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128話 僕は運命に感謝

 ナティとミントさんに二日間引っ張りまわされ、ちょっとぐったりしていた頃。

 ゾモンさん達に警備されながら、エリーシェさんとニルヴィーさんがやってきました。

 魔神派の動向を調べる為に方々動き廻っていたニルヴィーさん。

 話を聞く為に来客用のお部屋へとご案内すると、さっそく彼女はチクリと皮肉混じりに言ってきたのです。


「お久しぶりですわねディータさん。聞きましたわよ? 結局やってのけたそうじゃありませんの。神殺し」


「あ~……まぁそうですね。結果的にそういうことになりました」


 以前は無理難題だと言った手前、乾いた笑いで返答する僕を見て、ニルヴィーさんは呆れたように肩を竦めます。

 けれど淫欲の神の特徴を告げるとその瞳は真剣なものに変わり、自分の中で咀嚼するように話を聞いていたのです。


「間違いありませんわね。ポーシーの町で目撃された女と特徴が一致しますわ。他には誰かいませんでした? 男が一緒にいたと思うのですけれど」


「いえ? 僕が知る限り一人だけでしたよ」


 ニルヴィーさんの話によれば淫欲の神は常に男性と行動を共にしており、あちこちで目撃されていたようです。


「二人組は不思議な道具を持って、人を探していたそうですわ。どういうことか分かりませんでしたけれど、ディータさんの話を聞く限り、本物の勇者を探していたのでしょうね」


「不思議な道具というのは神器ですか」


「私は実物を見てないのでお答えしようがありませんけれど、恐らくは。そうして探し出した勇者を殺して回っていたと考えれば、全て辻褄が合いますもの」


 二人が訪れた後、その町では遺体が見つかったり、はたまた突然魔物に襲われたりしていたらしいのです。

 となれば、ニルヴィーさんの言う通りなのでしょう。


「ですが殺された……と確定していいと思いますけど、その人数が多すぎますわね。封じた勇者の加護は六とのことですが、それ以上の人々が犠牲になってますわ」


「どういうことでしょう? 本物の勇者を殺すこと以外にも目的があった?」


 すると彼女は緑色の巻き毛を指先で弄びながらしばし考え、「推測ですけど」と前置きをしてから口を開きました。


「七つの加護全てを見つけるのが容易ではなかった。だから加護の飛び先を限定させようとしていたのではないかしら?」


「そんなことが可能なんですか?」


「加護を持った者が死ぬと、次の勇者候補の下へと加護は飛んで行くのですけど、ある程度勇者の加護を受けやすい血筋があるとミリアシス様は仰っていましたわ」


 なるほど。

 そういう血筋を減らしておけば、今は全ての加護を見つけられなくても、いずれ見つけるのが容易くなる。そういう考えなのでしょう。

 どちらにせよ悪辣であることに変わりはありませんが。


「以前から……といっても何十年。恐らく百年単位で、魔神派の計画は進められているようですから。最近になって動きが活発化したのは、勇者の加護を六っつまで封じることが出来たからなのでしょうね」


 僕達がそれに気付いたのはつい最近なので勘違いしそうですが、相手は神です。

 気の遠くなる時間をかけて、少しずつ少しずつ計画を進めてきたのでしょう。

 そして今が最終段階。

 ついに勇者の加護は一つとなり、その持ち主も分かっている今……。


「急いだ方が良さそうですね」


 魔神派は、ここぞとばかりに畳み掛けてくるでしょう。

 神器がこちらの手にあるとはいえ、リルゼさんを攫ったあとでゆっくり神器を取り戻しにくるとか。

 やりようはいくらでもあるのですから。


「えぇ。私達は引き続き、淫欲の神と行動を共にしていた男を探してみますわ。こちらも神である可能性は高いので、見つけたらディータさんにお願いすることになると思いますけれど」


「そうして下さい。間違っても挑もうなんて思わずに」


「あら。随分と頼もしくなりましたわね? 自信がついた……というより、大人になりました?」


 茶化すような瞳で覗き込んでくるニルヴィーさんから、僕はそっと視線を逸らします。

 幼い初恋が破れることを大人になったと言われればそうなんでしょうけど、察せられたいことでもないですし。


「……失恋、かしら?」


「ぶ――っ!? な、なん、なんですか!? なんのことですか!?」


 すると彼女は手の甲を口にあて「おーっほっほっ」と高笑い。

 とてつもなく靴をぶち当てたいお顔です。


「神をも倒す男の子でもフラれるんですわね」


「べ、別に関係ないですし!? というか何を言ってるのか分かりませんし!?」


「良いではないですの。それもまた人生経験。そうやって成長するんですわよ?」


「知らないですって!」


「ま、そういうことにしておきましょうか」


 と言いつつも、全然そういうことにしておいてくれないニヤけ顔。

 この場に他の方がいなくて本当に良かったです。

 今のうちに口を封じて――


「ちょ、ちょっと? 冗談ですわよ? そんなに殺気を込めて、指先をこちらに向けないでくださる?」


 顔を青くして後ずさるニルヴィーさんの姿で溜飲も下がったので、とりあえずレシビるのは止めておいて差し上げました。

 気をつけたほうが良いですよ?

 僕のレシビル、かなりビリッときますから。


 僕が指を下ろしたのを見計らい、ニルヴィーさんは居住まいを正して咳払い。

 ようやく話を戻してくれるようです。

 まだちょっとカップを持つ指先が震えていますけどね。


「ディータさん達は勇者と一緒にポードランへ向かうのですわね? その後はやはり魔王を討伐に?」


「そうなると思います。もうここまで来たら僕も無関係ではないですし、姉はリルゼさんに付いて行くでしょうから、僕もお供するつもりでいます」


「でしたら総主教様に掛け合って、聖堂騎士隊を護衛に付けられないか聞いてみますわ。リルゼさんが最後の希望なのでしたら、その灯を消すわけにはいきませんもの。ミリアシス教は、全面的な協力を惜しまないでしょう」


 それは心強い話です。

 姉の話では今代の魔王というのはそこまで強くないらしいですけれど、戦力を温存するに越したことはありませんから。

 なるべく無傷でリルゼさんを魔王の前まで連れていくなら、戦力はいくらあっても困りません。


「よろしくお願いします」


「えぇ。こちらこそ」


 立ち上がって握手を交わし、ニルヴィーさんは部屋を後にします――が


「元気を出すんですわよ? 傷心のまま魔王討伐なんて心配ですから」


「な――っ!?」


 今度こそレシビっちゃおうと指を向けた時には「おーっほっほっ」という高笑いだけ残して、扉の向こうへと消えていたのでした。



 ……。



 それからラムストンさんに再びディータランドの事をお願いした僕は、皆さんと共にポードランへ向かいます。

 人数が多いので一度ロコロルの港へ戻り、そこから船に乗って。


 その顔付きは様々でしょうか。


 使命に燃え、命を賭ける覚悟の姉。

 宿命を受け入れつつ、どことなく不安気なリルゼさん。

 そんな彼女を慰めつつ、けれど自信満々なナティ。

 二人を柱の影から見守りながら、うんうん頷いているラシアさん。

 どういうわけか僕の側を離れず、船に酔っているミントさん。

 割とのほほんとしているけど、結局付いてくる気満々なんだろうなと思われる妹。


 とても魔王を倒しに行くようには見えない一行ですけど、ゴドルド大陸でも戦えると証明したメンバーに、武王である姉が加わるのですから戦力的にはかなりのもの。

 そこに聖堂騎士隊なんかも加われば、きっと世界を守ることだって可能でしょう。


 思えばおかしな事になったものです。

 勇者と言われていたディアトリさんからパーティーを追い出され、賢者の資格を失い、明日も知れぬ身となった僕。

 それがいつの間にか再び魔王討伐隊。

 数奇な運命と言わずになんというのでしょう。


 そんな風に黄昏ながら海を見ていると、隣で魚に餌を撒き散らしているミントさんが心配そうに覗きこんできました。

 いや心配されるのはミントさんの方だと思うのですけどね。


「どうした? ……うぷっ。魔王討伐と聞いて怖くなってきたのか? ……うぉえぇ」


 可能な限り格好良く決めようとしてるみたいですけど、それなら合間合間に変な声を挟まないで欲しいです。

 全然気分が盛り上がりません。


「怖くはないですよ。ただ、不思議な運命だなと」


「運命……っぷ……か。思えば……おろぉ……私とディータの出会いも……おぉぇぇ」


「あ、無理に喋らなくていいです」


 さすがに辛そうなので背中をさすってあげたのに、恨みがましそうな褐色エルフさん。

 悔しそうなお顔で「くそぉっ! 波めっ! 波めっ!」と呟いていました。


 なんだか締まらない感じですけど、逆にそれが安心します。

 この皆となら、魔王だって神だって、怖くは無いなと思う僕なのでした。



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