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130話 僕は国を弱体化させていたようです

 ポードランに到着すると、姉は一人別行動。

 一度実家に立ち寄りたいとのことでした。

 僕は同行するべきか考えた末、今回は見送ることに。

 王家の秘宝がちゃんとリルゼさんの命を守れるものかどうか判別出来るのは僕だけですから。

 まずはそれを確認することを優先したのです。


 そうして王城へ向かう最中。

 街の様子を見たナティが、顔を顰めました。


「まるで活気がないわ……」


「う、うん。どうしたんだろ」


 街の中に店を構えるリルゼさんも、同様に不安気な表情。

 確かに街中は、死んだように静まり返っていたのです。


 威勢よく客引きしていた酒場は半閉店状態。

 以前は歩くだけで大変だった通りも、今はガランとしています。

 それになにより、冒険者の数が圧倒的に少ないことに気付きました。


「物価が。特に食料品が高騰しておりますね。これは良く無い兆候です」


 出店を見て回ってきたラシアさんは、買ってきた果物を手に思案顔。

 普段だったら銅貨一枚程度で買える普通の果物なのですが、なんと銅貨五枚まで値上がりしていたそうです。


「何があったのかしら。とにかくお城に急ぎましょう」


 ただならぬ様子に薄青の瞳を曇らせ、ナティが足を早めました。

 カジノは上手くいっていた筈。

 なのに僅か三ヶ月でここまで衰退するなんて。

 僕も嫌な感じが拭えません。

 かつての賑わいを失ってしまった城下町を、僕達は急ぎ足で通り過ぎたのでした。



 ……。



 お城に到着すると、こちらも変化が顕著です。

 以前であれば長い廊下に等間隔で歩哨する兵士さんがいたのですが、その姿がありません。

 というか、兵士さんの数が異常に少ないのです。

 警備の為に立っているような方はおらず、時折走り去る兵士さんがいる程度。

 いよいよただ事ではなさそうな気配に、僕もおのずと顔が引き締まる思いがします。


「おぉ……。ナティルリアよ。無事であったか……」


 謁見の間に通されると、疲れ切った顔の王様が玉座にもたれ掛かっていました。

 娘の無事に安堵の声こそ漏らしましたが、しかしそれだけ。

 立ち上がる気力もないようです。


「お父様。街の様子を見てきたけれど、いったいどうしたというの?」


 重苦しい空気。

 ナティの問い掛けにも答えられず、王様は宰相さんに視線を送ります。

 言い辛いことを丸投げ。

 そんな感じがしました。


「戦局が悪化しております。北方国からの侵攻を止めることは叶わず、先日ついにゴーシャ砦まで攻撃される有様で」


「ゴーシャ砦って……もう目と鼻の先じゃないっ! どうしてそんなことになってるのよっ!」


 ゴーシャ砦というのはポードランのすぐ北にある最終防衛ライン。

 北方からの侵略者は、ポードランの奥深くまで侵攻してきているということになります。

 そこを抜かれたらあとは王都であるここまで一直線。

 いよいよ後がない状況に、王女であるナティは悲痛な声を漏らしました。


 ということは、街の人達はすでに王都から逃げ出したということでしょうか?

 食料品の高騰は、軍が買い占めてしまったからかもしれません。

 敗戦濃厚。

 ポードランを覆う重苦しい空気は、それが原因なのでしょう。


 しかし分かりません。

 カジノは上手くいっていましたし、それにより資金難は緩和されていた筈。

 兵士の数も十分確保でき、防備は出来ていたと思ったのですが。


「東からの魔物が勢いを増し、そちらにも兵を割かざるを得ない状況でして……。北からの侵攻を止められるに十分な兵をまわせないのでございます」


「魔物なんか冒険者達に任せればいいじゃないっ! そのための資金もあったでしょっ!?」


「資金はありますが、肝心の冒険者がおらんのです。いや、正確には「戦える冒険者」が」


 戦える冒険者がいないとはどういうことでしょうか?

 そりゃあゴドルド大陸にあったギルドのように、歴戦の強者が多いわけではないですけど、Bランク級くらいの冒険者なら結構在籍していた筈ですし、中にはAランク級の冒険者もいたと記憶してます。

 彼等はどこへ?


「転職ブームでしてな。強かった戦士も、怪我を癒す僧侶も、敵を殲滅する魔法使いも。みな遊び人になってしまったのでございます……」


「あ……」


 そういえば転職所のお姉さんが言ってました。

 最近遊び人になる人が多いって。

 あれ? 僕のせい?


「いやいや。もちろんディータ殿のせいではございませんよ。職を選んだのはあくまで冒険者達の意思なのですから。しかしディータ殿のようなスキルを使える者は現れず、戦力が大幅に下がってしまっているのが現状。もはや冒険者達だけでは魔物を止められぬのです」


「何故なのだ……っ!? 魔王が死んだら魔物の勢いも落ちるのではなかったのかっ!?」


 死んだようだった王様が、突然行き場のない憤りを吐き出しました。

 そうか。

 魔王が本当は生きているということを、まだ知らないのですね。

 話せば追い討ちになってしまうかもしれませんけど、秘宝のこともあるので説明は必要でしょう。

 僕は旅の経緯と、ポードランに戻った理由を王様に語って聞かせるのでした。


「ディアトリ殿が勇者ではなかった……?」


 姉から聞いた話も交え、魔王討伐はならなかったこと、勇者の加護が封印されてしまったこと、リルゼさんが最後の勇者でることを伝えると、王様はぐぬぬと指の爪を噛んで唸り声をあげたのです。


「なんたることだっ! これではまるっきり道化ではないかっ!」


「落ち着いてお父様。相手は神なのだから、上手をいかれるのは仕方ないことよ。それよりも今後どうするのか考えましょう?」


 王様の隣まで近付き、ナティが気遣わしげな声をかけますが、本人は憤懣やるかたないといった感じ。

 魔王が生きていたということよりも、ディアトリさんが偽勇者だったことの方がショックなのかもしれません。

 なにせポードランは彼を支援していましたから、それが偽者だったと知り悔しい思いなのでしょう。


「そういう事情ですので、王家の秘宝『魂戻しの石』を使う許可を頂けませんか?」


 そして本来の目的である魂戻しの石に話が及ぶと、王様は静かに首肯。

 隣に立ったナティに優しげな視線を移しました。


「あれはすでにナティルリアの物だ。お前の命を守ってくれるだろうと渡した物だが、そういうことであれば構わぬ。いや、むしろこちらから頼もう。どうか魔王を倒してくれぬか。勇者リルゼよ」


「え、あ、はい。えっと……頑張って死にます」


 いきなり声を掛けられたリルゼさんはテンパリ気味の意気込みで、王様に応えていました。

 死なないために魂戻しの石を取りにきたんですけどね?


「ふむ。しかしそうなりますと、魔物が勢いを増している理由もソレにあるのかもしれませぬな」


「どういうことだ宰相」


「魔神派とやらが一番危惧するべきは、魔王の加護の消失でしょうから。せっかく勇者の加護を六つまで封印したのに、肝心の魔王の加護が消滅させられてしまったら元も子もございません。命まで賭ける勇者が誕生するかどうかは甚だ疑問ではありますが、命を賭けなくても良いとなれば話は変ってくるでしょう」


 宰相さんが鋭い指摘。

 確かにその通りだと、僕も納得でしょうか。

 それに考えてみれば、以前ポードランにはイビルデーモンが潜伏していました。

 あれの目的も、魂戻しの石を奪うことにあったのかもしれません。

 

「であれば、魔王を倒すことで東から攻めて来ている魔物は攻める意義を失う可能性が高いな。これは益々リルゼに頑張ってもらわねばならん」


「うわぁ……。なんか責任重大?」


「リルゼっ! 一緒に頑張りましょうっ!」


「うん。まぁやるだけやってみるよ」


 世界うんぬんではスケールが大きすぎて良く分かっていなかったリルゼさんも、故郷であるポードラン壊滅の危機と聞いて実感が沸いてきたのでしょうか。

 少し目を泳がせながらも、握った拳には闘志が溢れているようでした。


「本来であれば勇者殿には様々な援助をすべきなのだが……すまぬなリルゼ。主だった武器防具はディアトリにくれてやってしまった後なのだ。せめて今宵は城に泊まり、存分に英気を養っていってくれぬか? といっても我が城も節制に努めておるため、たいした持て成しもできぬのだが」


「いいえ王様。十分です。お心遣いありがとうございます」


 そんなわけで、僕達は魂戻しの石を確認するとともに、今夜はポードランのお城に泊めてもらうことになったのでした。

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