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21話 僕はナティが心配です

「本当に見つかりました! 凄いですねディータ様!」


 青いポニーテールを左右に揺らせて、ラシアさんが嬉しそうに言ってきました。

 手には、緻密な細工を施した髪留めが握られています。

 優しく目尻を垂らせてそれを見つめる彼女の表情は、とても柔らか。

 本当に嬉しそうです。


「いえいえ。僕も半信半疑でしたが、お役に立てたようでなによりです」


 僕は今、お屋敷のリビングでダウジングなるものを試していました。

 厳密には遊びと言えないかもしれませんが、異界の知識にはこういった占い系統のものも多かったのです。


 例えばトランプ占い、花占い、星占い。

 少し本格的になると、ダウジングやコックリさんなんていうものもありましたね。

 精霊さんの力を借りるようなものでしょうか。

 取り扱いは難しいらしいですが、広く一般にも知られているようでした。


 それらの中で、簡単な道具で出来るダウジングを試してみた次第。

 結果は上々で、探し物なんかを見つけるのに役立ちそうなスキルの発見です。


「他にも何か探して……あ、そういえば、最近僕の下着が一枚足りないんです。これを探してみ――」


「それは大丈夫です」


 長い糸の先に括りつけた小さな水晶。

 それをお屋敷の見取り図上に持っていこうとしたところ、バッとラシアさんが掴んでしまいました。


「で、でも、足りないと困りますし」


 デビルボアの報酬なんかもあるので、多少は金銭に余裕があります。

 ですが先にシフォンの着替えなどを揃えてあげたいので、僕のものは後回し。

 失くなったから買えばいいなどという贅沢は許されません。贅沢は敵なのです。


「それでしたら私が買って参りますので」


「そんなことをして頂くわけにはいきませんよ。探してみま――」


「駄目です」


 駄目らしいです。

 ラシアさんは頑なに探させてくれません。

 確かに古くなっていた下着ですので、そろそろ買い替える必要があるとは思ってました。

 きっと彼女も、そう考えてのことなのでしょう。


 僕は平民ですが、ここは元々王族の方が使っていたお屋敷。

 それに相応しい衣服を着ろと、メイドさんは思っているのかもしれません。

 配慮が足りませんでした。


「分かりました。じゃあ違うものを探してみましょう」


「それがよろしいかと。ナティルリア様でしたら、探して欲しい物もたくさんあるかもしれませんね」


 確かにそうですね。

 このお屋敷も十分広いですが、当然ながらお城とは比較にもなりません。

 あんなに広いところで何かを失くしたら、とてもじゃないが見つからないでしょう。

 とくにナティは、少し大雑把なところがありますからね。


「そういえばナティ。今日は来ませんね」


「……ん」


 呟くと、隣に座ってダウジングの振り子に目を奪われていたシフォンも、悲しげに同意を示しました。

 昨日の不自然な別れ方。

 そのことを思い出し、心配しているのでしょう。


「……しんぱい」


「そうですね」


 俯いて、玄関の方角を見つめるシフォン。

 その頭を撫でてあげながら、僕も少し心配です。


「大丈夫ですよ。きっと明日になれば、またいつものように訪問されるでしょう」


 そんな僕達の様子を微笑ましく見守りながら、ラシアさんがお茶を用意してくださいました。

 本当にそうならば良いのですが。


『私は負けないわよっ!』


 あの言葉は、どういう意味だったのでしょう。

 力強い言葉とは裏腹に、彼女の瞳には悲壮感のようなものが垣間見えた気がします。


 そのことが、僕の心に不安の影を落としていたのでした。



 ……。



 翌日。

 今日もナティは来ませんでした。

 いよいよもっておかしいです。

 なぜなら彼女は、二日続けて来ないということがなかったのですから。


 朝食を食べ終えて昼も近くになりはじめると、さすがのラシアさんもソワソワしだしています。


「本当にどうしたのでしょうねナティルリア様」


 頭に過ぎるのは良くない考えばかり。

 ご病気だったり、事故だったり。

 あのお城にはイビルデーモンもいました。

 まさか他にも同じようなのが居て……。


「ラ、ラシアさん。お城に行ってみるというのはいかがでしょう?」


 立ち上がってラシアさんに聞いてみると、シフォンも後ろから付いて来て僕の裾を掴んでいます。

 シフォンとナティは、いつの間にかとても仲良くなっていましたから。

 本当の姉妹のような気持ちなのかもしれません。


「それは……あまり良いお考えとは言えませんねディータ様」


「何故ですか?」


 詰め寄るように聞くと、困った顔をしたラシアさんは、指をこめかみに当てていました。

 言いあぐねる。もしくは言うのを躊躇うように。


 恐らく慎重に言葉を選び、彼女が口を開いたのは、たっぷり二十秒ほど考えてからでした。


「お城には、ディータ様に対して良い感情をお持ちではない方もいらっしゃいます」


「僕が嫌われているってことですか?」


 何故でしょう?

 あの日以来、僕はお城の方と関わってはいません。

 ご機嫌一つで死刑を宣告してしまう方々らしいですから、こちらから虎穴に入って尻尾を踏む必要はないのです。

 なのにどうして。


「王から直々に屋敷を下賜されるなどよっぽどのことですし、しかもナティルリア様が足繁く通っているなどという噂が立てば、良からぬことを邪推する者もいるのです。それにディータ様は、お一人でイビルデーモンを倒したほどの実力者。敵にするや味方にするやと、下らない権力争いに巻き込まれることも考えられます」


「そ、そうなんですか? なんか大事(おおごと)に聞こえるのですけど」


大事(おおごと)ですから」


 自分の知らない間に、どうやら僕の色々な噂がお城の中を泳ぎまわっているらしいですね。

 尾ヒレや背ヒレも当然付くでしょうし、関わりあいになりたくありません。死んでしまいます。


 けど


「で、でも。やっぱりナティの事が心配なんです」


「……んっ!」


 僕の噂がどうであろうと、ナティがどうなっているのかの方が大事です。

 なんだか嫌な胸騒ぎが治まらないのです。


 そう強く懇願すると、ラシアさんが大きく溜息を付きました。


「……分かりました」


「ラシアさんっ!」


「ですが、やはりディータ様をお連れするわけには参りません。ですので、私が行って様子を窺って参ります。それでよろしいですか?」


 なんて頼りになるメイドさんなのでしょう。

 感極まって、僕とシフォンは同時にラシアさんに抱きついてしまっていました。


「ありがとうございますラシアさんっ!」


「……りがと」


「い、いぃえぇっ!? こちらこそありがとうございますぅっ!!」


 やけに上擦った声で、なぜかお礼を返されてしまいましたが。



 ともあれ、ラシアさんはお城へ向かうために準備。

 僕達は、それを見守っていました。


 すると、いざラシアさんが出かけようとした時でしょうか。

 玄関の扉がけたたましく叩かれ、兵隊さん達が入ってきたのです。


「ナティルリア様はこちらかっ!!」


 何事でしょうか。



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