13話 僕はどうやらアキハバラにいるようです
いけません。
さっぱり分かりません。
アキハバラ?
どこにある町なのでしょうか。
それからも、僕はシフォンを連れて色々な方に聞きまわりました。
なんという国ですか?
ポードランの王都はどっちにありますか?
どの辺りの大陸なのですか?
返ってきた答えは、どれも芳しいものではありませんでした。
どうやら『ニホン』という国の『アキハバラ』という町らしいのですが、詳細な位置が判然としないのです。
「おおぅふっ!? ショタと幼女のファンタジー風コスプレですとぉぅっ!?」
途方に暮れていると、なにやら声をかけられました。
この方も身なりはしっかりしていますが、商人でしょうか?
大きな荷物を背中に抱え、汗水垂らしてお仕事の最中のようです。
「ど、どうもこんにちは。ほら、シフォンも」
「……にちは」
「はぅあぁっ!? なんぞっ!? なんぞこの破壊力ぅぅぅっ!!」
騒がしい方ですが、悪い人ではないのでしょう。
敵意はありませんし、舐めるように見てきています。主にシフォンを。
ちょっと不快ですね……。
「あ、あの。ポードランの王都へ帰りたいのですが、道をご存知ではありませんか?」
「キャラ作りも完璧ぃっ!? すばらっ!! 素晴らしい逸材ですぞぉっ!! ぜひお近づきにっ!!」
圧が凄いです。
それにこう言っては失礼ですが、少し臭いです。
シフォンの教育上、さっさと離れたほうが良いかもしれません。
「す、すいませんが、僕達は先を急ぎますので」
「おぉぅっ!? せ、せめてっ! せめて一枚撮らせていただけませぬかっ!!」
な、なんです? 何か取ろうとしているんですか!?
もしや商人を装った盗賊!?
なるほど、それなら挙動不審なのも納得です。
「シフォンっ!」
「……んっ!」
ならば逃げの一手です!
シフォンの手を取り、僕達は一目散に逃げ出しました。
後ろから先ほどの盗賊が追いかけてきましたが、足は遅いようです。割と簡単に振り切ることが出来ましたから。
駄目そうならレシビルでも喰らわせようと思っていたのですが、そうせずに済んで良かったです。
なるべく人に紛れられるように人混みを選んで逃げたため、どこをどう来たのか分からなくなりましたが、僕の目に一つの建物が映りました。
文字は読めませんが、やたら透明度の高いガラスから中を見るぶんに、恐らくここは図書館ではないでしょうか?
であれば、地図くらい置いてある筈です。
文字が読めなくても地図で現在地さえ分かれば、きっと帰る手立ても思いつくでしょう。
そう考え、僕とシフォンは図書館の中に入ることにしました。
建物内に入ると、予想通りに静まりかえった空間が広がっています。
しかしなんでしょう?
空気が冷たい? やけに涼しいのです。
空間全てを覆う微弱な氷魔法でも使っているのでしょうか?
凄い技術の魔法使いがいたものですね。
棚という棚がビッシリ本で埋まっているので、どうやら図書館で間違いはなさそう。
ですが空間を冷やすなんていう事をしているからには、きっと王族専用か何かでしょう。
やはり綺麗な服装の方ばかりが利用しているようですし。
ならば、早く用事を済ませてしまいましょうか。
「す、すいません。地図はありますか?」
司書さんと思しき方に声をかけ、地図のある場所まで案内してもらいました。
しかし、肝心の地図を見てもさっぱり現在地が分かりません。
――というか、なんですかこの地図。
僕の知っている世界地図とは、まったく様子が異なるのですが?
他にもいくつかの地図を広げてみましたが、どれも同じようなものばかり。
……かなり嫌な予感がしてきました。
せめて文字を読むことが出来れば、何か分かるのかもしれませんが……。
騒ぎそうになるシフォンの口を手で押さえ、無駄だと分かりつつも一冊の本に手を伸ばしてみます。
あぁ、読みたい。
読めないけど、何が書いてあるのか内容を知りたい。
叶わぬ願いに心を焦がしながら、パラパラとページを捲っていると
「――っ!?」
魔力が勝手に消費される感覚。
これは、もしやスキル!?
でもなぜ!?
不思議に思った瞬間、頭の中に様々な事柄や文字が浮かび上がりました。
ま、まさかこれは!?
一つの仮説をたて、今度は違う本へと手を伸ばします。
その背表紙に手を翳し、心の中で念じるのです。
(読みたいっ!)
すると再び魔力が消費され、さっきとは違う文字や事柄が浮かび上がりました。
間違いありません。
これは、読まなくても本の内容を習得出来るスキルなのです。
凄いです!
ここにきて、凄まじく有用な遊び人スキルの発見です!
僕はスキルを駆使し、一気に本棚の本を解読し始めました。
一冊の内容を習得するのに僅か二秒。
どんどんと、膨大な知識が頭にインプットされていきます。
まるでパソコンにインストールする感覚でしょうか?
ほら。もう『パソコン』だの『インストール』だのという言葉が、自然と使えてしまってます。
数十冊習得したころには、もう文字も読めるようになっていました。
なので、今必要な本に的を絞って解読を始めることにします。
この国に関すること。この世界に関する事。文化、歴史、言語、宗教。
もちろんエッチっぽいところは、意図的に避けつつですが。
わりとすぐに気付いていましたが、現実逃避するように結論を先延ばしし……。
しかし三十分ほど経った頃、逃げ切れない現実を直視せざるを得なくなってしまいました。
「い、異世界なう……」
どうやらここは、僕達のいた世界とは根本的に異なる世界のようなのです。
ということは、あの『水切り遊び』は転移魔法だったのでしょうね。
遊び人スキル。トラップ多すぎません?
これじゃあスキルに遊ばれる人じゃないですか……。
ですがまぁ、現状は把握しました。
ようするに山手線に乗ろうが飛行機に乗ろうが、僕達は帰ることが出来ないってことですね。
唯一帰れる可能性は、やはり再び転移魔法を行使することでしょうか。
ちょっと怖いですが、やるしか――
「……んっ!?」
考え込んでいると、突然シフォンが助けを求めるような声をあげました。
この世界には。とくにここ日本は治安が良いそうですが、危険がゼロというわけではありません。
「シフォンっ!?」
嫌な予感がして振り返ると……あ~、そうですか。
ある意味、今の僕達にはもっとも危険な方々がいらっしゃったのです。
「ごめんな君達。ちょっと聞かせて欲しいんだけど、お父さんかお母さんは近くにいるかな?」
紺色の制服を身に纏った二人組み。
つまり警察です。ポリスメンです。国家権力です。
捕まれば、僕達は不法入国者扱い。
重罪です。
当然ですが、パスポートもビザも持っていませんからね。
よもや、異世界に来てまで死刑とは……。
なんてことでしょうか……。
「外国人でしょうかね?」
「司書さんの話じゃ言葉は分かるみたいだぞ?」
返答しない僕達を不審に思い、二人組はボソボソと相談し始めてしまいました。
どうしましょうか。
レシビルをぶっ放して逃げることも出来るでしょう。
なにせこの世界には、魔法がないのですから。
しかし魔法の代わりに、魔法よりも便利な科学があります。
大魔法使い数人で行使するような、極大魔法。
それに匹敵する兵器が、ボタン一つで発射される世界なのです。
なんですかそれ。
怖すぎるんですけど……。
「え、えっと。僕達迷子で……」
そっとシフォンを引き寄せつつ、僕は恭順を示すことにしました。
逆らうのは危険です。
彼等の腰には、レシービル級の威力だと想定される武器があるのですから。
まずは様子を見つつ、なんとか誤魔化して逃げ出しましょう。
「そっかぁ。そりゃあ大変だったな。じゃあお家に帰してあげるから、オジサン達と一緒に行こうか」
「は、はい」
向かうのは警察署でしょうか?
いきなり留置場ってことはないですよね?
臭い飯はごめんです。
不安に震えるシフォンの手をギュッと握り、僕達は二人に連れられて図書館を出ました。
初めて乗った異世界の乗り物。
パトカーはとても快適な乗り心地で、異世界マジぱねぇでした。