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126話 僕達の決意

 しばらく姉と二人でゆっくりしていると、続々皆さんが集まって来ました。

 広い応接室とはいえ、全員が集合すると少し手狭なほどです。

 僕と姉に加え、ナティ、ラシアさん、シフォン、ミントさん、リルゼさん。

 それにリュメルス殿下とペギルさんですね。

 彼等も僕達がこれからどう動くのか、国を代表して確認しにきたのでしょう。


 そんな中、初めに口を開いたのはリルゼさんでした。


「決めたよ私」


 強い瞳に込められた覚悟で、その内容を察します。

 勇者の加護を使い、魔王の加護を消滅させる。

 姉の提案を受け入れ、そうする覚悟を決めたのでしょう。


「ありがとうリルゼ。私も命を捨てて、全力でサポートするわ」


 自分で言い出したこととはいえ、命を捨てさせる選択を迫ったことで、姉はリルゼさんに手を差し出しながらも沈痛な面持ちでした。

 けれど当の本人は意外なほどあっけらかんとしてます。


「命を捨てるなんて駄目だよ。命、大事にいきましょう?」


「け、けれど貴女に死ねと言っておきながら、自分だけ生き延びようなんて――」


「あ~、違う違う。確かに私は勇者の加護を使って魔王の加護を消滅させるつもりだけど、別に死ぬ気はないからね? だよねナティちゃん」


「もちろんよっ! リルゼを死なせなんてしないわっ!」


 自信満々に言った二人に、僕達はクエスチョンマーク。

 それをすれば勇者の加護を持った本人は死んでしまう。

 ミリアシス様本人からも聞いているので、間違いないことです。

 しかしそれを言っても、二人は大丈夫だと胸を張りました。


「ポードラン王家に伝わる秘宝『魂戻しの石』を使えば、リルゼは死ななくて済むのっ! 一度使ってしまったら壊れてしまうらしいけれど、きっとこの時の為に伝わってきたんだわっ!」


「そんなものが!? けど大丈夫なんですか? 一度使ったら壊れるってことは、今まで誰も使ったことがないってことですよね? 本当に効果があるんですか?」


「だ、大丈夫だよねナティちゃん?」


「た、たぶんねっ!」


 なんか不安を煽ってしまったようで、リルゼさんの顔がみるみる青くなっています。

 必死にナティの袖を揺すって「大丈夫だよね?」と確認してますが、こればっかりはナティにも分からないのか、やや視線が泳ぎ気味。むしろ視線が溺れ気味です。


「……ん。にぃ、舐めれば分かる」


 そんな二人に助け船を出したのはシフォンでした。


「そうですね。本当にそんな効果があるのか、僕が確かめてみましょう」


 王家の秘宝らしいので可能なら折紙で複製しておきたいところですけど、付与された魔法効果までは複製出来ないと実証済み。

 形だけの模造品なら造れますが、そう都合の良い話ではないのが残念です。

 けれど一つあれば十分。

 まずは『舐めまわす』で確認を急ぎましょう。


 問題の『魂戻しの石』とやらはポードランに置いてきたらしいので、今後の予定としてはそれを取りに戻るのが先決でしょうか。

 あ、その前にミリアシスへ立ち寄り、本当にリルゼさんが勇者なのか確認もしなければなりませんね。


「神器については、一度我が国に預けてもらえまいか? いかな方法でも壊れぬとなれば、間違いなく神代のモノであろう。それは我が国の得意分野であるっ!」


 申し出たのはリュメルス殿下。

 あの後で僕も靴飛ばしを試しましたが、結局傷一つつくことなく、未だ六っつの輝きを封じ込めている神器なのです。

 となれば神代魔法を研究している彼等に任せるのが、一番可能性は高いでしょう。

 リルゼさんが勇者か確認する際ミリアシス様にも聞いてみますが……まぁ煎餅ですから。期待できません。


「よろしくお願いします」


「うむっ! 任されたぞっ! 本当であればディータ殿のことも、じっくりゆっくり研究したいのだがなっ!」


「いや、それはちょっと……」


「分かっておるっ! 世界を救いに行くのであろうっ!? 名残惜しいが、引き止める真似など出来ぬさっ! 全てが終わったのならまた立ち寄られよっ! その時こそ、隅から隅まで調べつくして進ぜようっ!」


 はっはっはっ、と快活に笑い、冗談めかしたリュメルス殿下ですけど……割と目がマジです。

 もうこの地を踏むことはすまいと、心に強く刻んだ僕でした。


 しかしとりあえず、これで今後の方針が決定。

 僕達はミリアシスでリルゼさんが本当に勇者なのか確認し、その足で『魂戻しの石』を得る為ポードランへ。

 神器はリュメルス殿下に預け、ガレジドスの神代魔法研究者さん達に破壊を前提とした研究を行ってもらいます。

 破壊が可能であれば即座に破壊し、封印された勇者の加護を解き放つ。

 それが無理なようであればリルゼさんと共に魔王を討ち果たし、加護を相殺。

 もちろんリルゼさんが死なないという状況を作り出した上で、ですが。


 全員の顔を窺いながら確認すると、皆さんは心強く頷いてくれましたが、一人だけ。

 頭からすっぽりフードを被り、顔を拝見することが出来ない人がいました。

 というか最初からずっと気付いていたのですが……。


「ミントさん? もう淫気は抜けたんですよね?」


「あ、あぁ」


 とは言ってくれるものの、ミントさんはフードを捲ろうとはしません。

 それに彼女の身長。また縮んでしまっているのです。


「ミント。本当にそのままでいいの?」


 ミントさんの隣にいるナティが、気遣わしげにフードの中を覗きこみました。

 僕からはどんな表情をしているか分かりませんが、強く頷いたことだけは分かります。


「でも戻っても平気だったのよね? 私はミントが寝ている時にチラッと見ただけだけど、すっごく綺麗だったわ。もし私に遠慮なんてしてるなら怒るわよ?」


 口調は厳しいけれど、どこか悲しげなナティの顔。

 二人に何があったのかは分かりませんが、裏切られた。そんな悲壮を感じるのです。

 けれどミントさんは大きく首を振ります。


「そんなわけないだろ! むしろ逆だ!」


 自信に溢れた声で言い切り、ついにフードを捲ったミントさんですが


「え? エルフに戻れなかったんですか?」


 変わらぬ褐色肌に、僕は驚きを隠せません。

 淫欲の神を倒せば淫気の呪いは解け、全ては元に戻る筈。

 なのにミントさんの姿は、何も変わっていなかったのですから。


 けれど彼女は何も恥じ入ることなどないと、堂々と胸を張ります。


「確かに淫気は抜け、成態に戻っても平気なのは間違いない。だがダークエルフでいる時間が永過ぎたみたいでな。エルフに戻ることは出来なかった」


「そ、そうなんですか?」


 聞いてみると、おや?

 ちょっと視線が泳ぎましたよ?

 けれど咳払い一つで平静を取り戻し、ミントさんは続けます。


「こんな私だが、それでもいいと。ありのままで良いと言ってくれた奴がいるからなっ! もう私は怯えないっ! 竦まないっ!」


 真っ直ぐ強い視線は僕を見ています。

 銀髪のサイドテールを揺らし、堂々とした立ち姿は、以前のミントさんより自信に溢れているようでした。


「身体については戻ろうと思えばいつでも戻れるが、今はまだ早い気がしてる。なにより六十年も慣れ親しんでしまったんでな。私もこっちの方が楽だ」


 そう言ってからミントさんの意識は僕から離れ、隣で不安げにしていたナティへ。


「だから王女。これは譲ったわけでも諦めたわけでもないぞ。むしろこれが私の本気の証だ。負けてなんかやらんから、覚悟しろよ?」


 ニコリと微笑み、ミントさんが手を差し出しました。

 それを見て、ナティの顔も不安から笑顔へ。

 ミントさんの手を握り返し、嬉しそうに言ったのです。


「受けて立つわよミントっ!」


「あぁっ! なぁに心配するなっ! 私とて族長の娘。婿の側室くらい認めるさっ!」


「なら争う必要もないじゃない。結果は同じなのだし」


「競い合う関係に意味がある、じゃなかったのか?」


 ふふっと小さく笑い合い、それはいつしか大きな笑いとなって、二人は強く手を握り合っていました。

 詳細は分かりませんけど、なんというか青春の香りを感じます。

 それを微笑ましく見ていると、シフォンが溜息。


「……にぃ、ばか?」


 何故にっ!?

 今僕が貶められる場面ありましたかっ!?


 だけど納得いっていないのは僕だけのようで


「そうだぞディータ。覚悟しておけよっ!」

「そうよディータっ! 覚悟しなさいっ!」


 お二人からは、謎の宣戦布告を受けてしまったのでした。


「素晴らしい光景ですね」


「青春ですね。春の息吹を感じます。殿下には万年木枯らしが吹いていますが」


 どことなく息の合ったラシアさんとペギルさんでしょうか。

 もちろんペギルさんはリュメルスさんへの一刺しも忘れません。


「良い友……と言っていいのかしら? けど、人に恵まれたのねディータ」


 優しげな姉の声に、僕は笑顔で頷きます。

 本当に僕は幸せ者です。

 こんなに良い方達に囲まれているのですから。


 そしてそんな人達を――そんな世界を守る為に。


「行きましょうか。魔王を倒しに」


 僕達の魔王討伐が始まるのでした。



 *****  大人の階段編 完  *****


ディータの遊び人ランクが「英遊王」から「選ばれし遊者」にあがった!

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