表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/147

118話 僕とミントさんの戦い

「な、なんでここに……じゃなくてっ! 早く部屋を出て扉を閉めろっ!!」


 推定ミントさんらしきダークエルフが叫びました。

 しかし状況が分からず呆気に取られているうちに、もう一人のダークエルフが悠然と歩み寄ってくるのです。


「もう遅いわ。まったく神代結界なんて厄介なものを……やはりこの国は滅ぼすのが正解ね」


 近付く女性からは強烈な圧迫感。

 なのにどこか甘ったるく、思わず引き寄せられそうになります。

 一瞬頭がボーッとしてしまい、風邪を引いたみたいに身体が熱を持ち始めましたが


「レシビルっ!」


 頭を振って正気に戻ると同時、僕は女性の足元にレシビルを発射なのです。


「あら怖い。これが貴女の想い人? 随分と野蛮なのね」


 言葉とは裏腹に、女性は一向に怯む気配を見せていません。

 そればかりか口元を歪め、コロコロと楽しげに嗤っているのです。


「けど神に逆らう愚か者には罰を与えなければならないわ。そうね……ミント。貴女がやりなさいな。貴女の想いも遂げられるのだから、私って優しいわよね?」


「ミントさんっ!? やはりミントさんなのですねっ!!」


 推定から確定へ。

 もしやとは思いましたが、間違いないようです。

 ならあの姿はどうしたことか?

 何故ダークエルフのまま成態に戻っているのか?


 不思議に思っているうちに、神を名乗る女性から邪気が噴出し、ミントさんが突然苦しみだしてしまいました。


「ミントさんに何をしたんですかっ!?」


「素直になる魔法よ? 悪いことじゃないでしょう? 人間達が勝手に悪いことだと思っているだけで」


 ふふっと嘲笑うような女性を警戒しつつ、僕はミントさんのもとへ急ぎます!

 何をされたのか分かりませんけど、苦しんでいるなら回復魔法を掛けてあげなければ!


 そう思ったのですが――


「来る……な……っ!」


 そのミントさんから、ドンッと突き飛ばされてしまったのです。


 けどミントさん!

 胸を押さえて蹲り、はぁはぁと息も荒げているじゃないですか!


「何故ですかっ! 苦しいなら見せて下さいっ!」


「頼む……頼むよディータ……っ! 近寄らないでくれ……。じゃないと私は……んあぁぁっ!!」


 もう一度ミントさんに近寄ろうと踏み出した瞬間。

 彼女は蹲ったまま絶叫し、身体をビクビクと痙攣させ始めました。


「ふふ。ついに耐え切れなくなったわね?」


 嘲る女性に今度は全力レシビル。

 何が起きているのかは分かりませんけど、間違いなくこの人は……いえ、この神は敵ですっ!


 しかしレシビルが直撃した筈なのに、神は平然としています。

 続けて二度三度とレシビルを叩き込みますが、結果は変わらず。

 人と神。そこにはそれほどの差があるとでも言うのでしょうか!?


「ディータ君っ!」


 更にレシビルを叩き込もうと構えていた僕ですが、突然リルゼさんに突き飛ばされてしまいました。

 結構な勢いだったらしく、無防備だった僕の体はゴロゴロと床を転がって壁に激突。

 かはっ、と肺から空気が押し出されてしまうのです。


「な、何を――ミントさんっ!?」


 抗議しようと振り向けば、僕が先ほどまでいた位置。

 そこにミントさんが飛びかかっていたのが見えます。

 リルゼさんは僕を守るため、咄嗟に動いてくれたのでしょう。


「ディータディータディータディータぁぁぁっ!!」


 ギロリと血走った眼で僕を見るミントさんは、四つん這いというより肉食獣が獲物を捕らえるための構えでしょうか?

 しかも涎を垂らして息を荒げているのですから、その姿はまさに肉食褐色エルフさんなのです。


「ディータ君っ! これヘーゼルカさんと同じじゃないっ!?」


「みたいですね。……つまり、貴女を倒せば全てまるっと解決でよろしいですか?」


 全ての元凶と思われる神を睨みつけると、彼女は歪なまでに口角を持ち上げ、楽しそうに目を細めました。


「人間が? 人間風情が神を倒す? あはっ! 面白いことを言うのねっ!」


 纏う気配は邪神そのもの。

 なのにどこか誘うような動きで、女性はヒラリと透明なスカートを翻します。


「逃げるんですかっ!?」


「捕まえてごらんなさいな。その前に貴方が捕まらなければだけれど」


 歩くより早く、走るよりゆったりと。踊るような動きで遠ざかる神に、僕は背後からレシビルを連射。

 でもやはり効果がないらしく、どれだけ魔力を込めようと、彼女には効いていませんでした。


「ディータぁぁぁっ!!」


 とそちらに気を取られていれば、再び横から肉食ミントさんが突進。

 こちらは反撃出来ないので、捕食されないように避けるのが精一杯でしょう。


「リルゼさんは神をっ! ミントさんの狙いは僕ですっ!」


 ここで神を追って走り出せば、間違いなく背後からミントさんの攻撃を受けてしまいます。

 なのでリルゼさんに神の足止めをお願いし、その間に僕がミントさんをなんとかしなければなりません。


「大丈夫なの? えっと……あとでナティちゃんにお話出来ないようなことにはならないでね?」


「分かってます! ミントさんは傷付けずになんとかしますのでっ!」


「うん。全然違う」


 リルゼさんは頭を押さえながら大きく息を吐き出し「まぁやってみるよ」と、勢い良く駆け出しました。

 ならばと僕もミントさんに振り返るのですが


「でぃぃぃたぁぁぁぁっ!!」


「おっと」


 凄まじい勢いで飛びかかってくるミントさんが相手では、避けることしかできません。


「ミントさんっ! 正気に戻って下さいっ!」


「うるさいっ! お前が悪いんだからなっ!」


 何故にっ!?

 い、いや、今のミントさんは正気を失っていらっしゃいます。

 まともな思考回路だとは思えません。


「いっつもいっつも変に気を持たせやがってっ! そんなに食べられたいならもう我慢なんてしないからなっ! よし行くっ!!」


 獰猛な肉食獣のごとく腰を屈め、グッと床を蹴るミントさん。

 野性味溢れるその姿は、いっそ美しさを感じるほどですが、だからと言って食されるわけにもいきません。


「だるまさんが――」


 僕は避けた態勢そのままに詠唱を発動。


「私に効くわけないだろっ!」


 しかし手の内を知っているミントさんは、僕の射線から逃れるように空中へジャンプし、壁を蹴って飛び掛ってきました。

 空中。つまり避けられない姿勢ですよ?


「レシビルっ!」


 初めからだるまさんを転ばせられるなんて思ってません。

 あれは素早すぎる相手や、狭い室内では有効じゃないのです。

 なので陽動。

 本命は、恐らくジャンプするであろうミントさんを狙い打てる状況を作ることでした。

 もちろん威力は最小に抑えてありますけどね。


「ぐぁぁぁっ!!」


 それでもダメージは結構あったみたいで、プスプスと体から煙を吹きながらミントさんが落下。

 ドサリと床に落ちてしまいました。

 想定以上の威力に焦り、僕は慌てて初級回復魔法(ルオナ)を撃ちます。


「大丈夫ですかミントさんっ!」


 そのまま近寄り抱き起こそうとしたところ


「捕まえたぞ」


 ガバッとミントさんに抱きつかれ、そのままグルリと態勢を反転させられたのです。

 押し倒された僕の上に跨ってくるミントさん。

 もがいてはみますが、僕の力では跳ね除けることができません。

 今までのミントさんであればそれも出来たのでしょうけど、今の彼女は成態姿ですから。

 ほっそりした長い手足も、大きな胸も、どっしりと下ろしたお尻も。

 全てが僕を押さえ込む武器となっているのです。


 なのに僕に跨ったミントさんは、勝ち誇るどころか悲しげに叫んでいました。


「なんで回復魔法なんて掛けるんだよっ! そのまま気絶でもなんでもさせればいいだろっ!」


「出来ませんよっ! ミントさんにそんな酷いことなんてっ!」


「ぐ……っ!! お前がそんなんだから私はこんなんなんだよっ!!」


「意味が分かりませんけど、戻って下さいっ! いつものミントさんにっ!」


「いつもの……?」


「そうですっ! 優しくて、頭が良くて、活発で、でもちょっと臆病ないつものミントさんですっ!」


 必死な言葉が届いたのか、ミントさんに変化が表れました。

 肉食獣のような眼光が和らぎ、少し困惑が見られるのです。

 ならばもう一押しと、僕は続けて彼女を説得します。


「僕はそんなミントさんと一緒だったから、ここまでやって来れたんですっ! そんなミントさんが側にいてくれたから、たくさん遊びを覚えられたし、たくさん世界を知ることが出来たんですっ! ミントさんは嫌でしたか? 僕と一緒にいることが」


「な、にを……っ」


「僕は楽しかったですっ! だからこれからもミントさんと一緒にいたいと思ってますっ!」


 偽らざる僕の本心です。

 例えミントさんが操られているのだとしても、同じ気持ちでいてくれたのなら、それを思い出して僕への殺意は薄れてくれる筈。

 それが彼女を傷つけずに済む方法だと信じ、僕は想いをぶつけるのです。


「だからお願いしますっ! 戻ってくださいっ!」


 けれど言葉は届かず――


 俯いたミントさんは、腰の裏に手を回していました。

 そこから取り出したのはナイフ。鈍く光る護身用のナイフです。


「ミントさん……」


 呟く僕を無視した彼女は、両手でナイフを持ち直し、それを大きく振り上げます。


「あぁぁぁぁっっ!!」


 ミントさんが叫ぶと同時、ナイフは鈍くキラリと煌き――


「ぐあぁっ!!」


 室内に、真っ赤な鮮血が飛び散ったのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ