16話 僕はストレスを靴に乗せて飛ばします
最近気付きました。
遊び人スキル、結構種類が豊富です。
異世界から得た知識で色々試したところ、大体はスキルとして発動してくれたのですから。
でも最近気付いてしまいました。
遊び人スキル、頭がおかしいです。
あぁ、少し語弊がありますね。
遊び人スキル、駄目な意味でハンパないです。
スキル効果が予測不能過ぎて、僕の精神が持たないのです。
ストレスフルです。現代病です。十円ハゲです。
一人で試す分にはいいのですが、ほぼ毎日ナティルリア王女が近くにいますし、当然ですがシフォンも一緒です。
いつ不測の事態が起こるかと思うと、朝も起きられません。
この間は『竹トンボ』なるもので遊びました。
竹という木材を用意出来ませんでしたので、そこらの木を使いましたが。
結果、王女様が天高く舞い上がっていました。
一緒に僕の命も昇天しかけましたね。
あの高さから落ちようものなら無事ではいられないでしょうから。
墜落死。王女暗殺。犯人は無職の遊び人。
不穏な見出しが頭の中でフェスティバルです。
まぁ落ちてきたナティをなんとか抱きとめて、事なきを得ましたが。
『独楽遊び』もしました。
木を削って独楽を作り、テーブルの上で回してみたのです。
結果、テーブルを突き破って地中深くまで穴を掘り進めてしまいました。
熱湯が噴出した時は僕も口から魂を噴出しそうになりましたね。
高温の熱湯が降り注いでしまったら火傷どころじゃ済みませんから。
殺意の温泉掘削人 ~間欠泉の時間差トリック。元賢者の卑劣な罠~
謎の特番が組まれてしまいそうです。
すぐに初級氷魔法でお湯を冷やしたので、誰も火傷をせずに済みましたが。
『人形遊び』は比較的穏やかでしたでしょうか。
初めは何も起こらなかったのですが、ラシアさんのチョーカーを借りて人形を着飾ったところ、人形の動きに合わせてラシアさんを操ることが出来てしまったのです。
人形の手を動かせばラシアさんの手も動きますし、人形をジャンプさせればラシアさんもジャンプします。
それを面白がってナティとシフォンが人形の取り合いを始めた時は、心臓が痛くなりましたね。
両サイドから引っ張るものだから、人形の服が破け飛んでしまったのです。
幸いなことに、ラシアさんのメイド服が破けるということにはなりませんでしたが。
この間新調したばかりのメイド服。
また破けるなんてことにならず、僕は胸を撫で下ろした所存です。
なぜかはぁはぁと息を荒げていたラシアさんが、ガッカリしたように見えたのは気のせいでしょう。
そういえば『あやとり』というのも試しました。
本当に異世界の方々は手先が器用だと驚愕します。
たった一本の紐で複雑な形を再現してしまうのですから。
ただ、この『あやとり』
何かが起こるということはありませんでした。
いえ、起こったことは起こりました。
湖で転移した時以上に、僕の魔力がゴッソリ使われた形跡があるのです。
でも実際にはなにも起こらなかったので魔力不足でしょうか?
あれだけ膨大な魔力消費。
もし足りていたら、何が起こっていたのか考えただけで怖いです。
「ナティルリア様は、今日はいらっしゃらないようですね」
昼食の片付けをしながら、ラシアさんが朗らかな声をかけてきました。
ナティが来る時は、大体朝食直後くらいが多いです。
なのでこの時間まで来ないということは、今日は来ないのでしょう。
「そうみたい……ですね」
少しだけガッカリしている自分に驚きます。
いつもいるのが当たり前になってしまっていて、物足りなさを感じてしまうのです。
まぁ、ですが良い機会でしょう。
天気も悪くないですし、外でしか出来ない遊びを試してみましょうか。
「ちょっと外へ行ってきます。シフォンは残していくので、お願いしてもいいですか?」
「えぇもちろんです。ですがディータ様。十分にお気をつけ下さいね? この前みたいに、いなくなってしまったら困りますから……」
「分かっています」
心配そうな光を瞳に宿したラシアさんに僕は「大丈夫です」ともう一度念を押し、屋敷の裏へと向かいました。
向かうのは湖付近の森の中。
木材を少し調達したいのと、試してみたい遊びがあったからです。
暖かな日差しの中、緑の香りに包まれて僕は森の中を散策します。
肌を撫でる風が心地よいです。
澄み切った空気が体中に染み渡る気がします。
汚泥のように溜まった精神的疲労も、少しは回復してくれるでしょう。
加工しやすそうな木材を探しながら歩くこと数十分。
ちょっと予定より森の深くまで来てしまいましたが、ようやく手ごろな木を見つけました。
これをお屋敷まで運ぶのは大変ですけど頑張りましょう。
と、その前に。今出来る遊びを試してみましょうか。
近くの大きな木に◎を描き標的とします。
そこから距離を取って僕は構えました。
今からする遊びは『靴飛ばし』
靴を飛ばして飛距離を争ったり、的に当てたりする遊びです。
シフォンやナティと一緒ならば飛距離競争ですが、今は僕一人なので的当てにした次第。
中心に近いほど点数が高いというルールを設けていざ開始です。
しかし、どうでしょう。
軽く靴を飛ばしただけでは、真っ直ぐ的に当たらないのではないでしょうか。
当てたいのは中心なので勢いは必須です。
なるべく地面が平らなところに立ち、足で地面を均してから、僕は足を振りかぶりました。
「いっけぇぇッ!!」
異界でいうところのサッカーシュートでしょうか。
そういえば、スポーツというのも良いですね。
今度そちらも試してみましょうか。
ちょっと思考が逸れてしまいましたが、足先から放たれた靴は逸れることなく。
真っ直ぐに大木の幹へと超速度で……え?
――バギバギバギッ!!
靴は、信じられない速度で発射されていました。
そしてそのまま大木を穿ち、森の中をぶっ飛んで行ってしまったのです。
ベキバキと木や枝をへし折る音が、遠くの方まで続いています。
森林破壊。
温暖化。
靴一足で地球滅亡。
死刑どころじゃありません。
いやいやっ!
落ち着きましょうっ!
それは異界の話であって、この世界で環境問題なんて聞いたことありません。
大体この程度の破壊が、世界規模の影響をもたらすなんてあり得ないでしょう。
何を考えているんでしょうか僕は。
少し異界に毒されすぎですね。
思わぬ靴飛ばしの破壊力に思考が迷子になるところでした。
冷静に状況を確認しましょう。
大木に大穴を穿ち、さらに貫通して破壊を続けたこの威力。
初級雷魔法どころか中級雷魔法。いえ、上級雷魔法以上の威力とみて間違いないでしょう。
しかも使用した魔力はほんの僅かです。
これ、結構凄いんじゃないですか?
というか、これ以上なく戦闘に有用なスキルです。
やっと戦える方法が確立できました。
……でも、靴は一足。一発限り。
なら靴をたくさん用意しておきましょう。
大量の靴を担いだ遊び人。見ようによっては靴フェチさんでしょうか?
……やはり遊び人の行く末は変態に辿り着くようです。
と、とりあえず、飛んでいった靴を探しに行きましょう。
考えるのは後回しです。
片方が裸足になってしまったので、けんけんしながら不便な行進。
木に手を付いて身体を支え、なんとかかんとか僕は森を進んで行きます。
すると突然森が開けました。
森の中に、広場のような場所があったのです。
「な、なんだお前!」
そこには大きな蛇が倒れていて、その前に女の子が一人いました。
地面にペタンとお尻をついた女の子は、僕に気付くとすぐに威嚇してきました。
見た感じでは、僕と同年代くらいですかね。
銀色の髪の毛は珍しいですし、褐色の肌も珍しいです。
というか、耳が尖ってます。おや?
「こ、こんにちは」
とりあえず無難な挨拶を交わして、もう一度状況の確認。
大きな蛇はドサリと倒れていて身動き一つしません。
よく見れば、頭の半分が吹き飛んでいました。絶命していることでしょう。
女の子の方は呆然と、その蛇と僕を。とりわけ、僕の足元を交互に見やっています。
座ったままなのは腰が抜けているからでしょうか?
水溜りの上に座っているから、お尻までビチョビチョに濡れてしまってますよ?
「え……っと……お取り込み中でしたか?」
「は、はぁっ!? な、何を言ってるんだお前っ!! こ、これっ!! お前がやったんだろっ!!」
これっていうのは蛇のことですかね?
僕にそんな大それたことをした覚えは……あ。
見つけました。
見つけてしまいました。
蛇の近くに、僕の靴があるじゃありませんか。
「なんなんだよお前っ!! 靴かっ!? 靴なんかでデビルボアを倒したのかっ!?」
「デ、デビルボアっ!? この蛇がそうなんですか?」
「見りゃ分かるだろっ!! わ、私も……。私のことも殺すつもりだなっ!? い、いや、そうか……。陵辱するつもりだなっ!? よし来いっ!!」
言っていることが良く分かりません。
頭が残念な感じでしょうか?