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139話 僕はこれから

 それから――。


 ミリアシスの援軍が到着し、ポードラン国は戦線を押し上げることに成功。

 北方国軍は、以前の国境線まで下がったとのことです。

 そこからどうなるかはまだ不透明ですが、ディアトリさんが命を掛けてでも停戦させると、交渉を開始することになりました。

 聞けば北方国も魔物の被害が甚大で、食べる物も底を尽きそうだったため、止むに止まれず始めた戦争なのだそうです。

 彼等もまた、魔神派の陰謀に巻き込まれた被害者なのかもしれません。


 一方姉は、かつてのパーティーメンバーを救出するため、ゴドルド大陸へ向かいました。

 僕も着いて行くつもりだったのですが、固辞されてしまったのです。


「ディータや王女様には他にやることがある筈よ。それに仲が良かったわけじゃないけど、元パーティーメンバーだから」


 ゴドルド大陸へ行くとなると、往復だけで一ヶ月半。

 戦争で疲弊した今のポードランにナティの存在は必要でしょうから、姉の言うことももっともです。

 僕に何が出来るのかは……いまいちピンと来ませんが。


 しかし兵士さん達も随伴するらしいので、心配はしていません。

 何かあればと、念のため糸電話スキルを発動したカップも持っていってもらいましたし。

 そもそも魔王無き今、武王を止められる魔物などそうそういないでしょうからね。


 そんなわけで、しばらくはナティと一緒に兵士さん達を慰問したり、街を見回って様子を見たりする日々。

 何故か僕もたくさんの方々から声をかけられ、時に拝まれたりしていました。

 中でも遊び人に転職した人達からは、尊敬の眼差しです。


「どうやったら遊び人のまま強くなれるんすかっ!?」

「敵を舐めまわして、何か良いことあるんすかっ!?」

「ボーッとしてたら攻撃されたんすけどっ!?」


 尊敬というか不平不満も混じってますねこれ。

 そんなことを僕に言われても困るのですけど……。

 駆け出し遊び人達の苦悩に、苦笑するしかない僕なのでした。


 もちろん義母の家に帰ることもできました。

 姉と一緒にというわけではありませんでしたが、やはり義母はとても喜んでくれて。

 ここが僕の家なんだなぁと、そう実感することができたのです。


 そうしてポードランに滞在している僕達の拠点は、やっぱりいつものお屋敷。

 なんとなく、ここが一番落ち着きます。

 シフォンも同様なのか、ここに居る時が一番安らいで見えました。

 まだ小さいのに、あっちこっちと連れまわしてしまいましたからね。

 ようやくゆっくりさせてあげられそうです。


「ディータランドはいいのか? やることがないなら戻ったほうがいいだろ」


 ラシアさんの料理に舌鼓を打ちながら、ミントさんがチラッと横目で指摘。

 あそこにはエルフさん達も働いてますし、心配なのかもしれません。

 かくいう僕も少し心配。

 ラムストンさんの、だいぶお疲れだった姿を思い出すのです。

 確かに良い時期かもしれませんね。

 ミントさんの研究を手伝うこと、姉を探すこと、魔神の動向を調べること、そして魔王を倒すこと。

 全ての目的が叶った今、そうするべきでしょう。


「それならミリアシスにも寄ったほうがいいわね。魔王を倒したことは伝書バードを飛ばして伝わっているけれど、聖女様へ直接の報告は必要でしょ?」


 あ~、うん。そうですね。そうでしょうか?

 あんまり気は乗りませんが……。


「で、その後はどうするんだ? そのままディータランドの運営を続けるのか? それともまた何か玩具を考えて、それを売ったりするのか?」


「ポードランに戻って私と一緒にお城で暮らすというのも悪くないわよっ! ディータならお城の皆も歓迎するわっ! 是非そうしましょう?」


「ま、待てっ! それならエルフ村で私と暮らすのだって悪くないぞっ! 豊かな自然っ! 自由な気風っ! どうだ? 疲れを癒すには良いと思わないかっ!? ……はっ!? 夜が激しすぎて余計疲れると遠慮しているのかっ!? 大自然と戯れ、私と戯れる淫蕩の日々っ! オーガニックスっ! よし来いっ!!」


 ナティとミントさんが競い合うように、一生懸命誘ってくださいます。

 さすがにお城で暮らすとか、エルフさん達の集落にお邪魔するとかはあれですけど、でも選択肢は豊富なのです。


 何がしたいかと言われると難しいですけど、でもやらなければと思っていることはありました。

 それはシフォンのこと。

 情操教育上あまり良い環境だったとは言えませんから。

 そろそろ落ち着いた暮らしをさせてあげて、妹をちゃんと育ててあげたいのです。

 間違ってもこのままパワー系クレーター師なんてことにはさせませんよ!


 それに、一緒に遊んでもあげたいですね。

 今までは新スキルの為の遊びばかりでしたが、もっと純粋に楽しめるようなこと。

 そしてたくさん楽しい思い出を作って欲しいのです。


「シフォンは何かしたいこと、ありますか?」


 そう訊ねてみると、シフォンはどこかボーッとしていました。

 珍しいことに、デザートも食べかけで放置してます……あ、違いました。

 シフォンのデザート、四皿目ですねこれ。

 どれだけおかわりしてるんですか……。


 けれどボーッとしているのは本当で、兄は少し心配になってしまうのです。


「シフォン?」


「……ん」


 もう一度声を掛ければ、ようやく気付いたといった感じ。

 溶けかけのアイスを頬張り「……だいじょうぶ」と、笑ってくれました。


「何かしたいことありませんか? 例えばディータランドで遊びたいとか、海で泳ぎたいとか。なんでも良いのですけど」


「……にぃとあそびたい」


「僕と? もちろん構いませんよ。何をして遊びますか?」


「……んぅ……」


 具体的には考えてなかったのか、スプーンを下唇にあてて考え込んでしまったシフォン。

 椅子に座りながら足をバタバタさせ、実に可愛らしい妹なのです。

 とても石をなげて地面を抉るような子には見えません。


 でもやっぱり……。

 今日のシフォンは、どこか物憂げに見えるのです。


「ならディータランドを一緒に巡りましょうか! いつもはシフォン一人で遊んでもらってましたから」


 僕は仕事にかまけて妹を一人きりで遊ばせていましたからね。

 まぁそれなりには楽しんでくれていたみたいですけど、やはり寂しかったと思います。

 その分も、これからたくさんシフォンと一緒にいてあげたいと思うのです。


「……ん」


 小さくコクリと頷くシフォン。

 少し元気が戻ったでしょうか? それなら良いのですが。


 ただポードランが落ち着くまで、もうしばらくはこちらに滞在。

 それから皆でディータランドに赴き、羽を伸ばそうということになりました。


「それまでは一緒に新しい遊び人スキルでも探しましょうか」


「……ん」


「それなら私もやるわっ!」


「もちろん私も協力するぞっ!」


 皆さん乗り気ですね。

 戦う必要もお金を稼ぐ必要もなくなった今、欲しいスキルはどんなものでしょう?

 やっぱり便利なもの。もしくは未知に出会えるような、ワクワクするものがいいでしょうか。

 リュメルス殿下に見せてもらった本の知識を頼りに、色々探っていくことにします。


 そういえば、瞬間移動魔法なんていうものがあったのを思い出します。

 覚えられたら実に便利ですね! 是非取得したいところです!


「瞬間移動ってことは、一瞬で他の場所へ行けるってことか? どんな遊びならそんな効果が発動するのか、予想も付かないぞ」


「イメージ的にはジャンプよね。線を跨ぐ感じで、ぴょんって感じに他の場所へ行けるんじゃないかしら?」


 こうやって逆算するのも面白いものですね。

 ナティの発言は、何かヒントになりそう。

 ジャンプ……どんな遊びがありましたっけ?

 ……あ、あれかな?


「ケンケンパ、って言うのがあるんですけど、どうでしょう?」


 地面に円を描いて、円が一つに対して足は一本しか設置してはいけない遊び。

 ある意味ジャンプ移動なので、これは近い気がするのです。

 これも地方によって色々ルールが違うみたいですが、大体は同じ。

 さっそく試してみることにしましょう。


「で、どこへ瞬間移動するんだ? それを決めておかないと危ないんじゃないか?」


「スキルが発動するかどうかも分かりませんし……でもそうですね。すぐに戻ってこれる場所。ポードランのお城辺りを目指してみましょうか」


 すぐに庭へ出て、地面に円を描きます。

 ただ困ったことに、僕が地面に円を描くと結界が発動してしまったのです。

 これはいけません。そのうち普通の生活に支障をきたす気がします。


「私が描くわ。一応ポードランのお城の方角を目指す感じで……」


 そう言いながらナティが、一つ、一つ、二つと、まさにケンケンパのリズムに沿って円を描いてくれました。

 そこを僕が、ケン、ケン、パッと、リズム良く進めば良いのです。

 試しに最初はミントさん。

 もちろんスキルが発動することなどありませんが


「ケン、ケン、パッ! 簡単だなっ!」


 そりゃあそうでしょう。わりと幼児向けの遊びですからね?

 そんなに胸を張って威張るところじゃないです。

 ともあれここからが本番。

 僕もやってみるのです。


「ケン、ケン、パッ!」


「なんじゃっ!?」


 あ、成功。

 目の前に王様が居ました。


「ど、どこから現れたっ!? 亜空間婿入りかっ!?」


 さすがに混乱している模様。

 軽くご挨拶だけして、脱兎のごとく屋敷へ逃げ帰る僕なのでした。




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