表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/147

15話 僕は紙に想いを織り込みます

「今日は死ぬまで遊ぶわよっ!!」


 昨日は来なかっただけに、その分までということでしょうか?

 朝一でやって来たナティは、開口一番死刑宣告を下しました。

 遊びで死ぬのはゴメンなのですが……。


 と冗談はさておき、僕としても試したい遊びはたくさんあります。

 なにせ異世界の遊び。

 知識としてはインプットされていますが、実際に経験したことはありません。

 楽しみじゃないのかと聞かれれば、全力で楽しみなのです。


「お付き合いしますナティ」


「当然よっ!」


 言うまでもありませんでしたね。

 そんなわけで急いで朝食を済ませ、僕達はさっそく遊ぶことにしました。


 外で、ということも考えましたが、デビルボアの話を聞いたばかりです。

 王女様もいらっしゃることですし、今日は室内で遊べるものにしましょう。

 外でしか出来ないことは、明日にでもこっそり試せば良いのですし。


「ではナティ。こんなのはどうでしょう?」


 少し勿体付けながら僕が取り出したのは、色取り取りの色紙。

 本来は花瓶の下に敷いたりして、部屋を彩る用途で使われているものです。

 このお屋敷にもストックがたくさんあるそうで、ラシアさんに頼んだら快く譲って下さいました。


「敷き紙じゃない。それで何をするの?」


「お花を作るんです」


「……作る?」


 僕の言葉に、両サイドから疑問の声があがりました。

 小首を傾げたのはナティとシフォン。

 今はテーブルの前に、三人並んで座っているのです。

 これからすることを考えれば、固いテーブルは必須でしょうから。


「はい、作ります。二人にも紙を一枚ずつ渡しますので、僕の真似をしてみて下さい」


 そうして始まったのは『折紙』です。

 異界の。とりわけ、辿り着いた日本という国では、紙を折って花や動物。

 果ては、複雑なドラゴンなんかも再現してしまうらしいのです。

 手先の器用な方々なんですね。


 僕にそこまでの器用さはありませんが、簡単な花や鳥なんかは作れそう。

 ということで、初回は「チューリップ」という花を作ることにしました。


 折り、曲げ、ひっくり返し……。


 二人にも分かりやすいように、説明しながら折り込んでいきます。

 すると二人は覗き込むように身を乗り出し、自分の紙を見直して悪戦苦闘のご様子。


 シフォンは「……もう一回」と手順に苦戦していますが、折る時はきっちりと。

 ナティは「こうねっ!」と理解は早いのですが、幾分おおざっぱに。

 意外と性格が出るのも面白いです。


 そんな感じで最後の一折り。


「出来たわっ!」


 とナティが誇らしげに掲げたのは、少し歪なチューリップ。

 花びらが左右非対称になってしまっていました。


「……ん」


 シフォンが作り上げたのは綺麗なチューリップ。

 無駄な折り目が多く付いてしまっていますが、形としてはとても整っています。


 二人は互いの作品を褒め合ったり、こうした方が良いと指摘しあったり、楽しそうに品評会を開いていました。

 ――なのですが、僕の作ったチューリップに目を移した途端にフリーズ。

 ピタリと表情が固まります。


「あ、あら? 今は手品の時間だったかしら……?」


「い、いえ。違いますね」


「そうよね……。私達は、紙を折って遊んでいた筈よね……?」


「そ、そうですね」


「ならなんでディータの手には、本物の花が咲き乱れているのよっ!?」


 そうなんです。

 二人に見やすいようにと、複数作っていた僕のチューリップ。

 それが完成と同時に、全て本物の花に変わってしまったのです。


 どうしましょうか。

 間違いなく遊び人スキルなのですが、こんなことになるとは……。

 最初に作るお題。花にしておいて良かったですね。

 無理してドラゴンなんて挑戦しようものなら、今頃手足が明後日の方向を向いた、とてつもなく歪なドラゴンが暴れまわっていたことでしょう。

 死刑必至。というか、その前に死んでしまいます。


 遊び人スキルはこれだから油断なりません。

 取り扱い説明書を、切に望みます。


 しかしとにかく、この状況をなんとかしましょう。

 遊び人のスキルですと伝えるのは、あまりよろしくないのですから。

 なぜならこのスキル。

 ちょっと考えただけで、かなりデンジャラスなものだと分かります。


 例えば先に考えた通り、ドラゴンを作り出してみる。

 これだけで国が滅びかねません。

 しかも原材料は紙一枚というリーズナブル加減。

 ドラゴン界の価格破壊です。


 そうじゃなくとも、例えば今ナティが首から下げている高価そうな宝石。

 あれを再現してしまえば紙が大金に早変わりですね。

 錬金術どころの騒ぎじゃないでしょう。


 もちろん僕も、そんな風に悪用するつもりはありません。

 そんなことをすれば、育ててくれた養母(おばさん)にも。

 そして天国にいるお母さんとお父さんにも、顔向け出来ませんから。


 ということで、僕は誤魔化すことに決めました。


「こ、これはですね……そ、そうです。ナティにプレゼントしようと、こっそり摘んできたものなんです」


「わ、私にっ!?」


 そう告げると、ガタリと椅子を鳴らしてナティが立ち上がりました。

 しかし気にせず、僕は無茶を押し通します。


「ナティには、僕もシフォンも良くしてもらっていますから。少しでも感謝を伝えたくて、サプライズです」


 サッと花束を手渡すと、受け取ったナティは顔を真っ赤にして硬直してしまいました。

 ちょっと無理やり過ぎたでしょうか?

 でも、本当の気持ちも含まれています。


 初めは王族ということで、戦々恐々だったナティに対する気持ち。

 けど彼女と遊ぶようになり、いつしか王族に対する偏見は氷解していました。


 確かにナティの言葉一つで、僕の首など簡単に落ちるのでしょう。

 ですが彼女は、それほど理不尽な人ではなかったのです。

 それどころか、こうして気軽に僕達のような平民と遊んで下さり、とても気さくに接してくれます。

 慣れないお屋敷生活だったり、友達のいないシフォンの為だったり。

 きっと色々と気を回してくれているのだと思います。


 だから感謝。

 いつか感謝を示したいと、ずっと思っていました。


「い、い、いいの?」


 長い硬直が解けてギシギシと錆び付いたような動きですが、ようやくナティが目を合わせてくれます。

 それに笑顔で頷くと、花束に顔を埋めてナティは俯いてしまいました。


「さ、サプライズというのが良く分からないけど……あ、ありがとっ!! 一生大事にするわっ!!」


 一生は無理です。

 というか、明後日くらいには枯れてしまいますよ?


 でも喜んでいただけたのは間違いなさそうですね。

 僕も嬉しくなってしまいます。


 するとナティは、ゴソゴソと自分の身体をまさぐり始めました。

 どうしたのでしょうか。


「こ、これは駄目よね……王家の秘宝だもの……。これは……お父様に貰ったものだから無理ね……。あ、そうよっ! これなら大丈夫だわっ!」


 首の宝石を触って何やらブツブツ呟いたあと、今度は指から綺麗な指輪を外しました。

 そして、それを僕に手渡してきたのです。


「これをあげるわっ!」


「い、頂けませんよこんな高価なもの!」


 無理です。

 紙で作った花と、様々な宝石が散りばめられた指輪。

 それを物々交換なんてどう考えても釣り合いません。

 二つを天秤に乗せたら、僕の花束なんて宇宙の果てまですっとんでいく軽さでしょう。


「いいのっ! ディータがくれた花束には、それだけの……それ以上の価値があるわっ!!」


 ありませんって。

 こういうところは王族らしいですね。

 庶民の価値観ではとても推し量れそうにありません。


 しかし何度も断り続けては、せっかくの機嫌を損ねるだけでしょう。

 いずれ折を見て返すことにし、今は形だけ受け取っておきましょうか。


「ありがとうございますナティ。僕も、一生大事にしますね」


「え、えぇっ! そうしてっ! 是非そうしなさいっ!!」


 なんだかモジモジしたり、花束を見つめてうっとりしたり。

 天真爛漫なナティにしては随分と大人しい感じです。

 こんな彼女を見れただけでも、感謝を示したことは間違いではありませんでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ