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142話 僕は絶望する

「魔王っ!? 嘘ですよねっ!? だってアキハバラで会った警察の人じゃないですかっ!?」


「おう、久しぶりだな糞ガキ。お父さんは見つかったか?」


 間違いないようです。

 それだけに動揺を隠せません。

 彼がここにいる理由は、きっと僕のせいなのでしょう。

 水切りによる異界転移に巻き込んでしまったとしか考えられないのです。


「ごめんなさい……。僕のせいですよね? 凄くご迷惑をお掛けしたみたいで……。僕が責任をもってあちらに戻しま――」


 言いかけていたところ、魔王を名乗った警察さんが突然笑い出しました。

 愉快そうに。けれどとてつもなく邪悪に。

 その笑顔に、僕は嫌な予感を覚えるのです。


「必要ねぇよ。俺はこっちが気に入ってんだ」


「そ、そうなんですか?」


「あぁそうだ。なにせこれから人が滅ぶってんだからな」


 え? と思う間もなく発射された漆黒の魔法。

 それはディータランドを破壊しながら被害を広げていくのです。

 飛翔、着弾、爆発。

 後には飛び散る瓦礫と、たくさんの悲鳴が聞こえました。


「止めて下さいっ! 何故こんなことをするんですかっ!」


「何故? 聞いてなかったのかよ。俺は魔王。そんでもって世界を滅ぼす者だ」


「そんな筈ありませんっ! だって魔王は倒したのですからっ! その加護はリルゼさんが持つ勇者の加護と相殺され、完全に消滅しましたっ!」


「なら試してみるか?」


 魔王を名乗った男。

 御子柴さんは、無防備に両手を広げてみせます。

 魔王かどうか試してみろと言うからには、きっと攻撃しろという意味でしょう。

 神ですら殺せる僕の靴飛ばしですが、魔王だけは倒せないのですから。

 けれど魔王じゃなかったら……。

 僕は自分のスキルに巻き込んで人生をめちゃめちゃにしてしまった人を、自分の手で殺すことになってしまいます。

 それはあまりにも……。


「どうしたガキ。やらないのか? ならお前が死ね」


「――っ!?」


 御子柴さんが広げた手の間に魔力が収束し、出来上がったのは黒い球体。

 先ほどからディータランドを破壊しているあの魔法です。


「そらよっ!」


 反射的でした。

 圧倒的な力を前に僕の身体は勝手に動き、避けると同時に靴を飛ばしていたのです。

 やらなければやられる。

 そう直感せざるを得ない彼の魔力が、不幸を招いてしまったのです。


 目で追うのも難しいほど豪速で飛んでいく僕の靴。

 それが御子柴さんに直撃し、半身を吹き飛ばしてしまいました。


 ――けれど


「おほぅ……。痛ってぇな。死なないとはいえ、こりゃあ確かに危険だ」


 御子柴さんは立っていました。

 身体の半分ほどを吹き飛ばしたにも関わらず、みるみる傷が塞がっていくのです。

 その力はまさしく魔王。

 もう否定することも誤魔化すことも不可能なほど、彼は魔王なのでした。


「だろう? ゆえに今、この場で確実に殺さねばならない」


「みたいだなぁ。余計なことをしやがって」


「それについては弁解のしようもない。よもやここまでに育つとはな」


 殺気を伴った二人の視線が僕を睨め付けてきます。

 やばいです。魔王と神が合わさって最強に見えるのです。

 というか魔王だけだったとしても、勇者の加護がない今どうしようもありません。


 二人は僕を逃がすつもりはないみたいですし、もはや死んだも同然な状況。

 さすがに足が震えます。体が強張ります。走馬灯が全力疾走です。


 そんな今の僕に出来ることと言えば……


「ど、どういうことですか? ここまで育つというのは……」


 時間稼ぎです。

 せめて園内の方々が逃げるまで。

 シフォンやミントさん達が逃げてくれるまで、時間を稼ぐ程度のことしか出来ないのです。

 だからこそ、僕は全力でそれをやり遂げる所存。


 向こうも薄々僕の意図は気付いているでしょうけど、余裕たっぷりなのか、疑問に答えてくれるようでした。

 仕事の神ブジョット様が、手にした金槌を肩に乗せ、やれやれと首を振ります。


「本来なら、特別な遊び人となったお前が他の人間共に力を示すことで、冒険者達を遊び人だらけにするつもりだった。それは半ば上手くいったが、当のお前が想定以上の能力を得てしまったからな。淫欲には悪いことをした」


「特別な? 僕がなった遊び人は、他の人と違うのですか?」


「気付いているのではないか? お前の使うスキルが、神代魔法の直接行使であると」


 リュメルス殿下の仮説が、こんなところで答え合わせされました。

 伊達に魔法だけに情熱を注いでいない殿下なのです。


「お前の職業は、正確には『遊び神』にあたる。遥か昔に実在した遊びの神の能力だ」


 遊びの神様と言われても、正直聞いたことがありません。

 神様というのは人の信仰がないと消えてしまう存在なので、きっと消えてしまったのでしょう。

 人々は、永い間魔物との戦いや戦争で疲弊し、遊ぶ余裕がなくなっていたから。


「とはいえ、普通であればそこまで多種のスキルを覚えることなどあり得ない筈だった。なぜなら融合させた遊びのほとんどは、遠くて近しい世界。魔王御子柴が住んでいた世界の遊びなのだから」


 なるほど。

 僕が水切り遊びで異界の知識を得てしまったことが、予想外の結果に繋がったということでしょう。

 しかし遠くて近しい世界?

 遠くては分かりますが、とても近しいなどとは思えない世界でしたが……。


 そんな僕の疑問を読み取ったのは、御子柴さん。

 いや、もう魔王ですね。

 彼についても聞きたいことはたくさんあります。

 その最たるものが『何故魔王なのか』ですが――


「詳しい事情は俺も聞いたがさっぱりだ。簡潔に言やぁ、この世界も俺のいた世界も元々は同じ世界なんだとよ。それが隕石の衝突の有無、氷河期到来の有無。色んなところが少しずつ違った結果、まったく違う世界へと進化しちまった……だったか?」


「あっている。元を同じとし、枝葉の様に分かれた可能性の世界。それがこの世界とあちらの世界の関係性だ。ゆえにあちらの世界にも魔王の加護が存在し、それを持っていたのが御子柴だった」


 ……え?


 それってもしかしなくても、僕が元凶?

 本当なら世界に一人しか存在しない魔王の加護持ちを、僕がもう一人連れて来てしまったということですか?


「お前の考えは分かるぞ。やっちまったなぁって思うと同時に、なら勇者の加護持ちを探して連れてくりゃいい。そんな風に考えてんだろ?」


「ぐ……っ」


「発想は良いが、残念なお知らせだ。俺等もその辺のとこは警戒してたからよぉ。調べといてやったわけだ。その結果、あっちの世界にゃ勇者の加護がないことが判明してる。それにだ――」


 魔王の腕が動いたと思った瞬間。

 僕の足に激痛が走りました。


「お前がここで死にゃあよ、そんな馬鹿げたスキルを使える奴もいなくなるってな寸法よ」


 見れば拳銃。

 およそこちらの世界にはない武器ですが、彼はそれを所持していたのです。

 しかもなんらかの改造を施したようで、とてつもない魔力を帯びています。


「がは……っ!」


 パンパンッと乾いた音がなるたび、風通しが良くなっていく僕の身体。

 身体強化はとっくに掛けてますけど、やすやすと貫通してきやがります。

 やばいです。これは本格的に死にます。

 けどまだ。まだ時間が稼ぎきれていません。

 少しでも多くの時間を稼がなければ……。


「僕達が倒した魔王は……捨て駒というわけですか……?」


「あぁん? 人聞きの悪いこと言うなよ。骸骨君は骸骨君なりに、必死にやってたんだぞ?」


「け、けど……。神様達はずっと貴方と行動を共にしているみたいじゃないですか……」


 淫欲の神と一緒に目撃されていたのは、間違いなく御子柴さんでしょう。

 ポーシーの人々に伝授した焼畑農法も、彼が持つ異界の知識なのです。


「そりゃアレだ。人間なのに魔王の加護を持ってるってのが都合良くてな。色々目を掛けてもらってたわけよ」


「魔王でありつつ様々な職に就けるなど理想的なのだ。このまま成長すれば、例え神器が砕かれて勇者が再び現れるようなことになろうとも、もはや手も足も出まい」


「ってことらしい。まぁ今でもほとんど敵なしって感じだけどな。偽勇者御一行の相手でだいぶ成長させてもらったからよ」


 僕は会話を続けつつ、周りの様子を窺います。

 どうやらほとんどの人は無事に逃げられたようで、辺りから人の声は聞こえなくなっていました。

 潮時でしょうか?

 あとは何とか僕も逃げられれば良いのですが――


「おうおう。目的達成おめでとうってとこか? どのみち運命は変わらねぇと思うがなぁ。精々ほんの少し寿命が延びた程度だろうよ」


「それでもっ! 少しの可能性を紡ぎながら、困難に立ち向かうのが人間ですからっ!」


 叫びながらのレシビル。

 いかに魔王の回復力が凄くても、ベースとなっているのがただの人間であるなら、隙は出来る筈。

 その間に逃げる方法を考えなく――


「がぁ……っ!!」


 再びの激痛に、思考が遮断されました。

 見れば拳銃から発射された弾が、僕のお腹を貫通していたのです。

 すぐさま回復魔法を掛けつつ魔王を見ますが、なるほど。

 どうやら神が盾となってレシビルを防いだようですね。

 神に対しては神代魔法じゃなければ効果がありませんから。

 なんて厄介な……。


 ジリジリと後ずさり、なんとか隙を探す僕。

 しかし、とてもじゃないですけど逃げられそうにありません。

 どうしたら?

 いったいどうすれば良いのですか?


 そんなどうしようもない絶望の中


 ――ジャラーン


 突然弦楽器の音が響きました。


「おやおや。お困りどん詰まり? そんな場面にも少しの笑顔を。聞いて下さい。『ピエロのピは「ピンチに駆けつけるカッコいい神様」のピ』」


 いつぞやのピエロさん。

 何故かこの状況で、満を持してのご登場でした。


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