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122話 僕は王族からの拉致られ易さに定評がある

 貴賓室には寝室の他に四つ部屋があり、応接室には高級そうなテーブルとソファが備え付けられています。

 そこにナティと並んで腰掛ける僕の前にはリュメルス殿下。

 頬が青アザになってしまっているのは、追い返したのにすぐ戻って来たことと、とんでもなく不味い料理を食べさせられたことで、ナティの我慢が限界に達してしまったからですね。


 今思い返しても、腰の入った良いパンチでした。

 キリモミしながら飛んで行ったリュメルス殿下を見るに、国交断絶級の威力ではないでしょうか?

 見守っていた僕はヒヤヒヤものだったのですが


「やはり馬に蹴られましたね殿下。だからご自重下さいと申し上げたのです」


「良かれと思ったのだがなっ!」


 リュメルス殿下は特に怒ることもなく、豪快に笑い飛ばしていました。

 なんというか、とんでもなく大物なのかもしれません。


「まぁ料理が不味かった理由については分かったわ。気を使ってもらったのに、わけも聞かずに殴ってしまってごめんなさい」


「うむっ! 気にするなっ!」


「けどあの味はなんとかならなかったの? いくら身体に良いとはいえ、あれでは食べるだけで苦痛よ」


 僕達に出された料理は、直前でリュメルス殿下の手によって変更されたメニューだったらしいのです。

 けれどそれも嫌がらせの類ではなく、僕の身体を慮っての事だと聞かされれば、文句も言えないでしょう。心情としては、全面的にナティの意見に賛成ですけど。


「ミント殿はパクパク美味しそうに食べておられたからなっ! 問題ないと思ったのだが」


「涙を流しながら胃に送り込む様が「美味しそう」に見えたのでしたら、殿下には目と頭に効能のある食材を探さねばなりませんね」


「はっはっはっ! これ以上頭が良くなっては困るぞ?」


 ペギルさんは「チクリ」どころか「グサリ」と殿下を刺していますが、殿下にはノーダメージのようで。

 噛み合っているのか噛みあっていないのか、外からでは判断不可能な二人の関係性でしょうか。

 そんな二人を嘆息しながら見ていたナティは、隣の部屋の方角。ミントさん達が寝かされている部屋の方に視線を流しながら、ポツリと呟きました。


「ミントがあんなものを無理に食べていた理由って、やっぱり……」


「ミント殿はなんとしてもダークエルフから元のエルフに戻りたかったようであるな。幼態だったのは、あの呪いにも似た淫気を押さえ込むためだったのであろう? 成態に戻った素晴らしき美貌を見た今となっては、戻りたがるのも無理からぬことだ」


「そうね。大人になったミント、すっごく綺麗だもの」


「うむっ! あれならば振り返らぬ男などおるまいなっ!」


 リュメルス殿下がそう太鼓判を押すと、ナティは膝の上でスカートの裾を握り締め、キュッと唇を引き結んでいました。


「ミントは努力したのね……ディータのために……。私も負けないように頑張らなきゃ……。ディータっ! 私、もっともっと頑張るからっ!」


「え? あ、はい。頑張って下さい?」


 力強く見つめられると何と返していいか分からず。

 けどナティが何かを頑張るというなら、僕は全力で応援する所存なのです。


「こうして人は大人になっていくのですね。殿下に足りないのはこちら方面の情熱かもしれません」


「良く分からんが我は十分に大人であるぞっ!?」


 一方でペギルさんは訳知り顔で頷き、リュメルス殿下は困惑気味。

 仲の良いお二人です。


「とにかくミント殿が元に戻れて何よりであったなっ! それが我が国の力でないというのは、いささか無念であるが」


「それも仕方のないことでしょう。結局アレは神の魔法によるものだったのですから。神代魔法も研究しているとはいえ、人知の及ばぬ領域でありますれば」


「神代魔法っ! そう、それだっ!」


 何かを思い出したのか、リュメルス殿下がテーブルを引っ繰り返す勢いで立ち上がりました。

 ガタリと揺れたテーブルを見つめ、ナティはちょっと迷惑そうなお顔。

 どうせまた引っ掻き回すのだろう。そんな言葉が顔に浮かんでいるようです。


「ディータ殿が神を滅したとのことだが、実際にはどうやったのだっ!? 父上も、それに大層な興味を持っておるぞっ!」


「どうやったも何も、靴を飛ばしただ――」


「えぇいっ! 皆まで言うなっ! 続きは父上も混ぜて聞かせてもらおうではないかっ!」


 そのままひょいっと僕を抱き上げてしまうリュメルス殿下。

 意外と力持ちのようです。

 っていうか僕、肩に担がれて拉致られてるんですけど?


「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ! ディータをどこに連れて行くつもりっ!?」


「言ったであろう? 父上のもとだ。ナティルリア王女も一緒にどうだ?」


 そんな感じで強引に連れ去られる僕。

 黒幕が王様と聞かされてしまっては是非もなし。

 リュメルス殿下の肩の上、僕は大人しくドナドナなのでした。



 ……。



 誘拐犯のアジトは謁見の間ではなく、その裏にある特別なお部屋。

 王様が公式外で人と会う為の部屋なのだそうです。


 絢爛豪華な謁見の間とは違い、意外なほど質素なその部屋には、先んじて王様と、そしてリルゼさんがいらっしゃいました。

 メイドさんも二人ほど控えているとはいえ、ほとんど王様とマンツーマンだった彼女。


「遅いよぉ~二人ともぉ~……」


 道具屋の娘にはハードルが高すぎたのか、ちょっと涙目になってます。


「おうっ! 良くぞ来たなディータ殿っ! それにそちらはポードランのご息女か。此度は我が国の窮地に参じて頂き、真にかたじけない。このご恩は必ずと、お父上にもよろしくお伝えくだされ」


「私達がタイミング良く貴国を訪れることが出来たのは、ひとえに神の導きと、ディータのおかげですので、私には気を遣って頂かなくても良いですよ」


「ふむふむ。やはりディータ殿は勇者なのかもしれませんなっ!」


「あ、その下りはもう本当にいらないので止めてください」


 王様に着座を促され、腰を下ろしつつのご返答。

 あの薄着の神様からも言われましたけど、勇者の元締めから半笑いで否定されてる僕としては、本当にやめて欲しいのです。

 ことあるごとに勇者勇者と。なんですか? 煎餅の呪いですか?


「違うのか? 神に触れられるのは勇者だけと聞いておるし、実際我が国の兵達では傷一つ付けることも能わなかったようだが」


「ん~、でも私もぶん殴れたしな~。どうなんだろ」


 独り言のようにサラッとリルゼさんが神様殴打宣言。

 道具屋の娘さん、最近どんどん人間離れしてませんか?

 優しく娘を見守っていた店主の顔を思い出し、ちょっとバツの悪くなる僕なのです。


「いやしかし……。リュメルスはどう思う?」


「はっ。それでしたら、一つ可能性が」


「ほう?」


「勇者でないとするならば、神と同等の力を持って戦った。そういうことではないですかな?」


「神と同等……神代魔法かっ! そういえばディータ殿は、兵達に襲われた私を助ける時も、なにやら不思議な魔法を使っておったなっ! あれはなんだっ! なんだあれはっ!」


 だるまさんが転んだのことですね。

 あの時も王様は遊び人スキルに興味深々といった感じだったのを思い出します。

 しかし神と同等とか言われると「遊び人スキルです」とか言うのが恥ずかしくなるんですけど。


「遊び人スキルよっ!」


 う~んナティ……。

 それ誇らしげに言うとこじゃないですって。

 そう赤面しそうな僕なのですが


「遊び人スキルだとぉっ!?」


 バックリ食いついてきました。

 もうなんか、この国の王族達はやたらノリが良いのです。


「し、して、どんなスキルなのだ? ん? 先っちょだけで良いから教えてくれぬか?」


 王様とリュメルス殿下が、並んで身を乗り出してきます。

 こうして見ると、実に親子という感じがします。


 遊び人のスキルとバレてしまいましたし、前面からはギラギラとした王族アイ。

 隣からはキラキラしたナティアイが見つめてきてるので、逃げ場のない僕は仕方なくご説明です。


「皆さんの動きを止めたのは「だるまさんが転んだ」という遊び。神様への攻撃方法は「靴飛ばし」という遊びです」


 もちろんそれだけでは納得されず、事細かに聞いてくるガレジドス王家。

 ですが説明すればするほど、彼等は首を傾げていました。


「さっぱり分からんっ! そんなもの聞いたこともないぞっ!」


「僕も聞いたことはありませんでした。けど遊び人自体が発展した職業じゃないですし、スキルブックもほとんど空白だったので、今まで発見されなかったスキルということなんじゃないかと――」


「いやそうではないっ! 私がっ! 我がガレジドスが聞いたことのないスキルだと言っておるのだっ! それはつまり、存在しなかったスキルであると同義なのだぞ?」


 どういうことですか?

 現に使えているんですけど?


「今我々が行使する魔法というのは、元は全て神代魔法なのだ。それが簡略化され、使いやすくなったものだと言われている。ゆえに魔法というのは、元を辿れば必ず神代魔法のどれかに繋がっているものなのだ」


 熱弁するのはリュメルス殿下。

 彼の研究内容は神代魔法なのだそうで、それこそ世界中の文献を読み漁っているのだとか。


「もちろん全ての神代魔法を把握しているなどと思ってはおらぬが、少なくとも靴を飛ばしたり、遊びついでに発動するような進化を遂げるなどあり得ぬし、我は知らぬ。ディータ殿のスキルは、元を辿ろうにも進化の過程が見えぬのだ。これではまるで神代魔法そのものを遊びと融合させ、無理やり人の身で使えるようにしたようではないか」


 進化の過程がないならば、それは神代魔法そのものであるということ。

 しかも使いやすいように、わざわざ遊びと融合させて。

 そんなことがありえるのかと、リュメルス殿下も王様も頭を悩ませ始めてしまったのです。


 言われた僕だって、さっぱり事情が飲み込めません。

 遊んでたら使えた。ただそれだけなのですから。


「これは更なる研究が必要かもしれぬな……。ガレジドスの名にかけて、必ず納得のゆく論文を記してみせようっ!」


「うむっ! それでこそ父上だっ! となればディータ殿のことは一時保留とし、もう一人の神殺し。こちらはどういった理由なのであろうな」


 神殺し呼ばわりされ、道具屋の娘さんの肩がビクンと跳ねました。

 魔物には滅法強い彼女ですが、権力には弱いご様子。

 それを隣で「大丈夫だから」と、ナティが励ましているようです。


「わ、私は……ただ殴っただけなんで。たぶん……なんか不思議パワーが宿ったとか、そういう感じ?」


 しどろもどろの釈明に、一同静まり返ってしまいます。

 心の中では「んなわけあるかっ!」みたいな声が木霊しているのでしょう。


 しかし求める答えを出せる方もおらず、ちょっと沈黙が続きました。

 それを破ったのはノックの音。

 コンコンコンと扉がノックされ、メイドさんの肩を借りた女性が入ってきたのです。

 そして室内にいたリルゼさんを見て


「彼女は世界を救う最後の希望なのかもしれません」


 入ってきた女性。ヘーゼルカお姉ちゃんは、そう言ったのでした。



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