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123話 僕は世界の危機を知る

 現れたヘーゼルカお姉ちゃんはメイドさんの肩から腕を外し、気丈にも一人で立っていました。けれどまだ顔色も良く無いし心なしかフラフラしています。

 恐らく体力が回復しきっていないのでしょう。

 だから僕はリルゼさんのことより、そちらの方が気になってしまうのです。


「お姉ちゃん! まだ無理はダメですよ!」


 肩を貸そうと立ち上がりかけますが、チラッとこちらを向いたヘーゼルカお姉ちゃんは視線で僕を制し、王様に向き直ってから深々と腰を折りました。


「突然の無礼、真に申し訳ありません。ですが事は世界の存亡に関わること。何卒話を聞いては頂けませんでしょうか」


 頭を下げられた王様は少し困惑でしょうか。

 何しろ突然飛び出した「世界存亡の危機」ですから。

 チラリと僕達に怪訝な視線を飛ばしてきますが、僕達も初めて聞いた話なのでお答えしようがありません。

 でもヘーゼルカお姉ちゃんです。

 あのお姉ちゃんが、冗談なんかでこんなことを言い出す筈ありませんから。


「僕からもお願いします。聞いてあげて下さい」


 僕も一緒に頭を下げることにしたのでした。


「ふむ。ディータ殿がそう言うのであれば吝かではないな。して、世界の存亡に関わるとは穏やかではないが、いったいどのような話なのだ? そこの神殺しの娘が何か関係あるのか?」


「はい」


 きっぱりと言い切ったお姉ちゃんに、リルゼさんが「えぇ……」と気を失いかけてます。

 なにせ道具屋の娘から勇者どころか、世界の存亡に関わる関係者へとランクアップですから。

 異例の出世速度は、二階級特進レベルです。


 そんなリルゼさんに構う事無く、お姉ちゃんは僕に尋ねてきました。


「ディータ。私が預けた物はちゃんと持っているわね?」


 というと、あの壊れないオブジェですね?

 肌身離さず持っていますとも。


 僕は頷きながら、謎のオブジェを懐から取り出して見せました。

 結構乱暴に扱っていた筈ですが、やはり壊れるどころか傷一つついていない模様。

 いったいなんなんですかねコレ。


 お姉ちゃんは忌々しそうにそのオブジェを見つめながら、静かに語りだしました。


「勇者とは人を司る大いなる神、ミリアシス様から加護を受けた存在を指すそうです。その勇者の加護は世界に七つあり、魔王を倒すには加護の力が必須」


 それなら僕も知っています。

 なんせ本人から直接聞いていますから。


「対して魔王も、魔神から魔王の加護を受けています。これは世界にただ一つだけ。それゆえに強力な加護なのですが」


「うむ。それは我等も知っておる。魔法の研究とはすなわち神の研究であり、神を語る上で勇者と魔王は欠かせぬ存在だからな」


「仰る通りです。そして勇者の加護は本来その者が死んだ場合、次なる魂を探して飛んでいき、新たな勇者を選ぶ筈なのですが……」


 一度区切ったヘーゼルカお姉ちゃんの言葉に、僕は嫌な予感を覚えました。

 謎のオブジェには、七つの瓶が付いています。

 そのうち六個には、光輝く何かが入っているのです。

 嫌な符号だと以前も思いましたが、もしかしてこれは……。


「勇者の加護は、現在ここに入っています」


 やはりですか。

 予想出来たとはいえ、驚きを隠せません。


「ちょっと待ちなさいよっ! さっきの話だと、勇者が死んだら加護は次の勇者を求めて飛んでいくっていう話だったじゃないっ! それがなんでここにあるのよっ!」


「そ、そのとおりだっ! それに加護がここにあるということは、この加護を持っていた勇者達は――」


「殺されました。今代の魔王は……いえ、それを操る神々は勇者を探し出し、抹殺し、その加護をこの神器の中に封じ込めてしまったのです。奴等は勇者の加護を全て封印するつもりなのでしょう。そうなれば次の勇者は現れず、魔王を倒すことは不可能になりますから」


 え?

 それ不味くないですか?

 誰にも魔王が倒せないなんてことになったら、この世界はどうなるのでしょう?

 あぁそうか。

 だから世界存亡の危機。

 誇張でもなんでもなく、人は滅びかけているのです。


「これを破壊出来れば恐らく加護も解放されるのですが、どうやら古の神が造った神器らしく……」


「そう、ですね。僕達も試しましたけど、傷一つ付けることが出来ませんでした」


 リルゼさんの全力パンチ。そして僕の全力レシビル。

 どちらの力でも、このオブジェは全くの無傷だったのです。

 あとで靴飛ばしも試してみますが、たぶんダメでしょうね。

 神を攻撃することが出来たリルゼさんでダメだったのですから、神代魔法ではないかとご大層な疑いを掛けられている靴飛ばしでも、恐らくは……。

 ミリアシス様なら可能性があるかもしれませんけど、神獣さんの呪いを解くことの出来なかった役立たずです。期待は出来ません。


「ど、どうするのだっ!? 倒す術の無くなった魔王は、ここぞとばかりに侵攻を開始するのではないのかっ!?」


「ご安心下さい。まだ希望は失われていません」


 立ち上がる勢いで慌てた王様に、ヘーゼルカお姉ちゃんが静かに告げました。

 その視線は僕の持つ神器を見て、それからリルゼさんを見たのです。


「今封印されてしまった勇者の加護は全部で六っつ。人類にはもう一つ勇者の加護が残されています。そして、それを持つのが恐らく貴女よ」


「えっと……私……だよね?」


 視線に射止められたリルゼさんはキョロキョロと周りを窺いますが、全ての視線が自分に向いているため、諦めたように自分を指差しながら最終確認。

 そして残念ながら、ヘーゼルカお姉ちゃんは首肯でそれを認めてしまったのでした。


「な、何かの間違いってことは……?」


「勇者の加護がなにを基準に定着する魂を選んでいるのかは分からない。けれど勇者の加護を持った者には、いくつかの特徴があるとされているわ」


「うむっ! それなら我も知っておるぞっ!」


 ここぞとばかりに知識を披露したいのか、乗っかってきたのはリュメルス殿下。

 彼の説明によると、勇者の加護を持つ者の特徴は以下の通り。


 一つ。

 こと戦闘能力に関して、常人を遥かに上回る成長速度をみせる。


 二つ。

 例え神が相手でも倒しうる力を持つ。


 三つ。

 奇跡を起こしやすい。


 一つ目と二つ目は、完全にリルゼさんと一致しています。

 短期間でゴールデンゴーレムを狩れるようになり、ゴドルド大陸の凶悪な魔物を一人で粉砕し続けていましたから。

 本人も倒せば倒すだけレベルアップとか言ってましたし、神様殴打発言もしてましたから言い逃れ不可能でしょう。


 三つ目の奇跡というのは、ちょっと分かり辛いですね。


「何も天から恵みの雨を降らせたり、死んだ者を生き返らせたりと、そう都合の良いものではないらしい。居るべき時に居るべき場所に居る、とでも言うのだろうか。人が困っている時に颯爽と現れたり、国が襲われている時に丁度助けに来たり。ある意味で勇者の背負った業のようなものなのかもしれぬな」


「であれば今回の事も、そうした奇跡によって我が国は助けられたと言えるかもしれませぬなっ!」


「確かにっ! さすがは勇者だっ!」


 などと王族親子が盛り上がり始めましたが、当の本人は上の空。

 胸に手を当て「成長速度……」と、何やら悲しげに呟いていました。

 思い当たる節を探し、納得しているのでしょうか?


 しかし盛り上がっていた王様が、ふと何かに気付き、顔を顰めたのです。


「もし仮に勇者が死んでしまったら……。神器がこちらにあるので封印されぬとはいえ、次なる勇者が育つには数十年かかる。いや本人が勇者だと気付かぬ可能性すらあるのだから、勇者不在の空白期は百年単位に及ぶかもしれぬぞ」


 言われてみればその通りです。

 ひょっとしたら勇者の加護が七つもあるのは、ミリアシス様も同じような状況を危惧したからなのかもしれません。

 今まででは、一人が倒れても他に六人勇者がいたので問題はなかったのですが。


「つ、つまり、私は死んじゃダメってこと?」


「ならリルゼが魔王を倒せばいいじゃないっ! そうすれば死んでも構わないのだしっ!」


「ナ、ナティちゃん? 私別に死にたいわけじゃないんだよ?」


「それでは駄目だっ! 例え今代の魔王を倒せても、魔王の加護もまた次の者に移るだけ。いずれ先ほど懸念した事態が起こるであろうっ!」


 今を生きるのに必死な僕達と違い、先々まで見据えなければならない王様だからこその発言でしょう。

 とはいえどうしたらいいのか。

 絶望的な状況に誰しもが口を閉ざしてしまいます。

 それを破ったのは、ヘーゼルカお姉ちゃんでした。


「リルゼ、と言ったかしら?」


「は、はい」


 お姉ちゃんはリルゼさん向き合うと、その両肩に手を乗せ、真っ直ぐ見つめながら言ったのです。


「リルゼ。人々の為に、死んでくれない?」


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