者さんごっこ』を試してみますか。これもポピュラーな遊びのようですし」


「ほほぅ? 昨夜の『ままごと』を考えるに、今度は医者と患者の役を演じるといったところか?」


 さすがミントさん。

 鋭い推理力です。


 ただし、この『お医者さんごっこ』

 少しだけ問題があります。

 というのも、こちらの世界と異界とでは医者の定義が違うのです。


 魔法という力を持つこの世界では、傷や骨折などの外傷はほとんど魔法で治します。

 ですが毒や病気、呪いなどを治す魔法は少ないですし、使い手もあまりいません。

 なのでこちらの世界でいう医者とは、それらの専門家という意味になるのです。


 まぁしかし、ものは試しですかね。


「ミントさんのおっしゃるとおりです」


「ふふん。当然だな。では、さっそく役決めから開始といくか。今日こそスキルが発現すると良いな!」


 というわけで本日の遊び。

 お医者さんごっこが始まりました。





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