127話 僕達はミリアシスで再確認
「ぶっちぎりで勇者に間違いないそうです~」
ミリアシスに立ち寄った僕達は、さっそくエリーシェさんにリルゼさんを見てもらいました。
その結果がこれ。
やっぱり彼女は勇者でした。
「そっか……うん。聖女様が言うならそうなんだね」
どこか半信半疑だったリルゼさんは、聖女様の言葉で勇者の宿命を受け入れたかのように、強く拳を握り締めています。
あとはポードランの秘宝とやらに、伝承通りの力があるか確認するだけ。
こちらも半信半疑の話ではありますけど。
「あと神器とかいうものについても聞きましたけど~、「それ壊せないわ。ごめんね~」だそうですよ~」
予想していたとはいえ使えぬ煎餅です。
しかも軽い。
冷静に考えればエリーシェさんが噛み砕いて伝えてきているだけかもしれませんが、実際言いそうなので二倍イラッとします。
それを抑えつつ、僕は聞いてみました。
「魔神派の動きについては何か言ってましたか?」
「ディータさん達が知りえた以上のことはなにも~。あ、でも~、こちら側の神に裏切り者がいるかもって言ってましたね~」
「ミリアシス様の従神の誰かがってことですか?」
「みたいですね~。さっきの神器っていうのは、元々こっち側にあったものなんだそうで~」
なら神器を手土産に魔神派に寝返った神がいるということでしょう。
そりゃあ僕だって、寝っ転がりながら煎餅食べてる上司なんて嫌ですし。
自業自得というものですね。
もっともそれで被害を被るのが、僕達人間だというのがやるせません。
神様不信任案を提出したい所存。
「ニルちゃんも色々調査しているみたいですから~、聞いてみたらどうですか~? 今は出てますけど~、数日内に戻るはずなので~」
それもいいかもしれませんね。
僕と違って積極的にミリアシス様に協力し、魔神の動向を探っていたニルヴィーさんの話は聞いておきたいところです。
魔神の動向であれば、僕達と無関係ではありませんから。
それにこちらはやるべきことが決まっているとはいえ、時間に追われているわけでもないです。
数日程度であれば、待つことも可能でしょう。
もっとも淫欲の神みたいに、また神様が攻め込んでくるなんて可能性は否定出来ないので、なるべく急ぎたいとは思いますけど。
「どう思いますか?」
他の方々にも意見を聞いてみると、皆僕に一任してくれました。
姉だけは少し不安気でしたが、反対するつもりもなさそうです。
「ならそうしましょうか。ニルヴィーさんがお帰りになったら教えてもらえますか?」
一度ディータランドの様子も確認しておきたいと思っていたところ。
ラムストンさんは優秀な方なので必要ないかもしれませんが、一応は僕が総支配人ですからね。
その程度でもしておかないと、心苦しいのです。
「わっかりました~! ニルちゃんが帰って来たら、一緒に御伺いしますね~」
にこやかに手を振る聖女様は、遊ぶ気満々のようでした。
……。
ディータランドの関係者用出入り口から入り、もう懐かしく感じてしまう総支配人室へ向かいます。
念のためノックすると、すぐに中からラムストンさんの声。
お仕事中なのか、ちょっと忙しない感じの応対でした。
しかしいざ扉を開ければ、血色の良い男性が驚きと共に出迎えてくれます。
「これはこれはディータ様! いつお帰りになったのです?」
「ついさっきですね。どうですか? ディータランドの経営状況は」
几帳面な性格のラムストンさんは、ここにあっても支配人椅子には座らず、横にある自分の席で書類の束を捌いているところでした。
他にも数名見慣れない顔があるので、この方達は新たに雇われた経営陣なのでしょう。
彼等は僕を見て頭にクエスチョンマークを浮かべていましたが、ラムストンさんに囁かれると居住まいを正して立ち上がり、丁寧なお辞儀をしてきました。
仕事をお任せしてしまっている僕としては逆に恐縮なので、お辞儀で返しておきます。
「これといった問題は発生しておりませんですよ。電力供給についてはさらに魔術師を数名増やしたので安定しましたです。あ~、ただフラワーゾーンの花なのですが、ディータ様のように様々な種類を造り出すことの出来る魔法を使える者がおりませんで、こちらはミリアシスの生花業者と契約する運びとなりました」
「あ、そっか……。すいません、そこまで気が回りませんでした」
「いえいえ。多少出費は増えましたが来場者数も一定水準ですので、十分以上の収益があがっておりますですから。ディータ様の分は金庫に蓄えておりますので、必要に応じて仰って頂ければいつでもお渡し出来ますですぞ」
ちなみに金庫の中には、金貨が三千枚ほど入っているそうです。
このまま溜め続けていたら金庫に入りきらなくなるので、何か使い道を考えて下さいとのこと。
いつの間にか、僕は大富豪になっているようでした。
「あとは神獣さんのことでございますですね。ポードランから戻った後はやることがなく、そこら中にディータ様の像をお造りになっていたようなのですが……」
んん?
ちょっと聞き捨てならないんですけど?
「先日くらいでしょうか? 急に落ち着かれたようなのです」
「それなら心当たりがあるので問題ないですよ」
やっぱり神獣さんがああなっていた原因も淫欲の神でしたか。
神が滅されたことにより、神獣さんの病も治ったみたいですね。
となればどうしましょう?
ラギュット山の麓へ戻ってもらうのが一番でしょうか?
そのあたりは後で本人に確認してみましょう。
まぁどちらにせよディータ像なんてロクでもないものは全部壊してもらいますけど。
一通り報告を終えると、ラムストンさんは「ディータ様が戻られて、ようやくディータランドも平常運転ですなぁ。いやぁ、これで肩の荷も降りるというものでございますです」と喜びを露にしましたが、また出かけなければならないことを告げるとスルリと手から書類の束を取り落としていました。
なんだかんだと、やはり大変なようです。本当にごめんなさい。
僕達はそのままディータランドのスタッフ用宿舎にお泊まり。
幸いなことに、僕達が使っていた部屋はそのまま残しておいてくれたようでした。
姉やナティ、リルゼさん達は、ゲストルームへご案内します。
こちらはガレジドス城でお借りしていたほど立派な部屋ではありませんが、マルグリッタさんが泊まることもあるので、ある程度はちゃんとした部屋なのです。
そうしてディータランドに滞在しつつ、ニルヴィーさんが帰ってくるのを待つことに。
その間ラシアさんは、スタッフさん達がちゃんと働いているのか確認するようです。
しばらく離れていた為、責任感の強い彼女は気になっていたのでしょう。
リルゼさんは姉を連れてどこかへ行ったようです。
恐らくこれから戦うことになる魔王について、色々と話をするのではないでしょうか。
武王とそれに肉薄しつつあるリルゼさんですから、ひょっとしたら組み手くらいするかも。
ちょっと見てみたいですね。
そして僕は経営状況の把握や事務作業をお手伝いしようとしていたのですが……ナティに軽やかに拉致られたのでした。
「ディータに案内して欲しいんだけど……ダメ?」
いつものように強引ではなく、上目使いで遠慮ガチにお願いをされると……これはどうしたことでしょう? 何故だか少しドキリとします。
「えぇと……ダメではないですけど」
「ホントっ? ディータありがとうっ!」
一転して、今度はいつものナティ。
僕の両手を握り締め、ぴょんぴょん跳ねながら喜びを表現するのです。
ちょっと大げさな気はしますけど、そんなに喜んで貰えると僕も嬉しくなりますね。
なにせ皆で作ったディータランドですから。
その素晴らしさを、存分にナティにも知って欲しいのです。
「ならまずはココに行きたいわっ!」
いつのまにやらナティはディータランドの地図を広げ、お買い物ゾーンを指差していました。
しかもどうやら、知る人ぞ知るオシャレなカフェが目的地のようです。
店内には大人の雰囲気が漂い、おもに恋人さんなんかに人気のスポット。
初めてのディータランドでそこを選ぶとは、お目が高いですね。
「でもアトラクションではないですし、楽しむなら他のところの方が――」
「いいのっ! ディータと行きたいのよっ!」
グイッと腕に抱きついてきたナティは、何がなんでもそこが良いと頑なです。
一方で腕から感じるナティの感触はとても柔らか。
日に日に大人の女性へと変貌していく王女様に、何故だか以前はなかった胸の高まりを感じてしまいます。
「分かりました。じゃあ行きま――」
「ちょっと待ったっ! ディータランド初心者なら、まずはフラワーゾーンから楽しむべきだっ!」
っと、歩き出しかけたところでミントさんが現れました。
はぁはぁと息を荒げているので、走ってきたのかもしれません。
「フラワーゾーンと言えばエルフっ! エルフと言えば私っ! 当然同行させてもらうぞっ!」
なるほど。
急いで来たのは、ナティにフラワーゾーンをお見せしたかったからですか。
あそこはエルフさん達のテリトリーですし、ミントさんが紹介したくなるのも分かります。
彼女なりに、ナティと仲良くなりたいのでしょう。
最近は近いのか遠いのかよく分からない距離感のお二人ですから。
「なら三人で行きますか。大勢の方が楽しいですしね」
ナティは自分の望みが叶わなくて少し残念なのか、僅かにイジけ気味でしたが、しかし思い直したように顔をあげ、ミントさんと何やらアイコンタクト。
どことなく好戦的で、けれどとても楽しそうな視線を交し合っていたのでした。