表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/147

25話 僕は知らずに虎の尾を踏みにじっていたようです

 手の中で歪な人形が踊り、それに合わせて見知らぬ女冒険者さんが戦場を駆ける。

 本人は意識がないのでかなり申し訳ない状況ですが、今は目を瞑って下さいごめんなさい。


 その代わり、絶対に貴女もナティも。

 もう一人の男の方も、無事に助け出してみせますから!


「グルォォォッ!!」


 予想外の動きを見せる女冒険者さんに苛立ちを募らせ、ケルベロスが炎を吐き出す体勢を取りました。

 これはまずいです。

 なにせナティと男冒険者さんは気を失っているのですから。


 階段と反対側の方向へ女冒険者さんを移動させ、僕はケルベロスの向きを誘導します。

 直後に魔物が炎を吐き出しました。狙い通り、女冒険者さんに向けて。


 当然ながら女冒険者さんも、吐き出された炎の方向を見極めて回避させます。

 戦闘を外から見れる状況というのは初めてですが、想像以上に戦いやすいものですね。


 ただ操るのは人形ですので、細かな手の動きや指の動きまでは操れません。

 ならどうやって攻撃を繰り出すのか。

 答えはこうです!


「喰らって下さいっ!」


 手の中の人形を思い切りジャンプさせ、それをケルベロスの位置に向かって勢い良く振り下ろします。

 すると女冒険者さんも飛び上がり、ケルベロスの頭に勢い良く膝から落下。

 ジャンピングニードロップのようなものでしょうか。


 この方は体重も軽いようですし、致命傷には少し足りませんでした。

 ですが、頭一つを潰すには十分だったようで


「グルォォォォッッ!!!」


 ケルベロスの絶叫と共に、僕の目の前を塞いでいた結界が音もなく消滅していました。

 すかさず女冒険者さんを安全地帯まで退避させ、その場で横たわらせておくことにします。

 そうしてから


「ここからは僕が相手です!」


 僕はさっきまでは近付くことも出来なかった、ケルベロスの前へと躍り出たのです。


 正直、ナティや他の方を連れて逃げるという選択もあるにはあるでしょう。

 ですが、僕は戦うことを選択しました。

 決して倒せる相手だと侮ったわけでも、自分の力を過信したわけでもありません。


 僕は怒っていたのです。


 ディアトリさん達のような旅の仲間とは違います。

 シフォンのように妹的存在でも、ヘーゼルカお姉ちゃんのような姉的存在でも。

 ラシアさんのように、頼れる存在でもありません。


 だけど、ナティは。

 僕に初めて出来た、大切な大切なお友達なのです。


 その彼女を痛めつけた。

 恐れさせた。

 殺しかけた。


 それは、到底許せることではないのですっ!


 まずは魔物の注意を十分に自分へと引きつけ、壁に寄りかかって意識を失っている男の人の下へと走りました。

 一目見て重傷だと分かる大怪我。

 そこに、渾身の初級回復魔法(ルオナ)なのです。


 僕の手から放たれた青白い発光は、さすがに失った腕を生やすような効果はありません。

 ですが一先ず傷は塞がり、なんとか一命は取り留めた様子。


 あとはこの魔物にお仕置きして差し上げ――


「ゴォォォォッッ!!」


 と思った瞬間、ケルベロスが炎を吐き出しました。

 回復魔法を使っている隙を突かれた格好でしょうか。

 回避も難しい状況ですし、なにより背後には男冒険者さんが倒れています。


「イ、初級氷魔法(イムサ)!」


 咄嗟の判断で氷魔法を発動。

 他の方よりも数倍強い威力の初級氷魔法(イムサ)は、ケルベロスの炎のほとんどを相殺してくれました。

 一応連射の準備もしていましたが、一発でなんとかなったようです。

 心なしか、魔法の威力も上がっている気がしますね。

 もっとも完璧にとはいかないので、多少の火傷は仕方ありませんが。


 即座に初級回復魔法(ルオナ)で自分を回復させながら、僕は飛び上がりました。

 何をするのか?

 決まっています。


「シューーーーーートッ!!!」


 靴飛ばしです。

 忘れていましたが、靴って両足に一足ずつあるんですよね。

 両方脱げてしまうと歩くのが大変なのであまりやりたくはないんですが、ここに至っては仕方ないです。


 右足ほどの威力は出ませんでしたが、それでも亜光速でぶっ飛んで行くお気に入りの靴。

 先ほどとは違ってケルベロスは目の前ですので、外す心配もありません。


「ルオォォォォッッ!!!」


 狙い通り、靴はケルベロスの胴体に突き刺さりました。

 しかしその程度で威力は減衰せず、靴は魔物の身体を貫通してから背後の壁すらも破壊していきます。

 相変わらず馬鹿げた破壊力に戦慄でしょうか。


 胴体の前後に大穴を開けた魔物は、最後にもう一度炎を吐き出すために大きく息を吸い込みましたが――


 ――ズドォン


 しかしそこまで。

 地響きと共に大きな身体を横たえ、そのまま絶命したのでした。


「ふぅ……。なんとかなりました……」


 無我夢中でしたが、無事にケルベロスを撃退出来たことに安堵です。

 遊び人スキル凄いですね。

 いつの間にか、Bランク級以上の魔物ですら一人で倒せるようになっているみたいです。

 これなら……


「っと、まだ終ってませんでした」


 ここから、お三方を安全な洞窟の外まで運ばなければなりません。

 といっても非力な僕では一人運ぶことすら難しいですし、三人ともなればなおのこと。

 ここは、もう一度折紙の出番でしょうか。


 僕は折紙を二枚取り出し、二人分の人形を作りました。

 これで全員分。

 髪の毛を一本ずつ拝借して人形に巻きつけ、全員仲良く外まで誘導します。

 なんとなく死霊術師になった気分ですね。


 そうして洞窟の外まで出ると、外はもう暗くなり始めていました。

 町までは馬車で四十分ほど。

 徒歩だと、二時間半くらいはかかるでしょうか。


 素足になった両足は痛いですが、我慢して頑張りましょう。


「さ、行きましょうか」


 と再び三人を操ろうとしたところで、城下町の方から複数の明かりが近付いてくるのが見えました。


「ナティルリア様~!!」


 聞こえてきたのは、ナティを大声で探す声。

 であれば、あれはお城の兵隊さん達でしょう。


「こっちで――」


 手をあげて応える寸前。

 僕は、ラシアさんの言葉を思い出しました。


『お城には、ディータ様に対して良い感情をお持ちではない方もいらっしゃいます』


 いかんです。

 ここで僕が姿を見せてしまったら、ナティを誘拐した犯人と思われかねません。

 それは駄目です。死刑です。


 幸いなことに、彼等は真っ直ぐこちらへ向かっています。

 ならここに三人を横たわらせておけば、きっと見つけてくれるでしょう。


 僕は三人を丁寧に草の上へと横たえ、自分は身を隠すことにしました。

 すると近付いてきた兵隊さん達は、目論み通りにナティ達を発見してくれたようです。


「い、いらしたぞっ!! ナティルリア王女だっ!!」


「本当かっ!! ご無事なのだなっ!!」


 これで一安心ですね。

 僕の役目はここまです。


「よし、帰りますか」


 空にはすでに、一番星が輝き始めていました。

 良い夜空です。


 無事にナティ達を助けることができ、素足であることも忘れ、僕は上機嫌でお屋敷まで帰ることにしたのでした。



 ……。



「ディータ様ご無事でしたかっ!!」


「……んぅっ!!」


 屋敷に戻るや否や、ラシアさんとシフォンが出迎えに出てくれました。

 ラシアさんは心配そうにおろおろと。

 シフォンは僕の姿を見つけたと同時、飛び掛る勢いで抱きついてきたのです。


「ありがとうございます。また心配をかけてしまいましたね」


 シフォンの頭を撫でながら、ラシアさんにもお礼を伝えると、彼女は「いいえ」と首を振っていました。

 ですが、少し垂れた目尻が湿っているように見受けられます。

 かなり時間がかかってしまいましたから、本当に心配をおかけしたのでしょう。

 申し訳ない限りです。


「先ほどお城から遣いの方もいらして、ナティルリア様も無事に発見されたとのことですよ!」


「えぇ知っています。本当に間に合って良かったです」


 ここまで報せが届いているなら、ナティはすでにお城まで運ばれた後でしょう。

 僕は足が痛くて休み休み帰ってきましたから、たっぷり四時間くらいかかってしまいました。

 その間に、全ては上手く収まったとみて間違いなさそうですね。


「知って……いた、ですか? じゃあ、やはりナティルリア様をお助けしたのはディータ様なのでしょうか?」


 渡されたタオルで足裏を綺麗にしていると、ラシアさんが怪訝な顔をして質問してきました。

 ラシアさんには正直に話しておくべきでしょう。


「そうなりますね」


「で、ですが、遣いの方の話では、ダグラスという剣士がケルベロスを討ち果たしたと……」


「本人がそう言ったのですか?」


「そう聞いております」


 ダグラスというのは、恐らく片腕を失ってしまったあの冒険者さんでしょう。

 それならそれで好都合ですかね。

 あまり僕が目立つのはよろしくないみたいですし。


「ならそういうことにしておきましょう」


「……いいのですか? 本当のことを話せば、ディータ様は英雄になることも出来るのですよ?」


「そんな柄じゃないですよ僕は」


 そんなことになれば、敵も同時に増えそうです。

 冒険者としても、動き辛くなるのは容易に想像出来ますしね。


 僕としてはシフォンを安全に生活させてあげながら、ゆくゆくはディアトリさん達と合流。

 再びヘーゼルカお姉ちゃんと一緒に旅をすることが、最大の目標なのですから。


「今日は疲れたのでこのまま寝ることにします。シフォンもラシアさんも、待っていてくれて本当にありがとうございました」


「は、はい……」


「……ん」


 まだ納得のいかなそうなラシアさんと、眠たげに瞼を擦っているシフォン。

 二人を微笑ましく思いながら、僕は自室へ戻ってベッドにダイブです。


 本当に疲れました。

 でもナティは無事でしたし、今日はゆっくり休めるでしょう。


 そんな安心感から、僕はすぐに泥のように眠りに落ちたのです。


 だから気付きませんでした。

 夜中を過ぎたころ、僕の部屋に侵入してきた何者かの足音に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ