20話 リルゼ、冒険に出る
**** 道具屋の娘 リルゼ視点 ****
今日も冒険日和。
いつものように意気揚々と、私はギルドの掲示板を眺めていた。
まだ駆け出しではあるけど、こうして依頼掲示板から受ける依頼を吟味しているだけで、なんだか一端の冒険者になった気分。
ニマニマと頬が緩んじゃう。
さてさて。
今日はどんな冒険が私を待っているのかな?
そんな気持ちで依頼書を上から順に見ていく。
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【配達依頼】
勇者候補ディアトリ様へ、国王からの文書を届けて欲しい
【推奨ランク】
ゴドルド大陸深部への配達なので、Aランク。もしくはBランク複数が望ましい。
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これは無理ね。
勇者候補様には会ってみたいけれど、ゴドルド大陸なんて私の実力で行けるわけないもの。
推奨ランクも最低Bってことで、そもそもDランクの私はお呼びじゃないんだけどね。
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【討伐依頼】
ポードラン付近で目撃されたデビルボアの討伐
【推奨ランク】
Aランク、もしくはBランク冒険者が5人以上のパーティー。
※完了済み
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あ、これこの間噂になってたデビルボアの。
そっか。討伐されたんだ。
凄いなぁ。
どんな人なんだろう……っと。
身の丈に合った依頼を探さなきゃ。
大量の依頼に目を走らせながら、時折まだ見ぬ冒険者に思いを馳せ。
私は受注出来そうな依頼を探していく。
すると、一つの探索依頼に目が止まった。
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【探索依頼】
ポードラン近郊で最近見つかった洞窟の探索
【推奨ランク】
Cランク、もしくはDランク冒険者が4人以上のパーティー。
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洞窟の探索依頼は珍しいものじゃない。
そもそも洞窟っていうのは、魔物が棲家とするために掘り進めたものがほとんどだ。
どんな魔物がいるか。どのくらいの数がいるのか。
危険度を調査するため、見つかり次第冒険者が派遣されるのは当然のことだろう。
だから依頼発注者は国かギルド本部であることが多い。
そのため報酬も高額だし、なにより見つかったばかりの洞窟。
魔物が溜め込んだお宝なんかも、落ちている可能性が高いのだ。
「これ……いいなぁ……」
幸いなことに推奨ランクにも達している。
固定パーティーを組んでいないから、あとは一緒にいってくれる人を探せばいいだけ。
……なんだけど、私と一緒に組んでくれる人は少ない。
べ、別に私が弱いからとか、頼りなさそうとかいう話じゃないよ?
原因はお父さんだ。
町で道具屋を営む父はそこそこ顔が広く、そこそこ顔が怖い。
その娘に怪我をさせたとなれば、後が怖いと考える人は多いみたい。
本当は優しいお父さんなんだけどなぁ……。
依頼書の前でうんうん唸っていると、不意に後ろから声を掛けられた。
「その依頼に興味があるのかい?」
振り返ると、そこには三人組のパーティー。
うち二人は男の人で、たまにギルド内でみかける顔だ。
確かダグラスさんとドットリオさんだったかな?
でももう一人は知らない子。
というか、フードで顔を隠しているから顔が見えない。
「俺達もこれから行くつもりなんだけど、良かったらどう?」
私の困惑をよそに、ダグラスさんはグイッと距離を詰めてくる。
渡りに船の話ではあるけど、懸念もある。
「私、武道家ですよ? ダグラスさんもドットリオさんも剣士ですよね? 前衛ばかりというのは……」
「あ~、大丈夫大丈夫。俺とコイツはこの間Bランクに昇格したし、推奨C程度の洞窟なら目を瞑ってでも踏破出来るぜ?」
それはそうかもしれないけど……
「あの、後ろのフードを被った方は?」
「あ~この子? なんか強くなりてぇって言うから、一緒に連れてってやることにしたんだ。魔法使いだったかな?」
ダグラスさんが振り返って視線を送ると、フードの子はコクンと首肯した。
恥ずかしがりやさんなのかな?
命を預けあうわけだから、顔くらい見せて欲しいんだけど。
「ナ……ティナよ。初級の攻撃魔法くらいなら使えるわ」
そんな私の考えを察したのか、一応名前は名乗ってくれたフードの子。
声の高さから考えて女の子みたい。
歳も私に近いかな? そう考えれば、少しだけ警戒が解れる。
「私はリルゼ。よろしくね」
「よろしく」
それに気を許して手を差し出すと、ティナさんも応じてくれた。
こういう出会いも、冒険者の醍醐味だと思う。
「よっし、じゃあ決まりだな!」
「ならさっさと行くか!」
私とティナさんの様子を見ていた男性二人は、それがパーティー加入の挨拶だと思ったのだろう。
あれよあれよという間に、私も着いて行くことになってしまったのだ。
まぁでも、悪くはない。
難しい依頼じゃないし、前衛は実力者だというお二人。
私とティナさんは、やや後ろから着いて行くだけだろう。
ちょっと冒険としては物足りないけど、経験を積むには丁度良いかもしれない。
そんなわけで私達四人は馬車に乗り込み、ポードランの城下町から四十分ほどの山間部へ向かうことになった。
「ほう。確かにこりゃたいしたことなさそうだ」
到着して洞窟の入り口をみるや、訳知り顔でドットリオさんが呟く。
「分かるんですか?」
「俺くらいになるとな」
まるで生徒に講釈するよう、ドットリオさんは洞窟の外観から説明を始める。
「まず入り口が狭い。これは、中に大型の魔物がいないことを示している」
「なるほど」
「それに大型の魔物がいないってことは、中にいる魔物の数も少ないってことだ」
「何故ですか?」
「魔物ったって生きていくために必至だ。特に、この入り口から入れるような小型の奴等はな」
そういうことか。
大型の魔物がいればその庇護下に入ろうと、自然と魔物は集まってくる。
でもここにはそうした魔物がいないから、数は少ないっていう理論だ。
勉強になる。
「その分お宝も当てには出来ねぇけどな。ったく、つまらねぇ仕事になりそうだ」
「まぁそういうなって」
愚痴を零したダグラスさんに、ドットリオさんが何やら内緒話を始めていた。
時折その視線が私やティナさんに向けられるから、私達にも無関係な話じゃなさそうだけど……。
あんまり好ましい視線じゃない。
「な、なにか?」
「あ~いや、なんでもねぇよ。お前等みたいな駆け出しが経験積むにゃ、いい所かもなって話」
「そうそう。経験積むには、な」
なんだかニヤニヤと嫌な笑みを零しながら、それでもダグラスさんとドットリオさんは先へ歩き出していた。
私はそこに不穏な空気を感じたけれど、ティナさんは気にしてないみたい。
横をチラッとみたけれど、特に躊躇もせずに前の二人の後を追い始めていたのだ。
仕方ない。
私だけ、ここで立ち尽くしているわけにもいかないから。
「ま、待ってくださいよ」
出遅れたことに慌てながら、私は真っ暗な洞窟に呑み込まれるよう入って行くのだった。




